55話 全ては当たって砕けろ
岩陰から出て、クレディアは戦況を見る。
3対2。どちらが有利かなど、クレディアが見ても分からない。分かるのはぜんいん自分より強いということだけだ。
(とりあえず不意をついてグラスミキサー、ってフーちゃん言ってたよね)
全く自分に注意がいっていないことを確認してから、クレディアは両手を前に突き出す。そして真っ直ぐと前を見据えた。
(イメージ、イメージ……。修行の、この前やったときのイメージ……)
手に力をこめ、目線は敵からはずさない。
そして御月たちが敵の2匹から離れた瞬間、クレディアは手に力を込めた。
「グラスミキサー!!」
「ぶにゃっ!?」
「ログッ!!」
完全に不意を突いた形で撃ったに関わらず、2匹はグラスミキサーを避ける。
しかしフールはクレディアに「当てろ」と言ったわけではない。ただ不意をついて撃てといっただけ。本当の狙いは、別にある。
フールはにやりと笑った。
「隙みーけっ、でんじは!!」
「しまっ……!」
ファットとログッドにでんじはを食らわせる――つもりであったが、ログッドには避けられた。1匹に当たっただけまだマシだろう。
すると次にスタンバイしていた御月とレトも動き、ログッドを狙った。
「スパーク!!」
「っうぐ!!」
ログッドの後ろから、レトが電気を纏って突進する。
突進された勢いそのままログッドが転がると、麻痺して動けないファットに激突してともにごろごろと転がった。
そんな2匹に、御月は攻撃の手を緩めなかった。
「ほらよ、リゲルお手製、」
ぽいっと、ファット達の方に投げたのは真四角の手持ちサイズの白い箱。
それが地面にカツン、と落ちるや否や、それは――
「小型爆弾」
ドォッ、という音とともに爆風が吹き荒れる。
それを見ながらクレディアは「わぁーおっきい音なったねー」と笑う。フールとレトはあんぐりと口を開け、フールは手を震わしながらひきつった笑みで尋ねた。
「ちょっと御月……あれ何」
「だからリゲルお手製小型爆弾。案だして作ってもらった」
「君らもっと平和的なものを作れよ!」
「物騒だなお前ら!!」
真顔で言ってのけた御月に、フールとレトの鋭いツッコミが入る。しかしやはり御月は平然としている。
すると爆風でおこった煙の中から勢いよくログッドが出てきた。
「どくづき!!」
「レト頼んだ!」
「うわっ!? ふざけっ、あぁぁぁぁ電気ショック!!」
フールがどんっとレトの背中を押し、そのせいでレトはログッドの方へとふらついた。文句を言おうとレトが振り返ろうとしたが、すぐさまログッドの存在を思い出し技を繰り出した。
紫色の怪しく光るログッドの右手と、レトがぎりぎりで繰り返した電気がぶつかる。
ログッドは電気を押し切ろうと力を込める。どんどん近寄ってくる右手に、レトは「やべっ」と声を漏らした。
「イメージ……マジカルリーフ!」
「チッ、」
「おわぁッ!? おいクレディア俺いるから! 俺いるの忘れんのやめて!!」
レトもろともログッドを狙った攻撃がクレディアから放たれる。
するとでんじはで麻痺をしているファットが、動いた。
「さいみんじゅつ!!」
「え、ふわぁっ!」
見事にクレディアが技にあたり、ふらりと体が後ろに傾いて倒れた。ファットの口からでた言葉は「さいみんじゅつ」。ただ寝ているだけだろう。
「あーもう!」とフールは声をあげながら、ファットにでんこうせっかで近づいた。
「雷パンチ!!」
電気をため、それを右腕に集中させてファットの体を殴る。
麻痺で満足に動けないファットは、まともにその攻撃を食らってしまう。そのままフールはでんこうせっかで移動し、クレディアの元へ移動する。
そしてちら、とクレディアを見た。
(完っ全に寝ちゃったなー……。戦闘に参加してこんな早く戦線離脱されるとは)
とりあえずクレディアはどうしようもないので、放っておくことにしよう。フールはそう結論づけた。
今どう見たって有利なのはフール達だ。ダメージを少しは受けているといえ、あちらの方がよほどだろう。それに相手は2匹、こちらは(先ほどまでは)4匹。そして敵の1匹はまひ状態。
これはいける。そう思ってフールはぐっと足に力を入れた。
「御月! レト! 予定変更! 作戦2でいくよ!!」
「……2って唯一クレディアが入ってない作戦のことだよな」
「仕方ないだろ。寝てんだから、っと!」
ログッドの攻撃を御月がぎりぎりで避ける。
その間にフールは力強く地面を蹴り、クレディアの元からはなれた。そしてしっかりと相手を狙う。
「電気ショック!」
電気が真っ直ぐ走り、ログッドを狙う。御月はそれを見てすぐさまログッドから離れた。御月が離れたことにより、余裕ができたログッドは、ぎりぎであったが電気を避けた。
ログッドから距離をとった御月が、ふと息をついて針を出そうとした瞬間だった。
「ひっかく!」
「――、チッ!」
舌打ちをしながら、御月は身をひねって場所を移動する。全く予期していなかったので、攻撃を避けることはできなかった。それに加えて無理な体勢で動いたために少し体に痛みが響く。完全に隙を突かれた。
体勢を立て直しながら、御月は攻撃してきた相手を睨んだ。
「ブニャッニャニャ! いつあたいが攻撃できないって言ったにゃ!?」
「……もう動けねぇとばかり思ってたよ。面倒くせぇな……」
ファットが愉快そうに笑い、御月は厄介だと言わんばかりに顔をしかめた。そしてもう一度 舌打ちをかます。
麻痺だからといって、全く動けないわけがない。それに時間が経てば麻痺も少しずつだがとれる。
先にログッドをやろうと考えていた御月だが、すぐさま予定を変更した。
「おいフール! レト!! 順序逆だ!」
「おっけー! 」
「おう!!」
御月の言葉に返事をし、レトは空中へ、フールはでんこうせっかで動いた。
「電気ショック!」
「ッ、シャドーボール!」
何とか体を動かし、ファットも技を繰り出してくる。
フールがファットに気をとられている間に、ログッドがフールにむかって毒針を放つ。が、すぐさまその針は弾かれた。
「残念。お前はこっちだ」
「ログログログ! お前さっきから道具しか使ってないな! そんなんでまともに叩けるロッグ?」
馬鹿にするように笑うログッドに、御月は不敵に笑って見せた。
「その道具しか使ってない奴にダメージくらわされたりしてんのはどこのどいつだよ」
「……いちいち癇に障る奴だなァ!!」
ログッドがどくづきを構えて詰め寄ってくる。
グッと身構えてから、適度な間合いでログッドのどくづきをひょいひょい避ける。御月は呑気に考え事をしながら。
(相手を怒らせるのが一番楽だよな……)
どくづきをひょいっと避けた直後、ログッドが毒針を撃った。御月は頭を傾けて、針を避ける。
それと同時だった。
「い゛っ!? きゃっ!!」
「! げっ……」
「ログログ! 狙いはあっちロッグ!」
避けた毒針はどうやら後ろでファットと戦っていたフールに当たったらしい。
そこでフールの表情を窺えば、マズイと言わんばかりの顔をしている。そこで嫌な予感を御月は感じた。
ファットはフールが怯んだうちに、みだれひっかきで連続攻撃する。御月は忌々しげに舌打ちしてから、バッグに手を突っ込んだ。
「テメェはこれでも食らってろ!」
「……!」
真四角の黒い箱――つまり、リゲルお手製の小型爆弾。御月は粗雑にログッドの方へ投げた。
ログッドは目の前に放り投げられたために、反射的に弾く。それは地面にカツンと落ちた瞬間――ログッドに防御の態勢を取らせる前に爆発した。
御月はそれに見向きもせず、針を投げる。ファットの周りを囲むように。
「フール、攻撃して今すぐ離れろ!」
「っ……電気ショック!」
顔色が悪くなっているところを見ると、やはり毒状態になっているらしい。
フールが撃った電気ショックは、針につられてファットへと向かっていく。すると針がなかった後ろにファットが動いた。
そこで御月は声を張り上げた。
「レト!!」
「よっしゃ来た!!」
「にゃ!?」
ずるっと、ファットの体が傾く。
顔を青ざめさせて、ファットが足元を見れば、見事に崩れている足場。クレディアが来る前、御月が隙を見てあなをほるで作った、脆い足場だった。
予定通りひっかかったと言わんばかりに、御月とレトは笑った。
「スパーク!」
麻痺、そして足場が崩れて体勢が整っていないファットにむかって、レトが勢いよく空中から電気をまとわせ突進する。
「ニャーーーーーッ!!」
ファットの絶叫する声とともに、ドスンという音が響いた。衝撃で脆かった地面に穴が開く。
御月が様子を窺っていると、レトがひょいっと穴から出てきた。そして2匹にむかってニカッと笑いながらピースサインを見せた。
(やっぱり充電を十分したあとのスパークで仕留められないわけがねぇよな。前もってたててた作戦がここまで上手くいくとは。あとは……)
ちら、と爆発によって煙が未だ巻き上がっている場所を見たと同時、
「ぅぐっ!?」
「!? ぐっ!!」
レトが吹っ飛んできて、咄嗟に反応できなかった御月がレトにぶつかり、共に地面をごろごろと転ぶ。
フールが見れば、そこにはログッドの姿。手は怪しく紫色に光っている。
おそらくレトの隙をついてどくづきをかましたのだろう。
「やってくれるロッグ!」
「……見事に青筋浮かんじゃってるよ。っつ……」
立ち上がる際にした眩暈に、フールが頭を押さえる。
毒状態であるため、動くのはよくない。早くモモンの実を食べるのが最善策であるが、敵はそれを許さないだろう。だとしたら御月とレトに手っ取り早くやってもらうのが一番だが、生憎さっきぶっ飛ばされた。
とりあえず私は離脱しよう。
そう考えてながらフールが頭から手を離すと、ログッドがこちらに向かっているのが見えた。
「だましうち!」
「あーもう、私は万全じゃないんだって、ば!」
辛うじてフールがでんこうせっかで避けていく。
避けていく中で、フールは冷や汗をかいた。距離をどんどん詰められているうえ、視界はぐらぐらと揺れてくる。頭が警報を鳴らしているのはフールが一番よくわかっている。
しかしログッドの狙いがフールから変わる様子もなく、フールは何とか動き回って避ける。
「っ、」
ふらりとフールの体が傾く。強い眩暈が、襲った。
ログッドのどくづきが迫っているのが、眩暈の所為で暗くなるフールの目にうつった。
(まずっ……!!)
「エコーボイス!!」
凛とした声が、場に響く。
それとともに、
「い゛っ……!? 何、だ、これ……!」
ログッドが耳をふさいだ。
今ログッドの耳にはキィィン、という耳鳴りのような不快な音が響いていた。それはどんどん大きくなっていくばかりで。
すぐさまログッドは音の原因を探すため、辺りを見る。視界の端に、フィーネが映った。
音が届いていないフールは、その隙を見逃さなかった。
「でんじは!!」
「ログッ!?」
音に気を取られていたログッドが避けられるわけがなく、でんじはは命中する。
そしてフールがログッドから少し距離をとった瞬間、
「スパーク!!」
レトが電気を纏って、ログッドへ一直線に飛んできた。
ログッドは動こうとするが、痺れと、不快な音とのダブル攻撃でうまく動けない。
「や、やめ――」
悲痛なログッドの声もむなしく、レトは勢いよくログッドに激突していったのだった。