夢と星に輝きを ―心の境界―








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6章 未踏の地・大氷河
71話 不思議と住人
 ある程度“グレッシャーパレス”を、ダンジョンを進んだが、それでもリタとつながりそうなものは何もなかった。
 ダンジョンを抜けても何もない。いつもと同じように少し広いフロアにでただけだ。

 そのフロアに入った瞬間だった。
 息をきらしたクレディアとクライをみかねて、フールが休もうと言った。それぞれが氷に腰かけてくつろいでいた。
 クレディアも習って座ろうとした。
 しかし、できなかった。視界の端に掠めた何かが、それを拒んだ。


「クレ、ディア」


 小さく、誰も気づかないような声音で、呟いた。
 自分と同じ水色の瞳をしたツタージャが、先に進む道に佇んでいた。そして彼女は、クレディアを見て微笑んだ。そして、くるりと身をひるがえした。
 背中が小さくなっていく。クレディアは手を伸ばした。

「待って!!」

 急いでその背中を追いかける。
 誰もクレディアの異変に気付かなかったため、いきなり動き出したクレディアに反応できなかった。いきなり駆け出した彼女を、誰も追いかけることができない。
 しかし、呆然としていたフールははっとなり、クレディアを追いかけた。

「ちょっ、ちょっとクレディア!? どこに行くの!? 待って――って、え……?」

 突然フールが立ち止った。同じように駆け出そうとしてた『プロキオン』のメンバーも足を止め、首を傾げた。
 「あ、あれ?」と驚いているフールを御月が軽く小突いた。

「おい、どうした。クレディアは、」

「わ、わかんない。突然、ふと、消えたの」

 は? と御月が意味が分からないといった顔をした。
 しかしフールも焦ったような、戸惑いが混じった表情をしていた。それでも何とか、御月に伝えようとする。

「走ってたクレディアの背中、見えてたのに。いきなり、透明になったみたいに、消えた。……どうなってるの?」

 御月も、クレディアが走り去った方向を見た。誰もいない。
 誰に「待って」と言ったのか。何を見たのか。クレディアはどこへ消えたのか。

「……とりあえず、進むぞ。クレディアの足ならそう遠く行ってねぇはずだ」

「う、うん」

「1匹だけじゃ危ないしね……急ごう」

 少し早足で、クレディアを除いた『プロキオン』は動き出した。




 一方、クレディアはただひたすらクレディア≠追いかけていた。差は縮まることも、放されることもない。
 ある程度走ったところでクレディア≠ェ止まった。クレディアも一定の距離を保って止まる。くるりと振り返って、クレディア≠ヘ笑った。

「こんにちは、私=B久しぶりだね。あれ、そうでもないのかなぁ」

 のんびりと、少し間延びした喋り方。クレディアと、全く同じ。
 息を整えていて、まだ喋れないクレディアに対し、クレディア≠ヘ悠々と言葉を連ねた。

「凄いよね、ここ。ぜんぶ氷なんだもん。こんな氷の宮殿、住んでみたかったなぁ。小さい頃、夢だったの。ぜんぶ自然! って感じの場所で暮らすの。でも難しいよね。どこも手が加えられてるから」

 どうやら、前みたいにすぐに襲ってくる気はないらしいクレディア≠ヘ、世間話を続ける。
 本当に、鏡を見ているようだった。喋り方も、姿も、ぜんぶ同じだから。
 何か言おうとしては、口ごもる。クレディアはそんな動作を繰り返す。それをみて、おかしそうにクレディア≠ヘ笑った。

「聞きたいなら、聞けばいいのに。おかしなの。でも、私に聞かなくたって、貴女はもう分かってるんでしょう?」

「……?」

「変な私=B……それじゃあね」

「あっ、……消え、ちゃった」

 ふっ、と空気に溶けるようにクレディア≠ェ消えた。まるで彼女はいなかったかのように、痕跡は何一つ残っていない。
 一体彼女は何を伝えたかったのか、何をしにきたのか、全く分からなった。


 すると、あ、という声が、クレディアの耳に入ってきた。
 後ろを振り向けば、その声の正体――少し茶色がかった、普通とは違う色をしたマグマラシがこちらを見ていた。

「……もしかして、迷子?」

「えっ?」

 少し幼い声がそう尋ねてきて、クレディアは咄嗟に反応できず首を傾げた。
 今までクレディア≠ノ気を取られ過ぎていたクレディアは、ようやく状況に気づいた。辺りを見渡しても、誰もいない。
 フールや御月は、『プロキオン』は、どこにもいない。

「ま、迷子になっちゃってる……」

 ようやく、気づいた。自身が迷子だと。
 はぁ、とマグマラシはため息をついた。そして呆れを隠しもせず表情にだした。

「仲間いるなら、ここ広いから、合流するの難しいと思うよ。迷子になったとき、何か合図だせとか言われてないの?」

「ううん、何も言われてない」

 またしてもマグマラシは嘆息した。そして頭を抱えた。
 幼い声と拙い喋り方からして、自分より少し年下だろうか。そんなことを考えながら、クレディアはマグマラシに話しかけた。

「私……クレディア・フォラムディっていうの。種族はツタージャ。貴方は? ここに住んでいるポケモン?」

「…………色は違うけど、種族はマグマラシ。名前は慧。ここに住んでるポケモンで間違いないよ」

 そのマグマラシは慧と名乗った。クレディアは「慧くんだね、わかった」とへらりと笑った。あだ名をつけないのは、つけようがないからだろう。
 慧はクレディアから視線をそらし、辺りを見渡した。

「クレディアさん、どうするの? ここにいても何も変わらないよ。っていうか……よくここまで来たね。ここ、オレの秘密の場所みたいな所なんだけど」

「えっ、そ、そうなの? ごめんね、勝手に入って……」

「いや、別にいいけど」

 どっちが年上だが年下だか分からなくなりそうだ。クレディアはいつもの調子をくずさず、慧は淡々と返す。
 クレディアは先ほどの慧の「どうするの」という言葉の返答を考えた。
 ここは未知の“グレッシャーパレス”。地図なんてありはしないし、ダンジョンではそんなものは無意味だ。加えてクレディアはダンジョンについても素人並の知識しか持っていないし、地形になんて何も詳しくない。
 どうやって合流すればいいのか、クレディアには解けない問題だ。
 困っているクレディアを見かねてか、慧が「……あー」と声をあげた。

「とりあえず、1番みんな行きそうな場所までは案内するよ。合流できるか、オレは分からないけど。此処よりは、ずっと合流できる可能性が高いと思う」

「あ、ありがとう!」

「いいよ、別に。ここ、皆は勝手にグレッシャーパレス≠チて呼ぶけどさ、」

(……みんな、私と同じ名前つけてるんだなぁ)

「住んでるポケモンでも、すごく入り組んでるから皆よく迷うんだ。オレも最初の頃はよく迷ってたし。オレいつもここに入ってきて迷ったポケモンたちを、こうやって案内してるから、気にしないで」

「それでも、ありがとう。慧くん、詳しいんだね」

「じゃないとここじゃ生きてけないよ」

 少し笑った慧に、クレディアも笑った。
 慧はおもむろに自分がきた道とは真逆にある、3つに分かれている道を見た。ぱちん、と器用に指を鳴らすと、いきなり右の道の両端に、色とりどりの炎が現れた。真ん中には炎がなく、通れるようになっている。
 クレディアは唖然とした後、目を輝かせた。

「すごい! 綺麗! 慧くんがやったの!?」

「うん。迷わないようにするための目印。とりあえず行こう、クレディアさん。あんまりゆっくりしてると、クレディアさんの仲間に追いつけなくなるから」

「うん!!」

 クレディアと慧が隣に並んで、炎が灯っている道を歩く。その炎は青、赤、緑、黄色と彩られ、ゆらゆらと揺らいでいる。
 その炎を見ながらクレディアは嬉しそうに笑い、それに慧は不思議そうな顔をするのだった。

■筆者メッセージ
ちょっと短くなりました。更新遅くなりました。すみません。

これ以上はオリキャラは増やさないようにします……。
アクア ( 2015/04/01(水) 15:21 )