40話 新加入
フールは、大人しくルフトの背中に乗っておぶられていた。
「…………ルフ兄ってさ、年いくつ?」
「おそらくアンタより5つも6つも上」
「フールです。マジか」
あの後、結局フールはルフトにあしらわれ、体力が尽きるまで戦った。体力が尽きるまで、つまり倒れるまで。
そしてフールが倒れた後、ルフトがフールを背負ってポケモンパラダイスに向かっているのだ。世間話、というか自分の近況報告を交えながら。
戦いの際でフールはルフトを認めたらしく、ルフトを「ルフ兄」と呼ぶようになっていた。ルフトも別に気にしていないようで、その点に関しては全く触れない。
「アンタのお仲間は帰ってんのか?」
「だからフールって言ってるんですケド。……多分、もう夕方だし。むしろ心配されてるかも。帰りが遅いって」
「門限は?」
「ない」
「まああったら驚きだよな」
くつくつと笑いながら、フールを背負ってルフトは歩く。
すると、ちらりと明かりが見てきた。どうやらポケモンパラダイスに近づいてきたようだ。夕方なためにほぼ誰もいないパラダイスセンターを通り、そのまま歩くと見慣れた家が見えてきた。その家の前には、人影が。
それを見て、フールが声をあげる。
「クレディア! 御月!!」
フールがそう言うと、クレディアが「あっ、フーちゃん!」と手を振っている。御月は僅かに目を丸くしていた。恐らくイレギュラーがいるせいだろう。
そのイレギュラーは、フールが声を上げた瞬間に顔をしかめた。
「おい、うるさい。耳元で叫ぶな」
「あー、ごめん。……これで今までからかわれた分を復讐できるんじゃ、」
「突き落とされたいか?」
「すみませんごめんなさいやめてください」
突き落とすなんて溜まったもんじゃない。
そう思ってフールが素直にすぐに謝ると、ルフトは可笑しそうに独特な笑い方で笑った。そしてクレディアたちに近づく。
クレディアたちの近くまで来ると、流布とはフールをおろした。
「ありがと、ルフ兄。あ、えっと……途中話してたクレディアと御月。で、こっちが――」
「見て通り、種族はレントラー。名前はルフト・アルダンテだ。よろしくな、クレディア・フォラムディさんに朝比奈 御月くん?」
「よっ、よろしく! お願いします!!」
「……誰だアンタ」
クレディアはびしっと、御月は警戒感を露わにする。
フールは「やめなさい」と言って御月を牽制しようとするが、先にルフトがくつくつと笑ってから御月に話しかけた。
「怪しいけどそんな怪しくないポケモンだ」
「完全に怪しいじゃねぇか。自分を怪しくないっていう奴こそが怪しいんだよ」
「そんなに怪しくないっていっただろ? 「全く怪しくない」とは言ってない」
「………………。」
ルフトの屁理屈ともいえる言葉に、御月は黙った。言い返せないのだろう。
それにフールが「ざまーみろ」と笑っていると、ルフトにすぐさま「アンタも似たような状態だったけどな」と言われやはり黙ることになった。
すると警戒心皆無なクレディアが、ルフトに話しかけてきた。
「フーちゃんがルフ兄って呼んでるから…………ルー兄でいいや!」
「何か勝手にあだ名つけられたな」
「ルー兄はどうして此処に? あっ、フーちゃん運びにきたんだ!」
「そうそう。ていうか自問自答するな」
流石の天然マイペースなクレディアにはルフトもついていけないようだ。少したじたじになっている。
しかしクレディアはルフトのようにわざとではないので、笑顔で同じように話しかけてくる。ニコニコしながら、マイペースに、相手のペースを崩す。
「フーちゃんとは……昔からのお友達?」
「いや、さっき知り合ったばっかだ。少し修行に付き合ってただけだよ」
「へぇ、じゃあルー兄は強いんだね!」
「フールの100万倍な」
「ちょっと!!」
「わぁ、すごーい!!」
フールは不満を、クレディアは感嘆の声を漏らす。御月はじっとルフトを見ていたのだが、警戒は少しはとれたのか目を逸らした。
ルフトは可笑しそうに3匹を見る。
「確かに個性的な面子だな。まあリーダーがこれだしな」
「これ言うな! ていうか出会ってから一度も名前を呼ばれてないんですけど!?」
「フーちゃんがリーダーで頼もしいよ!!」
元気よくそう言ったクレディアに、フールは照れくさそうに顔を背ける。それに御月はため息をつき、ルフトは笑う。
同じ調子でルフトはフールに話しかけた。
「修行の理由、別に気にする必要はなかったんじゃないか? ここまで頼りにされてるし」
「……私としては足りないの」
むすっとした顔をしたフールに、ルフトは「はっはっ」と笑った。クレディアは分からず首を傾げ、御月は完全に興味を失ったらしい。
するとクレディアが「ねぇ」とルフトに話しかけた。
「ルー兄はこれからどうするの? ルー兄も宿場町目当て?」
「いいや。俺は別に宿場町を意識したわけじゃないんだけどな。…………ま、気ままにぶらぶらしてるって感じだ。これからと言われても決めてない」
肩をすくめる動作をしながらも笑顔なルフトがそう言う。とてもわざとらしく、肩をすくめるという動作が全く似合わない。
フールはそれを見て不機嫌そうな顔をし、馬鹿にするように吐き捨てた。
「全くルフ兄困ってないじゃん」
「実際に困ってないしな」
「…………。」
「くくっ、馬鹿顔が更に増してるぞ」
「もとっからこんな顔ですけど」
尚も馬鹿にされ続けているフールがむすりとした表情をする。どうあってもフールはルフトに勝てそうにない。
するとクレディアが「あ!」と声をあげた。
「じゃあルー兄! 一緒にフーちゃんのポケモンパラダイス作るの手伝おうよ!」
「「は?」」
「突拍子もないことを言い出したな」
クレディアの発言に、3匹はそれぞれ違う反応を示した。
フールは驚き、御月は顔をしかめ、ルフトは困ったように笑った。発言した本人は裏表のない笑顔でルフトを見ている。
それに今度はわざとらしくなくルフトは肩をすくめた。
「と、いわれてもな?」
「……俺はどうでもいい。リーダーが勝手に決めてくれ」
「あぁ、そういえばアンタがリーダーだっけ」
「その顔やめろ! いかにも心配ですっていう顔やめろ!! ていうか御月、君が勝手に決めたんでしょうが!」
哀れんだ目で見てくるルフトと、冷めた目で見てくる御月にフールが抗議する。しかしクレディアのにっこりした表情をみてすぐさま怒りも冷めてしまったフールはため息をつく。
それからルフトが話しかけてきた。
「まあ確かに俺は別に構わないが……俺は結構フラフラするから毎回いられるとは限らないぞ」
「そうなの?」
「そうなのって……。俺は流浪するのが好きなんだよ。1点に留まってるのって暇だろ?」
見ての通り、とルフトが片手をあげてヒラヒラとする。
クレディアはそう思わなかったようで首を傾げているが、フールと御月は合点がいくらしい。
「あー、確かにルフ兄そんな感じがする。何ていうかぶらぶらしているっていうか」
「そのうち勝手にチームから消えそうだな」
「え、ルー兄消えちゃうの……?」
「お前らのコンビネーション攻撃は最強だな」
フールや御月が単体なら大丈夫なルフトだが、3匹揃うと反応に困っている。
すると「とりあえず、」と言ってフールがルフトに向き直り、はい、と右手を差し出した。
「冒険チーム『プロキオン』、入ってもらえるなら、宜しくお願いします」
強いポケモンがいればいるほど、頼もしいし。何より、人数は多いほうが楽しいから。
そう言ってフールが笑うと、後ろに控えているクレディアも笑顔になり、御月はふてぶてしい顔ではあるが、心なしか表情が柔らかくなる。
それに、ルフトは「ははっ」と小さく笑みを浮かべる。
「あぁ、宜しくな。小さな弱いリーダーさん?」
ぱしっとハイタッチするように差し出されたフールの手を叩き、ニッコリ笑った。
「ふっ……ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「フール煩い黙れ」
「えっ、ど、どうしたのフーちゃん」
「くくっ……!」
フールは怒っていて、可笑しそうに独特な笑い方をしているルフトに怒鳴っている。御月はそれが不愉快だというように、顔を思いきり顰めて文句を言っている。
何だか、もっともっと、チームが賑やかになって楽しくなりそう。
クレディアは頭の中でそんなことを考えながら、自身の仲間を見た。
そして「えへへっ」と、嬉しそうに微笑んだ。