44話 導く運命
中はどうやらダンジョンになっているようで、入り組んだ形になっていた。フロアを見渡すと、小さな池があったり、丸太や枝が無造作に落ちている。
それに気をつけながら、3匹は中を進んだ。
すると別々の通路から敵ポケモンのウリムーとヒトモシが、3匹のいるフロアに入ってきた。
「とりあえず、ウリムーはクレディアとフール。ヒトモシは俺で――」
「ヒトモシは私1匹だけでやらせて!!」
「おい!?」
「わぁっ、フーちゃん勇敢!」
フールがでんこうせっかでヒトモシに近づいていく。クレディアは目を輝かせて賞賛し、御月はため息をつく。
それからすぐさま御月はクレディアに指示した。
「クレディア、とりあえず遠距離から攻撃!」
「わかった! ――グラスミキサー!!」
頭の中でイメージをしてから、クレディアが技名を言って技を放つ。それは真っ直ぐにウリムーに迫っていく。
しかしそこで黙っているウリムーでもない。
「泥爆弾!」
「あれっ?」
迫っていたグラスミキサーを泥爆弾で粉砕する。
しかしクレディアが声をあげたのは、グラスミキサーが粉砕されたからではない。ウリムーの少し後方部分がもりあがったからだ。
(もしかして――……)
「穴をほる」
「ッ!?」
するとそのもりあがった部分から、御月が出てきてウリムーを吹っ飛ばす。
その方向はクレディアの方で、クレディアはウリムーの顔を覗き込んだ。目を回しているところを見ると、完全にノビているようだ。
クレディアが御月を見ると、体に付着した泥を払いながら自分の方へ歩いてきていた。
「……私は囮かぁ」
「あぁ。俺も技マシンで覚えた技を試してみたかったんでな」
使わせてもらった。そう言うと、クレディアは「そっか」と笑った。
そして2匹がフールの方へ視線を移すと、フールがでんこうせっかを上手く使ってヒトモシの攻撃を避けながら、何か溜めているのに気付いた。
「……フーちゃん、何かしようとしてるのかな?」
「だろうな」
暫く見ていると、ヒトモシの火の粉をかわしてからようやくフールが攻撃態勢を見せた。
フールは動きながら、左手で右手をがっちり掴んで、掴まれている右手を突き出した。そして、技名を口にした。
「10万ボルト!!」
「…………!」
そこで、御月は目を丸くした。
10万ボルトを覚えるのはまだ困難なはず。フール程度のレベルではあれば、まだ無理なはず。しかしフールは見せかけではなく、本当にそれぐらいの威力のものを撃った。
ヒトモシは避けられず、10万ボルトに直撃し、呆気なく倒れた。
御月がそれを呆然と見ていると、クレディアが「あっ!?」と声をあげる。
「うわっ!!」
フールの方へと御月が視線を向けた瞬間、フールは声をあげてゴロゴロと転がっていった。
クレディアが慌ててフールに駆け寄る。御月もワンテンポ遅れてから駆け寄っていった。フールは「いてて……」と言いながら起き上がる。
そしてクレディアは尻餅をついた状態のフールに手を差し伸べた。
「だいじょうぶ?」
「あ、うん。へーき。……やっぱりまだ10万ボルトは無理かぁ…………」
フールは素直にクレディアの手をとり、起き上がる。そしてパンパンと転がった際についた土を払った。
御月はフールの言葉を聞いてから、小さく呟いた。
「……電圧に体が耐えられず、ひっくり返ったって訳か」
「うわー、バレてる。そうそう、まだ体が高電圧に慣れてないの。ルフ兄とか、師匠に色々聞いて教えてもらって10万ボルトを撃てるようにはなったんだけどさ、絶対に反動が返ってきちゃうんだよねー」
ため息をつきながら、フールがそう漏らす。御月は静かに、心の中で驚いた。
どうやらさきほどの10万ボルトは修行の賜物らしい。知らないうちに、そこまで進歩していたらしい。それほど、強くなっていた。
先を越されるのは時間の問題だな、などと御月が考えると、クレディアが「あっ、階段はっけん!」と走っていった。
「ちょ、ちょいクレディア勝手に動かないで!?」
「お前は戦闘力が只でさえねぇのに、何でそう自由奔放なんだ……!」
慌てて2匹が早くもないクレディアを追いかける。すぐに追いついた。
そして階段を上がり、外に出ると、先ほどとは打って変わった景観が3匹の目に入った。
「枯葉ばっか……。さっきはあんなに緑だったのに……」
先ほどは木の葉が青々としてたのに、ダンジョンを出ると一転、枯葉しかない場所に出たのだ。周りにある木には、枯葉しかついていない。
フールと御月があんぐりしていると、クレディアが前に出た。
「ククちゃーん! ククリちゃーん! いたら返事してー!」
どうやらクレディアは目的をきちんと覚えていたようだ。そのため、すぐさま行動に出た。
呼びかけながら、自分たちが出た場所を散策する。フールも御月も呼びかけながら草を掻き分けたりして探すが、全く見つからない。
「いないね……」
「此処にはいないのかも。次に――」
「次、っていっても……どうする。此処には3つ穴がある」
御月の言葉に、フールが黙った。
散策している間に、見つけた穴は3つ。黄色いパンジーが近くにある穴と、青いキキョウが近くにある穴、そして赤いチューリップが近くにある穴。
ククリの手がかりもなく、もし此処に来ていたとすると、どの穴を通ったか分からない。
「……手分け、したらいいんじゃないかな」
すると、クレディアが発言した。
しかしその言葉にフールと御月はいい顔をしない。
「お前、本当に1匹だけで大丈夫なのかよ……」
「手分け、だったら皆1匹ずつで行かなきゃいけないしね……」
クレディアを2匹が心配そうに見る。
幾らようやくクレディアが戦闘に慣れてきたからといって、強いわけではない。言っては悪いがチームではクライと最下位を競っているレベルだ。
しかし、クレディアは意見を曲げながった。
「私はだいじょーぶ。それに、ククちゃんを早く探さないと。何かあったら大変だし……ね?」
2匹に言い聞かせるように、クレディアが言う。
すると2匹は折れ、フールは黙って頷き、御月は降参のポーズをしてみせた。
「じゃあ私はあの穴、御月はあの穴、クレディアはあそこ。いい? 無理はしちゃだめよ」
「りょーかい!」
「へーへー」
クレディアが黄色いパンジーがある穴、フールが赤いチューリップがある穴、御月が青いキキョウがある穴に行くことになった。
場所は離れているため、見送りはできない。
クレディアはただ1匹穴の前に立ってから深呼吸をし、穴の中へと入っていった。
「「え、」」
穴を出て、フールは目を丸くした。自身の目の前にいる人物も目を丸くしている。
そして、フールは気まずそうにその者に話しかけてきた。
「……何でここにいるの、御月」
「強制的にスタート地点に戻ってきたんだよ。
恐らくそこにある花が先に進むヒントだったんだろうな。違う花の穴を進めばスタートからやり直し。そこにある花と同じ花の穴を進めば進める。――そういうことだろ」
そう、フールと出会った人物は御月だった。
御月は面倒くさそうに頭を掻く。フールは御月の説明を聞いて、さぁっと顔を青くした。
「ちょ、ちょっと待って。ってことは……この花と同じ穴に進んだクレディアは、」
「あぁ。クレディアだけは、恐らく先に進んでいる。……アイツ下手に進んでなきゃいいんだが……とりあえず、とっとと進むぞ」
「う、うん!」
少し慌てた様子で、2匹はもう一度同じ穴へと入っていった。
入口にあった黄色いパンジーは、2匹を嘲笑うかのように、風をうけてゆらゆらと揺れた。
「あれ、何かまた広い場所に出た……」
無事に1匹だけでダンジョンをクリアしたクレディアは、首を傾げる。
とりあえずククリを探さなければ。
そう思い、クレディアは勢いよく息を吸い込んで、慣れない大声を出した。響くように口元に両手をあてて。
「ククちゃーん!! いたら返事してーッ!!」
声を張り上げながら、前へと進む。辺りを見渡すのも忘れない。
そして不意にクレディアが前を向くと、誰もいないと思われたこの場所に、誰かいるのに気付いた。しかし、それはククリではない。
(私と同じ、ツタージャ……?)
後ろ姿しか見えないが、ツタージャということはクレディアにも分かった。
そのツタージャはただ静かに佇んで、上を見上げている。その様子にクレディアは小首を傾げるものの、名案を思いついた。
(そうだ! もしかしたらククちゃんを見たかも……!)
意を決して、クレディアは話しかけた。
「あ、あの!」
するとぴくりとツタージャの体が揺れる。
クレディアは気にせず、とりあえず初対面なのだから自己紹介をしておくべきだと判断した。この世界に来てから初対面には必ず自己紹介しているため、クレディアは一種の「初めの挨拶」と認識していた。間違った認識とは気付いていない。
ツタージャはクレディアの方をゆっくり振り返ろうとしてたのだが、クレディアはその前に自己紹介をする。
「私、ツタージャのクレディア・フォラムディって、いいます! その、今クルマユのククリちゃんって子を探してるんだけど――」
「貴女、クレディアっていうんだね」
クレディアは、一瞬、息をとめた。
聞き覚えのある声だったからだ。クレディアにとって、とても馴染みのある声だったから。驚いて、クレディアは息をとめた。
そして途端に小さく体が震えだす。そして、頭の中で警笛がなった。逃げろ、と。
しかしそうする前に、ツタージャがゆっくりと振り向いた。
(えっ……。な、んで、)
驚かざるを、得なかった。
クレディアと同じ、水色の瞳。セロは言っていた。珍しい、と。こんな偶然が、あるだろうか。
その事実にただただクレディアが驚愕していると、何らクレディアと変わらぬ姿で、そのツタージャは、同じように笑い、同じ声で、言った。
「私の名前は――クレディア・フォラムディ≠チて、いうんだよ」