夢と星に輝きを ―心の境界―








小説トップ
6章 未踏の地・大氷河
70話 ホンモノ
 進んでダンジョンを抜けると、広いフロアへ出た。
 それまでにかなりの距離を進み、沢山の戦闘をしたためクレディアは少々だが息がきれていた。額には汗がじんわりとにじんでいる。
 行く先々、ずっと御月が気をかけているため、何とかクレディアも追いつけている。

 しかし、息がきれているのはクレディアだけではない。

「クライ、大丈夫?」

 シリュアがそう尋ねると、息をきらしながら笑顔をつくってクライは「大丈夫」と答えた。見るからに、様子は大丈夫そうではない。
 クライは確かに戦闘は苦手ではあるが、体力がないわけではない。クレディアの2倍くらいはあるだろう(クレディアの体力がなさすぎるだけで、決してありすぎるわけじゃない)。そのクライが少ししんどそうにしている。

「ちょっと、何だか息苦しいかなって……」

 そう言うと、フールが難しい顔をした。

「……それは、私も思った。山だし、登ってるからかなって思ったんだけど……」

「どうかしら……。そんなに高いところまで来たとは思えないけれど、」

 すると、フィーネの言葉を「みんな!」というシャオの声が遮った。
 いつもより調子が上がっている声で、シャオは「こっちまで来てくれ」と少し離れた場所から行った。それに従い、全員が移動する。
 そしてシャオの近くまで来ると、「えっ」と驚愕の声をあげた。

 目の前には、氷の塊がいくつも宙をういていた。何の支えもなく、だ。

「わぁっ……!」

「う、浮いている……ど、どうなってんのコレ……」

「すげ……」

 それぞれが驚嘆の声をあげ、そして戸惑いの声をあげる。
 シャオは浮いている氷を見ながら、ふと微笑んだ。

「……どうやらただの噂じゃ片づけられなくなってきたね。幻の大結晶は本当にあるのかもしれない」

「そうね。半信半疑だったけど、これを見せられちゃあ本当かもって思っちゃうわ」

 2匹が穏やかに、しかし気分がよさそうに会話する。
 ふと、フールの視界の端にきらりと光るものが入った。不思議に思ってフールはそれを手にとる。

「何これ。氷、とは、何か違うような……」

 フールの言う通り、ソレは氷のようで、しかし少し違うものにも見える、不思議なものだった。丸っこい形をして、中央は大きく開いていた。触ってみても、ひんやりとするだけで氷よりは冷たくない。
 その様子を見て、クライも傍によってくる。すると近くにあった、ソレと同じものを見つけた。

「こっちにも同じものがある……。透明でなんか綺麗だなぁ」

 クライも1つ手にとって、しげしげとそれを見つめる。
 フールとクライが手にしている者を見て、フィーネは「あら」と声をあげた。

「それ、フリズムじゃないかしら」

「フリ、ズム?」

「そう。とても珍しいお宝なの。それにしても凄いわね。こんなに沢山あるなんて」

「何か来た甲斐があったって感じがするね」

 しみじみと感心するダンジョン研究家をよそに、クライはきらきらとした目でフリズムを見つめていた。

「お、お宝……! これ全部お宝なんて……! す、すごいよ御月!!」

「あぁ。…………何ポケになんのかな」

「そういうこと考えるのやめてくれる?」

 鋭くフールが御月を一括すると、「へーへー」とこれまた適当に返された。
 その様子に納得はいかなかったが、フィーネが「しかもただのお宝じゃないのよ」と言ったので、感心はそちらに移った。

「フールちゃん、フリズムに大きく開いている部分があるでしょう? そこに向かって何か喋ってみてくれないかしら」

「喋る? ……わかった。んーと、」

 フールは数秒だけ考える素振りをみせて、すうと息を吸い込み、フリズムの開いている部分に顔をむけた。

「えっと……『プロキオン』レッツシャイン!!」

《えっと……『プロキオン』レッツシャイン!! シャインー……ンー……》

「うわっ!」

 驚いて落としそうになったフリズムをどうにかキャッチする。
 プリズムにフールが声をだした瞬間、フリズム内で声が反響したのだ。それも同じくらいの音量で響いた。
 しかし驚愕はまだ続いた。
 フリズムは全体的には水色なのだが、一部だけ透明ところがある。その部分がいきなり白くなったのだ。
 色々とありすぎて唖然としていると、御月がフィーネに問いかけた。

「白くなった部分は、一体どうなってるんだ?」

「あれは、うーんとね、フールちゃんの声を凍らせて白くなったって感じなの」

「わ、私の声を?」

「えぇ。じゃあフールちゃん、今度はそのフリズムを温めてみて。白いところに息を吹きかけてもいいし、触ってみてもいいわ。そうしたら白く凍った部分が溶けるから」

 わかった、とフールが頷きフリズムに向き合った。そしてふぅと息を吹きかける。
 するとフィーネが言っていた通り、白く凍った部分が溶け、元の状態に戻った。その瞬間、

《えっと……『プロキオン』レッツシャイン!!」》

「フールさんの声だ!」

「まるで氷のボイスレコーダーみたい!!」

 周りがはしゃぐ一方で、フールは納得いかなさそうな顔をした。

「これ、本当に私の声……? なんか変」

「自分が聞こえている声と実際に周りの人が聞こえている声は違うんだってー。そのフリズム? から聞こえてる声は、ふだん私たちが聞いてるフールちゃんの声なんだよ」

「へぇ……面白いね」

 フリズムを隅々まで見ながら、感心していた。
 すると「そうだ!」とクライが声をあげた。

「いくつか持って帰ろうよ! 留守番してくれているレトのお土産にしよう!」

「あっ、私もリィちゃんの分やアーちゃんたちの分のお土産とる!」

「私も自分の分とっとこうかなー。まあ、各自でとるとして皆ほどほどにね。……特に御月」

「程度は守るっての……」

 イラッとした様子で返す御月を横目に、フールはフリズムを手に取る。クレディアもクライも、皆それぞれ自由にフリズムを取りだした。
 クレディアは「これはリィちゃんのでー」と呟きながら鞄に詰めていく。
 シリュアも1つ拾い上げると、ふと白いモノが目に入った。そしてわずかに目を丸くする。

「あら……? このフリズム、白くなってる」

「シリュア、どうかした?」

 シリュアの異変に気づき、フールが声をかける。それを合図のように、他の皆もシリュアに近づく。
 手にしているものは、既に白くなった、録音済みのフリズム。

「これ、元々白くなっていたのよ。中に音が残っているのかしら」

「氷がくだけたととかがはいってしまったのかもね。確認してみよう」

「あっ、ボ、ボクやってみたい!」

「じゃあ、クライに任せるわ」

 シリュアは白くなったフリズムをクライに手渡す。
 わくわくした様子で、クライは白くなった部分にふと息を吹きかけた。すると先ほどと同じように、凍った部分が溶け、音が流れ始めた。

《…………ぼ……く…………ぼくの…………旅は……》

 声を聞いた瞬間、シリュアが目を丸くした。少し遅れて、他の皆も目を見開いた。
 それに構わず、フリズムからは声が流れている。

《これは僕の……冒険の記録。僕がこの“グレッシャーパレス”にたどり着いたその記録として、》

(クレディアと同じネーミングセンスしてやがる……)

《そしてこれを聞いている君にむけて、このフリズムに声を残す。
 ……あっ、えっと、まず……僕は此処にきてよかったと心から思っている。浮遊する物体、空洞だった山、そしてこの氷の宮殿! すべて夢のようで……何もかもが輝いているし、何もかもが素晴らしい》

 声は本当に嬉しそうに話す。
 それを聞きながら、シャオがふむと声をあげた。

「どうやら、僕ら以外に、そしてもっと前に、誰かがここに来たようだね。あのマグナゲートの跡をつくったポケモンかな」

「……シーちゃん?」

 ふとクレディアがシリュアに声をかけた。シリュアは俯いて、微かに震えていた。
 ぽたりと、涙が零れた。
 クレディアの一言で、ようやくシリュアの様子がおかしいと全員が気づいた。誰かが問いかける前に、シリュアが口を開いた。声は震えていた。

「この声を……私は、知っているわ……。



  この声は……リタ。リッター・ルツァーリ、そのポケモンに間違いないわ……」



 誰が、それを予想しただろうか。
 全員が目を丸くし、黙った。シリュアのいうリタの声は、今も、フリズムから流れている。楽しそうに、旅の報告をしている。
 ようやく、フールが口を開いた。

「どうして、手紙には、「大氷河にはいってない」って、書いていたんじゃ、」

「わからない……。でも、私が聞き間違えるはずないわ。この声は、リタの声よ……」

「……とりあえず最後まで聞いてみよう」

 シャオがそう言うと、全員が黙って耳を澄ませた。

《……というワケで、今回は大変なことばかりだったし、失敗もあった。けど、それを乗り越えることでここまでたどり着いた。
 でも僕の冒険はここで終わりじゃない。さらなる未知の世界へ、この奥へ、進んでいくつもりだ。
 もしこの声を聞いている者がいるとすれば、やはり困難を乗り越えてここまでたどり着いた冒険家だろう。であればこれからこの奥に進むわくわく感は、まさに今これを聞いている君も体感してるはずだ!
これから僕が見る物と、後で君が発見する物は同じかもしれないし、違うかもしれない。でも何が待ち受けてるにせよ、この湧き立つようなドキドキ感は変わらない!
 では僕は行く! これを聞いているであろう君にも幸運を!!》

 そう言ったきり、声は流れなくなった。誰かが息をはいた。
 シリュアは流れる涙をそのままに、懐かしそうに、それでも悲しそうに、呟くみたいに静かに放した。

「…………私の知っている……友達だった時の、いつもの、リタだったわ……」

「リタは渡っていたんだね、大氷河に……。
 ……わからないね。だったら何故シリュアにあんな手紙を送ったのか……。あの手紙は、別の誰かが書いた偽物だったのかな……?」

「いいえ。あの足型文字は……まさしくリタのものだったわ。あの手紙は、本物よ」

 その言葉で、シャオの仮説は否定される。もっと意味がわからなくなった。
 どう考えても、手紙のリタと、フリズムの声のリタは全く違う。別のポケモンのように、違った。しかしシリュアはどちらのリタも本物だという。
 フールはフロアにある、唯一先に進める道を見た。

「……リタが変わったのは、この先ってことかな…………。何かあったなら、この先に何かがあるかもしれない。真実が、わかるかも」

「シリュア、大丈夫?」

「……えぇ、ありがとう。大丈夫、心配かけてごめんなさい」

 滑らかな動きで、シリュアは涙を拭った。そして笑顔を作った。

「行きましょう。私は、真実が知りたい」

 その言葉に、全員が頷いた。




「何か、騒がしい……てかやっぱ寒い……」

 幼い、少し低い声が、フロアに響いた。
 そのポケモンは、ゆったりと、リラックスした姿勢で氷にもたれかかっていた。

「帰ってきたのかな……いや、それはないか」

 1匹自問自答して、そのポケモンは嘆息した。
 もたれかかるのをやめ、起き上がる。そして「んー」と体を伸ばした。

「誰か入ってきた、とか……? ……煩くなりそう。静かな場所に移動しよ……」

 そう言って、おもむろに動き始めた。ふわりと、温かな空気が舞った。

■筆者メッセージ
そこら中にオリジナルをぶっこんでいくスタイルです(キリッ
自分で書いててなんだけど、時々クレディアは馬鹿なのか頭いいのか分からなくなる。……いや、馬鹿なんだろうなぁ。
アクア ( 2015/03/10(火) 23:17 )