夢と星に輝きを ―心の境界― - 5章 『プロキオン』
60話 会議と会話
 ほんの数日前、ヴィゴが代理管理人としてレパルダスのカラリーヴェことカラリ、そしてサンドパンのストロをたててからほんの数日。
 今日の出撃メンバーはフールと御月を除いた4匹で、御月はバイトに行っている。そしてリーダーであるフールはパラダイスでカラリとストロと話し合っていた。

「――てなわけで材料も建設費も出して俺の家兼お店をヴィゴの旦那に作ってもらいましたー☆」

「悪徳商法の店?」

「フールの姉さん全く信用する気ないっすよねー」

 凹んだフリをするストロにフールとカラリは冷たい視線を送る。それに気づいたストロはすぐ立ち直り「せめてフールさん撤回してくださいよー!」と騒ぎ出した。
 フールは全く気にせず、普通に話しかけた。

「それで店って?」

「情報屋でっす! ダンジョン情報やら身近な世間話まで何でも教えちゃいますよ!」

「信用ならない情報屋ができたわね……」

「あんまり信用ならないようだったらアタシが潰すから覚悟してな」

「姐(あね)さん怖いっす……」

 本気で怯えているストロを横目に、フールはカラリに話しかけた。

「この辺はちょっと残しておいて。先約があるから。あと畑はクレディアが管理しているから放っておいてくれて構わない。
 とりあえず……パラダイスを発展させるためにストロ以外のお店を建てた方がいい?」

「まあ利益がなけりゃ資金がなくて店も建てらんないからね。何か建ててもらって、そこで利益がでりゃ、後はフールに相談しながらその利益で店を増やしていくけど」

「第一号は俺っすよ姐さん!」

 「黙ってな」とカラリがストロを頭を早く。ストロは「痛い! 暴力反対!!」と黙るどころか煩くなった。
 フールは気にせずマハトとポデルからもらったメモを見ていた。

「んー……私的には2,3個は作りたいんだよね。ポケも結構ためてあるし……。……あ、「くじ引き店」とかいいかも。みんな楽しめて。あとはー……んー……」

「これとかどうっすか? 「ツンベアーホッケー」。小っさい子も遊べそうっすけど」

「建設費が高い」

「あぁ……」

 横からストロとカラリもメモを覗き見て、意見を言い合う。
 フールがうんうんと唸りながら悩んでいると、カラリがある店を指さした。

「これは? 「きのみダネ店」。冒険に役に立つし、種も普通の花の種とかも売れば冒険に行かないポケモンも買うかもしれない」

「あっ、それいいかも! 建設費もそこまでいらないし……。とりあえずこの2つをヴィゴに建ててもらうわ」

 やっとの思いで決まったことにより、フールの顔色は明るい。
 するとストロが「あのー」と挙手をした。

「会計係として聞くんすけど。とりあえず暫くの間ポケは働くポケモンの給料と、パラダイスの発展にぜんぶ回した方がいいんすかね? それとも冒険チームの方にも少しは流れた方がいいっすか?」

「あー、余裕できてからでいいよ。ある程度パラダイスが賑やかになってからで。それに私たちあんまポケ使わないし……依頼をこなしてれば貯まるしね。どうしても必要になった場合は報告するから、それまではいい」

「りょうかいっす」

 この時フールは少しストロについて考えを改めた。
 仕事を真面目にしないチャラい奴だなんだとフールは思っていたのだが、意外にも真面目だなと思ったのだ。まあ最初に会った時の発言が酷かったためにこんな認識になっているのでストロのせいでもある。
 カラリは怖さと何ともいえない威厳できちんとまとめてくれそうなしっかりとした女性である。
 これならまかせても大丈夫だな。フールは自分の中で再確認した。

「それじゃあよろしくね。私も頑張るから」

「あぁ、よろしく」

「よろしくっす!!」

 3匹は、顔を見合わせて微笑んだ。



「せんせー!! あっ、リィちゃんも一緒なんだ!!」

 クレディアは宿場町に近いところにある広い草原に来ていた。
 そこには見た目からして怖いユノと、年相応の無邪気さを発揮しているリゲルがいた。何とも変な組み合わせだが、クレディアには見慣れたものだった。
 2匹のもとに駆け寄り、リゲルが持っているマシンを見て首を傾げる。

「これ何?」

「とりあえず先生のアドバイスで初心に戻って、リィが最初に作った機械と似た奴なのだ。えっとこうやって……」

「……何か、オルゴールに似てるね」

 クレディアがそう呟きた直後、リゲルの手元にあったそれは綺麗な音を奏で始めた。

「本当にオルゴールだったんだぁ……。凄いね、リィちゃん。これが最初だなんて」

「お兄にも手伝ってもらったのだ。最初こそこんな沢山の音をでせなかったけど……いまじゃここまで綺麗になるようになったのだ」

「成長だねー」

「…………。」

 音を奏で続けるオルゴールを3匹が見る。
 静かに全員が黙って見守っていると、最後にだんだんとゆっくりとなって止まった。クレディアがリゲルからそれを受け取って裏を見ると、ネジマキが見えた。どうやらオルゴールと全く遜色ないらしい。
 クレディアはリゲルの言葉を思い出し、ユノに話しかけた。

「せんせー、どうして最初の物を?」

「…………成長が分かるだろう」

 「おぉ」とクレディアとリゲルが声をあげた。ユノはそんな2匹の反応を全く気にせず、いつも通りの無表情である。
 オルゴールをリゲルに返してから、クレディアは「あっ」と声をあげた。

「そういえば! 今日きたのはお知らせがあって……えっと、知ってるかもしれないけど、私たち『プロキオン』大氷河にいくことになった、りました!」

 そう言うと、リゲルは「えっ!?」と驚愕した。ユノもほんとうにわずかだが驚きの色を見せた。
 気にせずクレディアは笑顔で続ける。

「大氷河に何があるかわからないけど……薬の材料とか、リィちゃんの発明品に何か役に立ちそうなものがありそうだったら持って帰ってくるね!」

「本当に!? クレディアありがとうなのだ!!」

 感激のあまり、リゲルがクレディアの手をとってブンブンとふる。喜んでいるリゲルの姿を見て、クレディアも頬を綻ばせる。
 その様子を見ながらユノが口を開いた。

「…………気を付けて行って来い」

「! はい!! 頑張ります!!」

 会話がかみ合ってないような気もするが、当人が気にしていないのだからいいのだろう。

「大氷河かぁ……未踏の地っていうと発明品のアイディアが沢山ありそうで羨ましいのだ……」

「私は寒いところ慣れてないからちょっと不安だなぁ。楽しみではあるんだけど」

 盛り上がり始めた子供たちを見て、ユノは静かに目を伏せ、いつも通り黙った。
 クレディアとリゲルはそんなこと露知らず、大氷河のことで盛り上がり、ときにはユノに話題をふってはマシングトークをしだしたのだった。




「…………ツイてねぇ」

「俺を見てすぐにそれを言うカ。水芹に対しては言わなかったノニ、ひでーゼ御月クン」

「「白々しい」」

「ダブルツッコミがほしいわけじゃなくってナ?」

 ケラケラと笑っているシャドウと、そのシャドウに冷たい視線を送る御月と水芹。
 あまり話はしなかったが、御月は水芹と波長が合うのだろう。シャドウとは全くあっていないようだが。

 こう至った経緯を説明すると、ただ御月が宿場町をブラブラしているとばったりと出会った。水芹と会ったときは、御月はただ挨拶をしただけだったのだが、ひょっこりシャドウが現れた瞬間に冒頭の反応だ。
 シャドウは相変わらず何が楽しいのか知らないが、ただケタケタ笑っている。
 それに水芹は隠しもせずにため息をついた。御月はシャドウを横目で見てから、ふと疑問に思ったことを投げかけた。

「アリスとへんた……ドライはどうした?」

「変態で構わない。アリスはその変態の趣味に付き合いに行った」

「趣味って……ナンパだろ? 付き合うとか無理だろ」

「どうせアリスは傍に控えて本を読んでるだけで何もしない」

 そう吐き捨てた水芹に、御月は「あー」という表情をした。すぐに想像できてしまったのだ。
 すると笑い転げていたシャドウが加わってきた。

「ていうか御月たち大氷河行くんだって? お土産よろー」

「お前だけにはとってこねぇ」

「ひでぇ!!」

 どうやらすでに大氷河に行くという話はいろんなポケモンに広まっているらしい。おそらく宿場町ではちょっとしたニュースになっているのだろう。
 御月は顔をしかめた。「何か面倒なことになりそうだな」と。
 すると水芹が「……そういえば」と珍しく話をふってきた。

「御月、お前は遠地の……南部の方の出身だよな?」

「そうだけど」

「……そこにはいつまでいた?」

 その質問に御月は訝しげな目をしたが、すぐに思い出すように視線を上にあげた。

「……9歳、ぐらいだったような。なーんか色々ありすぎてそこらへん曖昧なんだよな……、あんま思い出せない。てかそれがなんだ」

「いや、そっちの地方で気になることがあったんだが……最近のことだからたぶん知らないと思う。悪い」

 その「気になること」について聞きたかった御月だが、やめておいた。水芹の目が本当に真剣だったからだ。水を差すのも気がひけたのだ。
 すぐにシャドウが「ソレヨリー」と話題を変えてきた。

「大氷河に行くのはいいけど、大丈夫なのカ? いろいろ問題とかあることネ?」

「…………クレディアか?」

「いや、まあそれもあるけどヨ。もっと違う、」

「大丈夫だろ。第一フィーネさんとかシャオさんとか大人組がいるわけだから……何か問題おこったとしてもどうにかなんだろ」

「ま、ならいいケド」

 そこでその会話は終わった。かなり食い違いが起こっていることにどちらも気づかず。

「……とりあえず僕はもう帰る。じゃあな、御月」

「ん、あぁ」

「ちょっ、水芹クン!? 俺まで置いてくナ!」

 水芹と、水芹の後を慌てて追いかけるシャドウを見送ってから、御月はようやくシャドウの先ほどの「問題」について疑問を抱いた。

「…………もっと違う問題?」

 その「問題」に気づくのは、もう少し後。

アクア ( 2014/09/19(金) 23:10 )