30話 チームも様々
「まあここで会ったのも何かの縁! そしてフールちゃん達の勝利を祝してお茶しよう!」
という何ともまあ下心みえみえなドライの一言により、『プロキオン』の3匹と『陽炎』の4匹は食堂に来ていた。
食堂に入った途端にドライはレアに話しかけに行き、他は静かに席について御月が手馴れたように出したジュースを飲む。フールと水芹は離れた場所に座っているにも関わらず、火花を散らしている。
するとクレディアが言葉を発した。
「シャウくんたちは何で冒険チームに?」
「……シャドウ、お前がお呼びだぞ」
「えっ、シャウくんて俺のコト? ぶっ、分っかりづレェ!!」
かなり笑いのツボが浅いらしい。シャドウは机を叩いて大笑いしはじめる。
代わりに、といったようにアリスが小さな声で、ゆっくりと話し始めた。
「……私と、シャドウと、水芹は、幼馴染。ドライは、私の親友。それでシャドウが楽しそうだからって、冒険チーム『陽炎』を、創ったんです」
「ま、そんな大した理由はないってわけダ」
笑いのツボは浅いが、立ち直りは早いらしい。いつの間にか笑っていないシャドウが加わってきていた。気にせずアリスはのんびりとジュースを飲む。
水芹はジュースを一口飲むと、御月に目をむけた。
「で、そっちは?」
「……流れ?」
「ちょっ、御月、君ね! あんだけ私が話したのにもう忘れたわけ!?」
適当に言ってのけた御月に、フールが抗議の声をあげる。御月は「うわ、面倒くせぇ」という顔を隠しもせずにする。
そんな喧嘩を他所に、クレディアが笑顔でワケを話し始めた。
「フーちゃんはね、ポケモンパラダイスっていうのを創りたいんだって」
「……ポケモンパラダイス?」
クレディアの言葉に、アリスも、シャドウも、そして水芹も首を傾げる。フールは御月と言い合い中だ。
そのままクレディアが続けた。
「簡単にいうと、色んな冒険をして、お宝も見つけて……皆でワクワクしながら楽しく暮らせる、まるで楽園のような場所。それがポケモンパラダイス。
それを創るのが、フーちゃんの夢なの。そのための冒険チームだよ」
「へぇ。そりゃ楽しそーダナ。出来たら是非とも拝見したいもんだネ」
笑顔でシャドウがそう言う。クレディアは同じような笑顔で「でしょ?」と何故か誇らしげに言った。
すると水芹が口を挟んだ。
「……チームっていうなら、あと何匹いるんだ? 冒険チームって4匹以上だろう。お前とそこの鼠と御月で3匹。それじゃチームとして認められない。ってことは、他に誰かいるってことだろ」
「えっとね……シーちゃんと、クーくんと、レッくんで、あわせて6匹だよ!」
「ぜ、ぜんっぜん分かんネェ……!」
あだ名で言っていくため、名前が全く分からない。「くん」「ちゃん」で男2匹、女1匹ということだけしか分からなかった。
アリスは気にした様子はなくジュースを飲み、水芹は頬をひきつらす。シャドウだけは机を叩いて顔を伏せながら大笑いしていた。
「アリスーーーーッ! 手強かったよぉぉぉぉ!!」
「…………何が」
すると先ほどまでレアに必死に話しかけていたドライがアリスに飛びついた。アリスは抵抗はしていないが、顔をしかめている。
しかしドライは気にせず話した。
「レアさん! 超美人だけどめっちゃ手強い! でも是非ともデートしたい!!」
「お前ほんと女って自覚あるのか」
「男女差別はんたーいッ! 別にいーでしょ、可愛い女の子とデートしたいってのは誰の心にもあるものなの! ったく、水芹みたいな男女には分からないでしょうけ・ど!」
「誰が男女だ!!」
水芹とドライが言い合いを始める。どうやら「男女」というのも気にしているらしい。
御月は呆れた、といったようにジュースを飲む。フールは頭をおさえていた。どうやら言い合いの末、御月が強硬手段にでたらしい。
「……水芹は女っぽいってのを気にしてんのか」
「神経質なぐらい。……小さい頃から、女の子って勘違いされてきたから、根にもってるみたいです」
御月がドライと言い合いをしている水芹に同情の目をむける。
男としてそれは嫌だろうな、そう思ったのだ。そんな気持ちの共有はシャドウにはないようで、大爆笑している。
それを横目でアリスが見る。慣れている光景のようで、何もいわないが。
すると未だ頭をさすりながら、フールが会話に加わってきた。
「アリスたちは……ここ、宿場町は初めて?」
「えぇ。……噂を聞いて、来ました。多分、しばらく此処に居座ると、思います」
ゆっくりと自分のペースを崩さず、アリスがそう答える。ジュースもちょびちょびと飲んでいて、1番進んでいると思いきや1番進んでいない。
「アーちゃんは、ライちゃんの親友なんだよね?」
「……私と、ドライのことですか?」
「うん!」
「……まあ。だからこそ、ドライも私は口説いてこないから、楽です」
「ププッ、女って思われてないだけじゃネぐふぅ!!」
無言でアリスに腹を殴られ、シャドウが倒れた。どうやら『陽炎』ではシャドウを殴るのは手馴れているらしい。そのためアリスもしれっとしている。
クレディアは「仲がいいね」と笑っている。クレディア側からだと、シャドウが殴られた様子は見えなかったようだ。フールは「うん、そうね……?」と曖昧に頷いた。シャドウを見ると、痛さを懸命に耐えている。
会話を続けていると、いきなり御月が席を立った。
「わっ、どうかした? みっくん」
「とりあえず俺は抜けんぞ。じょうぶなツタ≠ヴィゴに渡さなきゃならねぇしな」
「あっ、忘れてた!!」
「忘れてたのかよ……」
呆れた、といったような顔をする御月。フールは本気で忘れていたようで、顔を青ざめさせている。
「私も行く! クレディア、は……ジュース飲んだら家に真っ直ぐ帰るのよ!」
「わかったー」
バタバタと慌しくフールが出て行くのに対し、御月はため息をつきながら落ち着いた様子で食堂を出る。
残ったのはクレディアと『陽炎』。クレディアのジュースももう一口で終わるようで、クレディアはそれを飲み干した。
「ご馳走様でしたっ!」
「ご馳走さん。……ほら、コップ貸せ」
「ん? あっ、ありがとう!」
ほぼ同タイミングで終わった水芹が、クレディアの分、さらに先ほどいなくなったフールと御月のコップまでカウンターへ持っていく。
シャドウが「ヒュー、男前ー♪」と言うと容赦なく水芹に殴られた。
「あっ、クレディアちゃん帰るの?」
「うん。フーちゃんに真っ直ぐ帰れって言われたし……帰ろっかな」
「じゃあまた一緒にお茶しようね! 今度はこのうざい男2匹がいないところで! 2匹きりでも問題なしだから! 寧ろあたしはそれを望む!!」
「? うん。じゃあフーちゃんにも言っておくね」
「寧ろあの鼠には言わない方がいいような……」
水芹が小さく呟いたが、どうやらクレディアの耳には届かなかったようだ。ドライは約束を取り付けたことでガッツポーズしている。それにシャドウはまたしても爆笑。
そんな仲間を無視して、アリスが手を振った。
「それじゃあ、クレディア……ちゃん。また今度」
「うんっ、アーちゃんもシャウくんもせっくんもライちゃんもまたね!!」
明るく笑いながら、手を振り返してクレディアは食堂を出ていった。
クレディアは「楽しかったー♪」と、鼻歌を歌いながら帰宅の道を歩く。その表情は、とても楽しそうなもので。
「……ちょっと、」
クレディアが出て行った後、誰かが口を開いた。