26話 幼き天才
「……私、依頼は受けるなって言ったはずなんだけど。ていうか御月がいながら何やってんの」
はぁ、とため息をつきながらフールはクレディアの傷に薬を塗る。リゲルはシリュアに、御月はクライにやってもらっていた。
あの爆発で少し怪我はしたものの、結局は無事。しかし先に帰ってきていたフールに呆れられる羽目になった。当たり前だ。やるなと忠告しておいてのコレなのだから。
するとクレディアは「あのね」とフールに話しかけた。
「みっくんは悪くないんだよ。私の我侭だったんだから」
「も、元はといえばリィが依頼を出して未完成品を試そうとしたから……!」
「んー、責める気とか怒る気はないから」
呆れてるだけ。と言ってフールは薬を片付ける。
そして御月はぎろりとリゲルを睨んだ。リゲルは首を傾げる。
「何なのだ?」
「何なのだ、じゃねぇよ! 未完成品を試そうとしたなんざ初耳だ、アホ! つーかよく試す気になったな!?」
「だから依頼には完成品とは書いていないのだ!」
「開き直るな!!」
自分に過失はないですというようなリゲルに御月が怒鳴る。御月は正論しか言っていない。
クレディアはそんな2匹を微笑ましげに見ながら、フールに話しかけた。
「でも凄いよね。あんなに小さいのに発明家だよ?」
「うん、まあそうだね。でもクレディア。これから無茶は禁止だから」
「だいじょーぶ! 元気!!」
「いや、元気じゃなくってね!?」
クレディアは全く分かっていないといったように首を傾げる。その様子を見てフールはため息をついた。この調子では何をいってもムダだろう。
そしてフールはリゲルに目をうつす。
「それで……リゲル、だっけ。報酬はもらったし……君はこれからどうするの?」
「んー、此処にいるつもりなのだ。宿場町には来てみたかったし!」
ニッとリゲルが笑ってみせる。リゲルの言葉から、宿場町はどうやら有名らしい。
するとシリュアが「ちょっといいかしら?」が会話に加わってきた。それに全員が首を傾げる。
全く回りの様子を気にせず、シリュアはリゲルに尋ねた。
「リゲル・ムーリフって……新しいチームバッチの開発に携わっているっていう噂がなかったかしら?」
「んー、確かに1ヵ月前まではやってたけど抜けたのだ。ある程度の案も出したし、リィだってやりたいことがあったし」
「ね、ねぇシリュア。もしかしてリゲルって凄いポケモンだったりするの……?」
嘘でしょ? とでも言いたげにフールがリゲルを指さす。
するとシリュアはにっこり笑ってから、フールの質問に答えた。
「疾風のように現れ疾風のように去る天才発明家リゲル=B最近では有名よ?」
「え、えぇぇぇぇぇぇッ!?」
「ま、マジか!?」
フールとレトが驚愕した表情でリゲルを見る。
リゲルはその様子を見て得意気に笑い、ピースサインを突き出した。
「リィは結構凄いのだぞ!」
「その凄ぇ奴が何であんな大爆発おこすような機械を作んだアホ!!」
「あだっ!! な、何をするのだ!?」
御月が青筋を浮かべながらリゲルの頭を叩く。音からして、手加減はしているようだ。しかしリゲルにとっては痛かったらしく、頭をおさえながら御月を睨む。
そしてクライがリゲルに「えっと、」と声をかけた。
「じゃあ……その天才発明家さんの機械が何でこんな惨事に?」
「むぅ。偶々、とか言いたいけど……お兄が「嘘はダメ」って言ってたから……。
これまで出してきた発明品は、全部リィ1匹だけで作った物じゃない。確かにリィが作った物なのだけど、誰かの手助けをしてもらっての発明品なのだ」
むすっとした顔でリゲルがぽつりぽつりと訳を話していく。
『プロキオン』は黙ってリゲルの話を聞く。リゲルはがしがしと自分の頭を掻いた。
「だからリィ1匹だけで何かを作ろうとしたのだが……どうしても、上手くいかないのだ」
「……つまり、お前がやりてぇことってのは1匹で発明品を作るってことか」
「のだ。ただこの通り爆発するわ、効果はないわで前途多難なのだ!!」
うーむ、とリゲルが両手を組んで考え込む。
クレディアはあのとき爆発した破片を弄りながら、リゲルに話しかけた。
「でも凄いよね。名前が残るってことは、それほど凄い物をリィちゃんは作ってるってことでしょう? それに失敗しちゃったけど、1匹だけでこんなの作れちゃうんだもの」
「でも失敗したら意味がないのだ。……でも、」
「ん?」
今まで浮かなかった顔していたリゲルが、笑顔を見せた。
「誰かの役にたつような物を作るために、リィはまだまだ頑張ろうと思う」
「……うん、そうだね! 私も負けないように頑張らなくっちゃっ!」
ニコ、とクレディアが笑顔を見せる。
リゲルはリゲルなりの、目標があるらしい。こんなに幼くして、こんな大きい目標がある。それはとても喜ばしいことだろう。
するとフールが会話に加わった。
「しっかしリゲル、君ずっと1匹でウロウロしてたわけ? 家は?」
「家はもっと遠くの方! こっちには……まあ、アイディアを求めてきたのだ。それに宿場町は希望の虹≠ェ見えるって有名だから……見たらリィも上手くできると思ったのだ!」
「……あー…………」
目を輝かせてリゲルがそう告げる。
全員希望の虹≠ニ聞いた瞬間に顔を顰めた。今、この宿場町ではそれが見れない。シリュアもこの目的のために来たと言っていたこともあり、希望の虹≠ヘ本当に有名らしい。
全員が気まずそうにしていると、クレディアが言い放った。
「希望の虹≠ヘ、今は見れないんだって。リィちゃん」
「は、見れない……!?」
「うん。何か最近見れなくなっちゃったらしくて……私たち誰も見たことないよ」
「そ、そんな……!? で、ではリィが此処まで来た意味は!?」
「まあ……ムダ?」
「おい、フール。んなはっきり言うと……手遅れか」
フールの言葉を聞いてがくっと落ち込んでしまったリゲル。御月はフールを咎めたが、遅かったらしい。
するとピッと何かが鳴った。
「「「「「「ん?」」」」」」
落ち込んでいたリゲルも、呆れたようにしていた御月も、全員が首を傾げる。
音の元凶を見ると……クレディア。クレディアの手元にある機械が、キラキラと水を出して小さな虹を作っていた。
「わぁっ、リィちゃん、小さいけどこれも虹だよ!!」
「虹! 久々に見たのだ!!」
もう希望の虹≠見なくてもコイツは満足するのでは。
そんなことを全員が思ったのだが、幸せそうな笑顔を撒き散らしている2匹(言わずもがなリゲルとクレディア)には何もいえない。
そして盛り上がっていると「ピーーーーーーーーーーーッ」と、機械が音を鳴らした。
「「「「「「えっ」」」」」」
とても嫌な音、そして予感。
そしてクレディアの手元にある機械は――ボンッと音を立てて小さく爆発した。そのせいで辺りに煙がたちこめる。
フールは遠くにいたため被害を受けなかった。しかし近くにいたクレディアとリゲルというと
「ゴホッ、ケホッケホッ……! ば、爆発しちゃった……」
「……まだまだ、虹を見るのはリィには無理ってことなのだ……」
煤で真っ黒になっていた。こんなときでも笑顔なクレディアと、がっくり肩を落とすリゲル。
どうやら天才発明家リゲル≠ヘ、見習い天才発明家リゲル≠フようだ。
そんなことを思いながら、5匹はため息をついて2匹の治療を再び開始するのだった。