夢と星に輝きを ―心の境界―








小説トップ
4章 不穏な影
58話 新成員と憧れの地へ
「あ、そういえば」

 朝ごはんを食べている最中、ふとクレディアが口を開いた。
 そして席を立って、鞄を持って来てからまた席に座った。座ってからごそごそと鞄の中を探り、何かを取り出した。

「フーちゃんとみっくんに預かっててほしいものがあって、」

「預かっててほしいもの?」

 ん、と返事してからクレディアはフールと御月にそれを渡した。
 2匹は受け取って、それを見た。そして首を傾げた。

「これ、何?」

 フールには赤色の2つの棒のようなもの、御月にも色違いの青色のもの。
 2つの棒を掲げたり、折れない程度に押したり、2匹は見慣れないものに首を傾げ、それを少しだけ弄っていた。
 クレディアはその様子に微笑みながら、「うーんと」と言葉を探した。

「ヘアピン……っていっても分からないよね。とりあえずスカーフにこうやってつけててほしいの」

 言いながら、クレディアが黄色の2つのヘアピンを右腕のリボンにつける。パチン、と音がした。2つつけた後、クレディアがぶらぶらと右腕を振っても落ちない。
 それを見ながら、「ほうほう」とフールが頷いた。
 ただ御月はもっともな質問をクレディアにぶつけた。

「預かっててほしいって……いつまで」

「……元の持ち主が私のところに取りに来るまで、かなぁ」

 それを聞いて、ますます訳の分からないといった風な顔をする2匹。
 クレディアは珍しく苦笑してから答えた。

「その持ち主たちが取りに来たら、フーちゃんとみっくんに言うから。それまで」

「…………ん、分かった。御月つけて」

「自分でやれよ……」

「首元ってやりにくいんだもの」

「はずせよ!!」

「めんどい」

 「ふざけやがって……」と文句を言いながらつける御月はやはり優しい。フールがつけ終わったてから、御月も器用に自分のをつけていた。
 フールはつけられたピンを見てから、クレディアに目をむけた。

「なくさないよう、大事に預かっとく」

「うん。お願いします」

 へらっとクレディアが笑った。




 食堂にいき、すぐさま上の階に上がろうとしたフールを御月が止めた。

「……あのな、宿ってのは勝手に入るもんじゃねぇんだよ。レアさんに許可とれレアさんに」

「御月がまともなこと言った……!」

「ぶん殴るぞ」

 そんなコントを繰り広げている間に、クレディアはレアの方へ向かっていた。
 カウンター近くに座っているポケモンたちを話しているレアにいつも通りに挨拶をし、もっとも聞きたいことをすぐに尋ねる。さすがはクレディアと言わんばかりに、流れるような動作だった。レアと喋っていたポケモンたちも文句を言わない。
 当本人は気づかず、いつものように笑っていた。

「ねえレアさん。シャオさんたちに会いたいんだけど、2階に行ってもいい?」

「あぁ、それは構わないんだけど……シャオとフィーネは今いないよ」

「いない?」

 こてんとクレディアが首を傾げる。後ろにいたフールも御月も訝しげにしていた。
 レアは「そう」と頷いて、事情を説明してくれた。

「ちょっと前だったかな。丘の方へ行くって言って、それっきりだよ。まあ完全に回復していないっていっても、ちょっとくらい運動しないとね」

「そっかぁ……。行ったら邪魔になるかな?」

「別に行ってもいいんじゃない? シリュアも付いて行ったようだしね」

 シャオとフィーネ、そしてシリュアまでも丘にいるらしい。
 それを聞いて「わかった、ありがとう!」とレアにお礼を言うと、クレディアはくるっとフールと御月の方へ振り返った。

「丘だって!」

「うん、ちゃんと聞こえてるからねクレディア」

 とりあえずフールもレアに「情報アリガト」とお礼を言い、食堂を後にした。御月とレアが小言を言いあったのを聞きながら。
 食堂を出て、レアの情報をもとに丘に向かう。
 丘にいくと、何やら話し込んでいる3匹が見えた。クレディアは気にせず声をかける。

「あっ、シャオさん! フィーさん! シーちゃんもおはよう!!」

「おはよう、クレディア。相変わらず元気ね。フールも御月もおはよう」

「オハヨ。そっちも元気そうだね。動いても大丈夫なの?」

「こういった怪我は慣れているから平気よ。それなりにタフだし、ずっとベッドにいるなんて退屈だもの。それにレアさんもだいぶ気を回してくれていたみたいだし」

 ふふ、とフィーネが笑う。隣にいるシャオは苦笑していた。
 

「研究ももう少しで終わりそうだから」

「あのさ、その研究のことで話をしにきたんだけど。昨日私たちで話し合って……あの、私達もその研究を手伝ったらダメかな?」

 フールがそういうと、2匹は目を丸くした。
 その様子を見て、フールが慌てて弁解をする。

「あ、いや、め、迷惑ならそう言ってくれていいんだよ!?」

「あぁ、ごめん。そうじゃなくてね。迷惑だなんて思ってないよ。そういう心遣いはありがたく受け取っておく。
 だけど僕とフィーネで昨日話し合ったことがあって。僕らからも君たち『プロキオン』に頼もうとしていたことがあったから。同じことをしていたと聞いて驚いてしまったんだよ」

「……頼もうとしていたこと?」

 シャオの言葉にフールが首を傾げる。
 微笑みながら「うん」と頷いて、シャオは予想にもしていなかったことを言った。

「僕たちも『プロキオン』に入れてくれないかな、っていうお願いだよ」

「…………えっ? えぇぇぇぇぇぇッ!?」

 フールが大げさに声をあげる。
 後ろでクレディアは「わぁい、やったー!」と呑気に喜び、御月は普通に驚いていた。シリュアはこうなることを予測していたかのように「ほらね」と言わんばかりに笑っている。
 そんな仲間を気にせず、フールはふるふると口を震わせながら尋ねた。

「い、いいの? そんな大したチームじゃないよ? 大それたチームじゃないよ?」

「それは全く気にしていないわ。大切なのはチームの皆がどんな子たちかだもの。それも昨日のことで優しい子たちばっかりって分かったし。分かっているからこそ、貴方たちのチームがいいのよ。
 付け加えるなら私たちの夢を叶えるために協力してもらいたくてね。シリュアに言ったら目的一致しているから頼みやすいだろうって」

「目的一致?」

「もしエンターカードが完成して、マグナゲートが完璧によべるようになったら。その時は『プロキオン』の皆に一緒に大氷河へ行ってほしいんだ」

 にっこり、シャオがそう微笑みかけていった瞬間だった。

「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」」」」

「「「!?」」」

 いきなりどこからか、大声が聞こえた。
 フールたちではない、他の誰かの大勢の声。シャオとフィーネは気づいていたようで、驚いた様子は全くなかった。ついでに言えばクレディアも「あれ、皆いるの? あっ、かくれんぼ?」と呑気で驚いた様子はなかった。
 フールが文句を言おうと息を吸った瞬間、

「お、お、俺たち『プロキオン』が……!」

 木の上から降りてきたレトと、

「シャオさんたちと一緒に……!」

 地面から出てきたクライ、

「大氷河に……行くだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 丘の下から這い上がってきたヴィゴ。
 これで終わりか。そう思ってフールが一息つこうとしたら

「ヌオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

「まだいたの!?」

 丘にある水場から水しぶきをあげてセロが顔をのぞかせた。思わずフールはツッコんだ。
 そしてわらわらと隠れて聞いていたポケモンたちが出てきて、フールたちを囲む。期待に満ちた目で、先ほど話していたメンバーを見ていた。

「隠れて聞いてたのかよ……何なんだ一体」

 出てきたポケモンたちを見て、御月が疲れたように呟いた。

「かくれんぼじゃないの? 私やってみたかったのに。鬼役……」

「クレディア勘弁してくれ」

 さらにクレディアの天然発言で、御月はげっそりとした。
 シャオは周りのポケモンたちに苦笑してから、再びフールに向き直った。そして仕切り直しとばかりに続けた。

「研究の方はもう終わりそうでね。そっちは僕らだけで大丈夫」

「ただ大氷河は未踏の地。何が起こるか分からない。私たちだけで行って無事に帰れるか保障がないの。
 でも貴方たち『プロキオン』と一緒なら安心して大氷河を調査できると思って。昨日 実力を見せてもらったし、それに人数は多い方がいいに越したことはないもの。
 ……ダメ、かしら?」

「えっ、いや、全然! むしろ大歓迎! そんな有難い申し出があるとは思わなくってビックリしたけど……ね、いいよね?」

 ちら、とフールが『プロキオン』のメンバーを見る。
 ルフトがいないが、まあ彼に関しては大丈夫だろうと勝手にフールは結論付けた。他のメンバーは「もちろん!」「まあ別に」と様々な反応を見せたが、全てオッケーの言葉だった。
 改めてと言わんばかりに、フールは2匹と真正面に向いた。

「えっと……じゃあよろしくね。シャオ、フィーネ」

「こちらこそ」

 正式に決まると、場にワァッと歓声が起こった。

「すごいな、大氷河に行くなんて!」

「一体どんな冒険になるんでしょう!? わくわくしますね〜!!」

「行ったら新しい商売ができそうだな!」

「大氷河っていうぐらいだからやっぱ氷が沢山あるんだよな!? 俺 氷の家とか作ってみてぇ! 施設の材料になりそうなもんがあったらよろしくな!!」

「兄貴ィ。ちょっと水をさすようすみませんが、氷は無理と思いますよ」

「うるせぇ!!」

 勝手に盛り上がり始めたポケモンたちに、フールが青筋を浮かべた。
 そしてバチバチと電気を纏わせ始め、すうぅっと息を吸った。


「うっるさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!」


 バチバチバチッとけたたましい電気音をたて、フールは怒鳴った。ためた電気は上へと放出された。
 それに驚いて全員が黙る。
 しかし気にするフールではない。そのままの勢いで怒鳴り散らす。

「盛り上がるのはいい! 想像を膨らますのも別にいい!! ただ私はまだシャオたちと話してる最中!! 邪魔する奴は今すぐ散れ!!」

 フールの勢いに気圧され、全員が口を閉じた。先ほどまで騒がしかった場はうそのように静まり返る。
 それにフールは満足げな笑顔を作ってから、再びシャオたちの方に向き直った。

「ごめんね、煩くって。とりあえず改めましてこれからヨロシク」
 
「うん。よろしく。それで……さっきも言った通り、僕たちの研究はもう少しで終わりそうなんだ。だから今はそっちに専念させてもらえるかな?」

「うん。研究がんばってね」

「研究が終わってエンターカードが完成したらすぐに知らせるわ」

 エンターカードが完成する。その時、蜃気楼でようやく見える、遠い遠い大きな大氷河に行ける。
 フールはそのことにひどく高揚した。
 すると「ちといいだぬ?」とセロが声をかけた。

「その時はワシたちにも知らせてほしいだぬ。どんなものかみたいだぬ」

「あっ、俺も見たい!」

「おうおう! 見たいぜ、見たいぜ!」

 セロがそう言うと、周りから次々と同意する声があがった。
 それにフィーネはにっこりと笑った。

「もちろん。皆さんにはお世話になったしね。マグナゲートをよぶときはきちんと知らせるわ」

 その言葉に「やったー!」と大人までもが、子供のようにはしゃぎはじめる。
 おそらく普通ならこうならないのだが、大氷河に行けるという話を聞いて普段より少しテンションが上がってしまっているのだろう。反応が大げさになっている。さながら大きぼなお祭りのような勢いだった。
 御月はそんな大人たちの様子を冷めた目で見ていた。心底「くだらない」といったような顔で。
 フールも呆れはしていたものの、どうにもならないことを悟って、仕切り直しとばかりに両手をパンッと叩いた。

「よし! じゃ、とりあえず今日も掲示板の依頼をこなそっか。エンターカードが完成するまで私たちはいつもどり依頼をこなそう。フィーネとシャオは研究の方をよろしくね!
 皆でいこう! 大氷河に!!」

「「「「「「「「「おおーーーーーーーーーーッ!!」」」」」」」

 テンションは鰻登りになっている。
 大きい元気な声が、丘の上からよく響いた。

アクア ( 2014/09/06(土) 23:15 )