12話 きっと、伝わる
「蔓のム――ふなぁっ!」
「「え?」」
「またかよ……。みだれひっかき!」
「電気ショック!」
敵のタブンネに攻撃をしかける。見事フールと御月の連携で倒した。
クレディアがまず攻撃しようとしたのだが、またしても蔓が頭を直撃した。マハトとポデルは目を丸くする。フールと御月は呆れた様子だ。
少し赤くなっている自身の額をクレディアが擦っていると、ポデルが恐る恐るといった感じで話しかけた。
「あの……大丈夫、ですか?」
「だいじょうぶ、だいじょーぶ!! 気にしなくていいよ」
にっこりと笑って言うクレディアにポデルはどうしていいのかが分からない。早くも慣れたフールと御月は「気にするな」ときっぱり言った。
そしてフールがクレディアを見ながらため息をついた。
「しっかし……さっきの戦闘はあんだけ強かったのに、なんでこう逆戻りするかなぁ……。それに蔓のムチも失敗しだすし」
「集中が大切なんだよね! がんばる!」
「別に頑張んなくてもできることだけどね」
クレディアのペースにのまれないよう、フールが気をつけながら会話する。ペースに呑まれたらただただ天然な会話に振り回されるだけだ。
そんな2匹のやり取りを見ながら、マハトがぼそりと呟いた。
「でも、兄貴と戦ったんだよな? それならもっと強いとか……」
「クレディアは規格外の戦闘力だ」
マハトの言葉に御月が返す。
本人とフールはまだ話しているので気付いていないようだが、マハトとポデルは御月を見た。御月は2匹に目を向けることなく、クレディアに目を向けながら続けた。
「今回は怒り≠パワーにしたみたいなもんだ。クレディアもほぼ無意識で戦闘してたんだろ。
……ただ、クレディアは普段は頭のネジが誰よりも緩い。緩すぎだ。内に秘めてる力があるのかないのかは知らねぇけど、あの様子じゃ普段から全力を出すのは無理だろ。下手したら、クレディアはお前より戦闘ができない」
「えぇ!?」
御月の言葉にポデルが驚きの声をあげる。
それもそうだろう。そんなポケモンが自身の兄貴分と戦って、そして無事だったなんて信じられるわけがない。
しかし、次の御月の言葉で悩むことになった。
「あの様子を見ろ。できると思ってんのかお前ら」
「あっ、ふーちゃん見てー! あの部分なにか光ってる! 蔓でとれるかな……」
「やめてクレディア。絶対にやめて。普通にわかってよあんな小さいもん取ろうとしたって岩が崩れてくるだけなの分かる?」
「だいじょーぶ! バーンていけばいけるよ!!」
「いやそれダメだから!!」
「それは……」
あまりに緩すぎて、年下である自分たちが心配にあるほどだ。戦闘に向いているとは到底おもえない。
言葉を濁した2匹を見て、御月は思わずため息をついた。
(とりあえずあの時のクレディアは特殊だとして……あまり期待できそうにねぇな。あの時のパワー源が怒り≠セとしても、クレディアはそこまで怒るタイプじゃねぇだろうし……。それに、)
そこまで考えて、はて、と御月は首を傾げた。
(そのクレディアが、怒った?)
ヴィゴの過去の話を聞いた。確かにクレディアは不快感を露わにしていた。
しかし、激怒した様子はなかった。フールはかなりイラついていたようだが、クレディアはそうではなかった。酷い話ではあったが、クレディアは今回のヴィゴたちに騙されたときのような目はしていなかった。
(あの話と今回の問題について……今回の問題はクレディアにとっては激怒する要素があって、あの話にはなかった? それとも自分には関係ないから……いや、それもねぇか……)
「みっくん?」
「うわっ!?」
ぐるぐると頭の中で考えていると、急に目の前に青い瞳とばっちりあって御月が体を揺らす。まさか考えていた本人がいきなり目の前に出てくるとは思っていなかったのだ。
そんな御月を見て、クレディアは悪戯が成功した子どものように笑った。
「だいじょうぶ? 眉間にしわ、よってるよー?」
「……大丈夫だ。つーかいきなり目の前に出てくんな。心臓にわりぃ」
「わかった、今度から気をつけるね」
ニコニコと笑いながら、クレディアはフールの隣に戻った。それを見て御月は小さく息を吐く。
そんな御月にフールが話しかけた。
「ていうか、ずっと聞きたかったんだけどさ……御月は知ってたんだよね? 今回のこと」
「あ? あー……あぁ。まあ、ヴィゴがよく食堂にいるし、マハトとポデルとも話したりするからな。大体は予想がついてた」
御月が肩をすくめながら言う。やはり、今回のことは知っていたらしい。
つまり水色の石を取りにいったのも、ヴェストを追いかけるといったのも、全て知っていたから。御月は今回でこの問題を解決する気だったのだ。
するとポデルが困ったような笑顔をつくった。
「御月さんは、俺たちの相談によくのって下さってたんです。できるだけ問題を表に出さないように、相談してはつもりなんですけど……」
「バレてたけどな。あれで隠してるつもりだったのかよ」
「うっ……み、御月が聡いだけだろ絶対! 俺らはそんな分かりやすくねぇよ!」
「どうだか」
御月とマハトの様子を見る限り、仲が悪いわけではないらしい。ヴェストのことを明かされたときは、あまり良好の関係には見えなかった。しかし、今のが本来の姿なのだろう。
するとクレディアはポデルに向かって笑顔を向けた。
「えへへっ、仲がよくって羨ましいね! ねっ、フーちゃん!」
「あーそうねー。私としては御月と仲がよくても別に嬉しくないわー」
「安心しろ。俺もお前と仲良くしたいと思ってねぇ」
「やっぱ君さ、私に喧嘩うってんの? 殴るよ? 殴っていい?」
「あっ、頂上が見えてきました!! あそこにいるのは……兄貴、かな……?」
険悪なりそうな場に、ポデルの声が響いた。それは喧嘩を発展させかけていた2匹を止めるに十分な材料だった。
岩陰に隠れ、5匹はヴィゴの様子を見る。幸い気付いてないようで、綺麗に光り輝く満月を眺めていた。
「(私たちがいってくる。君たちは此処で待っていて)」
フールが小さくマハトとポデルに話しかけ、そして岩陰から出た。フールにつられるように、クレディアも岩陰を出る。そしてヴィゴの方へゆっくり歩み寄っていった。
そして岩陰から出て行かない御月を、2匹は見た。
「(み、御月さんは残るんですか?)」
「(もともと俺は関係ねぇし。それに……家を建てるのを頼むのは、ヴィゴの心を動かすのは……アイツらの仕事だろ。寧ろ俺がいく方がおかしい気がするね)」
「(御月らしい考えだな……)」
「(ま、流石に戦闘になって危なくなったりしたら出て行くつもりだけど……頼みに行くだけだし、大丈夫だろ)」
そんな会話をして、御月は再びヴィゴたちの方に目を向けた。
一方、フールは考えていた。どうやったらヴィゴの心を変えられるか。どうやったら、ヴィゴが家を建てる気になるか。
いい案は一向に思いつかない。寧ろ逆上させそうで怖い。
(でも……マハトもポデルの願いもあるんだ。私が、頑張らないと)
すう、とフールが息を吸った。
すると不意にクレディアが、フールの手を握った。いきなりのことに驚いたフールが、クレディアの方を見る。視線の先にいたのは、笑顔のクレディアだった。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。フーちゃんの思う気持ちを真っ直ぐ伝えれば、きっと、伝わるよ」
ふにゃりと笑ったクレディアに、つられてフールも笑った。
そして、もういちど大きく息をすって、月を見上げている大工の名を呼んだ。