夢と星に輝きを ―心の境界―








小説トップ
5章 『プロキオン』
61話 大事な問題
 テーブルを囲み、3匹がゆったりと朝食をとる。

「……ふあ、」

「フーちゃん眠そうだね。よく寝れなかった?」

「いやー……横になりながら悶々とパラダイスのこと考えてたら寝るの遅くなっただけ」

「自業自得だな」

「うっさい御月」

 軽口を叩きながら進む食事。朝食が終わると、3匹で片づけをする。
 そして3匹がいつも通り外に出ると、予想外の人物が家の前に立っていた。

「あっ、セロさんおはよー!! どうしたの?」

「えっ、セロ?」

 クレディアの後ろからひょっこりとフールが顔をだして、セロの姿をとらえる。御月は「後がつっかえる」とフールを無理やり横にずらした。
 そんな賑やかな様子をいつも笑ってみているセロだが、今日は違う。何だか、焦っているような。
 すぐにそれに気づいたクレディアは首を傾げて、もう一度セロに「どうかしたの?」と問いかけた。フールも御月も、不思議そうな顔をしている。
 すると、セロは「あ……あっ……」と言葉にならない声を発してから言った。

「じ、実は……重要なことを忘れていただぬ」

「重要なこと?」

 フールが眉をひそめる。セロは顔を青ざめさせながらも続けた。

「この前はみんなで「皆で大氷河にいこう!」って感じで盛り上がったんだぬが……よくよく後で考えてみたら…………とても大切なことに気づいたんだぬ!!」

「あー……そ、そうなんだ。うん、わかんないけど分かった。とりあえず皆を集めろってことね。
 御月、クレディア、分かりやすい奴らから掲示板の前に集めて。私はルフ兄を引っ張って引きずってくるから」

「ついに見つけるのに慣れたか」

「大体の見当はつくようなった。腹立つケド」

 フールは不満げに、反対にクレディアは楽しそうにメンバーを探しに行くのだった。御月はそんな2匹にため息をついて、追いかけた。



 フィーネとシャオを除く『プロキオン』全員、そしてオマケとばかりにヴィゴ、シャンリ、ヴェストも集まった。
 そしてセロから告げられた、"重要なこと"。

「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」」」」」」

 それにほぼ全員が大声をあげた。
 一番ショックを受けたのはフールで、少し呆然としてから、セロに詰め寄った。

「嘘でしょ!? 何で!? 何で留守番なんか必要なの!?」

「それは……大氷河はたぶん長旅になるだろうから、おそらくここには何日も帰ってこれないと思うだぬ。実は"わくわく冒険協会の掟"というのがあってだぬ……」

(名前まんまだな)

「それによると、長い間チームと連絡が取れないのは困るから、長旅の場合はチームを留守にしてはいけないんだぬ……。昔なんかもめ事というか問題があって、それでこんなルールになったというのを聞いたことがあるだぬ」

「なっ、何、誰そんなの起こした奴!!」

 フールは驚きから怒りに変換されてきているらしい。
 御月はここでようやく気付いた。昨日の、シャドウの言葉。

《大氷河に行くのはいいけど、大丈夫なのカ? いろいろ問題とかあることネ?》

(コレのことかよ……)

 予想外の問題だった。まさかそんな掟があるとは。
 他の面子を見ても、全員が知らなかったようである。何故かルフトだけは感心したように「ほう」と声をあげた。

「一つ聞いていいか? それを破った場合どうなる?」

「……チームバッチを剥奪し、チームを解散する。そういう厳しいものだぬ……」

「チ、チーム解散……」

 驚いたり怒ったり青ざめたりと、百面相のようにフールの表情がかわる。ルフトはどこまでも呑気なようで、それを見てクツクツと笑った。
 クレディアは意味を理解しているのかしていないのか、ただきょとんとしている。
 誰も何も喋らなくなった。痺れを切らしてか、御月がため息をついた。

「つまり1匹でいいから此処に留守番として残れってことか。その1匹は大氷河に行くことは叶わないと」

「そっ、そんなぁ……。み、皆で行きたい、けど……チームが、解散したら、元の子もないし…………うぅっ……」

 フールが俯きながら、泣きそうな声をあげる。
 「皆で行く」ことを楽しみにしていたフールにとって、かなりの衝撃だったのだろう。これ以上は言葉が続かなかった。
 重々しい空気のなか、シャンリがにっこりと笑った。

「大丈夫。誰かが留守番役になって寂しい思いをしたら僕のところにおいで。その時は……」

 御月が無言で動いた。


「Vルーレット!!」


 シャンリがポーズを決めた瞬間、両側からこめかみをおさえつけた。

「……を、回せば気が紛れるいででででででっ、御月いたいよー」

「相変わらずうざい……違った。凄いなお前」

「お前はいい加減に学べシャンリ」

 御月はシャンリのこめかみをグリグリと押さえつけるのをやめない。ヴェストも白い目でそれを見る。
 しかしすぐに「それはそうとして」とメンバー全員の方へ向き直った。

「誰がここに残るかって話だけどよ、やっぱりこの中で一番実力がない奴が残るべきじゃねぇかな」

 その言葉に、表情を暗くした者がいた。

(実力が、一番……ない……)

 冷や汗が止まらない。嫌な予感しか思い浮かばない。クライは、そんな思いをモヤモヤと抱えていた。
 「実力が一番ない奴」。それはクレディアか、クライか。ただ実績に関しては今はクレディアの方が上だ。つまり、ヴェストがいった「奴」に当てはまってしまうのが、クライ。
 それに追い打ちをかけるように、ヴィゴが声をあげた。

「まあそれもそうだろうな。大氷河は未踏の地だ。何が起こるか分からねぇし……それだけ危険も多いだろう。弱い奴がいきゃ下手したら大怪我じゃすまねぇかもしれない」


「実力とかそんなの関係ない」


 はっきり、そう断言したのはフールだった。クライはバッと顔をあげる。
 フールは苦々しい表情をしながら、それでもしっかりと自分の考えを告げた。

「冒険家ならだれもが行きたいって思う場所なの。そんな決め方は嫌!!」

 そう言い切ったフールに、メンバー全員が目を丸くした。
 フールは少し俯き気味で、悲しそうに、小さく呟いた。

「……誰かを残して行かなきゃいけないなんて、そんなの…………悲しいよ……」

 フールの様子を見て、セロも少し悲しそうに、申し訳なさそうにした。

「ん〜っ、ワシも皆で行ってほしいだぬが……チームを解散させられたら困るし、これは仕方ないだぬ……」

 その言葉は、重くのしかかった。

(フールさんは実力とかどうとかで決めたくないって言ったけど……でも…………やっぱり、やっぱり僕、が……残る、べきなのかな……)

 クライは考える。ぐるぐると、「自分が残る」という選択を。
 自分が言うべきだ。手をあげなければ。「残る」と言わなければ。自分が「残る」と言えば、他の皆は大氷河へ行けるのだ。
 それでも、楽しみにしていた大氷河に「行かない」というのは、なかなか勇気がいるもので。
 クライは気づかぬうちに、小さく震えていた。
 それに一番気づいたのは、すぐ隣にいった親友のレトだった。

「あれっ、どうした? クラ、イ……」

 異変に気づいて声をかけると、全員がクライを見た。
 クライはぎゅっと目を瞑り、息を吸って、声を、絞り出した。

「あ、の……ぼ、僕、が……」

「……! わわっ、待て、クラ――」



「私が残るわ」



 クライが言おうとしていた言葉をするりと口から出したのは、シリュアだった。
 全員が突然のことに反応できず、少し遅れてからシリュアを見た。クライも酷く驚き、目を丸くしてシリュアを見る。
 シリュアは全員の視線を受けながら、笑った。

「私、大氷河に興味がないこともないけど、でも寒がりだし、危険なところも苦手なの。だから私が残るわ。だから皆でいってらっしゃい」

 それだけ言って、シリュアは颯爽と身をひるがえしてパラダイスを去っていた。急なことで、誰も声をかけられなかった。
 暫くの沈黙の後、ヴィゴがぐるりと回った。

「や、やったーーー! シリュアちゃんが残るッ!! 俺実はひそかに……シリュアちゃんが行っちまったらどうしようって思ってたんだけど……でも!! 寂しい思いをしなくて済むんだ!! ドテッコーーーー」


「黙りなさい!!」


 弾んだヴィゴの言葉に、フールが喝を飛ばした。それにビビり、ヴィゴはすぐさま口を閉じた。そしてフールを見て目を丸くした。
 フールはぎらぎらとした目でヴィゴを睨んでいた。それは、い殺さんばかりの目で。
 クレディアはその2匹の方はちっとも見ず、シリュアが去って行った方向を見ながら、ぽつりと呟いた。

「シーちゃん……何か、悔しそう……ううん、悲しそう、だった……?」

「…………。」

 その言葉に、全員が黙った。
 フールはヴィゴを睨みつけるのをやめ、クレディアと同じ方向を見る。

「…………どうしちゃったんだろう。シリュアってクールだし、感情を表に出さないから分かりにくいけど……でも大氷河に関しては、一番行きそうな感じがしてのに……」


「リーダー、ちょっといいか」


 今まで何も言わなかったルフトが、急に発言した。
 フールは何か余計なことを言うつもりかと睨みつけるが、そんな睨みにも動じずルフトは飄々とした様子で笑って見せた。

「俺も行かない、大氷河」

「…………は?」

 フールは口をあんぐりと開けた。それにルフトは「間抜け面」と笑う。
 しかしそんな皮肉もフールには聞こえなかった。ルフトの先ほどの言葉の意味が、真意が全く分からない。理解できなかったから。
 それを読み取ってか、ルフトは肩をすくめた。

「大氷河いって放浪したら二度と帰られないもしれないからな。っといっても大人しく留守番する気もなし。大氷河にはいかないが、俺はそこらへんを放浪するので留守番役にはなれない。だから結局誰か残ってくれ」

 何て勝手な。誰かがそう思った。
 しかしルフトはそんな様子にはまったく動じず、むしろ笑みを濃くしてひらひらと手を振って去っていく。

「じゃ、後は頼んだー」

「ちょっ、ちょっとルフ兄! ――あぁもう!!」

 ルフトが完全に去ってから、フールは苛立った声をあげた。
 本当に今日はフールの表情がコロコロ変わる。驚いたり、悲しんだり、怒ったり、戸惑ったり、苛立ったり。フールも少し嫌気がさしていた。
 するとレトが戸惑いながらもフールに声をかけた。

「……何か、煮え切らねぇよ。ルフ兄はもう残るだろうけど……とりあえず、シリュアが残るかどうかは別として、とにかく皆で大氷河に行けなくなったことには変わらねぇ。そのことだけでもシャオたちに伝えた方がいいんじゃねぇか?」

「……うん」

 つい最近あれだけ楽しみにしていたのが、嘘のよう。
 すっかり元気をなくした『プロキオン』に、セロはただただ申し訳ないという顔をする他なかった。

「シャオ達はたぶん丘の上だ。行こうぜ」

 そのレトの言葉に頷いたのは、一体誰だっただろうか。

アクア ( 2014/10/05(日) 22:46 )