27話 再起へ
「らんたったー♪」
(また変な歌を歌ってやがる……)
「クレディア、それは素なんだよね? 別に何かを指摘してほしいわけじゃないんだよね?」
「えっ、何が? あっ、フーちゃんも一緒に歌いたいの?」
いや違ぇよ。御月は口では言わないが、頭の中でツッコむ。
フールがクレディアの発言にため息をついたと同時。家を出て掲示板の近くまで来たときだった。
「ドテッコーーーーーーツッ!!」
聞き覚えのある声と言葉がした。
するとヴィゴと、そしてその後ろからマハトとポデルがついてきて、フール達の前で止まった。フールはそれに首を傾げる。
「ん? どかした?」
「決めたんだ」
「……何を?」
訝しげな目をしながらフールはヴィゴを見る。ヴィゴはそんな目線を気にも留めていないようで、そのまま続けた。
「今日から俺もここで店をやることにしたぜ!!」
「えっ……え?」
ヴィゴの言葉に、フールが唖然とする。御月は目を細め、クレディアは「おぉっ」と何故か感激している。
そのままヴィゴは少し嬉しそうに続けた。
「もう1度、大工の仕事をちゃんとやろうと思ってな。あとどうせならお前らの役にもたちたいから、店もすぐ傍に構えた方がいいと思ったんだ」
ほほぅ、とフールが納得したような声を出す。
すると後ろからポデルとポデルが会話に加わった。
「……というのは実は口実で」
「シリュアちゃんの近くにいたいというのが本音らしい」
「お、オメェら! 余計なことを……!」
マハトがそう言った瞬間、ぴしっとフールの笑顔が固る。
ヴィゴは弟子2匹に殴りかかろうとするが、素敵な作り笑顔をしたフールの発言で固まった。
「へー……。へぇー、まあ美人の近くにいた方がいいもんねぇ。まー、私たちじゃなくてシリュアの役にたって自分の株をあげたいもんねぇ。好きな子だもねぇ、仕方ないわよねー。
あー、超その気持ちわかるわー。分かりすぎて電気ショック撃ちたくなっちゃったー」
「ちょ、ちょっ、待て! 話せば分かる!!」
棒読みしながら本気で電気ショックの準備をしているフールに、ヴィゴが何とか弁解しようと言葉を紡ごうとする。
クレディアは何も分かっていないようで首を傾げ、御月はため息をついた。そして小さく「……んなことだろうと思った」と呟く。
そして電気ショック炸裂まで、3,2,1というところで
「ヴィゴじゃねぇか!」
少し離れたところから声が聞こえた。
ヴィゴはそちらを向くと、目を丸くした。以前まで、自分とグルになっていた者。
「なっ……ヴェスト!?」
「ヴィゴお前……いつの間にコイツらとそんな仲良く…………も、見えないかな……」
フールの様子を見て、ヴェストの声がどんどん小さくなる。
「うふふ」と笑いながら手に電気を溜めている様は、ちょっと笑えない。更にその笑顔はとても黒いもので、恐怖すら覚える。
ヴィゴは何とか回避しようと、ヴェストに話しかけた。
「お、オメェこそなんでこんな所にいるんだよ!?」
「そ……それ、は…………」
ちら、とヴェストが右の方向を見る。そこにはいつもと変わらずぬぼーっとした様子のセロ。
そしてセロが自分の方を向こうとした瞬間、慌てて顔を逸らした。
「し、仕方ねぇんだよ! お、大人の事情だ!! お、俺は……俺はこんなとこにいたくねぇんだよ! うわぁぁぁぁぁんっ!!」
そう言って、号泣しだした。セロは全く気にしていないようで、いつも通りぬぼーっとしている。
「…………何か、深い訳がありそうだな」
そんなヴェストを見て、何かを悟ったかのような目をしてヴィゴはそう呟いた。あれは嘘泣きではない。本気で泣いている。
クレディアが「大丈夫かな?」と言って慰めに行こうとすると、御月に止められた。まあクレディアが行ったら逆効果にしかならない気もするので、正解だろう。
「……そうね。君とは違ってふかぁい訳がありそうね。とにかくこれでも喰らえ!!」
「ぐああぁぁ!? ほ、本気でやる奴があるか!?」
「え、もう一発? やぁね、そうならそうと早く言ってくれればいいのにぃ♪」
「すみませんでしたぁッ!!」
フールに電気ショックを放たれて抗議の声をあげたヴィゴだが、フールがもう一発用意しているのを見て土下座の勢いでヴィゴが謝った。この電気鼠なら本気でやりかねない。そう判断したのだ。
そして後ろにいる自身の弟子に「テメェら後で覚えとけよ……」という睨みをきかせてから、フールたちに話しかけた。
「……ま、まあそういう訳だ。今日から俺もここで店を開きたいんだが、いいか?」
「ヴィゴさんやる気になってくれたんだねーっ! すっごい嬉しいよ!」
ニコニコしながらクレディアがそう言う。それを見て「シリュアの近くにいたいから」という本音を申し訳なくなってしまったヴィゴだった。こんな純粋な笑顔で歓迎されるとは思っても見なかったのだ。さすがクレディア。
クレディアからは熱烈な歓迎、フールからは冷たい目線を、御月は呆れたといった反応を貰ったヴィゴ。
そしてフールが「はぁ」とため息をついた。
「ま、別にいーけど。見たところ、私たちが「いい」って言うと思って店を建てちゃったわけでしょ?」
「おう! 実はもう建てた」
そういって、ヴィゴが後方にある建物を指す。昨日まではなかった物だ。
四角いコンクリートの小さな建物に、いつもヴィゴが持っている大きな赤い角材がついていた。分かりやすい建物だ。
ヴィゴはその建物を見ながら、少し胸を張って言った。
「あそこが俺の店、ドテッコツ組だ! どうだ、カッコいいだろ!?」
「うん、すっごいカッコいい! すっごいいいと思うよ!!」
キラキラと、小さな子どもが何か新しい物を発見したような目でクレディアが言う。フールと御月は微妙な顔をしているが、ヴィゴはクレディアの反応だけで満足なのか、「だろう!」と自慢げだった。
そしてその勢いのままヴィゴは続けた。
「という訳で今日から此処で大工の仕事をやるから宜しくな! ……ただ、やっぱりブランクがあるから自信はねぇんだ」
しかし勢いはすぐなくなり、ヴィゴは暗い表情で続ける。
すると先ほどまでヴィゴの自慢話もどきにうんざりしていたフールの様子が一変して、励ますような態度になった。
「そんなことないって! 私たちの家はあんなに立派に建ててくれたじゃない!」
「……そうなんだが、ただ、商売をするならもう少し腕を上げとかなきゃ……商売にならねぇかなって。
ここのところ毎日 大工の技を磨いているんだが、なかなか難しくてよ……。せめてじょうぶなツタ≠れば……な……」
「そのじょうぶなツタ≠ェあればいいの?」
クレディアが会話にいきなり加わる。首を傾げながら、いつもの雰囲気を纏わせながら。ヴィゴはその言葉に目を見開く。
するとクレディアの言葉にノるように、フールも頷いた。
「まあ、とりあえず何処にあるかどうか教えてくれれば。ヴィゴは練習に専念したいだろうし、ね」
「お、おう。じょうぶなツタ≠ヘ依頼のお礼でもらえる。じょうぶなツタ≠ェお礼にある依頼を受けてクリアすれば、手に入るはずだ。何から何まですまねぇな」
「ううんっ、ヴィゴさんも頑張ってね!」
クレディアがそう言うと、ヴィゴは笑顔で「あぁ」と言って建物の方に向かっていく。マハトとポデルも一礼してからそれについていく。
建物の近くまで行ってから、ヴィゴが2匹をボコボコにしてる姿をクレディアに見せないようにながら、フールは掲示板の方に向かっていくのだった。
「……ご愁傷様」
御月はボコボコにされている2匹に小さくそう呟いてから。