供養話(くようばなし)
あなたが、死んでからの話
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
死にたい。消えたい。自分を、殺したい。
あなたに会いたい。
あなたに謝りたい。
あなたの後を追いたい。
でも、できない。

その日は晴れていた。
ジュンサーさんから、弟が亡くなっていると、連絡があった。
意識が、遠のいて、心臓がバクバクと鳴って。情緒が、安定しなくて。
彼が勤めていた会社の上司が逮捕された。よくミスをすると、
高圧的に当たっていたらしい。けれども、何故か分かっていた。

あなたは、自分で死ぬことを選んだんだよね。

そこにあったきっかけに、身を投げてしまったんだよね。

一体あなたは、どれだけ苦しんだのかな。どれだけ苦しみ続けて、
その選択をしたのかな。もう動かないあなたのやつれ切った顔を、
落ちくぼんだ目を、数本の若白髪を見て、
めのまえが まっくらになった。

全てが、遅すぎた。自分の罪と、零れ落ちたものの大きさに、ようやく気付く。

相方のラッキーと帰宅した私がくだらない話題で笑いあっていた時も、
あなたは途方もない苦しみを抱えていたんだね。
あなたが自殺未遂をしていたことも、知らなかった。知ろうともしなかった。

その心からの相談を、あまつさえ笑ってしまった。

気づけたはずのあなたのSOSを、「またか」と無下にしてしまった。

必死の訴えに、心の悲鳴に耳を傾けなかった。

無駄なプライドで勝手に誤解して、最後まで聞こうともせずに
シャットアウトしてしまった。
一時の感情で怒りをぶつけてしまった。

あなたの感情を、押し込めさせてしまった。

貴方の行く先を、歪めてしまった。

おそらくあなたは、これで心を閉ざしてしまったんだろう。
「心を開く」ことほど、難しいことはないはずなのに。
勇気を振り絞った、一言のはずだったのに。

「相談してくれてたら」という言葉を聞くけれど
そうできるのなら、とっくにしていただろう。

もしもあの時、1時間でも2時間でも、真剣に話を聴いていたら。
「私達は何があってもあなたの味方だよ」と、抱きしめていたら。

悔やんでも悔やみきれない。どれだけ悔やんでも、責めても――
もう、取り返しはつかない。あなたは帰ってこないんだから。

「僕が不甲斐なくて、ごめんね」

ぽつりと言ったそれが、最後に聞いたあなたの声だった。

優しいあなたは翌日、私たちの前から姿を消した。
自分に厳しかったから、自分が許せないと思い詰めてしまったのだろう。

ねえ、あなたは覚えてないだろうけど、
あなたの手持ちだったフシギダネ達は、
逃がされるとき、泣いてしがみついたのよ。
彼らにとっても、もちろん私たちにとっても、
あなたの存在は迷惑なんかじゃなかった。

あなたと同年代になるであろうポケモントレーナーを見るたびに。
ポケモンブリーダーを見るたびに。ポケモンドクターを見るたびに。
ふとしたことで、貴方を思い出し、辛くなる。

おそらく私だけでは無い、父も、母も、弟も、友達も、
貴方に関わりのあった人はみんな、この思いを抱えて
生きていくんだろう。

後悔、罪悪感、無力感、自責の念――それらを、死ぬまで。

未だに、前は向けていない。
結局、何も変われていない。
それでも、向かなければいけない。
変わらなければいけない。
あなたのような人を、これ以上増やさないためにも。

助けられなくて、ごめんなさい。
私の弟になってくれて、ありがとう。
ゆっくり、休んでね。

カレハ ( 2021/02/11(木) 23:54 )