29話 個性的メンバー
勝負は、案外アッサリついた。
「わぁい、勝ったねフーちゃん!」
「あー、うん。そうね……?」
喜んでいるクレディアとは対象に、少し納得のいかないといったような笑顔を浮かべるフール。御月は無関心のようだ。勝負に勝ち、目的なじょうぶなツタ≠燻閧ノ入れたというのに、この反応。
そして『陽炎』の2匹を見ると、そちらもフールが予想していた反応と違う。
「いやー、負けタ! つーかまさかドライに裏切られるとは思わなかったナー。いや、予想はしてたケド」
「クレディアちゃん達とシャドウならあたしはクレディアちゃん達をとる。はっ、負け犬はそこで精々悔やんでればいいわ。――クレディアちゃん、フールちゃんおめでとーっ!!」
シャドウはともていい笑顔、ドライはシャドウを馬鹿にしてから満面の笑顔でクレディア達に近づいてくる。
(何ていうか、さ……。ほら、あれだよ)
フールは頭の中で言葉を探す。クレディアは純粋な笑顔でお礼をいい、「可愛い」などと言いながらドライがクレディアに抱きつく。
それを見ながら、フールは「ほら」と呟いた。
「何か違う!!」
いきなり大声を出したフールにクレディアはびくりと体を揺らし、シャドウとドライはきょとんとした表情をした。御月に至ってはフールを一瞥してから、視線を戻す。
フールはバンッと乱暴に近くにあった掲示板を叩いた。掲示板が倒れない程度に。
「勝負ってこんなモンなの!? こんなのでいいの!?」
「勝ったんだから文句はねぇだろ」
「負け犬らしく吠えてた方がいいカ? ……ってブフゥッ! コ、コジョフーが吠えるって……!!」
御月はフールの言葉に面倒くさそうに返し、シャドウは何故か自分が言ったことに大爆笑して地面を叩いてヒーヒー笑っている。
ドライはぱっとクレディアから体を放し、「あぁ!」と言った。
「ご褒美!? それならあたしがお茶でも奢ってあげようか!?」
「絶対ただ茶を飲むだけが目的でしょ!?」
「女の子とお茶を飲むのが目的なの!!」
はっきりそう言ってのけるドライに、フールは「うぜぇぇぇ!」と心の中で言う。
クレディアはきょとんとしながら、フールに話しかけた。
「フーちゃん、ご褒美が欲しいの? えっと……じゃあフーちゃんが今日の晩御飯を決めるっていうのはどう?」
「いやそうじゃなくて……あぁ、もう! 話が通じるのが1匹もいな−いッ!!」
フールがもどかしそうに声をあげる。
御月は一応フールが言おうとしていることを理解している。勝負があまりに呆気なく終わったことに対しての不満、そして相手の真剣さの不満だろう。
しかしこればかりはどう言っても仕方ない。そう思って御月は何も言わない。
御月は無言。フールは懸命に抗議。クレディアは首をかしげ、ドライはお茶しようとしつこく誘う。そしてシャドウが未だ爆笑を続けていると、
「……何やってるの」
静かに、凛とした声が響いた。
シャドウが笑いすぎで目に涙を浮かべながら、そっちを見る。そして「あ」と声をあげた。
「よっ、アリス。遅かったナ」
「…………何やってるのって、聞いたんだけど」
スローペースで、小さな声でそう言うのは、真っ白なマフラーを巻き、ペリドットのペンダントを首にさげたチラーミィ。ほぼ無に近い表情で、シャドウを見る。
すると今まで口説きにかかっていたドライがそちらに駆け寄っていった。
「見て、アリス! 可愛い子が2匹!! 可愛いよね!?」
そしてクレディアとフールを指さし変なことを言う。フールは嫌そうな顔を隠しもしない。
するとチラーミィはクレディア、フール、そして御月に目をやった。そして小さく「はあ」とため息をつく。
「……また、何か、変なことでもしたの?」
「ぶっ、してねーっテ! ちょっと勝負して遊んでたダケ!」
笑いながらシャドウが「違う」と手をふるが、説得力は皆無。事実シャドウの言っていることは正しいのだが、雰囲気から怪しく見えてしまう。
そんなシャドウにチラーミィはもう1度ため息をついてから、クレディア達にお辞儀した。
「コレらが変なことしたなら、ごめんなさい。……私の名前は三廻部アリス。種族はチラーミィ。……コレがリーダーをしている『陽炎』の一員」
「アリスさーん? コレって言わなかッタ? 言ったよナ?」
「……気のせいじゃないの」
シャドウの言葉に、小さな声でゆっくりとアリスと名乗ったチラーミィが返事をする。どうやらかなりのマイペースらしい。
すると「おい!」という声が後ろからした。
そちらを見ると、慌てた様子で駆け寄ってくるポチエナ。右耳には、耳飾りの赤紐がついており、走っているためにそれが揺れる。
そしてアリスの隣まで来ると、思いきりため息をついた。
「はぁ……。いきなり全力疾走するな。せめて言ってからしろ。僕が驚く」
「……言った。走る、って」
「走りながらだろうが。お前のこの耳はただの飾りか?」
ポチエナが容赦なくアリスの方耳を引っ張る。アリスは小さく「……痛い」と顔を顰めながら小さく言うが、あまり痛そうには見えない。手加減はしてあるのだろう。
それを見ながら、フールが呆然と呟いた。
「ちっさくない……?」
ぽつり、と呟いたフールの言葉はどうやら全員に聞こえていたらしい。
ドライは「あー……」と目をそらし、シャドウはブッとふきだしてゲラゲラと笑い出した。フッ、とアリスは口元に片手をあてて小さく笑った。御月は無関心で、クレディアはよく分かっていないようだ。
しかし、フールの言うとおりポチエナは通常より少し小さい。さらに声が中性的な上、一人称も「僕」と、男か女かかなり分かりづらい。
するとアリスの耳を引っ張っていたポチエナが手を放し、ギロリとフールを睨んだ。
「……そこの電気鼠だれがミクロンサイズだ殴られたいか?」
「いや、それは言ってないけど!? 意味はあってるけどそんなことは言ってないよ!?」
鋭く睨んでくるポチエナに、フールが少しビビりながらつっこむ。
そしてフールは理解した。ポチエナの逆鱗に触れたのだ、と。それを知っているからこそ、ドライたちはあんな反応を見せたのだろう。
いつもフォローに回る御月にフールが目をやる。目はあったが、すぐさま「自分で何とかしろ」という目線を頂戴した。後で殴るとフールが決意をしたのは言うまでもない。
そして次に助けを求めようとしたのだが、もうクレディアしか残っていないので諦めた。
ふぅ、と息をついてから、負けじとフールは言葉を返す。
「ていうか誰が電気鼠だ! 私にはフール・ミティスっていう立派な名前があんだからね! あと事実を言って何が悪いのよ!!」
「何が事実だ、小さくないし!!」
「いやいや、認めよーゼ。成長期入っても伸びねぇんだモンごふぅっ!!」
「おい、シャドウ。まずお前からボコボコにした方がいいのか?」
目に涙を浮かべながら入ってくるシャドウは、すぐにポチエナが顔面を殴って黙らせた。ポチエナの顔には青筋が浮かんでいる。
フールは「あ、やべ。これやばかったヤツだ」とようやく気付いたらしい。
どうしようかとフールが悩んでいると、スッと隣を緑の物体が通った。それを見てフールが「げっ」と顔をしかめる。それは御月も同じだが、止めることはできなかった。
「こんにちは! えぇっと……私はツタージャのクレディア・フォラムディっていうの! 貴方は?」
何の恐怖も感じず、普通に話しかけたクレディア。相手が怒っているということも理解できないのだろうか。
ポチエナはクレディアを見てきょとんとし、そしてため息をついた。
「一気に毒気ぬかれるな、お前……。……清白 水芹。『陽炎』のメンバーで、見ての通り種族はポチエナ」
(な、名前めっちゃ女の子っぽい……。え、男なの? 女なの? どっち?)
フールがそんな疑問を抱いていると、心を見透かしたかのようにポチエナ――水芹に睨まれた。あはは、と苦笑いでごまかすが効果はないだろう。
するとドライがその間に入った。
「ちょっと、水芹。フールちゃんを苛めないでよね!? ったく、可愛い女の子に威嚇するなんてありえないんだけど!」
「女にナンパする女もありえないだろ」
ごもっともな指摘である。しかしドライは気にしていないようで、フールに抱きつきながら「可愛いは正義なんですぅ」とか訳の分からないことを言っている。
御月は無関心だったが、水芹の名前を聞いた途端にシャドウを見た。そして話しかける。
「……俺の名前を聞いて「漢字≠フ名前の奴には初めて会った」とか言ってなかったか? 完全に……水芹は、漢字≠フ名前だけど。聞くところによるとそこのチラーミィ、アリスもだろ」
「ハハッ、目敏いナ。深い意味はねーヨ?」
シャドウが軽く返す。少し目を細めた御月だったが、すぐに関心が薄れたのかクレディアと水芹たちの方を見た。
いつの間にかアリスも会話に加わっている。
「……水芹は、これでも男だから……勘違いしないであげてください」
「見たら分かるだろうが。一々説明すんな」
「いや、分かんないから。頭の片隅で僕っ娘なのかなって考えたぐらいだから」
「やっぱお前は僕に殴られたいのか?」
「殴り返すわよ」
出会ってまだそんなに経っていないというのに、水芹とフールが火花を散らす。完全に敵認識したようだ。
クレディアはただただ首を傾げ、ドライは「かわいー!!」とか言って抱きついている。アリスはそれを冷めた目で見て、シャドウは笑い転げていた。
それぞれすぎる反応に、たった1匹だけは
「…………帰りてぇ」
面倒くさそうに、そう呟いていた。