夢と星に輝きを ―心の境界―








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2章 1つの星
22話 共闘の後に
「勝っ、た……勝ったぁぁぁぁぁぁ……」

「勝ったぞーーーーッ! 俺たち悪者を追い払ったんだ!」

 はぁ、とフールとクライがへなへなと座り込むのに対し、他は喜びを露わにしていた。フールは苦笑しながらその様子を見る。
 すると御月が首を傾げた。

「つーか何でヴィゴ達がここにいんだよ。助かったっちゃ助かったが……」

「シリュアちゃんが教えてくれたんだよ。クライたちが危ねぇってな」

「シリュアが……?」

 信じられない、といった表情で御月がシリュアを見る。
 それを気にせず、クレディアが「わぁい!」と何でかシリュアに話しかけた。

「やっぱシーちゃんはいい人……じゃないや、ポケモンだったね! ありがとー! 私、さっきの戦闘で色々と教わったぁ!!」

(((((また勝手にあだ名つけてるし……)))))

 本人以外は呆れたような顔をし、シリュアは別段気にしている様子でもなかった。

「見てたのよ。たまたま貴方たちとセロが話しているところをね。全部を聞いたわけではなかったんだけど……それでも大体の察しはついたわ」

「そうだったんだ……」

 フールはいつの間にか立ち上がっていて、納得したような声をあげた。
 その間にクレディアがクライに駆け寄った。

「クーくん、大丈夫?」

「うん……。僕、助かったんだね……。でも僕、安易に強くなろうとしちゃって……それで、あんなことに……。皆にまた迷惑かけたし……。やっぱり、僕はダメだね……」

「そ、そんなこと――」

「そんなことないよ!」

 クライの発言にレトがフォローを入れる前に、クレディアが声をかけた。
 泣きそうになっているクライに、クレディアは正反対の表情、つまりニコニコした笑顔で続けた。

「だってさっきのクー君、すっごい格好よかったもん! 怖がらずに戦って、有言実行! それは凄いことだと思うよ? 私なんて迷惑かけてばかりなのに!」

「うん、そうだねクレディア。それは笑顔で言うことじゃないと思うよ」

 クレディアの言葉にフールがツッコむ。しかしクレディアは気にした様子を見せない。
 するとシリュアが少し前にでて、クライの前に立った。

「貴方に強さを求めさせてしまったのは私のせいだわ。だから私は貴方に謝らなければならない。ゴメンなさい」

 シリュアが頭を下げる。それにクライが「え、えっと……」と言葉に詰まっているとシリュアが「でも」と言った。

「悪い奴はそういった弱い心につけこんでくる。そして貴方は簡単に相手を信用してしまう。それだと今は生きていけない。いい? 今の世の中、信用しちゃダメなのよ」

「それは違うと思うんだけど」

 シリュアの言葉に、フールが口をはさんだ。全員がフールを見る。
 それに動じず、フールはそのまま続けた。

「確かにすぐ信用するのはよくないと思うよ。そこはきちんと考えなきゃいけないんだと思う。でも……信用することがいけないことだとは、私は思わない」

 しっかりとした口調で、フールがそう告げる。シリュアはただ黙って聞いていた。

「確かに、今は騙したりするポケモンが多い。でも……まず自分から歩み寄らないことには、相手も気持ちを開いてくれないんじゃないの?」

「…………。」

「確かにクライにとても強い力はない。そんなに強くない。
 でも……クライは信じる気持ちを持っている。信じる気持ちが重なれば大きな力に変わる。信頼しあうこと……それが本当の強さだと私は思うの」

(……フーちゃんは、やっぱり、すごいなぁ)

 フールの言葉を聞いて、クレディアが頭の中でそう思う。
 そしてフールはくるりと振り返って、クライを見た。

「だからクライ、それにレトも。……2匹とも、私たちの仲間になってくれない?」

「えっ!?」

「はっ?」

「あ?」

「御月きみは黙れ」

 クライ、レト、そして御月までもが声をあげるとフールは御月だけ牽制した。そしてクライとレトの方を向いて続ける。

「私はね、ポケモンパラダイスっていう……まあ簡単に言えば色んな冒険をしてお宝も見つけて、皆でワクワクしながら楽しく暮らせる、まるで楽園のような場所を作るのが私の夢なの!」

「わぁ……!」

 クライはフールの夢に感激しているようで、キラキラと目を輝かせる。そのまま笑顔でフールは続けた。

「そのために仲間がほしいって思ってたの。君たちみたいな仲間を! クレディアも御月もいいでしょ?」

「私は大歓迎だよーっ! 楽しそうだもん!」

「俺もまあ……クライとレトなら」

 クレディアは明るく、御月はどうでもいいといった感じではあるが、歓迎はしているようだった。
 それにクライが控えめに聞く。

「い、いいんですか……? 僕、あんまり役にたたないかもしれないし……」

「それは関係なし! 問題は気持ちよ、気持ち!! 入りたいって気持ちがあるのなら私は構わない! 寧ろ役にたつけど気持ちがない奴の方が嫌だし!!」

 まあそれはそうだな。と御月が心の中で頷く。強制的に入れられたことは忘れ去っているらしい。
 するとクライはさらに目を輝かせて、大きく頷いた。

「だったら僕! 仲間になりたいです!! お願いします!!」

「俺は……クライがいいって言うなら構わねぇよ。それに、御月もいるんだったら大丈夫って感じもするしな」

「おいそれどうい」

「やったぁぁぁぁ! ありがと、2匹とも! そしてよろしくね!!」

「よろしくー!」

 御月の言葉を遮って、フールが声をあげる。そしてそれに倣ってクレディアも声をあげた。遮られた御月は不満そうな表情だ。
 そして御月をのぞいた4匹で盛り上がっていると、シリュアが歩み寄った。

「……ちょっといいかしら?」

 シリュアの声に、全員の注目がそちらにいく。黙って聞くと思いきや、クレディアだけが明るく話しかけた。

「ん、どうしたのシーちゃん。あっ、シーちゃんも仲間になるの!?」

「いや、それはねぇだろ――」



「私も仲間に入れてもらえないかしら?」



 御月は否定した後に、この言葉。場が一瞬固まってから、

「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」」」

 クレディアを除いた全員が声をあげた。クレディアは「やったぁ!」と場違いながら喜んでいるが。
 信じられないといった様子で、マハトが声をあげる。

「シ、シリュアさんが……フール達の仲間に!?」

「おい何のつもりだよ!? 友達は作らないんじゃないのかよ!? どうせ気まぐれでモノ言ってんだろ!? 冷やかしならゴメンだぜ!」

 レトが「いやだ」という感情を大っぴらにだして怒鳴る。クライのこともあって、レトはシリュアをいい風には見ることが出来ないのだろう。
 するとシリュアは少し首を傾げながら、復唱した。

「冷やかし……そうね。言い訳もしないけれど……でも、それでも、仲間に入れてもらえないかしら?」

「お、俺は嫌――」

「わぁい!! これで仲間が一気に増えたね! やったぁ!!」

「おいクレディア。レトの意見を聞いてやれ」

 子どものようにはしゃぐクレディアによって、レトの言葉は遮られてしまった。御月も気の毒に思ってかツッコむが、クレディアには聞こえていないらしい。そのクレディアはシリュアの片手をとってぶんぶんと振っている。
 それを見てから御月はため息をついて、フールを見た。

「一応このメンバーのリーダーはお前みたいなもんなんだろ。フール、お前がどうするか決めろ」

「あー、うん。えー……あの、えっと…………ごめんねレト! よろしくシリュア!!」

「はぁ!?」

 どうやら、フールもシリュアを歓迎するようだ。レトは大反対のようで、本気で嫌がっている。
 それからレトは慌てて、賛同を求め始めた。

「な、何で!? て、ていうかクライも嫌だろ!?」

「ぼ、僕は……!」

 そういって、クライが赤面する。その様子をみて賛同を得るのは不可能だとレトはすぐに察した。
 次、というように今度は御月を見る。

「……俺は何もいわねぇぞ。フールは俺の意見を取り入れる気はないからな」

 諦めきった、そんな目をした御月にレトはこれ以上何もいえなかった。
 そしてフールはシリュアに向き合って、真剣な表情で言った。

「でも仲間になるんだったら、皆を信じて。皆と信頼しあうこと。これが必須条件。今すぐに……とはいわないけど、少しずつでいいから。できる?」

「……フフッ、努力するわ」

「よぉし、じゃあ新メンバーのクライにレトにシリュア! 3匹ともよろしく!!」

 びしっと華麗に変なポーズをフールが決める。それをクレディアも真似てポーズを決めた。
 置いてけぼりになっているレトはすぐさま抗議した。

「おい、フール! 俺は嫌だからな!? ていうか何でそんな奴を……」

「だって仲間にしてくれって頼まれたの初めてだったし……嬉しくて……てへっ☆」

「それはうざい!!」

「うざい!? ちょっ、君殴るよ!?」

 茶目っ気に決めたフールだったが、レトには不評だったらしい。何故か喧嘩に発展しそうになっているのをクライと御月が止める。
 それでもレトが猛抗議していると、ついにクレディアが入った。

「ダメだよ、レッくん。仲良くしなくちゃ。めっ!」

「子ども扱い!?」

 叱る、というより注意しているクレディアに、レトがツッコむといった図だ。それをみながらクライとフールと御月が笑う。
 シリュアはそれを困ったような笑顔で見た。

「何か揉めているようだけど……とりあえずこれからよろしくね。じゃ、私は一足先に戻ってるわ」

 そう言って、シリュアがくるりと背をむけて去ろうとする。しかし直前で何かを思い出したようで、ぴたりと止まった。

「ヴィゴ」

「な、なに? シリュアちゃん」

 完全に猫なで声で名前をよばれたヴィゴが返事する。シリュアは振り返らず、そのまま続けた。

「あの時のあの言葉……クライを助けに行くときに貴方に話したときの――」

 目を伏せて、シリュアが思い出すように話す。
 そう、ヴィゴたちはフール達がセロと話していた所を聞いていない。冒頭で言った通り、シリュアに教えてもらってきたのだ。
 その時にした会話を、シリュアは思い出した。



「クライが……? 分かった、すぐ行こう!」

「兄貴、俺たちも!!」

 食堂でシリュアが全ての過程を話したとき、ヴィゴとマハトとポデルはすぐに「助けに行く」と公言した。
 それを聞いてから、シリュアは背をむけてため息をついた。

「全く……すぐに相手を信じるからこうなるのに。場所は“荒れ果て谷”よ」

 そう言ってシリュアが食堂を出て行こうとすると

「シリュアちゃん、ちょっと待って」

 ヴィゴがそれを引き止める。シリュアはそれを眉をひそめながら振り返る。それを気にもせず、ヴィゴは続けた。

「あんた世の中を信じていないようだが……フール達は見くびるんじゃねぇぞ」

「…………。」

「俺もシリュアちゃんと同じで世の中を信じてなかった。それにシリュアちゃんと違って悪いこともやってきた。この前までは、な」

 悪いこと、と聞いてマハトとポデルが無意識のうちに顔をしかめてしまう。2匹にとってはあまり思い出したくないことだったからだ。
 ヴィゴはそれに気付かず、そのまま続けた。

「でもフール達に出会って……考え方が変わった。アイツらを見てると思うんだ。世の中……まだ捨てたモンじゃねぇなって」

「…………。」

 その時、シリュアは黙ったままで何も言わなかった。



 だが、今は何か思ったのかその話題を掘り返した。

「あの時の言葉……ちょっとだけ分かった気がするわ」

「フッ、フン。俺そんなこと言ったかな……」

「フフッ、素直じゃないわね」

 照れくさそうに、ヴィゴが頬をかく。その後ろで弟子2匹はニヤニヤしているが。シリュアは微笑みながら、ヴィゴを見る。
 そして未だもめているクレディア達に視線をうつした。

(宿場町もそろそろ出ようと思ってたんだけど、もう少し此処にいてもいいかもね。
 ここにいれば…………もしかしたら、だけど、見つけられる気がする。私が求めている、大切な何かを……)

 するとまだ揉めている中で、クレディアがシリュアの方を見た。
 そしていつものようにふにゃりと、他の人が見たら気の抜けそうな笑みを浮かべた。

「これから宜しくね、シーちゃん!!」

 明るくそう言ったクレディアに、シリュアは優しげな笑みを浮かべるのだった。

アクア ( 2014/03/23(日) 20:38 )