24話 プレゼント
ヴィゴの件で色々あったために逃がしたことを忘れていたものの、フール達はしっかりと覚えている。ただ、何故ここにいるのかは全く分からない。
唖然としている2匹とは別に、クレディアは納得したように声をあげた。
「あーっ! あの時の………………あれ、誰だっけ?」
こてん、と首を傾げたクレディアにフールがズッコける。レトに呆れたように「オーバーすぎるだろ」と言われながら。
御月は嫌悪感を露わにしながら、セロに尋ねた。
「……なんで、ヴェストがいるんすか」
「ワシからのプレゼントだぬ」
「いらないよ! ノーサンキューだよあんな奴! ていうかこの前の借りを返していいかな!? いいよね!?」
ビシッとフールがヴェストを指さしながらセロに抗議する。ヴェストも賑やかな声に気付いてフール達の方を見て、ひくっと頬をひきつらせた。
それと同じようにフールがひくひくと頬をひきつらせながら、戸惑いと怒りが混じって少しばかり震えた声でセロに問う。
「な、何でアイツがプレゼントなわけ……? 返品可能なら返品したいんだけど……」
「返品は受け付けてないだぬー。でも安心するだぬ。ヴェストはもう悪さをしないだぬ」
「……それって根拠あるわけ?」
「ワシがこらしめたからだぬ」
「……セロさん直々とか最悪だな…………」
セロの発言に、「え」といったような顔をフールがする。御月はひきつった笑みをうかべ、冷や汗を流しながらセロを見る。
それを気にしていないセロはそのまま続けた。
「ワシ、悪者は許さんだぬ。ゴリゴリおしおきだぬ。そして迷惑をかけたフール達のためにこれからはサポートすることを約束させただぬ」
「さすがね」
セロの言葉を聞いて、シリュアが関心したように声をあげる。
そのシリュアの言葉に、御月以外のポケモンが首を傾げる。シリュアは笑みを浮かべながら続けた。
「かつては自ら悪者をこらしめ、悪者をこらしめるための組織も作り、その運営に飛び回ったといわれる……。風の噂できくGODセロ≠フ異名は伊達じゃないってことね」
「じ、GODだってぇぇぇぇぇぇぇ!?」
レトが驚愕を露わにしながら大声をあげる。それを聞いてヴェストにしつこく尋ねていたクレディアも戻ってきた。
「よく分かんないけど得体のしれない凄みを感じるぞ!!」
「あ、よく分かんないんだ」
「GOD……つまり神様? ……あ、でもこの世界に英語はないんだっけ……」
レトの言葉を聞いて、フールが小さく呟く。クレディアもブツブツと何かを呟くが、それは誰にも拾われることはなかった。
それからフールがセロに目をむけ、聞いた。
「セ、セロって……まさか、凄いポケモンだったりするの?」
「いやいや。昔とった杵柄だぬ。まあ昔はワシもその業界では有名だっただぬ。……あっ、ちょっと自慢話…………ぽっ」
「何で頬を赤らめたんすか」
赤面したセロに、この前は黙っていた御月が声をだしてツッコむ。
しかしすぐにセロはそれを引っ込めた。
「……とかやってる場合じゃないだぬ。これから説明するからしっかり聞くだぬよ。
これからはメンバーの中から出撃するメンバーを編成してダンジョンに行くことになるだぬ。出撃メンバーは多くて4匹までだぬ。それ以上ではいけないだぬ」
「あ、そっか。私たちは6匹だから……」
「誰かが余ることになるわね」
セロの言葉にフールとシリュアが反応する。
2匹の言葉にセロは「そうだぬ」と頷いてから、説明を続けた。
「余ったポケモンはここで留守番することになるだぬ。その余ったポケモンで、依頼にいくというのも1つの手だぬよ」
「でも御月はどーせ留守番中はバイトすんでしょ?」
「……その咎めるような視線やめろ」
フールの冷たい目に、御月が顔を顰めながら言う。
少し険悪なムードになりつつある時、レトが「あ!」とある方向を指さした。それに反応したため、険悪なムードが和らぐ。
全員がレトが指さした方を見ると、ペリッパーが飛んでいた。そしておもむろに持っていた箱を落とし、そのまま飛び去ってしまう。間違って落とした、というわけではないようだ。
フールがいち早く反応し、箱を確認する。そして嬉しそうに口を開いた。
「わくわく冒険協会≠ゥらだ。私たち『プロキオン』宛になってる」
そしてフールは何のためらいもなく、ウキウキとしながら箱を開ける。そこには1通の手紙とチームバッグ、そしてチームバッチが幾つか入っていた。
フールは手紙を取り出し、声にだして読む。
「えっと……「チーム『プロキオン』様へ。貴女方のチームをここに認め、その証であるチームバッチを送ります。ぜひ冒険に役立ててください。 ―わくわく冒険協会より―」だって」
「わぁっ……!」
「俺たちチームとしてもう認められたのか!」
「流石はわくわく冒険協会=B仕事が早いだぬ」
クライとレトは嬉しそうに、シリュアはその光景を眺める。クレディアは一部始終笑顔で、フールは目をキラキラさせていた。御月は早すぎではないか、と思ったが誰もツッコまないので何も言わなかった。
そしてセロは箱の中から1つバッチを取り出した。
「とりあえずチームバッチについて説明するだぬ。これも大切なことだからよく聞いておくだぬよ。
チームバッチはチームの仲間全員に配られる物だぬ。沢山入っているだぬが、余っているバッチは新たに仲間になったポケモンに渡せばいいだぬ。チームバッチは皆で持つことで効果があるだぬ。その1つが、技の成長だぬ」
「技の……成長……?」
聞きなれない言葉に、クライが首を傾げる。
するとセロではなく、御月が代わりに説明しだした。
「技っていうのは使っているうちに、どんどん強いものになっていくんだ。同じ技でも、初めてのときより後のほうが、必然的に使い方もうまくなって、強くなるだろ? それが技の成長だ。
技の成長とチームバッチの関係性をいうとだな……チームバッチは持っている奴らと、つまりチーム全体で共有される」
「チームで共有?」
「例えば……シリュアがでんこうせっかって技を使い続けて、強いものに成長させたとする。すると初めてでんこうせっかを使う場合でも、チームバッチさえ持っておけばその強いでんこうせっかが使える。
このチームで今でんこうせっかを使えるのはレトだ。つまりレトは成長したでんこうせっかをそのまま、何をせずとも使えるってわけだ。これがチームの共有」
「フン! 俺は別にお前なんかと共有なんてしたくないがな!」
レトが喧嘩腰でシリュアに言う。しかしまたしてもクレディアが「めーっ!」と叱ったため、これ以上なにかいう事は出来なかった。
他の面子がその光景を困ったように見ていると、セロが続けた。
「技について詳しいことはヴェストが説明してくれるだぬ。利用するといいだぬよ」
「ふーん……。ま、私は滅多に利用はしない気がするけど。とりあえず覚えてはおくよ」
すぐには信じられないらしく、フールはそう返す。まあこの間まで敵と見ていた者をいきなり信用しろというのも無理があるだろう。
セロはその返事を気にすることなく、説明を続ける。
「あとチームスキルだぬ。細かいこと省くだぬが……とにかく覚えておくと冒険の役に立つスキルが沢山あるだぬ。これも技の成長と同じく、チームで共有して覚えていくだぬ。
最後は……一応、何か色々と知らなさそうな者がいるから教えておくだぬ」
セロが言った言葉で、全員の視線が同じ者へと向いた。その者は「ん? どうしたの、皆」とただ首を傾げている。
それを気にしても仕方ないので、セロはそのまま言う。
「チームバッチは依頼で「助けて欲しい」といったものを、此処に、送ることができるだぬ。わざわざダンジョンを抜けなくても、直ぐに助けられるようになっているだぬ。
あとは依頼をこなしていけば分かる思うだぬよ」
セロが「説明はこれで終わりだぬ」と言う。
何だかこの短時間で色々と教えてもらった。フールは「えっと……」と言ってセロの方を向いた。
「な、何か何から何までありがとう。……色々とやってもらって……ほんっとありがとね」
「…………ぽっ」
「だから何で赤面するんすか……」
3回目の御月の疑問は、やはり答えられることはなかった。
フールはくるりと振り返り、自身の仲間を見る。そしてニカッと笑顔を見せた。
「とりあえず! これから私たちは1つのチーム、『プロキオン』になった。英雄たちに負けないように、私たちもしっかりやっていこうね!」
「うん! 『プロキオン』 Let's shine! ってね!」
「れ……れっつ、しゃ……?」
発音よく言ったクレディアの言葉が聞けず、全員が首を傾げる。
皆が首を傾げているのを見て、クレディアは英語が使えないということを改めて思い出した。
「あ、そっか……。えっと……Let's shineっていうのは「輝こう」って意味なんだけど……」
「掛け声的な?」
「そうそう! 『プロキオン』って星だから「輝こう!」ていう掛け声いいなぁって思って」
「…………いいね。よし、これから気合いれるときこの掛け声やろう!!」
フールが採用すると提言した瞬間、御月が思いきり顔を顰めた。こういうのをノってやるタイプではないというのはフールも重々承知だ。
しかし、他はそうではない。
「い、いいですね……! カッコいいです!」
「俺もいいと思うぜ! 掛け声っていいな!!」
「私も別に構わないわよ?」
そして見られるのは――御月。
ひくひくと頬をひきつらせていた御月だが、見られるのが耐えられなかったのか、「あー!!」と適当に大きな声をあげた。
「わーったよ! やりゃいいんだろ!!」
「そうそう。やればいいのよ。じゃ、いくよ」
フールが手を出す。するとそれに倣うように全員が手を出す。御月に至っては完全に嫌そうだが。
少し小さな声で打ち合わせをしてから、フールは大声で、掛け声を発した。
「『プロキオン』――」
「「「「「「レッツシャイン!」」」」」」
慣れていないためか発音がクレディア以外は綺麗ではなかった。
しかしフールが「決まった……!」と満足そうに、クレディアが採用されたことに関して嬉しそうにしていた。
ただ1匹、御月だけが「恥ずかしいだけだ……」と頭を抱えていた。
『プロキオン』を結成し、依頼に行って終わった夜。クレディアは黙々と裁縫、フールは読書、御月が静かにベッドに横になっていた。
誰も喋らず、刻一刻と時間が進む。部屋にはフールが本のページをめくる音だけが響く。
そして暫くしてから、クレディアが満面の笑みを浮かべた。
「やっとできたぁ!!」
その言葉に御月が目を開け、クレディアの方を一瞥してから目を閉じる。
フールは読んでいた本から目を離し、クレディアの方を見た。クレディアが両手で自身の目の前に掲げているのは、布。
「……何ができたの?」
そうフールが聞くと、クレディアは嬉しそうに答えた。
「スカーフ! みっくんにね、作り方を教えてもらったの」
ババーン、と自分で効果音をつけながらクレディアがフールに見せる。クレディアの手元にあるのは、オレンジ色のスカーフ。
不意にフールがテーブルに目をうつすと、様々な色の布、おそらくスカーフであろう物があった。
「……また沢山つくったね…………」
「ん、それで、これがフーちゃんの!」
「……へっ? 私の?」
クレディアがきょとんとしているフールに「はいっ!」と嬉しそうに、持っていたオレンジのスカーフを渡す。フールはとりあえず受け取るが、意味を理解していない。
そのままクレディアは嬉々とスカーフの右端を指さした。
「ここ、フーちゃん達はよめないかもしれないけど……プロキオンって、刺繍しておいたの。チーム全員分作ったから、いいかなぁって思って!」
「私のもきちんと刺繍しておいたよ!」とクレディアが自身の右腕を出す。
右手首には、いつも巻いてある桃色のリボン。そのリボンの右端には、『Procyon』と刺繍してある。フールが受け取ったオレンジ色のスカーフを見ると、同じような物があった。
驚いてフールが顔をあげてクレディアを見ると、にっこり笑ってからそのまま1つのスカーフを持って御月の方へ駆け寄っていった。
「これはみっくんの!」
「……はぁ、いらねぇっつったのに……。ありがとよ」
何だかんだ言いながら、御月がクレディアの持ってきた空色のスカーフを受け取る。おそらく同じように右端に『Procyon』と刺繍されているのだろう。
フールはスカーフを再度見てから、自分の首に巻いた。
「……確かにいいかも」
テーブルを見ると、薄緑色、赤色、紺色のスカーフがおいてあった。数からして、クライたちの分。
クレディアはクレディアなりに、チーム『プロキオン』結成を祝福しているのだろう。スカーフが、その表れだろう。
「ちょっ、御月おいとかないでよ! 今すぐつけろ! いーまーすーぐーッ!!」
「うるせぇ! 一々つける必要はねぇだろうが!」
ギャーギャーとフールと御月が騒ぎ出す。
それを何故かクレディアは微笑ましげに、眺めていた。
その夜、クレディアはむくりと起き上がった。隣を見ると、寝ている2匹。
あの後クレディアは寝てしまい、それを見た2匹はバカバカしくなったのかそのまま寝たのだ。
クレディアはそれを知らないのだが、微笑ましい寝顔に微笑んでから、外に出た。外は真っ暗で、快晴のため星がよく見える。月は明るく光り、地上を綺麗に照らしていた。
「……どうしているかなぁ…………」
時折 思い返す、自分の世界のこと。
この世界に来てから結構な月日が経っている。その間、向こうにいる人間は自分を心配しているのだろうか。まず自分がどうなっているのかさえ分からない。
クレディアは目を細めて、星を見た。
「……そういえば私、こうやって外に出て星を眺めたの、初めてだ…………。……こんなに綺麗なんだ」
サァ、と心地のよい風が吹く。
それにあわせて、クレディアの右手首にある桃色のリボンも揺れた。クレディアはそっとそれに触れ、目を伏せる。
「……だいじょうぶ。うん、大丈夫だ」
いつもの口癖を呟いてから、目を開く。
真上を見ると、キラキラと光る、空いっぱいにある星。月は今まで見た月より幾分も大きく見えた。
それを見て、クレディアはニッと笑った。そして
「だいじょーぶ! 私はできる!! だから、だから心配しないでねーーーッ!!」
右手を空に掲げながら、とても大きな声を、大空に向かって張り上げた。大声をだすというのは慣れないのか、やはり咳き込んでしまうが。
そしてフッと笑ってから、家に入り、自分のベッドに寝転がった。