39話 さすらいの者
問題です。貴方はメンバー出撃ではなく、今日は留守番で、そのため1匹だけで黙々と修行に励んでいました。
そのとき、目の前で倒れたポケモンを発見したらどうするべきでしょうか?
「助けなきゃ……ダメだよねぇ……」
とりあえず引きずろう。
「いや、悪かったな。まさか自分が食い倒れなんてことをするとは思っていなかった」
そう言って悪びれもなく笑うレントラーの顔を殴ってもいいだろうか。
リーダーなんだから、皆を守れるくらい強くならなくては。
そう思って、今日は自ら皆に頼んで出撃メンバーからはずれた。レトは用事があるらしくて、行っているのはクレディアと御月、クライ、そしてシリュア。
師匠(ユノさんのことだけどそう呼んでいいという許可は得た)に修行をお願いしてみたのだけれど、「気分じゃない」と言われてしまえば退くしかなくて。……本当は指導者が欲しかったけど、まあ仕方ない。
それから私は宿場町から少し外れた人気のない場所で修行してた。
するといきなり現れたのがこのレントラー。現れたと思いきやいきなり倒れた。
それから引きずって寝かせて、起きてから持ってた木の実をあげると復活した。
本人いわく「腹が減っていた」らしい。
「……で、君は一体なんなの? 食い倒れするほど何か熱中してたの? それとも旅?」
「まあ平たく言えば旅だな。というかアンタ、さっきから甘いもんしか食ってないが」
「君も同じことしてるからクラボの実とかが全く減らないけどね。てかその液体は何。透明だけど水なの? 何で木の実を水でかけるわけ? 馬鹿なの?」
「水じゃなくて……まあ色々と加工したやつだ。舌がかなりピリピリするぞ。分けてやろうか?」
「いや、気持ち悪いって言ったんだけど」
「冗談だ」
くつくつと独特な笑い方をするレントラーを見てから、持っていたモモンの実をかじる。うん、甘い。
とりあえず会話してみて……まあ、悪い奴ではなさそう。
そう思ったから、自己紹介して名前を聞こうと思った。
「私は冒険チーム『プロキオン』のリーダー、フール・ミティス。種族は見ての通りピカチュウよ」
「俺はしがない一般人のレントラー、ルフト・アルダンテ。得意なことは路頭に迷うこと」
「嘘でしょ」
「嘘だな」
すぐさま嘘と認めた……ルフトを見て、前言撤回。悪い奴じゃないことも無いかもしれない。
当本人は「眉間に皺がよっているぞ」と言って愉快そうにまた独特なくつくつという笑い方をして、笑う。
シャドウほどじゃないけど、コイツもよく笑うな……。いや、シャドウとは決定的に違うな。なんていうか、静か。……きっと、このポケモン私より年上なんだと思う。雰囲気が落ち着いている。
……だからといって何も思わないけど。
すると今度はルフトから話しかけてきた。
「で、アンタ、」
「アンタって名前じゃない。フール・ミティス」
「アンタはこんなところで何してるんだ? こんな人気のないところで漫才の練習か?」
「冒険チームって言ってんでしょうが。誰も漫才師なんて一言も言ってないし。ていうか名前! フールっていう立派な名前が私にはあ・る・の!」
私がそう反論すると、また笑われた。
なんだコイツ。人をからかって……ていうか弄んで楽しんでないか。腹立つんですけど。何なのコイツ。
「いやいや、からかい甲斐のある奴だなーと思って。面白いな、アンタ」
「だから名前! あと面白い言うな! そういう君は腹が立つわ!! 何なのおちょくってんの!?」
「かなり」
よし、もういいよね。電気ショックぐらいやったって私は誰にも責められない。
しかし「悪い悪い」と誠意も何もない薄っぺらい言葉を並べ、ひらひらとルフトは右前足をふった。
「別に俺はおちょくってるつもりはないんだ。何でか言葉がそうなるだけで」
「己は天邪鬼か!」
「まあ違うけど。それよりアンタ、」
「名前」
「さっきの質問の答えは?」
「言う気なしか!! ……さっき? あぁ、此処で何してるかって? 技の練習だけど」
正直に答えるとルフトは「へー」と興味なさげな声をあげた。
……折角答えたというのに何だというの。本気でもういいかな。もう私の体外で電気がバチバチいってるし、怒ってるって気付いてるよね、コイツ。それでいてやってんだよね。もう電気ショック撃っていいよね。
しかしルフトはやはり気にした様子なく、胡散臭い笑顔で笑った。
「まあ、それを俺に撃ったところで俺には全くといっていいほど効かないケド――って危な」
「……腹立つ」
電気ショックを撃ったものの、ひらりと避けられてしまった。攻撃したこっちが見惚れるくらい、軽い動きで。
ていうか手馴れてるな。……じゃなきゃこんな動き出来やしないよね…………?
「……ルフトさぁ、」
「せめてさん付けとかしろ。俺おそらくアンタより年上」
「アンタ呼ばわりするからルフトで十分だと思うんだよね、私」
「それ気にしすぎだろ」
「まあいいや」と言って「で?」とルフトが催促してくる。
「戦闘って得意?」
「まあまあ、と答えておく。何だ、修行か」
「そ。さっきも言ったけど私、これでも冒険チームのリーダーなの」
「これでもな」
「黙れ減らず口」
隙あらばおちょくってくるなコイツ……。
技を撃ちたいところだけど、それはしない。だってさっきの見たら絶対に当たらないって分かるもの。
とりあえずそのまま続けた。
「だから皆を守れるくらい強くなるために修行を……まあ、でもルフトに軽く避けられた時点で無理かなぁなんて思えてきちゃうんだケド。……何かさ、コツとかない? 同じ電気タイプのよしみで」
「電気タイプのよしみでねぇ……。コツっていっても、アンタは何を鍛えてるんだ?」
ルフトの質問に首を傾げる。
何を、と聞かれても何と答えればいいのだろうか。ただ強くなりたい一心で一心不乱に技を打ちまくったり、過去のダンジョンで出会った敵ポケモンの動きを思い出しながらシュミレーションして動いてみたりしてただけだし……。
何を鍛えたい。そう聞かれても……全体?
「……全体的に」
そう返すと、ルフトはまた独特な笑い方をした。何がおかしいのだろうか。
私がじとりとした目線を送っていると、一通り笑ったルフトがこちらを見て胡散臭い笑顔を返してきた。
「とりあえず1つに絞った方がいいんじゃないか? 電気技とか動きとか」
ルフトの提案に、少し考える。
確かに適当にやっているだけでは効率が悪いのは明白。1つ絞ってから、それが出来てから次にいった方が効率がいい。
なら今度に考えるのは、今の私にはまず何が必要か。
「…………技の強化、かな」
何より私は、力が欲しい。皆を守れるくらいの。
そのためには技の強化。少しでも技を強くして、敵ポケモンを一撃で倒せるようになったら皆が戦うことはない。私だけで、十分になる。
するとルフトは「ふぅん」と言って、またしても質問を投げかけてきた。
「技の強化、ね。ま……」
何でか言葉を区切ってきたルフトを見て首を傾げる。
すると、ルフトはにっこりと笑った。
「今のアンタは今の俺の100万分の1ぐらいの強さだな。――だから危ないっての」
ばちり、私の体の周りでそう音をたてて電気が放電される。
さっきの笑顔は完全に作り笑い、尚且つ馬鹿にしているものである。私が電気ショックを撃ったに関わらず、同じ表情をしているのがその証拠だ。
本当にコイツ胡散臭い。ていうか腹立つ。
本気で怒りましたと言わんばかりにルフトを見つけると、またあの独特な、くつくつという笑い方をされた。
「そんなんだから俺に弄られるっていうのを理解しろよ」
「あー腹立つ! 何なのそんなに私を馬鹿にして楽しいか!?」
「あぁ」
「そこで真顔になって頷くな!!」
しまった。またおちょくられているではないか。
それを証拠にルフトはまた笑っている。ぐぬぬ……か、勝てる気がしないし何より腹が立つ……!
「……まあいいや。で、技の強化だろ? 実践あるのみじゃないのか? アンタは、」
「フール」
「倣うより慣れろってタイプっぽいしな」
「いい加減名前で呼べや馬鹿ルフト!!」
どこまでも飄々している奴である。同時にどこまでも余裕をもっている。
何かルフトと話していると、自分が改めて子どもであることを自覚させられているような……。はっ、これが大人の余裕というやつなのか!?
私がそんなことを考えている間に、ルフトは私の前、少し離れた場所に立っていた。
「ほら、飯の礼だ。相手をしてやるよ」
「……何で上から目線なの」
「年上の威厳ってやつで。そんな会話してていいのか? 時間なくなるぞ」
腹立つし、むかつくけれど。
……でも、私は強くなりたい。仲間を、友達を守れるくらいに。私が、皆を頼らず、皆に頼ってもらえるくらいにはならないと。
そう考えると、ルフトに抱く感情なんて蹴飛ばせる。
「手加減はしないからね!!」
「はっはっ、俺はアンタに負けるつもりは毛頭ないぞ。軽くあしらってやるよ」
そういって、電気を纏わせながらルフトに突っ込んでいった。