25話 発明家
クライが薄緑色、レトが赤色、シリュアが紺色のスカーフをつけ、いかにも「私たち同じチームです」と主張しまくった感じになってしまった『プロキオン』。
最近ではシリュアが入ったことにより、宿場町で馴染みのポケモンには『プロキオン』の名はすっかり知れ渡ってしまった。
それから数日たったある日。
「あれ、」
クレディアはぴたりと、掲示板に貼ってあるある依頼を見て、足を止めた。
今日の出撃メンバーはフール、クライ、レト、シリュア。この面子になった理由はフールが「クライの恋を応援しつつレトとシリュアの仲をよくしよう」作戦という、何ともネーミングセンス皆無な作戦が決行されたからだ。
よって今日の留守番組は、クレディアと御月。御月はバイトに行ってるため、クレディアは1匹。
色々なことを試したため、もう昼になっている。
しかしクレディアは次にやろうとしていた事より、掲示板になる依頼の方が気になった。それをじーっと眺める。
「……これなら、私でもできるんじゃないかなぁ」
そうポツリと呟く。
だがクレディアは依頼をとることが出来ない。何故なら依頼に行く前、フールが「勝手に依頼を受けちゃダメだからね」と釘を刺していったから。
クレディアは「うーん」と少し悩んだ後、だっと駆け出した。……駆け出したといっても、元々足も遅いのであまり駆け出したともいえないが。
「あ? 依頼?」
そしてクレディアが来たところは、食堂。もっと言えば、御月に会いに来たのだ。
御月は休憩中ということで椅子に座り、テーブルを挟んだ正面にクレディアが座って、御月に話していた。
「私でも出来そうだったからいいかなぁって。フーちゃんには「ダメだよ」って言われたけど……でも、一応みっくんに意見を聞いておこうと思って!」
「……過保護だな、フール。まあいい。で、その依頼ってのはどんなんだ?」
フールの過保護っぷに御月は少しながら引いていた。けれどもその過保護の対象がクレディアであるため、何故か御月は納得できてしまった。
実際、御月も依頼はやらせない方がいいと思ってはいるのだが、一応聞いておこうと思ってそう聞いた。クレディアは嬉しそうにニコニコと純粋な笑顔で依頼内容を言った。
「発明品を見てください、っていう依頼! ね、私でもできそうでしょ?」
「…………あぁ、そうだな。お前でもできそうだよ」
本当に簡単な依頼に、御月は思わず呆気にとられてしまった。そして頭に片手をあてて適当に返事をする。
しかしフールには「やるな」と言われている。もし勝手な判断でクレディアに大変な目にでもあわせた日には、フールの電気ショックが待っているのは明確だ。
御月ははぁとため息をついてから、クレディアに「待っとけ」と言って動いた。
「レアさん、ちょっと出てくるから。悪ぃけど今日はこれであがる」
「おや、珍しいね。あぁ……そういうこと」
レアはクレディアを見て全ての察しがついたようで、深い追求はしてこなかった。
御月はそのまま「行くぞ」と言って、そのまま食堂を出て行った。クレディアは慌ててレアに「お邪魔しました!」と言ってから、御月の後を追った。
それを見ながら、
「やっぱり世話焼きだねぇ……。悪いことではないんだけど」
とレアはぽつりと呟いた。
ロナに依頼の紙を渡してから、依頼ゲートをくぐって2匹が依頼に書いてある指定の場所へと向かう。勿論クレディアの言うことが間違っていないかどうか、依頼の紙を御月がしっかり確認してから出てきた。
依頼は本当に簡潔でクレディア「発明品を見てください」という依頼で、お礼はかなり安い。
「……此処か」
「誰もいないねー。まだ来てないのかなぁ?」
御月が止まると、きょろきょろとクレディアが辺りを見渡す。クレディアが言ったとおり、誰もいなかった。御月も辺りを見るが、何もいない。
指定されたのは、宿場町から近い草原だった。
「ま、とりあえず待つ――」
「レッツゴー!!」
か、と御月が言ったと同時に何処からか楽しそうな声が聞こえた。それはクレディアよりも高い声で、幼い声。
2匹がそちらを見ようと振り返ると、青い煙が2匹の方に向かっていた。
「え、」
「なっ、」
咄嗟のことでどうしようもなく、目を瞑るだけして青い煙をまともに受ける。
暫くしてクレディアと御月は、ゆっくりと目を開く。そして体に異変がないか動かすが、全くといっていいほど異変がない。
「おいクレディア。大丈夫か?」
「うんっ。私はだいじょーぶ! でも何だったんだろうね……」
「犯人ならそこにいんぞ」
スッと御月が何でもないように指をさす。クレディアがそちらを見ると、先ほどまでいなかった者がいた。
その者――ピチューはちょこちょこと走って、クレディア達の元まで来た。
「ま、まさか失敗……!?」
先ほど、いきなり聞こえた声と同じ、高くて幼い声。そのピチューは絶望したような顔で駆け寄ってきた。
そのピチューは格好もかなり特殊で、赤いベレー帽に赤縁メガネをかけている。そして声から分かるように幼いのか、体も小さめだった。そのためクレディア達に駆け寄るのも少し時間がかかった。
ピチューが近づいて来るや否や、御月は思いきり小さな頭を叩いた。
「みっくんダメだよ! 暴力はだめっ!!」
「いや、こいつが悪いだろ。つーかそれはフールにも言え」
ピチューはよほど痛かったのか、痛みに悶絶している。そして涙目になりながら御月を睨んだ。
「何をするのだ!?」
「お前こそ何やってんだ。いきなりあんな青色の変な物体を撃ちやがって。あれお前の仕業だろ」
御月の言葉を無視し、クレディアが「だいじょーぶ?」と言いながらピチューの頭を撫でる。
すぐに「甘やかすな」と御月が言ってクレディアを引き剥がす。そしてピチューに質問を続けた。どうやら年下だからといって容赦はないらしい。
「で、お前は誰だ」
「リ、リゲル・ムーリフ……。た、確かにいきなりは悪かったと思ってるのだ……」
何かついて回る語尾があんな、などと思いながら御月が話しかけようとする。しかしクレディアに先を越されてしまい、できなかった。
「私は冒険チーム『プロキオン』のメンバーの、クレディア・フォラムディだよ!」
「……同じく、朝比奈 御月」
流石に自己紹介はしておかなければならないと思った御月も、クレディアに倣って自己紹介をする。
リゲルと名乗ったピチューは涙を拭い、えっへんと胸を張った。
「リィは発明家なのだ! それで依頼で「発明品を見て欲しい」と送って……それで見たのがクレディアたちでは?」
「……あぁ。依頼を見てきたのが俺らだよ。それで発明品って、」
「だから来たときに早速試したのだ」
けろりと言ったリゲルに、思わず御月がため息をついた。
クレディアは一切気にしていないようで、リゲルに話しかけていた。
「早速って……あの青いやつ?」
「ん、そうなのだ」
全く気にしていないといったように、リゲルは言ってのける。クレディアは気にしていないようだが、十分問題行動だ。もしそれが有害な物だったらどうするつもりだったのか。
それを考えて御月はさらに顔を顰めた。考えるだけで頭が痛くなる。そんなことを思いながら。
「で? アレは何だったんだよ」
「よく聞いてくれたのだ! アレは喰らった者たちの意識を入れ替える煙――な、はずなのだ……」
結果、クレディアと御月は入れ替わったりなどしていないが。クレディアはそれを聞いて何故か目を輝かせている。
一方、御月ははっきりと事実を言った。
「……失敗作ってワケかよ」
「ち、違う! た、確かに今回は成功しなかったのだけど、何かが、何かが足りなかっただけなのだ!!」
「それを失敗っていうんだろうが」
キッパリと御月が事実を言う。そして次の瞬間、御月はギョッとする羽目になった。
何故ならリゲルが泣きそうになっているからだ。「これくらいで泣くもんか!?」と御月が普通に驚いていると、クレディアが笑顔で話しかけた。
「失敗は悪いことじゃないよ。寧ろいいことなんだから。これで足りないものが何か、リィちゃん気付くことが出来るもんね!」
「……ん、」
グスッと鼻を啜りながら、リゲルが頷く。何とかクレディアの宥めの言葉は成功したようだ。
御月がほっとしていると、クレディアが「他に発明品はあるの?」とたずねた。するとリゲルは途端に元気になり、持っていたバッグからごそごそと取り出す。
「これ! お天気コロコロ変化マシーン!」
「わぁっ、何かよく分かんないけど凄そう!!」
(ネーミングセンス……。そしてクレディア……)
下手に発言してリゲルを泣かしたらいけないと思って、御月は黙る。しかしリゲルとクレディアの会話の内容を聞いていると、何ともいえない表情をするしかなかった。
そんな御月には気付かず、2匹は続ける。
「今は快晴だから……とりあえず、雨にしてみるのだ!」
「そだね! わぁ、どんな感じで変わるんだろう……」
マシーンの準備をするリゲル。それをわくわくと待つクレディア。そして傍観しているだけの御月。
準備が終わったようで、リゲルはくるりとクレディア達の方を見た。そして左手をスイッチと思われる場所におき、
「では――スイッチオン!!」
勢いよく押した瞬間――
勢いよく爆発した。