第10話 海行きたい
突然始まるポケモン娘と同居する物語
第10話 海行きたい
伊吹
「海行きたい〜」
夏の茹だる夜中の事だった。
突然伊吹がそんな事を呟いたのだ。
茂
「海ねぇ……」
茜
「海……私も行きたいです。ご主人様」
俺の太ももで寝そべる茜までもがそんな事を言う。
しかし、大学生とかならいざ知らず社会人にはそんな暇は中々作れない。
保美香
「あらあら、お二人ともだんな様をあまり困らせてはいけませんわよ?」
流石に俺の困った顔に気が付いたのか、保美香がそう言うと二人もしょんぼりとしながらも従った。
いつものように剣をポンポンではたく美柑は伊吹の突然の発言に疑問を呈する。
美柑
「それにしても、どうして突然海へ行きたいなんて考えたんですか?」
美柑の疑問も最もだ。
しかし当の伊吹は。
伊吹
「ほら〜? そろそろ〜茂君に水着アピール〜、みたいな〜?」
随分あっけらかんとした答えだった。
茂
「水着ねぇ、お前持ってたっけ?」
一体どんな水着なのか、どう想像しても危ない水着しか想像できない伊吹だが、当人はポンと手を叩くと。
伊吹
「あ、そう言えば持ってないや〜。あっはっは〜!」
思わず、ずっこけそうになる俺を他所に伊吹は大笑いしていた。
まさか水着も無しにそんな事を言うとは思っていなかった。
相変わらず脳天気というか、伊吹はいつも楽しそうだな。
しかし、そんな雰囲気をぶち壊すように二人の乙女が策略(?)を巡らす。
保美香
(わたくしの立場が揺るぐとは思いませんが、茜さんや伊吹さんが万が一にもだんな様にクリティカルな水着を選んだら事ですわね……!)
美柑
(海とは足腰を鍛える場所だと思っていましたが、なる程、主殿に女の魅力は胸じゃないと伝える良いチャンスですね!)
茂
(……保美香がマジな顔するときはあまりロクな事がないよなぁ)
何か良からぬ事を考えているのだろう。
保美香はあくどい事を考えるときは意外と表情に出たりするから分かりやすい。
ただ、時折常識人には理解できない突飛な発想するから怖いんだよな。
一方茜にはそんな邪念は一切ない。
ただ、それはそれで無邪気と言おうか、なに考えているか分からんところがあるからな。
茂
「結局の所やっぱり休みが問題なんだよなぁ」
これは社会人の宿命である。
社会人には夏休みなど無いのだ。
まぁ最も有給を申請すれば通るとは思うが。
とはいえ有給を取得するなら、ちゃんとしたスケジュールを組みたい所。
日帰りってなると移動だけで俺は疲れてしまう。
かといって宿泊まですると……。
茂
(完全に予算オーバー、だよなぁ)
結局の所、海へ行くってのは賛成はしてやりたいが、経済的には無理って所。
大学生より暇と時間はないが、経済力のある社会人でもこの不況では道楽に使う金も限られるのだ。
とまぁ、結局のところ貧乏暇無し!
俺は素直の旅行プランは諦めて、立ち上がる。
茂
「さぁて、風呂入って寝るかね」
伊吹
「あ、たまには一緒に入ろうよぉ〜」
俺はさっさと海から意識を切り替えて風呂場に向かうと伊吹が着いてくるが、俺はそれを押しのける。
茂
「俺とお前が一緒に入るには浴槽が狭すぎるだろうが」
茜
「じゃあ私なら問題ない?」
茂
「そうそう、茜位なら……て茜でも駄目だからな!」
ちゃっかり便乗して入ろうとしてくる茜もシャットダウン。
ある程度のボディタッチは容認するが、だからといって裸のお付き合いをするつもりはない。
保美香
「あら? いつもなら不純ですって言うタイミングじゃなかったかしら?」
そう言って美柑をニヤニヤと見る保美香。
恐らく確信犯で美柑をからかっている。
美柑は顔を真っ赤にしながらポンポンを持つ手が震えていた。
美柑
(ボクも一緒に入りたい……なんて我ながら破廉恥過ぎる!)
***
翌日、保美香はいつものように買い物に出かけていた。
ただし横に茜がいる事が異端だが。
お肉屋さん
「おお、保美香ちゃんいらっしゃい!」
保美香
「寿さん、今日のオススメは何かしら?」
住む場所が変われば利用する場所も変わる。
しかしどこに居てもわたくしの利用する場所は人が一杯いる。
そういった場所にこそ、温もりや思いやりがあるのだから。
だからこそ人情溢れるこういう商店街へと行くのだ。
寿
「そうだ保美香ちゃん! 今さ商店街でくじ引きやってるんだよ!」
茜
「くじ引き?」
聞き慣れない言葉に茜が反応する。
寿
「あれ? 随分可愛い子と一緒だねぇ!」
茜は注目が自分に移ると保美香の後ろに隠れてしまう。
保美香
「あらら、ごめんなさいかしら、妹ですの」
便宜上そう説明しておくと、寿さんは素直に納得した。
ここまで人見知りの茜が、自分の意志で買い物に付き合うのは異例中の異例だった。
もしかしたら何か運命的な物を感じ取っているのかもしれない。
保美香
「それでは、これとこれを……」
茜は周囲からしばらく奇異の目で見られ、どうしても駄目なときは保美香の身体に抱きついた。
しかし、彼女は随分と頑張っている。
尻尾や耳が悪い意味で目立つも、その視線に負けないよう強くなろうとしている。
それはわたくしにも微笑ましかった。
やがて、二人とも袋一杯に買い込むと、商店街の一角を訪れた。
そこにはガラポンと呼ばれる抽選器と何が貰えるか書いた大きなプラボードがあった。
保美香
「茜、アレを見て」
大きなプラボードの一番上。
最も大きな文字で書かれていたのは一等賞だ。
茜
「2名様グアム宿泊旅行?」
保美香
「その一つ下ですわ」
茜
「二等賞、5名様二泊三日温泉旅行」
こちらは国内だ。
そして重要なのが5名様という部分。
だんな様を含め、全員で行ける旅のプラン。
保美香
「……10口ですわ」
わたくしは覚悟を決めてガラポンの前に立つ。
今日買った総額から回せる回数は10回。
係員
「はぁい! それじゃお姉さん取っ手を回してね!」
わたくしはこの時だけはと、正真正銘本気でガラポンを相手にする。
たかが運試し、されど運試し!
ガラガラガラガラ!
小気味よい音を立てて回転するガラポン、そこから飛び出したのは……!
係員
「残念! 参加賞だねぇ」
……ポケットティッシュだった。
がっくり項垂れる私を茜は無表情に慰めた。
茜
「どんまい」
保美香
「ふふ……、この程度で挫けるわたくしではございませんわ!」
そうして強気に回した二回目。
係員
「はい、ポケットティッシュ」
保美香
「……まだですわ!」
しかしその後も当たりが出る様子はなく、どんどん手元に貯まるポケットティッシュたち。
あれよあれよと残り回数は1回になってしまう。
茜
「ここまで酷いとは」
流石に9連続ポケットティッシュに普段ほぼ無感情の茜さえ呆然としていた。
私は微笑を浮かべながら前髪を掻くと。
保美香
「ふ……真の天才といえど、運までは持ち合わせてはいなかったようですね!」
もはや開き直りだ。
正直言ってプライドはズタボロだが、それを表情に出すわたくしではない。
改めて自分の運の悪さをただ実感した。
茜
「最後、回したい」
保美香
「別に良いですわよ」
そう言うと荷物を置いて茜がガラポンの前に立つ。
もうわたくしの運の悪さではボックスガチャ系は無理だと理解したので執着する気はない。
だけど何の因果か、今日は茜がいる。
茜の運は少なくともわたくしよりは良いでしょう。
茜
「ん……」
ガラガラ!
ガラポンが回転する。
中のボールが外壁に当たって小気味よい音が響く。
やがて、ボールが外に。
保美香
「違う色!?」
それは少なくとも参加賞ではない。
何等だ、プラカードを見るとそこには……!
***
大城
「常葉、お前有給休暇とったんだっけ?」
職場、いつも隣のデスクで働いている同僚の大城が、どこから聞いてきたのかそう言った。
茂
「まぁ、貯まってたしな」
俺が有給休暇をとるのは去年からなかった気がする。
それだけに、休みをとって良いものかと思ったが、いざ申請したら一発だった。
やはり昨今労働省の監視が厳しくなっているというのは本当のようだ。
まぁウチの場合、残業代はしっかり出ているから、労基の目線はまだマシだろう。
それでもクソ忙しい点だけはなんとかならんのか。
大城
「それで、いつくらいまで休むんだ?」
茂
「一応3日」
それを聞いた大城は呆れたように口を開いた。
その目線はまさにどこまで社畜なんだよこの野郎って感じだ。
大城
「短いな、どうせなら一週間位とれば良いだろうに」
茂
「あんまり休むと皆に迷惑かけるし……」
大城
「……かぁ! 常葉のそういう所はやっぱり直した方がいいぜ。別に一人いなくなった所でどうにかなるもんじゃないのは常葉も分かるだろう?」
茂
「まぁ」
自分もこの仕事している以上、一人の労力くらいある程度分かる。
それでもやはり一人いなくなるとその分負担が増えるのは事実だ。
それに俺も認めたくはないが、やっぱり仕事していないと落ち着かない。
正に自分自身社畜なんだろう。
大城
「でだ、常葉は何処に出かけるのかな?」
茂
「可能なら海」
大城
「女と?」
茂
「なんでそう思うんだ?」
大城はニヤニヤしてそう聞くと、俺は疑問に首を傾げた。
正直言って俺に女っ気は全くない。
つーか、俺自身人付き合いが苦手だし、そもそも女も好き好んで死んだ魚の目をした男に近寄らんだろう。
しかし、大城は俺とは感覚が違うらしく。
大城
「いやさ、常葉って結構モテるじゃん? 何人引っかけてるのかなって」
茂
「……」
モテるのか……正直それは知らなかった。
しかし俺は別に誰かが好きという訳じゃない。
好きになるって重いなって考えると恋愛なんてする気を無くす。
大体年齢的には結婚を前提になるし、そんな経済力はない。
よって、恋愛は面倒だ、そういう結論に至るわけだ。
茂
(大体家に帰れば茜たちがいる、その時点で女性に興味もないだろう)
だが、ポケモン娘に本気で恋する気はない。
もし本気で好きになったら、何かが壊れる……そんな気がして怖いのだ。
茂
「友達と海行くだけだよ」
そう、『友達』とだ。
***
保美香
「いやあ、本当に茜は持っていますね」
茜
「……何を?」
大きく膨らんだバッグを両手に担いで、帰り道の事。
保美香がニコニコしながらそんな事を言った。
保美香
「わたくしなど、あそこまで持っていない物とは思いませんでしたわ」
茜
「だから何を?」
保美香
「……運ですわ。実力では絶対に覆せない幸運!」
ああ、そういう事。
それは商店街での事。
ガラポンの最後の1回を私がやったとき、それは出た。
カランカランとハンドベルが鳴り、保美香が歓喜する。
茜
「2等温泉旅行……ご主人様、喜んでくれるかな?」
保美香
「だんな様なら喜んでくれますわ、何せ茜が当てたんですもの」
茜
「私だから?」
保美香
「ええ、だんな様は茜には甘いですからね」
茜
「ん……」
ご主人様は優しい。
いつも私の頭をなでなでしてくれる。
甘えても許してくれる。
だからご主人様に一杯喜んで欲しい。
ご主人様が大好きだから。
保美香
「ふふふ、今日は少し奮発しましょうかね」
保美香も終始ニコニコ顔で上機嫌だ。
なんだかんだで保美香も感情に起伏はある。
不機嫌な時もあれば、上機嫌な時もある。
保美香
「茜、食べたい物はありますか?」
茜
「保美香の料理は皆美味しい」
保美香
「お褒めに戴けて恐縮ですわ」
茜
「でも敢えて上げるなら……ハンバーグ」
それを聞くと保美香は「ふむふむ」と呟き、レシピを考えているようだ。
保美香の料理は何でも絶品だし、実際好き嫌いはないんだけど、私くらいの子供はハンバーグが好きなのが定番らしい。
保美香
「なる程、ならばステーキハウスでも食べれない極上のハンバーグをご賞味頂きましょう」
茜
「極上と究極……どっちが美味しいんだろう」
想像されるのは、どちらも頬が落ちそうな味。
きっと保美香は想像を絶したハンバーグを作ってくれるだろう。
もう想像するだけで涎がこぼれ落ちる。
保美香
「あらら、茜ったら涎が出ていますわよ」
茜
「これは不可抗力」
保美香
「全く淑女にあるまじきですわよ。一度レディとしての嗜みを教授する必要があるかしら?」
そんな風に、会話しながらマンションに帰る。
正直今日はご主人様とハンバーグの事しか考えられそうにない。
***
そして夜。
茂
「ほう、ハンバーグか」
帰ると、家はハンバーグパーティーと化していた。
一体どうして、どでかいハンバーグが皿に盛っているのか事情を聞くと。
保美香
「それがですね」
茜
「商店街のくじ引きで2等当たった」
伊吹
「二泊三日温泉旅行なんだって〜」
……なんか自分の知らない間に怒濤のごとく物事が進んでいる?
確か昨日時点では行けるかどうかで言えば、行けないはずだった。
そもそもこいつらがいなければ、有給休暇なんてとらなかったし。
こいつらがいることで何かが回っている?
そう、俺一人だとずっと止まっていた。
日々を怠惰に過ごして、休みとるのも面倒なだけで、日々仕事の愚痴言って飲んだくれる。
今思えば実に詰まらない人生だ。
今じゃ色んなところが変わったんだな。
茂
「皆、俺も有給休暇とった! 皆で遊びに行くか!」
そう、少しずつ俺は変わっているのかもしれない。
もしかしたらそのうち過去の自分なんて忘れてしまうのじゃないか。
でも、それは恐ろしいことじゃない。
きっと、前に進んでいるんだ。
茜
「本当? ご主人様遊びに連れて行ってくれるの?」
美柑
「はわわ、では水着を買いに行かないといけないですね!」
伊吹
「ウフフ〜、皆と温泉、楽しみ〜♪」
保美香
「あらあら、それでは身支度の用意が必要ですわね」
……そう、恐ろしいことじゃない。
過去を忘れたってこの賑やかな今があれば、良いんじゃないか?
***
茂
「キング○リムゾン、その時間を吹き飛ばす!」
今日は日曜日。
朝いつものように茜が寝室に入ってくると、俺はすかさず目を覚ました。
茜
「負けて死ぬの?」
茂
「それはパ○ツァーダストな」
流石に茜もジョジョネタは完全に把握してないか。
俺はスマホに目を向けると、朝8時であると知る。
そうか、気がついたらなんの苦もなくこんな時間に起きれるようになったんだな。
思えばほんの2ヶ月前までは日曜は飲んだくれて昼過ぎに起床が日常だった。
それが今や、ポケモン娘たちの性でこうも健康的だ。
茂
「はっはっは、さて朝飯何かなぁ?」
軽く笑ってみるが、まぁ正直つまらないので直ぐ笑うのは止める。
とりあえずダイニングに行けば何かあるだろう。
そう思って寝室のドアに手を掛けると。
茜
「あ、ご主人様、今は……」
茂
「え?」
少し遅い、寝室を出ると通路を挟まずリビングだ。
リビングにはいつものように皆が集まっていた。
保美香
「美柑、貴方なら女体盛りに最適そうですわね」
美柑
「しれっと人を皿にしようとしないでください!」
伊吹
「うぅ〜、これ〜、測りにくーい〜!」
そこは桃色の空間だった。
すまん、正確に言うと皆半裸だったのだ。
何やらメジャーを持って各々の身体を測っているようだ。
茂
「……え?」
とりあえず目を疑った。
一度目を擦るが、現実は変わらない。
茂
「茜さん、説明プリーズ」
茜
「身体測定」
茂
「……だよなぁ」
当たり前ながらそれは身体測定だ。
各々が下着姿で身長やスリーサイズを測っていた。
つか、その現時点の事実ではなく過程を聞きたかったわけだが。
いい加減保美香たちもこっちに気がつく。
保美香
「あら、だんな様おはようございます。お目汚しでなければぜひご覧下さいな」
美柑
「……あ、主殿……主殿が見たいならボクは別に……❤」
伊吹
「うーん、裸なんて見られても〜気になんないけどなぁ〜」
茂
「……なんか後が怖いんで止めときます」
そう言うとくるりと180度回頭、後ろを向く。
そりゃあの子たちの下着姿に興味がない訳じゃないが、保美香に既成事実握られたら一大事だ。
ついでに伊吹も羞恥心が全くない故に、ずるずる行くといつか怖いことになる気がしてならない。
ついでに美柑だが、まな板には興味がないしな!
茂
「……で、なんで朝っぱらから身体測定なんだ?」
今日は健康記念日じゃねぇぞ。
俺はそんなに皆が身体を気にしている様子は見た覚えもない。
そもそも気にするほど、こいつらはスリーサイズや体重に不満はないだろうに。
茜
「今日水着買いにいくから、そのために測定」
茂
「茜、理由聞いたときはそっち優先で頼むわ」
茜
「ん」
俺は今更過ぎる情報に突っ込むと、茜は小さく頷いた。
しかし水着か……。
一応旅行に行く事で決定したが、予算が気になるなぁ。
茂
(はぁ……夏季ボーナスで乗り切るか)
しょうがないが、生活費だけじゃ人間は駄目になるからな。
多少の娯楽費は許容しよう。
そういう遊びをいれなければ、人間はマシンと変わらなくなる。
茂
「で……どこで買うんだ?」
保美香
「近くのデパートで買いますわ」
後ろを向きながら保美香が答える。
茂
「いくらいる? 4人分だと2万で足りるか?」
保美香
「流石にだんな様にそこまで負担をかける気は……」
茂
「甲斐性だよ、気にすんな」
それ位は男を見させて欲しいところ。
こいつらも内職を手がけながら少しはお金を持っているはずだ。
それでもそのお金は生活費に消えている。
なら、これくらいの甲斐性は出させて欲しい。
茜
「ご主人様、甲斐性ならMG1/100○ィープストライカーが欲しい」
茂
「駄目です。置き場所ないでしょうが」
最近茜は自己主張し始めているよな。
初めて会った頃なんて、俺相手でも口数も少なく大人しい子だった。
これっていわゆる懐き度が上がったって事か?
茂
「どうせ買うならHGUC1/144○ザビーとかにしなさい」
茜
「どうせなら○イチンゲール」
茂
「まだキット化してねぇ、HiνならMGにあるんだがな」
保美香
「だんな様ー、もう振り返っても大丈夫ですよ」
茜としばらく無駄な談笑をしていると、身体測定も終わったらしい。
俺は振り返ると、ちゃんと皆衣服を纏っており、俺はホッとする。
保美香辺りなら不意打ちで真っ裸になってても不思議じゃないからな。
茂
「さぁて、朝飯は〜っと」
改めてリビングに入ると着替え終えた保美香が朝ご飯の用意をしている。
茜
「朝ご飯、朝ご飯♪」
茜もテンションを上げながら所定の位置に座る。
保美香
「はいはい、軽めですが直ぐ用意しますね。それと、だんな様今日はご一緒にお願いします」
茂
「なんだ? 車でもご所望か?」
保美香
「いえ、だんな様の目が必要なんです!」
正直、その時点ではよく分かっていなかった。
何故水着を買うのに俺が必要なのか。
必要な代金を渡せば買ってくるだけだろうに。
しかし、これは既に彼女たちの策略が始まっている証であった。
***
で……昼前に家を出て、デパートに来たわけだが。
正直俺はそこで戸惑っている。
だってここ、婦人用水着専門店なんだもん。
時期が時期だけに女性客が多く、男がここにいるってのは相当違和感がある。
一応カップルが二人で物色している様子も見られるため異端ではないが、相当恥ずかしい空間だぞ。
茂
「なんで俺まで店に入らないといけないのだ?」
そう愚痴っても誰も聞いてくれる人はいない。
既にそこそこ広い店内を四人は思うがままに物色中であり、俺は暇している。
適当に物色するも最近の水着って本当に際どくて目のやり場に困るし。
伊吹
「ねぇねぇ、茂君〜、こんなのどう〜?」
茂
「伊吹?」
突如帰ってきた伊吹は水着を自分の前で合わせて、意見を聞いてくる。
茂
「オレンジ色のビキニか。お前のサイズだとマイクロビキニに見えてくるな」
正直、伊吹には似合っていない気がした。
大きすぎて水着に適正の大きさの物が少ないのも原因だろうが、伊吹の選択は少し無理がある。
茂
「もっと余裕ある水着の方が良くないか?」
伊吹
「ん〜そうか〜、じゃあそうする〜」
そう言うと伊吹は別の水着を探しに再び売り場に戻っていった。
保美香
「だんな様、これはどう思います?」
次に現れたのは保美香だ。
保美香が持っていたのは赤い花柄のパレオだ。
それ程露出度も強くなく、大人な感じの保美香には最適な水着だろう。
茂
「良いじゃないか、保美香に似合うと思うぞ」
しかし、俺が好評を出すも保美香は難色を現した。
保美香
「……それでは駄目なのです。うーむ、もう少しエロさを追求するべきか?」
……結局保美香も水着を戻すと新しい水着を探しに行く。
そして入れ違うように今度は美柑が現れた。
美柑
「その、主殿……こういうのはどうですか?」
そう言って持ってきたのはレースクイーンを思わせる真紅のハイレグだった。
正直露出度という意味では大した事はないが、ボディラインが激しく出て上級者向けの水着に思えた。
茂
「流石に美柑にはレベルが高くないか?」
正直ボディラインが出るタイプは美柑の体格だと相当貧相に写るだろう。
実際、美柑も同じ事を思っているのか俺の評価を聞くと。
美柑
「そ、そうですよね! やっぱり止めます!」
美柑は顔を真っ赤にすると、そう言って水着を戻しに行く。
さて、こうなると当然最後は。
茜
「ご主人様」
茂
「そらきた、茜は何にしたんだ?」
茜
「これ……」
そう言って見せたのはスクール水着だった。
そんな小学生じゃないんだから……。
茂
「茜、もうちょっとお洒落しても良いんだぞ?」
茜
「ご主人様、重要なのは機能美」
茂
「そんな競泳選手じゃないんだから」
最も競泳選手でも流石にプライベートには着てこないだろうが。
茜
「水着、君に決めた」
茂
「ポケモンらしくか」
茜だけは満足したらしくスク水で決定のようだ。
地元の中学校用とかなんだろうか。
その後、何度か皆ループして、試着室に連れ込まれそうな危機もあったが、俺達は無事買い終わるのだった。
茂
(旅行か……どうなるかな)
突然始まるポケモン娘と同居する物語
第10話 海行きたい 完
第11話に続く。