突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第一部 突然始まるポケモン娘と同居する物語
第12話 それは突然始まるポケモン娘と同居する物語

突然始まるポケモン娘と同居する物語

第12話 それは突然始まるポケモン娘と同居する物語



 「遊んだ遊んだ、結構喉渇いたなぁ」

旅行1日目、既に夕方を迎えようかという時間まで俺たちは遊んだ。
最初は乗り気ではなかったが、いざ遊んでみると皆に引きずられるように楽しんでいた。


 「あれ? 茜の姿がないぞ」

今は皆浜辺に集合している。
結局海は諦め、保美香が借りてきたビーチパラソルの下でのんびりしている所に集まったが、茜だけいない。

保美香
 「ああ、茜でしたら数分前飲み物を買いに行きましたわ」

どこから入手したのかサングラスまで用意した保美香は丁度入れ違うように茜が買いに行ったと言う。


 「茜一人で大丈夫か?」

保美香
 「だんな様、もう少し茜を信頼して上げてくれませんか?」

……確かに、茜は昔に比べたら随分成長した。
外に出られるようになったのだって進歩だし、買い物だって行ける。
そういう点では俺は親馬鹿なのかなぁ。


 「ちょっと迎えに行ってくるわ」

それでも、やっぱり心配するのは俺の役目な気がして、茜を探しに行く。

美柑
 「でしたら、ボクも!」


 「いいよ、どうせ近くの自販機にでも寄ったんだろうし」

俺は美柑をやんわりと断ると、浜辺を離れた。



***



 「……思ったより近くに自販機がないな」

浜辺を離れると、商店街が近くにあるようだ。
ある程度都会としての機能を有した町に今俺たちはいるらしく、しかしそれでも住んでいる場所からすると、大分田舎だった。
やがて、タバコ屋さんの前に最初の自販機を見つける。
だが、そこに茜はいなかった。


 「ねぇおばあちゃん。近くに耳の生えた女の子が来なかった?」

丁度絵に描いたようなおばあちゃんが、タバコ屋の中にいた。
茜の特徴を簡潔に伝えるとおばあちゃんは。

お婆ちゃん
 「ああ〜、あの可愛い子ならそっちに」

おばあちゃんが指した方角、それは浜辺から真逆、町に向かう方角だった。


 (なんで茜がそっちに……なんか嫌な予感がするぞ)

こういう時の悪い予感は大体ロクな事がない。
そういう気休めかも知れないが、今回ばかりはアテにならない勘であって欲しい。

だが、そういう思いは簡単に裏切られる。


 「茜……?」

町の奥へと進むと茜は思いのほか直ぐに見つかった。
ただし様子がおかしい。
茜は壁に背をかけている。
周りには地元民か、肌を黒く焼いた若者たちがいた。
人数は二人、片方はアロハシャツに金髪の男、もう一人は柄物のTシャツを着て耳にピアスをはめた男だ。
見た目からすると未成年だが。

俺はそっと死角から近づいていく。
一体何が起きているのか、それを探るために。

金髪
 「なぁいいだろ? 俺たちとちょっと付き合ってよ!」

ピアス男
 「君それってもしかしてコスプレ? スク水ケモナーとかマニアックすぎ!」


 「………」


 (……ナンパか?)

少し聞き取った会話は完全にナンパだった。
まぁ確かにひいき目に見ても茜は可愛い、チャラい男に目をつけられるのも納得だ。
しかし、茜は一言も発さない。
死角の性で表情が窺えないが、きっと怖がっているはずだ。
根本的にまだ対人恐怖症は改善していないはず。


 (真面目な話、改善されるならして欲しいが、でもそれはこういうナンパな奴らと会話して改善ってのはいただけないな)

俺はゆっくりと後ろから近寄る。
やがて茜がこっちに気がついた。


 「あ……」

金髪
 「あん?」

茜の視線に浅黒い二人も振り返った。
そこには突然死んだ魚の目の長身男が立っているのだ。


 「あの、ウチの連れになんか用?」

金髪
 「なに〜? もしかして彼氏〜?」

金髪が俺を下から値踏みするように覗き込む。


 「彼氏というか……」

ピアス男
 「じゃあ兄弟とか! お兄さん、妹さん貸してくれない?」


 「いや、その……」

ピアス男
 「ねぇ頼むよ! 悪いことはしないからさ!」

……駄目だ、会話が出来ん。
そもそもコミュ障の俺が饒舌に会話で相手を押し込めるかっていう方が無理があるんだ。


 「だーもう! 茜!」

俺は茜の腕を掴むと一目散にその場から逃げ出す。
こういう面倒くさいのは逃げるが勝ち!


 「きゃ、ご、ご主人様!」

慌てて、転びそうになる茜を抱きかかえる。

金髪
 「あ……待てやコラー!」


 「げ、なんで追ってくる!?」

なんと数秒止まっていたかと思うと、突然追いかけてきた。
俺は急いで体勢を整えると全力で走り出す。


 「ご主人様! どこ行くの!?」


 「どこでもいい! 兎に角撒くぞ!」



***



保美香
 「……遅すぎますわ」

茜を追ってだんな様が姿を消して15分。
二人ともどこで時間を潰しているのか流石に気になってきましたわ。

伊吹
 「これって〜ミイラ取りがミイラに〜?」

保美香
 「それなんデスカーン、て過去にもやりましたわね」

美柑
 「でも確かに遅いです、もしかして逢い引き!?」

ピクリと、自分の何かに火がついた。
逢い引きですって……わたくしなんて普段自重して自重しまくっているのに茜と逢い引き!?

保美香
 「……ああもう、最近茜に差がつけられている気がしてならないのに……わたくしだってだんな様と神経接続して同調したいですわ!」

美柑
 「保美香さん、貴方の性欲は誰にも理解して貰えないと思います」

伊吹
 「てかさ〜だったら頼めばいいじゃん〜? エッチな事〜したいんでしょ〜?」

……そんなストレートに言われたらわたくしでも恥ずかしいですわ。
確かにセックスを求められれば、断りませんが、しかしだんな様が求めた事は一度もない。
つまりわたくしに性的興奮を覚えないという事。
だからこそ、派手なエロさを求めず大人として節度を持った水着で気を惹こうと思いましたのに!

美柑
 「逢い引きはともかく、主殿たちを探しに行きましょうよ」

伊吹
 「そだね〜、待ってても来ないし〜」

保美香
 「……今日絶対夜這いする」

美柑
 (もう何か怨み言みたいになってる……)



***




 「ハァ……ハァ……ハァ!」

時刻がもうすぐ夕刻を迎える頃、俺と茜は知らない町を走り回っていた。
原因は一人で飲み物を買いにいった茜が見知らぬ男たちにナンパされたこと。
相手は一目散に逃げ出すと、どういう訳だか追いかけてきたのだ。
だからこそ、俺たちは不毛な衝突は避けて逃げ回っているのだ。


 「ご主人様、大丈夫?」

随分走り回ったが、茜は全く息を切らした様子がない。
そう言うところは流石ポケモン娘か。


 「それにしても、なんで飲み物買いにいったのに、手前の自販機じゃなくて町の奥に行ったんだ」


 「……なんだか追いかけられている気がして、逃げたの」


 「てことは、あいつら大分前から茜に目を付けてたってことか」

そうなると随分執念見せてくれやがる。
俺は周囲を確認すると、とりあえず歩き出す。


 「ご主人様、どこ行くの?」


 「とりあえず安全そうな場所を見つけるまでだな」

最悪喫茶店とかあれば、そこに入るだけでもいいかもしれない。
しかし近くに店はないし、スマホも持っていない。
もう保美香たちも、いつまでも帰ってこない俺たちを心配していることだろう。



***



保美香
 「自販機はここですわね」

美柑
 「でも、主殿も茜さんもいませんね」

わたくしたちはだんな様を探して一番近くの自販機までたどり着いた。
丁度そこはタバコ屋さんの前で、ショーガラスの奥に鎮座するおばあさんの姿もある。

保美香
 「……あの、おばあさん。この辺りに耳と尻尾の生えた少女は来ませんでしたかしら?」

お婆ちゃん
 「ああ、それさっきも聞かれたねぇ。さっきまでそっちにいたけど今はいないねぇ」

そう言うとおばあさんは席から身体を乗り出すと、いた場所を指さす。
そこは、海とは正反対の町に向かうルートのようだ。
さっき聞いたと言うことは恐らくだんな様もここにいたようですわね。

保美香
 「……妙ですわね」

なぜ飲み物を買いにいったのに、ここで飲み物を買わず町へ行ったのか。

伊吹
 「ん〜、よく分からないけど〜、町に行ったのかなぁ〜?」

保美香
 「嫌な予感がしますわ」

美柑
 「それって逢い引きの件ですか? それとも」

保美香
 「後者ですわ」

生憎だけど、この期に及んで昼行灯な台詞を使うつもりはない。
だんな様が故知らぬ場所で危機に晒されているというのなら、わたくしはそれを全力で阻止すると自分に誓ったのだ。

保美香
 (わたくしとあろうものが、この旅行を楽しみすぎましたか)

改めて気が緩んでいた事は認めよう。
その上でだんな様を見つけ出す。

保美香
 「行きますわよ」

わたくしはそう言うと皆を先導して町へと向かう。

美柑
 「でも、この先あんまり町って感じしませんね」

確かに、だんな様たちが消えていったと思われるルートは住宅街とも違う寂れた町に思えた。
シャッターが降りた家も多く、寂れた工場街のようにも思える。

伊吹
 「うーん、茂君に茜、どこ行ったんだろう〜?」

段々伊吹も不安になってきたのか、声が小さくなっている。
一方でわたくしは激情を抑えたまま冷静さを確保した。

保美香
 「絶対に見つけ出しますわ」

美柑
 (うわ……保美香さん、こんな低い声で、怖い)

青年
 「お! そこのお姉さん方、もうすぐ暗くなるとこの辺危険だよ?」

道を歩いていると、いかにも軽そうな青年が声をかけてきた。
だが、その反応は興味、そして欲望だろう。
わたくしは極めて温和さを意識しながらだんな様たちの行方を尋ねることにする。

保美香
 「あの、この辺りに耳が生えた少女と長身の男性が、通ったと思うのですが、知りませんか?」

青年
 「耳の生えた少女? ああ、そういや見た気もするなぁ」

随分曖昧な反応だ。
しかし僅かな情報でも欲しい美柑が強く反応する。

美柑
 「ほ、本当ですか!? 今どこに!?」

青年
 「あー、それよりこの辺りに不良グループが屯しているから、俺とお茶しない?」

保美香
 「……うだうだと」

青年
 「え……が!?」

この男、明らかに目的はわたくしたちの身体といった所だろう。
今わたくしは普段のように優しくするつもりはない。
触手を男の脳に突き刺すと、男の身体が小さく痙攣し、口から泡を吹く。
わたくしは相手の脳神経にある神経毒を流し込む。

保美香
 「わたくしたちの質問に答えなさい、だんな様たち……耳の生えた少女たちはどこへ消えた?」

青年
 「そっち、へ。おい、かけら、れていた」

男は白目をむき、片言で説明をする。
これはわたくしが今直接脳神経を支配して、男をコントロールしているからだ。
わたくしたちウツロイドはこうやって脳を支配して、自分の身を守る奴隷を作るのだ。
勿論わたくしにはそんな気はない。
かなり誤解されるが、そもそもウツロイドが神経毒で相手を洗脳するのは最終手段で、命の危機があるときだけだ。
勿論使い慣れれば、後遺症もなく自白させる事なんてたやすい。
だからこそわたくしは毒タイプなのだ。

保美香
 「追われていた? 誰に?」

青年
 「じもとの、ふりょ、うグループ、けっこ、うにん、ずう多い」

保美香
 「不良グループ……ッ!」

わたくしは唇を噛んだ。
人間は全てが優しい人とは限らない。
時に理不尽にわたくしたちを襲ってくる人間だっている。
人から誤解と恐怖、そして迫害を受けてきたウツロイドであるわたくしがその事を忘れ、平穏に安寧を抱いたのは失態だ。

保美香
 「これが最後の命令ですわ、貴方はわたくしたちを忘れる、以上」

わたくしは相手の脳から触手を引き抜く。
相手はもう一度ビクッと痙攣するが、その後棒立ちとなる。

美柑
 「……あの、この人大丈夫なんですか?」

あまりにも壮絶な光景に絶句していた美柑だが、こんな下心丸出しの男なのに心配を見せた。

保美香
 「1分もあれば自我を取り戻しますわ、後遺症もありません」

わたくしはこれで何度かだんな様のストレスやアルコールなどを毒で消してきた。
わたくしはそれだけ毒の扱いには慣れている。

保美香
 「……わたくしは空から探します。二人は」

美柑
 「ボクは不良に当たってみます! こう見えても荒事は得意ですから」

伊吹
 「じゃ〜、アタシは〜」

保美香
 「伊吹ははぐれないよう美柑と一緒にいなさい」

わたくしはそう言うと飛び上がる。
飛行タイプのような完全な飛行は不可能だが、軽く滞空するなら問題ない。
故に最大高度こそ低いが、それでも近隣の民家を飛び越える程度なら問題ない。

保美香
 「だんな様……ご無事で!」



***




 「撒いたか?」

あれからどれ位町をうろちょろしているだろう。
俺たちはなるべく人目を避けるため、周囲から出ることが出来ず、正直道に迷っていた。


 「……ううん。それどころか、気配が増えている?」

それは俺には分からないが、ポケモン娘である茜だから分かるのだろう。
正直、この茜の気配察知があってこそ、俺たちはここまで無事だと言える。
しかし知らない町を走り回るなんて疲れるし、喉がやばい。

不良
 「獣耳! いたぞ!」


 「やば!」

状況は一休みすら許してくれないらしい。
俺は茜の手を引っ張るとなるべく曲がり角を優先に走った。
だが、これでは根本的に解決はしない。


 「ご主人様、あそこ!」

茜がある建物を指さす。
そこは廃ビルだった。


 「背に腹はかえられないか!」

俺は急いで廃ビルに忍び込む。
廃ビルは4階建てみたいで、中はコンクリートから鉄骨が剥き出しだった。
急いで4階まで上るとようやく一息つく。
一応道側は全面ガラス張りで、中ほど酷い有様ではない。
都会なら即日解体工事がありそうだが、こういう所では放置されることが多いのだろうか?


 「はぁ……くそ、あいつらなんであそこまでしつこいんだよ」

正直、気がついたら増えているし、もう俺たちを追っている理由を誰も覚えていないんじゃないだろうか。
いわゆる逃げるから追うっていう熊みたいな本能が働いているとしか思えない。


 「ご主人様、大丈夫?」


 「まぁ、休めば大丈夫さ」

とはいえ脱水症状熱中症が気がかりである。
今は興奮しているから自覚症状がないが、もしかしたら黄色信号はでているのかも。


 「もうすぐ夜だし、いい加減諦めてくれないかな」

俺はケンカは全く駄目だ。
一人ならなんとか出来るかもしれないが、二人ならまず無理。
第一、大の大人が良識も持たずにケンカなんて笑えない。
相手は高校生くらいだし、あれくらいだと自分は大人と思っていても、なんの責任も負っていないから自分が子供だと自覚しない。
ほぼ、自分の経験則だが、高校生は大体守ってもらえるし、取り返しのつかない責任に何も危機感を覚えない。
だが、俺がケンカでもしたら俺だけじゃない、茜たちにまで迷惑をかけるのは確実だ。
改めて無理の利かない社会人の辛い所だな。


 「……! ご主人様、まずい!」

茜は突然耳をピクンピクンと震えさせると警戒を見せる。
まさかと思い、慎重に道側のガラスから下を覗き込んだ。


 (5人? 集まってやがる)

いかにも不良といった感じの連中が廃ビルの前に集まっていたのだ。

カツン、カツン!

直後、剥き出しのコンクリートの上を歩く靴の音が階下から聞こえた。
それが誰なのかは分からないが、十中八九いい答えは帰ってこないだろう。


 「茜……俺の後ろに!」

俺はなるべく入り口から離れると茜を守るように壁側に立った。


 「ご主人様……」

本当は茜なら俺よりずっと強いかも。

でも、傷害事件を起こして解決しても何の意味もないんだ。
なら、男としては最低かもしれないが最悪の覚悟を決めるしかない。

カツン!

やがて、靴音は更に大きくなっていき、4階で止まった。
入り口からニット帽を被った金髪の男が入ってくる。

不良
 「おっ、み〜つけた!」


 「あのさ、一応聞くけどなんで追いかけてくる訳?」

随分ガラの悪そうな男はニヤニヤと笑みを浮かべるとゆっくり部屋に入ってくる。

不良
 「この辺りは俺たちのシマ、舐められたら終わりなの、だからそこの女を渡せよ」


 「……断る」

男はさらにニヤニヤを増す。
恐らく弱者をいたぶる事に愉悦を感じるタイプだろう。

不良
 「なら、仕方ないよなぁ!」

そう言うと男は腰の裏から折り畳式のナイフを取り出す。


 (やばい、そうきたか!)

俺はボコボコに殴られるまでは覚悟していた。
だが、流石に凶器は想定していない。
勿論脅しだとは思うが、いかにも知能が低そうだし逆上すると何をするか分からない。


 (くそ……! 死んででも茜を守れってか! 神様サディストだな!)

正直死んでも茜を守れる自信なんてこれっぽっちもないが、それでもどける訳がない。

不良
 「いつまでそうやって守ってられるかな? ええ?」

男はじりじりと迫ってくる。
俺は後ろの茜を見た。
茜は不安いっぱいなのだろう。
顔は気丈でも、尻尾は震えている。

俺は一度思案した。
正直たった2カ月一緒に過ごした女にここまでする理由があるのか?
逃げたっていい、俺だって命は惜しいし、痛い目に遭いたくはない。 正直茜だって俺の子供じゃない。
……だけど!


 「お前らが誰だろうと俺はこいつを、こいつらを守る!」

思案の結果は簡単だった。
俺が無責任になれないのは、こいつらが俺の疑問に対して無償で尽くしてくれるからだ。
まだ2ヶ月、だけどそれがどうした。
血が繋がっていない、それが家族ではない証になるのか。


 「こいつは俺の大切な家族だ、てめぇのような屑に触れさせるか」

不良
 「は! なら死にな!」


 『ほう……死ねと?』


 「え?」

それは道沿いの窓ガラス越しからだった。
その声に不良もそちらを向く。
そこにはモデルのような高い身長に美貌、しかしまるで触手のようにゆらゆらと揺らめく髪を持った女性がいた。

不良
 「え? ここ4階……なんで?」

保美香
 「わたくしのだんな様に、死ねと!」

手を横に振るった。
それだけで道路側の全面ガラスが粉々に砕け散った。

ガシャーン!

その劈くような破砕音に不良も体を竦める。


 「保美香……」

そう、それは保美香だった。
保美香は浮遊しながら4階に侵入する。
不良を威圧的に睨みながら。

美柑
 「おっと、動かないで下さいね、身の安全は保証できないんで」

不良
 「ひ!?」

保美香に気をとられていると、不良の後ろには美柑が立っていた。
美柑は不良の首に手をかけた。
まるでそれは動けば首を折るぞと言う脅迫のように思える。

伊吹
 「皆早すぎ〜……やっと追いついた〜」

最後に伊吹がビルの壁をカタツムリのように匍って現れた。

保美香
 「貴方が、貴方のような人が、だんな様を……!」


 「待て! 保美香、待て、出来るな?」

保美香は明らかに怒りを顕わにしている。
それは以前商店街で見た保美香の激情を思い出す。
止めなければ、殺しかねん。

保美香
 「だんな様、わたくし犬ではございませんので1回で充分ですわ」

保美香は俺が抑えるといつもの顔に戻った。
怒った保美香より、いつもの楽しそうな保美香の方が断然いいからな。

美柑
 「主殿、ご無事ですか?」


 「ああ、なんとかな」

正直あと少し遅かったらどうなったか分からないが、なんとか間に合った。
俺は安堵して不良に近づくと。


 「俺たちを忘れろ、それがお前のためだ」

不良
 「お、お前ら一体何者なんだよ……下にいた奴らは?」

美柑
 「ああ、それならボクが皆に眠って貰いました」


 「お前『さいみんじゅつ』使えたっけ?」

美柑
 「勿論『物理的に』ですよ」

ああ、美柑とてポケモン娘、そこらの不良に劣る物はないだろう。
ましてゴーストタイプである彼女がどのように不良を沈黙させていったか、容易に想像できた。


 「……やり過ぎてないだろうな?」

美柑
 「一瞬で昏倒させたので、かなり手加減できたかと」

美柑は正直人間離れした身体能力を持つ。
その上物体を通過して、不意打ちを行い無力化していく。
ゴーストタイプの本領がはっきり出ただろう。


 「いいな、俺は忘れろと言った。もう関わらないなら俺もこいつらも何もしない!」

不良
 「は……はい」

不良はがっくりと腰を落とした。
ナイフが地面を転がる。
保美香はそれを拾うとグシャっと潰した。
さりげなく見せる人外の力だな。


 「よーし、帰るぞ」

保美香
 「畏まりましただんな様」

美柑
 「もう暗くなりましたね」

時間は既に夕方を越えたらしい。
夏は明るい時間は長いが夕方が短い。
もし暗くなっていたら、保美香は俺を見つけられなかったかもしれないな。
丁度ここは周囲より高い場所にあるから、空を飛ぶ保美香が見つけられたのだろう。


 「はぁ、喉も渇いたし、何より疲れた」

伊吹
 「それならは〜い」

伊吹は胸元から缶ジュースを取り出した。
あまりの巨大さ故に胸に物を隠せるってすごいな。

伊吹
 「喉渇いてるかな〜って、買っといたの〜」

そう言うともう一つ取り出し、茜に差し出す。
三本目を取り出すと自分が飲んだ。
改めて伊吹の奴、普段はのんびりしているけど、意外と状況をよく観察しているよな。
思えば伊吹も妙な所で気が利くところがあった。


 「お前らには助けられっぱなしだな」

保美香は俺にいつも尽くしてくれて、美柑はこうやって俺の危機を救ってくれる。
伊吹だって俺のことを心配して、いつも配慮を見せている。
本当に、こんな俺なのにこいつらは俺を助けてくれる。


 「ご主人様、ごめんなさい……私、何も出来なかった」

茜は暗い顔をするとそう言った。
確かに茜はずっと震えていたかもしれない。


 「何言ってんだ、お前がいなけりゃ俺はとっくに捕まってボコボコにされてたよ!」

そう、茜がいなければあれだけの人数の不良グループからここまで逃げおおせた筈がない。
それだけじゃない、茜はいつも俺の傍にいてくれた。
何も言わないけど、傍にだけはずっといた。

誰とも付き合わず、友達もロクにいなかった俺に、それでも茜は傍にいた。
それはきっとなによりも俺を救ってくれたんだろう。

もし、茜が俺の前に現れなかったら、仕事の愚痴ばっかり言って、酒に溺れて、人間関係が更に嫌いになって、そして自殺してたと思う。
でも、そうはならなかった。
こいつらのためなら仕事は辛いけど頑張れたし、人間関係もこいつらなら好きになれた。
酒だって、今は大分抑えられている。
正直今の俺が自殺なんて考えられない。


 「俺はお前に感謝してもしきれないよ」


 「でも」

しかし茜は暗い顔をした。
彼女の中の劣等感はかつて俺だって持っていたものだ。
だから俺は茜を信じる。


 「お前は俺のこと、どう思っているんだっけ?」


 「それは……ご主人様は、私の全てで、愛してます」


 「それが感謝なんだよ、俺にはな」

正直俺は恋はしない。
恋は面倒だ。
でも、愛はしよう。
俺は皆が好きだ。


 (そう、これは突然始まるポケモン娘と同居する物語)

そしてそれはこれからも続く物語だ。



突然始まるポケモン娘と同居する物語

第12話 それは突然始まるポケモン娘と同居する物語 完

第一部 突然始まるポケモン娘と同居する物語 完

第二部に続く。


KaZuKiNa ( 2019/02/07(木) 14:34 )