突然始まるポケモン娘と○○○する物語





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第一部 突然始まるポケモン娘と同居する物語
第1話 出会い



ある日、俺は異常事態と遭遇した。
しかし、それは突然勇者となって世界を救えとか、異世界に召喚されたとか、そんな大事じゃない。

主人公
 「……俺、夢見てる?」

ベッドのシーツの中から聞こえた小さな声。
更に肌から伝わる温もり、そしてどこか甘い香り。
俺の横で寝ている奴がいる。

主人公
 「俺いつから女連れ込んだ?」

あり得ないだろ。
頭でこの事実を確認できている時点で俺は健常な筈だ、多分。
しかし、シーツを捲ると確かにそこには寝息を立てた美少女がいた。

繰り返す、俺は異常事態に遭遇している。
それは何も仕事のオーバーワークに嫌気が差して居酒屋で一人ヤケ酒したまま、気がついたら美少女を部屋に入れてたって事じゃない。

主人公
 「……耳、そして尻尾?」

耳、そう耳だ。
その少女の頭部から犬のように生えた茶色い耳。
一見作り物にも見えるが、確かに血が通っているように見える生きた耳。
更により目立つ大きな筆のような尻尾が尻から生えている。

それは自分が見知らぬ少女を連れ込んで寝たとか、そういう衝撃ではない。
いや、見知らぬ少女をっていうのは充分問題なんだが、それよりこの子は……何者だ?

チチチ……。

主人公
 「朝……?」

気がつけば外が明るくなっている。
そう、夜が明けたのだ。



突然始まるポケモン娘と同居する物語

第1話 出会い



20XX年6月。
この不景気まっただ中の日本で一人では少し広いようにも思えるマンションの一角に俺は住んでいた。
大学を卒業しても大した夢もなく、就職してもコミュ症には出会いもない。

常葉 茂(ときわ しげる)。
この珍しい名前以外は至って平凡な社会人だ。

その人生も至って平凡で、波風立てずただひっそりと生きてきた。
正に人生の負け組。それが俺だ。
勿論犯罪なんて手に染めた事はないし、巻き込まれたこともない。
だが、俺を持ってしてこの目の前の少女には犯罪臭しかしなかった。

少女
 「んん……」

ベッドから起きて悶々していると、気がつけば少女が目を覚ました。
幸い少女は裸ではなく、取りあえず売春には手を染めてなさそうな事は安心する。
少女は目をこすりながら周囲を見渡すと俺に気がついた。
大きな黒い瞳に俺が映る。

少女
 「あ……おはようございます」

少女は戯けた様子もなく、首を傾げて挨拶をした。
俺はその子の暢気な態度に呆れつつ。


 「おはよう……じゃ、なくて! 君誰!?」

少女
 「誰といわれても……名無しのイーブイとしか」

イーブイ?
名無しのイーブイ?


 「ああ、つまり電気自動車の」

少女
  「じどうしゃ?」

 首を傾げられた。
うーむ、ボケに突っ込みもされないとは、なんというか掴みどこがないな。

よくよく姿を見てみよう。
身長は150センチ位、中学生位に見える。
ピンと伸びた茶色い耳も特徴的だが、よくよく見ると服装も妙だ。
6月といえば初夏だ、にもかかわらず毛皮のコートを着込んでいる。
浮世離れしたその格好は余程の酔狂な者かと思えるが、そうではない。
そして最後、腰の辺りから伸びた筆のようなたわわな尻尾が、ゆらりゆらりと揺れている。

 ここまで来れば、もはやコスプレ女の域を越えており、それが人間ではないと教えるようだ。


  「某フレンズではないのなら、ポケモン?」

それは妙にすんなりと落ちた結論だ。
その容姿はポケモンのイーブイにそっくりなのだ。
まるでイーブイのフレンズかと疑えるレベルで再現度が高い。


  「君、いつからここに?」

イーブイ娘
  「? 覚えてないんですか?」


  「覚えていない、だと?」

どういう事か、俺は記憶を探るが答えが全く出て来ない。
しかしイーブイ娘はこともなげに語った。

イーブイ娘
  「私、気がついたら知らない町にいて途方に暮れていたら、ご主人様が招き入れてくれたんです」


  「……すまん、聞きたいことが一つ増えた。ご主人様とは?」

 無言で指を差すイーブイ娘、当然俺を指す。
……思い出せ俺!
この少女に一体なにをやらかした!?
昨日仕事が終わって駅前の居酒屋で2時間ほど飲んでいた、経過はともかくここまでの記憶はある。
その後終電を逃すまいと、最終便に乗って家路についた。

よし、段々思い出してきたな。
そして、寝静まった真夜中に家の前をうろちょろしている美少女がいた。


  「少し思い出した……」

泥酔していた俺は確かにイーブイ娘に声を掛けた。
行くところがないという少女にウチに来るかと言って家に上げたんだ。
その後がさっぱり思い出せないが、一緒に寝ていたってのは確実だ。


  (駄目だ!? 完全に犯罪じゃねーか!)

自分の駄目っぷりが浮き彫りだ。
幸いエロ展開にはなっていない(?)みたいだが、そんな事は問題ではなく世間体では連れ込んだ時点で変態だ。
そして未だ思い出せないのがご主人様発言だ。

(イーブイ娘
 「私のご主人様なってくれますか?」)

……なにか、鮮烈に少女の言葉が頭を反芻した。
そうだ、彼女は自分の主人を待っていた。
俺はそれに……。

ジリリリリ!


 「ッ!? やばい! もうこんな時間!?」

それは自分でセットしたアラームの警告だった。
あまりのけたたましさに少女の毛が逆立つが、今はそれ所じゃない。


  「お、遅れる!」

俺は慌ててスーツに着替えを済ませて、バッグ中身を確認する。
あまりの慌ただしさに少女もオロオロして、俺に聞いた。

イーブイ娘
  「あの、私どうすれば……」


  「え!? あ……えーと」

俺は逡巡したが、この少女を外に放って大丈夫か考えるが、どう考えてもアウトだった。
だからと言って家に置くのも少女監禁の罪でアウトな気がする。
どうすればいいか、そんなの俺のような駄目男には答えなんて出ない。
だからもう考えずに決めた。


 「あああ!? もういい! ここに居てろ! どうせ外に出ても路頭に迷うんだろう!? 帰ったらゆっくり話聞いてやるから!」

そう言うと俺は立ち上がった。
まだまだ少女から聞かないといけないことは多いが、今は無理だ。
帰ってきて落ち着いてから整理しよう。
俺はネクタイを締めてバッグを手に持つと部屋を出る。

イーブイ娘
  「あの、行ってらっしゃいませご主人様」


  「ああ、行ってきます!」



***



電車に揺られて20分、俺は都市部に降り立つとビル街を進んで会社に向かう。
俺が努めているのはITビジネスを手がける中小のベンチャー企業だ。
社員20名、業務はセキュリティーの管理や、サーバの業務委託など。
俺はここのしがない平社員だ。

課長
 「おい常葉ぁ! 出勤は15分前だつってんだろうが! 何5分遅刻してんだ!?」


 「すいませーん、電車が渋滞で〜」

やたらと俺に突っかかってくる課長をスルーして、自分の席に辿り着くと、隣の友人が声を掛ける。

友人
 「よ、常葉、相変わらず嫌われてんなぁ」

俺の席は窓側、後ろではオタク趣味の夏川慎吾(なつかわしんご)が動画を見ながらそっと言った。

夏川
 「課長は無能だからねぇ、俺たちの中じゃ常葉が一番有能だから僻んでんのさ」

それを聞いて隣の大城道理はただ、合掌するのみ。
くそう、こいつら助ける気はねぇのな。

課長
 「常葉、これ全部今日までにな!」

嫌みなバーコードハゲの課長はそう言うと書類の山をドサッと俺のデスクに置いてくる。
俺はウンザリしながら。

常葉茂
 「はいはい、やっときますよ」

課長
 「はいが多い!」

課長はそんなちっぽけな自己満足で納得すると直ぐにデスクに戻った。

大城
 「うわ、今更書類かよ、PDFで渡せっつーの」

常葉茂
 「愚痴って環境変わるもんか……クソが」

俺は今日も鬱憤を溜めながら仕事に取りかかる。
俺は会社の中では一番仕事が出来る、だからやっかむのは仕方がない。
仕事自体は嫌いじゃないし、それが仕事率に影響しているのも確かだ。
とはいえフラストレーションが溜まる一方なのも確かであった。



***




  「くそぉ……あのハゲ課長めぇ……爆発しろ」

今日俺はあまりにも慌ただしかった。
5分遅刻した俺はさも当然のように課長に罵詈雑言され、ただの一プログラマに過剰な仕事を押しつけ、本人は定時退社。
俺が帰路につくと夜20時を迎えていた。
既に心身尽きており、晩飯さえ作る気力のない俺はコンビニ弁当を携えて既にマンションまでたどり着いていた。
今日は飯食ってさっさと寝よう。
そう考えながら階を登りつつ、ポケットを弄る。
しか目当てのものがない。
そう、ルームキーがないのだ。

紛失した?
そう一瞬よぎるが、違うことに気づく。


  (忘れてた……)

自室の鍵は初めから空いている。
そして中は真っ暗で、静寂だ。
一人で住むには少し広い、いつもの風景……とは少し違った。

イーブイ娘
 「お帰りなさい、ご主人様」

扉を開けると、目の前にはあのイーブイ娘が立っていた。
まるで犬のように健気で、そして大きな尻尾を左右に振る。


 「なんで電気ついてないの?」

イーブイ娘
 「でんき……?」

そう言うとイーブイ娘は首を傾げる。
ああ、この子ポンコツだな、そうわかる一瞬だった。


「まぁいいや。ただいま」

俺はそう言うとイーブイ娘の頭を強めに撫でて、リビングに向かう。
リビングは相変わらず物が散らかって、男部屋感満載だ。
流石に少女を置いておくには気が引けるよな。


 「……えーと、お腹すいてないか?」

そう聞くも反応はイーブイ娘の声より腹の音の方が先だった。

イーブイ娘
 「はう……」

イーブイ娘は困ったような顔をしており、恐らく何も食べていないのが分かる。
元々冷蔵庫には大した物は入っていない、この少女恐らく冷蔵庫も意味が分かるまい。

少女はコンビニ袋から取り出した弁当を見ると顔を近づけて鼻を動かした。
匂いからそれがなにか判断するあたり、まるで野生動物みたいだが、あながち間違いではないのだろう。


 「箸の使い方……分かる?」

イーブイ娘
 「???」

割り箸を渡すもイーブイ娘は手の中でクルクルと回して、全く用途を理解していない。
駄目か……そう理解した俺はおとなしくフォークとスプーンをキッチンから持ってくる。


 「これを使って、食べる。いいね?」

イーブイ娘
 「……はい」

そう言ってイーブイ娘は右手にスプーン、左手にフォークを両手でガシッと持って構えた。
なにか間違っている気がするが、弁当を渡すと俺は風呂場に向かう。
弁当は中華定食でチャーハンに青椒肉絲と中々ボリューミー、余程痩せの大食いでなければ充分満足して頂けるだろう。


 (結局彼女が何者か、それをキッチリ聞かないとな)

給湯器を起動させて、風呂に湯を張ると俺は改めてイーブイ娘について考える。
まず何者かが第一であろう。

バスルームで作業を終えると冷蔵庫から麦茶を出すとそれを一気に飲む。
そして麦茶を持ったまま、リビングに戻ると品性のない食べ方でガツガツ頂くイーブイ娘を見る。


 「食いながらでいいから答えてくれ。君はポケモンか?」

少女は口を汚しながらコクリと頷いた。
ポケモン……そう認めるのか。 
それは俄には信じがたいが、だからといってこんな酔狂な人間も存在しないと理解できる。
耳も尻尾もそうだが、毛皮のコートを着込んでも暑がる様子もなく、そして浮世離れした行動の数々。


 「名前は……ないんだっけか」

イーブイ娘
 「……ん」

再び頷くイーブイ娘、その表情は暗い。
まるでずっと孤独であったかのような顔だった。


 「だったら茜(あかね)っていうのはどうだ?」

イーブイ娘
 「ふぁかね……?」


 「喋るなら食い終わってからにしろ」

そう言うと、イーブイ娘はご飯をやや早めに食べきった。
コップに注いだ麦茶を渡すと彼女は一気に流し込む。

イーブイ娘
 「……茜、私の名前は茜」

そうして何度も茜と反芻する、自分の名前を脳に刻み込んでいるのかもしれない。
ただ、その表情は明るく、少し安心したような様子だった。


 「一応自己紹介だな。俺は常葉茂」

問題は彼女の処遇についてだ。
正直このまま部屋に置いといていいものか迷う。
とはいえ外に放り出しても、この子が生きていけるとも思えない。


 (……馬鹿みたいだな。結局一択じゃないか)
 「よろしくな。茜」


 「はい、こちらこそよろしくお願いしますご主人様」

……結局外に放り出すという選択肢を選べなかった俺は彼女をここに置くことを決定する。
結局なんでご主人様と呼ばれるのか分からんが、まぁ悪い気はしない。


 「風呂先に入ってるんだぞ。俺はコンビニ行ってくる」

今絶賛湯気の立つバスルームを差すと、俺は財布だけ持ってコンビニに向かうのだった。

 

***



 「……しかし、なぜポケモン娘なんだ?」

冷静に考えるとかなりおかしな出来事だ。
これならまだ拡張現実から出てきたという方がまだリアリティがある。
なにゆえ擬人化されているのかもさっぱり分からん。
正直考えても答えなんて出ないのだろう。
ただ、茜はそこに存在しているのだ。
擬人化だろうが、そこに存在している事は否定は出来ない。


 「……正直これからどうすればいいんだろうな」

彼女は俺にとってなんなんだろうか?
ペット? メイドか? それとも娘か?
なんにせよ、先は全く見えない。
でも、なんとかなる気はした。
楽観視ではなく、ただの勘だがそう思う。

やがて夕飯とつまみを持ち帰った俺は部屋の扉を開く。
中は電気が付いており、そしてそこには茜がいる。
……一糸纏わぬ裸で。


 「結構巨乳なのねぇ……じゃなくて!」

茜は困ったように裸でリビングをうろちょろしていた。


 「ご主人様……服」


 「しまった! それは忘れていた!」

風呂に入れたはいいものの、替えの服は用意出来ていない。
俺は慌ててクローゼットからパジャマを取り出すと、茜に渡した。
茜は受け取るといそいそとそれを着る。
男性用でブカブカだが、ないよりマシだ。
下着は……明日買ってこよう。


 (それにしても中学生位の子供だと思っていたら……結構グラマラス)

俺はそっとパジャマを着た茜を見る。
ブカブカのパジャマから覗く胸の谷間。


 (だぁぁ! 欲情するな俺!)

俺は顔を真っ赤にして煩悩を否定した。
しかし煩悩が溜まりに溜まっている俺がひたすら悶々としたのは言うまでもない……。


Re:突然始まるポケモン娘と同居する物語

第1話 出会い 完。

第2話に続く。


KaZuKiNa ( 2019/01/25(金) 19:22 )