23話 チーム結成
「んん……おはよー……」
「おはよ、フーちゃん」
「お前はもうちょっと早く起きる努力をしろよ……」
寝ぼけ顔プラス寝ぼけた声でフールが朝の挨拶をする。クレディアはそれに笑顔で返し、御月は呆れた顔をしてみせる。
御月は1番最初に起きて朝食作りをし、クレディアはそれの手伝いをしていた。
「……早くって……じゅーぶん……早い、ってのぅ……」
「そうは思わねぇよ。朝食できたし」
はぁ、とため息をつきながらテーブルに御月が料理を並べる。フールは身支度を済ませてから、テーブルの近くに座った。クレディアもそれに倣って座る。全ての料理を並べてから、御月も座った。
そしてクレディアが大きく「いただきまーす!」と言ってから、フールと御月も「いただきます」と言って朝食がはじまった。そのまま黙々と、ともいかずクレディアが時折「おいしいっ!」という声をはさみながら食事は続いた。
全て食べ終わってから、全員で皿の片付けをする。
着々とやっていた御月だったが、何かを思い出したようにフールに話しかけた。
「フール、わくわく冒険協会≠ノ申込書は?」
「そこは抜かりナシよ。きちんと希望しといた。だから近いうちに返事がくると思う」
淡々と交わされる会話。フールと御月は普通に会話をしているが、クレディアは全くついていけていない。
入れるタイミングを見計らって、クレディアが挙手をした。
「ね、わくわく冒険協会≠チて? それに申込書って何の?」
「あぁ。クレディアは知らないよね」
納得した素振りをフールが見せる。クレディアは元は人間。この世界のことを知らないのは仕方のないことだろう。
分かりやすく説明をするため、フールが言葉を探し、ようやく口に出した。
「わくわく冒険協会≠チていうのは……冒険家をサポートするために作られたの。冒険家の仕事は大変だからね。ま、名前は妙だけどきちんとした組織だよ」
「えー楽しい名前で私はいいと思うよ?」
あぁ、クレディアはそういう性格だった。フールと御月が頭を抱えるのを見て、クレディアは首を傾げる。
何とかたて直し、御月が説明を引き継いだ。
「とにかく……わくわく冒険協会≠ナはより安全に冒険できることをモットーに、4匹以上で結成した冒険グループを『チーム』として認める。そしてその『チーム』に冒険に役立つものを提供してるんだ。
その『チーム』を結成するにはわくわく冒険協会≠ノ申込書を希望しなきゃならないんだよ」
「だからフーちゃんとみっくんはそんな会話をしてたんだぁ」
「そうそう。とりあえず昨日で一気に3匹増えて6匹になったから、『チーム』を結成できるってわけ」
ふえぇ、とクレディアがマヌケな声をあげる。
それと同時ぐらいに、大きな声が聞こえた。
「おはようございまーす!!」
クライの声だ。3匹は顔を見合わせてから、家をでる。
「クーくんにレッくん! シーちゃんも! おはよう!!」
「おはよー」
昨日仲間になったばかりの3匹。それぞれ少し違うが、「おはよう」と挨拶してくれた。そして何でかペリッパーもいる。
レトはニカッと笑いながらペリッパーをとちらりと見た。
「ほら、ペリッパーが郵便を届けにきたみたいだぜ」
レトがそう言うとペリッパーはフールに近づき、一通の手紙を渡した。
その手紙を送り主を見て、フールは目を輝かせた。
「わくわく冒険協会≠ゥら! さっすが仕事がはやいわね……。えっーと……「この手紙にチーム名を書いてわくわく冒険協会≠ノ送れば、チームとして登録されます」だって!」
「ぼ、僕たちチームになるんですか?」
「そういうことだな。とりあえず……チームの名前 考えなきゃいけねぇんじゃねぇの?」
フールの手元にある手紙を覗き込みながら、御月がそう告げる。
すると「はいはーい!!」とレトが元気よく挙手をした。
「スーパーエモンガーズとかどうだ!? 格好よくね!?」
「拒否」
「却下じゃなくて拒否!?」
即行で案を否定した御月にレトがツッコむ。
クレディアは呑気に「カッコいいね〜」と賛同しているが、正直レトの意見を取り入れようとしている者は1匹もいない。クレディアを除いては。
揉め始めたレトと御月を見て、フールは気まずそうな顔をしながら言った。
「あのー……盛り上がってるとこ悪いんだけど、私もうチーム名を考えてたんだよね」
「え……マジ?」
「大マジ」
冗談は言っていないという顔でフールが返すと、レトはがっくり肩を落とした。それを見てクライが何とか慰めようと声をかける。
今の状況で話すべきか否か迷ったフールだったが、無言で御月に「早くしろ」というオーラを送られたので話し出した。
「えっとね、クレディアは知らないかもしれないけど……みんな世界を救った英雄って知ってる?」
急に、名前の話とは全く関係のない話をしだしたフール。
フールの言葉を聞いて、シリュアは心当たりがあるようで「あぁ」と言った。
「探検隊『シリウス』でしょう?」
「そうそう! 皆、知ってる?」
フールがそう問いかけると、御月もクライも、そして少し凹んでいるレトも「知っている」と答えた。ただ1匹ついていけないクレディアは首を傾げるばかり。
するとシリュアがそんなクレディアを見かねてか、説明をした。
「有名になったのはつい最近なんだけどね……。とりあえず、長くなるから大まかに説明するわ。
この世界はね、少し前まで危機に瀕していたの。とてもとても暗い、絶望しかない未来になってしまう危機に。その危機を救ったのが探検隊『シリウス』。4匹の探検隊よ。
最近その『シリウス』の冒険が小説になって、有名になっているの」
「ふぇ〜。じゃあそのポケモン達は凄い人、じゃないや、ポケモン達なんだね! 英雄かぁ……」
クレディアが感嘆の声をあげる。かなり省いた説明だったのだが、クレディア的には問題なかったらしい。
納得したクレディアを見て、フールは続きを話し始めた。
「実はね、『シリウス』以外にもいたの。世界の危機を救った英雄は」
「「「「「えっ?」」」」」
クレディアだけでなく、全員が素っ頓狂な声をあげる。
フールは「ふふん」と笑って、得意気に、明るく、そして楽しそうに続けた。
「救助隊『ベテルギウス』。あんま有名じゃないんだけど、一部の地域では有名なんだよ。私も噂で聞いただけなんだけど。
救助隊『ベテルギウス』はすっごい大きな隕石の衝突を防いだの。もし衝突してたら、ほぼ全てのポケモンは生きてなかっただろうね。それほどでかい隕石の衝突を防いだんだよ」
詳しい詳細は私も知らないけどね、とフールは肩をすくめてみせた。そしてそのままフールは同じテンションで続ける。
「その英雄のチームの名前……皆、何かに気付かない?」
口元に笑みをうかべながらフールが聞く。
しばらく悩んでいた5匹だが、クレディアが何かに気付いたように顔をあげた。
「あっ、分かった! 冬の大三角形だ!!」
「クレディアせいかーい!! そう、何の偶然か知らないけど、冬の大三角の2つの星の名前なの!!」
答えを聞いて全員が、あぁ、と納得したような顔をする。
フールは興奮がおさまらない、といったように少し声のボリュームをあげて続けた。
「私はその英雄、『シリウス』と『ベテルギウス』に並べるようなチームにしたい!
だから冬の大三角の中でまだつけられていない名前――『プロキオン』っていうチーム名にしようと思うの!!」
笑顔で、大きな声で嬉しそうに、フールは全ての理由をきっちりと説明してからチーム名を言った。
それを聞いて、それぞれが反応しはじめた。
「それもいいけどよ……スーパーエモンガー」
「レト黙れ。それでいいんじゃね?」
「僕もいい名前だと思います!!」
「私も異論はないわ。理由もしっかりしているしね」
「私は大賛成だよー! チーム『プロキオン』!! カッコいいねっ!」
レトは未だ自分の案を推したいようだが、すぐさま御月にきられ。クライとシリュアは不満は全くないようだった。クレディアは大賛成しているようだが、レトの時とほぼ同じようなので「コイツは何でもいいんじゃないか」と思えてくるほどだ。
とりあえず賛成は得られた、とフールは思ったようで紙のチーム名のところに『プロキオン』と書いた。
そして下を見ると、『リーダー』という欄があった。
「リーダーってどうしよ。御月で登録しとく? それともシリュアとかレトとか? クライやクレディアでもオッケーよ?」
「ざけんな。お前で登録しとけ。チーム名考えたのもお前だし、そもそもチーム作ろうとしたのもお前が発端だろうが」
御月が最もなことを言う。しかしフールは顔をしかめながら反論した。
「だって……何ていうか、リーダーとか向いてなさそうなんだもん……」
(((それは気のせいだろう)))
クライとクレディア以外がそう思った。フールは完全にリーダー気質である。
するとクレディアがいつもの口癖を言いながらフールに話しかけた。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! フーちゃんなら出来るよ!」
「んー……。何かビミョーなんだけど」
「ぼ、僕はフールさんが1番適任だと思いますよ?」
クレディアとクライに推され、フールが「うーん」と本気で悩みだす。
しかし御月にとって時間の無駄だと感じたのか、フールから紙を取り上げて勝手に『リーダー』欄に「フール・ミティス」と名前を記入し、素早くペリッパーに渡した。
あまりの手際のよさにポカーンとしていたフールだが、ペリッパーに渡しているところではっとして抗議をした。
「ちょ、何勝手に書いてんの!? ってあぁ! ペリッパー待ってぇぇぇぇぇ!!」
「時間の無駄だ。どうせリーダーなんてほぼ名だけみたいなモンなんだからいいだろ」
フールの叫びは虚しく、ペリッパーは飛び去ってしまう。
御月は悪びれた様子もなくそう言うが、書かれた本人はそうでもないらしい。フールは御月を肩をがしりと掴んで左右に揺らした。
「何やってくれてんのさぁぁぁぁぁぁ!? もう変えられないよ!! 登録しちゃったよ!!」
「っ――揺らすんじゃねぇアホ!! 俺を殺す気か!?」
「殺す気で揺らしたわ!!」
「肯定すんじゃねぇよ!!」
ワーワーと揉めだした2匹をクレディアは何でか笑顔で、クライは戸惑い、レトとシリュアは呆れて見る。
すると場に拍手がなった。そちらを見ると、
「チーム『プロキオン』! おめでとうだぬ!」
「セロさん! おはよー!!」
セロが拍手をしながら歩み寄ってくる。クレディアはニコニコと挨拶をする。
近くまで来てからセロは歩みを止め、クレディアたちに笑いかけた。
「とうとうクレディア達もチームになったんだぬ! それで……チームになった記念として、ワシからまたまたプレゼントがあるだぬ」
「え、えぇ!? またぁ!?」
フールがセロの言葉に愕然としている間に、セロは「こっちだぬー」と家とは来た道を戻っていく。クレディアはそれに素直についていき、フールたちは互いに顔を見合わせてからついていく。
そして、セロが指さした先にいる人物に、フールと御月は目を丸くした。
「げっ……!?」
「なっ……!?」
驚いている2匹を他所に、クライとレトとシリュアは首を傾げる。3匹が心あたりがなく、フールと御月に心あたりがある。
そこにいたのはヴィゴの一件で出会った悪党――あのときに逃げたヴェストがいた。