17話 トントン山
“トントン山”は、とても綺麗な自然豊かな場所だった。
木がいくつかあり、芝生がところどころ生えている。花もいくつか咲いていた。そして川には綺麗な水が流れており、その水は両側の小さな滝から流れていた。川の中には岩がいくつかでっぱっている。
「ふぁぁぁぁぁ……!」
「……おい、その変な素っ頓狂な声はなんだ」
「気にしたら負けよ。真っ直ぐ行きたいとこだけど川でいけないし……」
そう言いながらフールがきょろきょろと辺りを見渡す。クレディアは未だ感動しているのか目を輝かせ、御月はその様子を呆れたように見ていた。
フールの言うとおり、真っ直ぐに行くにも川があっていけそうにない。真っ直ぐ行ったところには空洞がある。
すると御月が左方向を指さした。
「とりあえずこっちの洞窟から行くぞ。何かあるかもしれねぇし」
「あー、そだね。こうしてても仕方ないし」
「泳げば行けそうな気がするけどなぁ……」
クレディアが川を見ながらぼやく。
フールと御月が冷ややかな目でクレディアを見る。そしてひきつった笑みを浮かべてクレディアに話しかけた。
「クレディア、泳げる?」
「ううん、泳いだことないからわかんない!」
ニコニコと笑いながらクレディアがそう告げる。
泳げないのならばなぜ泳いで行けそうなどと言ったのか。そんなことを思った2匹だが、ツッコむだけムダだと理解したのか溜め息をつくだけしておいた。
「どうしたの? フーちゃん、みっくん」
当本人はそんなこと露知らず、クレディアは首を傾げるのだった。
――――トントン山 西の穴――――
「何ていうか……雰囲気は“石の洞窟”に似てるねぇ。でもこっちの方が明るいかな?」
「ちょ、クレディアきちんと前見ないと、」
「へ――あたっ!!」
「言わんこっちゃない……」
きょろきょろと辺りを興味深そうに見ていたクレディア。目の前が壁ということも気付かない程、真剣に見ていたらしい。フールは注意したのだが、壁にぶつかったクレディアに呆れる他なかった。
御月はそれを見ながら「コイツら本当に大丈夫なのか」など、失礼極まりないことではあるが、ある意味では正論を心の中で呟いていた。口に出すと面倒くさいので言わないが。
「クレディア、前を向こう。もし壁じゃなくて敵だったらどうするつもり?」
「仲良く出来たらいいねー」
「できないから! クレディアもうそこでノックアウトだよ!!」
「んなこと言ってる間に敵さんがお出ましだ」
ほら、と御月が指さした方向にいるのはタツベイとオタマロ。
「とりあえずタツベイは……俺とクレディアで、フールはオタマロだな」
「まあ相性的にそれが1番よね。……クレディア、蔓のムチを間違っても私にしないでね」
「だいじょーぶ! みっくんがいるから!!」
「……え、それって私の代わりに御月に当てるっていう暗示?」
「どんな暗示だよ」
そんな会話をしていると、タツベイがかみつくの態勢をしてクレディアの方に向かってくる。
クレディアは数回ほど瞬きをしてから「よしっ!」と意気込んだ。
「えっと、蔓のムチ!」
そういって蔓が出され、真っ直ぐタツベイに向かっていく――と思いきや、タツベイの足元でべしっと力なく落ちた。タツベイは蔓に反応して立ち止まったが、力なく落ちた蔓に困惑している。
「だからクレディアの戦闘力はアテになんねぇんだよ――すいへいぎり!!」
御月はその間に一気にタツベイに詰め寄り、すいへいぎりを喰らわせた。そしてクレディアの方に声を張り上げる。
「クレディア! お前たいあたりぐらいはできんだろうな!?」
「うん! 大得意だよ! たいあたり!!」
たいあたりに得意も何もあるのか。
御月のそんな思考にお構いなく、クレディアはタツベイにたいあたりを喰らわせた。そしてタツベイが倒れる。
一方フールもオタマロと戦闘を開始していた。
「あわ!!」
「まあ、そりゃ水タイプだもんねー。電気ショック!」
あわを電気ショックで全て弾き、オタマロに電気ショックを喰らわせる。そして間合いをすぐに詰めた。
「とどめっ、と。ねこだまし」
オタマロの目の前にいって、ねこだましを喰らわせる。電気ショックのダメージが大きかったのか、すぐに倒れた。
ふーっと息をついて、フールが振り返った先には
「お前、睨みつけるとかできんの?」
「んと…………これでどう?」
「……ぜんっぜん怖くねぇんだけど」
などと御月に白い目をされるばかりのクレディアが見えた。クレディアの表情からして真剣なのだろうが、フールたちから見ればそうは思えないのが現状である。
それを見ながらフールがぽつりと呟く。
「…………仲間が必要だなぁ」
戦闘に慣れていないクレディアを見て、フールは改めてそう思うのだった。
――――トントン山 西の丘――――
洞窟を出ると、また同じような場所に出た。辺りを見渡すも、進めそうな場所はない。
「うーん、ハズレかぁ」
フールが落胆したように呟く。御月も先ほどのクレディアのやりとりで疲れたのか、多少だがげっそりしている。
しかしクレディアだけは、未だ楽しそうだった。ノリノリで丸太へと近づいていき、
「どーん!」
と言って、丸太にたいあたりした。すると丸太は川を流れ、滝から落ちてしまった。
それを見てフールが「あのさぁ」とクレディアに話しかけた。
「何やってんの、クレディア」
「え? 何か楽しそうな丸太があるから当たってみようかなって」
「どこをどうみて丸太を楽しそうだと思うの、この子」
やはりクレディアはどこまでもマイペースである。フールも御月も微妙な顔をしているのに気付かないのか、丸太の楽しさについて何故か語りだしている。
そしてふと御月が先ほどまで丸太があった場所を見て、「あ」と声をあげた。
「丸太の下に丸太がさらに下敷きになってたのか。これならこの丸太を橋代わりにして川の向こうにいけんな」
「え……。まさかのクレディアのナイス?」
「んん、ナイスなら何よりだねー」
ニコニコしながらクレディアがそう告げる。
御月はそれを華麗にスルーし、丸太の橋を渡った。中々に丈夫らしく、渡っても壊れなかった。御月が渡り終わると、順にクレディアとフールもわたる。
そして先に進んでいた御月はさらに何かを発見した。
「縄梯子……。コレを使って元の場所に下りれんな。おい、此処には何もねぇし下りるぞ」
「縄梯子! 初めて使う!!」
「ねえ、クレディアってどっかのお嬢様なの? お金持ちだったの? だからそんな何にでも興味を持っちゃうの?」
「いいから下りんぞ。んなくだらねぇ話してる場合か」
はぁ、とため息をついて御月が縄梯子を下りる。そしてフールが下り、最後にクレディアが下りようとしたときだった。
ブチッ、と音をたてて縄が切れた。
「え。きゃっ!!」
「ク、クレディア大丈夫!?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ……」
「出会ったときもそれ言ってたよね……」
「お前ら一体どんな出会い方してんだよ」
クレディアは「いたた……」と言いながら起き上がる。そしてへらりと笑って見せると、フールは安心したように息をついた。
それにため息をついた御月が違う方向を見るために振り返ると、ある物が目についた。
「……あの丸太、」
「ん? あの丸太って……クレディアが押して川に流したやつだよね?」
御月が見た物は、岩にひっかかって、川にとどまっている丸太。来たときにはなかったので、クレディアがたいあたりで押し、川に流れて滝から落ちた丸太でまず間違いないだろう。
クレディアはそれを見て、「あ」と声をあげた。
「橋みたい! もっといっぱい丸太があれば向こうに渡れるのにねー」
「……それだ」
御月がクレディアの言葉を聞いて、小さく呟く。
「え?」とクレディアとフールが怪訝そうな顔をしたのに対し、御月は合点がいったように呟きはじめた。
「もし左も同じような構造になっていたら……丸太があれば、完璧な橋ができるはずだ。そしたら向こうの穴にもいける」
なら、と御月は反対側の、つまり東側の穴を見た。
「次はあっちに行くぞ。丸太があれば橋ができるはずだ」
「はいはい。クレディア、平気?」
「だいじょーぶ!」
元気よく返事をしたクレディアの状態を確認してから、3匹は反対側の穴に入っていった。