夢と星に輝きを ―心の境界―








小説トップ
3章 多彩な邂逅
26話 幼き天才
「……私、依頼は受けるなって言ったはずなんだけど。ていうか御月がいながら何やってんの」

 はぁ、とため息をつきながらフールはクレディアの傷に薬を塗る。リゲルはシリュアに、御月はクライにやってもらっていた。
 あの爆発で少し怪我はしたものの、結局は無事。しかし先に帰ってきていたフールに呆れられる羽目になった。当たり前だ。やるなと忠告しておいてのコレなのだから。
 するとクレディアは「あのね」とフールに話しかけた。

「みっくんは悪くないんだよ。私の我侭だったんだから」

「も、元はといえばリィが依頼を出して未完成品を試そうとしたから……!」

「んー、責める気とか怒る気はないから」

 呆れてるだけ。と言ってフールは薬を片付ける。
 そして御月はぎろりとリゲルを睨んだ。リゲルは首を傾げる。

「何なのだ?」

「何なのだ、じゃねぇよ! 未完成品を試そうとしたなんざ初耳だ、アホ! つーかよく試す気になったな!?」

「だから依頼には完成品とは書いていないのだ!」

「開き直るな!!」

 自分に過失はないですというようなリゲルに御月が怒鳴る。御月は正論しか言っていない。
 クレディアはそんな2匹を微笑ましげに見ながら、フールに話しかけた。

「でも凄いよね。あんなに小さいのに発明家だよ?」

「うん、まあそうだね。でもクレディア。これから無茶は禁止だから」

「だいじょーぶ! 元気!!」

「いや、元気じゃなくってね!?」

 クレディアは全く分かっていないといったように首を傾げる。その様子を見てフールはため息をついた。この調子では何をいってもムダだろう。
 そしてフールはリゲルに目をうつす。

「それで……リゲル、だっけ。報酬はもらったし……君はこれからどうするの?」

「んー、此処にいるつもりなのだ。宿場町には来てみたかったし!」

 ニッとリゲルが笑ってみせる。リゲルの言葉から、宿場町はどうやら有名らしい。
 するとシリュアが「ちょっといいかしら?」が会話に加わってきた。それに全員が首を傾げる。
 全く回りの様子を気にせず、シリュアはリゲルに尋ねた。

「リゲル・ムーリフって……新しいチームバッチの開発に携わっているっていう噂がなかったかしら?」

「んー、確かに1ヵ月前まではやってたけど抜けたのだ。ある程度の案も出したし、リィだってやりたいことがあったし」

「ね、ねぇシリュア。もしかしてリゲルって凄いポケモンだったりするの……?」

 嘘でしょ? とでも言いたげにフールがリゲルを指さす。
 するとシリュアはにっこり笑ってから、フールの質問に答えた。


「疾風のように現れ疾風のように去る天才発明家リゲル=B最近では有名よ?」


「え、えぇぇぇぇぇぇッ!?」

「ま、マジか!?」

 フールとレトが驚愕した表情でリゲルを見る。
 リゲルはその様子を見て得意気に笑い、ピースサインを突き出した。

「リィは結構凄いのだぞ!」

「その凄ぇ奴が何であんな大爆発おこすような機械を作んだアホ!!」

「あだっ!! な、何をするのだ!?」

 御月が青筋を浮かべながらリゲルの頭を叩く。音からして、手加減はしているようだ。しかしリゲルにとっては痛かったらしく、頭をおさえながら御月を睨む。
 そしてクライがリゲルに「えっと、」と声をかけた。

「じゃあ……その天才発明家さんの機械が何でこんな惨事に?」

「むぅ。偶々、とか言いたいけど……お兄が「嘘はダメ」って言ってたから……。
 これまで出してきた発明品は、全部リィ1匹だけで作った物じゃない。確かにリィが作った物なのだけど、誰かの手助けをしてもらっての発明品なのだ」

 むすっとした顔でリゲルがぽつりぽつりと訳を話していく。
 『プロキオン』は黙ってリゲルの話を聞く。リゲルはがしがしと自分の頭を掻いた。

「だからリィ1匹だけで何かを作ろうとしたのだが……どうしても、上手くいかないのだ」

「……つまり、お前がやりてぇことってのは1匹で発明品を作るってことか」

「のだ。ただこの通り爆発するわ、効果はないわで前途多難なのだ!!」

 うーむ、とリゲルが両手を組んで考え込む。
 クレディアはあのとき爆発した破片を弄りながら、リゲルに話しかけた。

「でも凄いよね。名前が残るってことは、それほど凄い物をリィちゃんは作ってるってことでしょう? それに失敗しちゃったけど、1匹だけでこんなの作れちゃうんだもの」

「でも失敗したら意味がないのだ。……でも、」

「ん?」

 今まで浮かなかった顔していたリゲルが、笑顔を見せた。


「誰かの役にたつような物を作るために、リィはまだまだ頑張ろうと思う」


「……うん、そうだね! 私も負けないように頑張らなくっちゃっ!」

 ニコ、とクレディアが笑顔を見せる。
 リゲルはリゲルなりの、目標があるらしい。こんなに幼くして、こんな大きい目標がある。それはとても喜ばしいことだろう。
 するとフールが会話に加わった。

「しっかしリゲル、君ずっと1匹でウロウロしてたわけ? 家は?」

「家はもっと遠くの方! こっちには……まあ、アイディアを求めてきたのだ。それに宿場町は希望の虹≠ェ見えるって有名だから……見たらリィも上手くできると思ったのだ!」

「……あー…………」

 目を輝かせてリゲルがそう告げる。
 全員希望の虹≠ニ聞いた瞬間に顔を顰めた。今、この宿場町ではそれが見れない。シリュアもこの目的のために来たと言っていたこともあり、希望の虹≠ヘ本当に有名らしい。
 全員が気まずそうにしていると、クレディアが言い放った。

「希望の虹≠ヘ、今は見れないんだって。リィちゃん」

「は、見れない……!?」

「うん。何か最近見れなくなっちゃったらしくて……私たち誰も見たことないよ」

「そ、そんな……!? で、ではリィが此処まで来た意味は!?」

「まあ……ムダ?」

「おい、フール。んなはっきり言うと……手遅れか」

 フールの言葉を聞いてがくっと落ち込んでしまったリゲル。御月はフールを咎めたが、遅かったらしい。
 するとピッと何かが鳴った。

「「「「「「ん?」」」」」」

 落ち込んでいたリゲルも、呆れたようにしていた御月も、全員が首を傾げる。
 音の元凶を見ると……クレディア。クレディアの手元にある機械が、キラキラと水を出して小さな虹を作っていた。

「わぁっ、リィちゃん、小さいけどこれも虹だよ!!」

「虹! 久々に見たのだ!!」

 もう希望の虹≠見なくてもコイツは満足するのでは。
 そんなことを全員が思ったのだが、幸せそうな笑顔を撒き散らしている2匹(言わずもがなリゲルとクレディア)には何もいえない。
 そして盛り上がっていると「ピーーーーーーーーーーーッ」と、機械が音を鳴らした。

「「「「「「えっ」」」」」」

 とても嫌な音、そして予感。
 そしてクレディアの手元にある機械は――ボンッと音を立てて小さく爆発した。そのせいで辺りに煙がたちこめる。
 フールは遠くにいたため被害を受けなかった。しかし近くにいたクレディアとリゲルというと

「ゴホッ、ケホッケホッ……! ば、爆発しちゃった……」

「……まだまだ、虹を見るのはリィには無理ってことなのだ……」

 煤で真っ黒になっていた。こんなときでも笑顔なクレディアと、がっくり肩を落とすリゲル。

 どうやら天才発明家リゲル≠ヘ、見習い天才発明家リゲル≠フようだ。

 そんなことを思いながら、5匹はため息をついて2匹の治療を再び開始するのだった。

■筆者メッセージ
まあ生き抜き程度なお話でした!
正直に言うとリゲルの語尾つけるのが凄く面倒くさい!
今は春休みだからこんなに更新できちゃうんですよー……。休みって素晴らしい!
アクア ( 2014/03/31(月) 21:19 )