夢と星に輝きを ―心の境界―








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4章 不穏な影
45話 クレディア・フォラムディ
「だいぶ奥まで来たよね……」

 薄暗い森の中を歩きながら、クルマユ――ククリはそう呟いた。
 するととても広い場所に出た。ククリは辺りを見渡しながら、満足げに頷く。

「うん。ここなら何か見つかるかもしれない。いいものがあるといいなぁ……。探してみよ……あれ?」

 ククリが辺りを見渡そうとすると、おかしな部分を見つけた。
 そこへ近寄ると、ほんの少し盛り上がっている地面。自然にできた突起には見えず、人工的に作られた突起のようだ。
 ククリもそれに気付いたようで、首を傾げた。

「何か……埋まってるみたい。掘り返してみよっ」

 そしてククリが掘り返すと、綺麗に光る赤い石、地面で汚れた白色の小さな巾着袋、そして見慣れない模様が描かれているカードが出てきた。
 ククリはその赤い石を発見すると、目を光らせた。

「わぁっ、赤い色の石だ! 何て綺麗なんだろう……!! これを持って帰ったら喜ぶかなぁ……?」

 ククリは赤い石に気を取られ、気付かなかった。近づく気配に。


「はっ……はぁっ……! ――ッ!?」

 その者は、ククリの姿を目に入れた瞬間に立ち止まる。ククリは、赤い石に気を取られ、気付いていない。
 ごくりと唾を飲み込み、その者はククリに近づいた。

「あっ……!」

 そして、その者がククリに十分近づいてやっと、ククリが後ろを振り向き、驚愕で目を丸くした。





 どうして、何で。この子は、誰。この子は、何者。

 クレディアは混乱する頭で、必死に考えていた。目の前のツタージャは焦った様子もなく、ただにっこりと笑っている。
 このツタージャは、自身のことをクレディア≠セと言った。更に、クレディアと同じ青い瞳を持ち、同じ声をしている。まさに、クレディアの、鏡。

(何で――)

「どうして、」

 クレディアが必死に考えていると、クレディア≠ェ口を開いた。
 驚いて反射的にそちらを見ると、微笑んでいるクレディア≠ニ目があう。その瞬間に激しくなる、警鐘。

 逃げろ、ここに居てはダメだ。早くその者から離れろ。

 本能が訴える、危険。
 ただ足を動かそうにも、動かなかった。否、何か足に蔓でも巻きついているような、何かにきつく縛られているような、そんな感覚に陥って動けなかった、と言った方が正しいだろう。

 そんなクレディアの事情を知る由もなく、目の前で微笑んでいるクレディア≠ヘ同じ声で言い放った。

「貴女が、クレディア≠ネの?」

 はっ、クレディアが息を吐いた。手には、尋常でない汗。
 足を動かそうにも、縫い付けられているように動かない。声を出そうにも、喉がカラカラで声させ出ない。
 クレディア≠ヘ、不敵に笑った。



「――偽者には、消えてもらわなくちゃ」



「っ!?」

 いきなり蔓のムチを出してきたクレディア=B
 クレディアはようやく足が動き、スレスレでその攻撃を避ける。反射的に動いたため、地面にゴロゴロと転がり、クレディア≠見据えながら起き上がる。
 それを見て、またしてもクレディア≠ヘ笑った。

「へぇ、避けるんだ。でも、攻撃はしてこないんだね」

「あ、なた、はっ……」

 声もようやく出てきた。しかし、それは言葉にならなかった。

「攻撃しないと、死んじゃうよ?」

「……!!」

 クレディア≠ェ攻撃してきたからだ。
 グラスミキサーがくると分かったクレディアは、慌てて右に転がる。すると左スレスレにグラスミキサーが通った。地面を見ると、抉られている。
 尋常じゃない、威力。クレディアとは比べ物にならないほどの力。

(どう足掻いても勝てない……!)

 直感的に、そう思った。
 あちらの方が一枚も二枚も上手だ。技の威力も、戦いも、恐らくあちらが慣れている。
 それに比べてクレディアは戦いは素人だ。ようやく技がまともに打て出し、戦いもやっと慣れてきたところだというのに。
 どうやったって、勝てないのは明白だった。しかし、

(嫌だ、こんなトコで死にたくない……!)

 咄嗟にクレディアはそう思った。
 体に土がついているのに構わず、クレディアは立ち上がる。それを見てクレディア≠ヘ楽しそうに笑った。

「あははっ、戦う気になった? でも、私に勝てるかな?」

「っ……!!」

 おいうちを仕掛けてくるクレディア≠ノ、蔓のムチを出す。しかしそれも軽く避けられてしまい、更には

「グラスミキサー」

「あぐっ!!」

 攻撃を喰らった。それも、威力が強いものを。
 ヨロヨロと起き上がるクレディアだが、クレディア≠ヘ容赦がなかった。そのまま攻撃をしかけてくる。

「蔓のムチ」

「っ――きゃっ!!」

 まともに避けられず、蔓のムチによって地面を転がる。
 何とかクレディアが起き上がろうとするも、体に力が入らない。入れようとすれば、体が痛いと悲鳴をあげる。挙句は意識まで朦朧としてくる始末だ。
 すると目の前で、ザッと音がした。恐らく、クレディア≠ェ目の前に立っているのだろう。

「弱いね、偽者さん。ちょっと残念だよ」

 薄くクレディアが目を開き、クレディア≠見る。
 無表情で、見下ろしていた。するとクレディア≠フ右手に小さな葉が生え、それが鋭い刃物へと変化する。クレディアに止めをさすための、刃物へと。
 朦朧とする意識の中で、クレディアは呑気に考えていた。おそらく、リーフブレードだと。
 何もできないクレディアに、クレディア≠ヘ話しかけた。

「死ぬかもしれないっていうのに、何にもできないなんて。情けないよ、私の偽者。こんなんじゃ、あの子たちの近くいたって、迷惑かけただけ。ただのお荷物だよ」

「…………。」


「だから弱い私≠ヘ死んで。――さよなら、私の偽者さん」


 ヒュッ、と風を切る音。
 静かに、諦めたクレディアが目を瞑った、瞬間だった。



「――――クレディア!!」



 聞きなれた高い声に、クレディアがぱちりと目を開く。
 目線をずらすと、心配そうな顔をして駆け寄ってくるフールと御月が見えた。

「あ、れ……?」

 そして、クレディアは目を丸くした。
 先ほどまで目の前にいたはずのクレディア≠ェ、いないからだ。まるで、元からそこにいなかったかのように、いなくなっていた。
 すると、クレディアの耳に、キン、という音が聞こえた。

「…………?」

「クレディア、大丈夫!? 傷だらけだし大丈夫じゃないよね……お、オレンの実……」

「落ち着けフール。おい、クレディア食えるか?」

 駆け寄ってきて慌てるフールに、冷静に行動する御月。
 そんな2匹をぼけーっと見てから、クレディアは無意識に口を開いた。

「……クレディア=Aは…………?」

「は?」

 クレディアの言葉に、不思議そうに首を傾げるフール。御月も怪訝そうな表情をしている。
 その様子に、気付いた。
 2匹は恐らくクレディア≠見ていない。きっと、自分がただ地面に倒れている所しか見ていない。それを証拠に「さっきのは誰だ」と聞いてこない。
 大人しくクレディアは御月からオレンの実を受け取り、それを齧った。

「……美味しい…………」

 そう呟くと、フールと御月がぎょっとしたのが分かった。

「だ、大丈夫クレディア!? どっか痛いの!? 先にパラダイスセンターに帰る!?」

「と、とりあえず泣き止め! 何処が痛いんだ!?」

 そう言われて、クレディアは初めて自分が泣いていることに気付いた。ぽたりぽたりと、温かいモノが頬を伝っていく。
 クレディアは無意識に、近くにいたフールの片手を握った。
 それにフールが戸惑い、地味に御月に助けを求めていると、クレディアがぽつりと言葉を漏らした。

「私、は……此処に、いて、いいよね……?」

「え…………?」

「此処に、いても、いい、ですか……? 此処に、私、なんか、が、いても」

 一言一言、確かめるように、縋るように言うクレディアに、フールと御月はますます分からないといった表情をした。
 しかしフールはクレディアをぎゅっと抱きしめ、背中をぽんぽんと叩いた。

「いいに決まってるでしょー。いきなり何を言い出すかな、クレディアは」

 小さな子どもをあやすように、安心させようとフールが一定のリズムで背中を叩く。
 クレディアは嗚咽を漏らすまいと、唇をかみ締める。ただ涙を拭うことはできず、涙は重力に逆らうことなくポロポロとこぼれた。
 御月はそんな2匹を黙ってみてから、静かに目を伏せた。

 数分たってから、クレディアが「ごめんね」と言って涙を拭った。ぐすぐすと鼻を啜らせ、目を赤くしている様は幼い子どものようだった。
 不謹慎だと思いながら、その様子を見てフールは小さく笑う。御月は見守るのをやめ、そこら辺を散策していた。
 クレディアが落ち着いたことを確認してから、フールは声の調子を穏やかにして話しかけた。

「で、何があったの?」

 そう聞くと、クレディアはびくりと体を揺らし、俯いてしまった。

「あっ、べ、別に話したくないならいいから! ……また、落ち着いたときに、クレディアが話そうと思ったらでいいから。ね?」

 ぐすっとクレディアが鼻をすすりながら頷いた。それを見てフールはクレディアの頭をポンポンと優しく撫でる。
 ふとクレディアが目を動かすと、ふと視界の隅にある物が入った。

「……! こ、れ……!!」

「え?」

 クレディアが慌てて地面に落ちていたそれを拾い上げる。そして両手にちょこんとのせる。それを、フールは不思議そうに見た。
 それを見たクレディアは、またしても汗が吹き出るのが分かった。

(な、んで……。これ、は、)

 そしてクレディアはあることに気付いた。
 クレディアは「……あ、」と声をあげ、口元を押さえた。偶然には、できすぎた偶然。つまり偶然と考えないほうがよいのだ。
 しかし、それはクレディアを更に混乱へと貶めることになっていた。

 それがあった場所。それは、先ほどまでクレディア≠ェいた場所だった。

 クレディアの手の中にあるそれ、赤、黄、青の3色の、2つで1組になっているヘアピン6つが、きらりと光った。

 フールは分からず首を傾げる。
 そんなフールの様子に気付かず、ただクレディアは呆然とするだけ。そして、ぎゅっとそのヘアピンを握った。
 するとそこらを散策していた御月が戻ってきた。

「パンジーが近くに生えた穴があった。……ククリは見当たらねぇし、とっとと進むぞ」

「うん。クレディア、いける?」

「……ん、だいじょーぶ」

 こくりとクレディアが頷いたのを見て、御月は見つけた穴の方に進む。
 クレディアはヘアピンを失くさないよう、鞄の奥底へと大事そうにしまう。
 フールは少しでもクレディアを安心させるために、クレディアの右手をとって、手を繋いだ。いきなりのことにクレディアはばっと顔をあげてから、また少し俯き気味になりながら繋いでいる手に少し力をこめた。



「……あーあ、」

 3匹が去った場所に、1匹のポケモンが佇む。
 そのポケモンは、ツタージャ。青い目をした、そう、クレディア≠セ。

「ちょっとやりすぎちゃったかなぁ。怒られちゃうや」

 反省しているような口ぶりではあるが、クレディア≠ヘニコニコしている。反省の色はなしだ。
 それからクレディア≠ヘ3匹が去っていった方向を見た。
 笑みを引っ込め、複雑な顔をしながら呟く。

「……皮肉なものね。何もかもが、似すぎている。まるでココは物語の中のようだわ」

 明らかにクレディアとは違う話し方をするクレディア=B
 クレディア≠ヘ目を伏せ、そして静かに開く。そこにはクレディアと全く同じである綺麗な水色の瞳。
 そしてクレディア≠ヘ笑みを浮かべた。

「だからこそ、迎えるであろう終焉は防いで頂戴、――」

 そう呟いて、クレディア≠ヘ元々そこにいなかったように、姿を消した。

■筆者メッセージ
わー、50話突破。……遅いですね、これ完全に遅い。文章が短いからか、物語がそんな進んでいないにも関わらず50話。
……とりあえず暫くは気にせず更新続けます。
アクア ( 2014/06/06(金) 22:19 )