夢と星に輝きを ―心の境界―








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1章 星の欠片
9話 嘘言
「これを押せばいいの?」

 クレディアが丸太を指して聞く。それに少し遠い場所からだが、御月が頷いた。

「あぁ。ってフール! お前はなんで敵ポケモンにわざわざ遭遇にしいってんだよ!!」

「あー、うっさいなぁ! でんきショック!」

「チッ、すいへいぎり!」

 そして、何故か敵ポケモン、タブンネに喧嘩を売りに行っているようなフールに御月は加勢しにいく。2匹で攻撃して、何とか倒した。
 御月はまだクレディアとフールと行動を共にしてから1日も経っていないのに、2匹がマイペースなのを確認した。とにかく自分のペースを崩さないのだ。
 そのため、御月は疲れる羽目になっている。
 今のところは御月が1番レベルが高い。逆に1番レベルが低いのはクレディアだ。そのクレディアを特に気にかけなければならないのだが、フールも何だかんだで目が離せないのだ。

「お前らちょっとぐらい他に合わせようとか考えねぇの?」

「あわせてるじゃん。主にクレディアに」

「私も合わせられるように頑張ってるよー!」

 そしてクレディアとフールは顔を見合わせて「ねー」といっている。そこで御月は思わず片手で自身の顔を覆った。
 あまりに自由すぎる。こんなので大丈夫なのか、その心配しか思いつかなかった。

「みっくん、みっくん! あの丸太も押してきていいかな!?」

「あ? あぁ――って待て! そこにはまだウパーが……」

 御月の返答を聞いていなかったのか、クレディアは既に駆け出していた。そしてウパーが飛び出してくる。
 それを見ながらクレディアは無意識に技を放っていた。

「え、えと……蔓のムチ!」

 咄嗟だったが、見事にウパーにあたった。そしてウパーを倒した。しかし、その蔓は何故か跳ね返ってクレディアの頭に直撃し、「あだ!」とクレディアが声をあげた。
 それを見ながら、御月とフールは「やはりクレディアの頭には蔓を引き寄せる力が……?」と考える他なかった。

「クレディア……大丈夫?」

「うん、へーき。大丈夫、大丈夫」

 へらりと笑ってみせるクレディアに、ついフールも笑ってしまう。
 御月は重々しいため息をついてから、2匹に話しかけた。

「おい、急ぐぞ。ヴェストに逃げられる」

「そだね。クレディア、立てる?」

「うんっ!」

 クレディアがすくっと立ってみせる。未だ赤い額は痛そうだが、顔を見る限り大丈夫そうだ。
 そして3匹は歩いて先ほどクレディアが押そうとしていた丸太を押す。すると音をたてて違うところの丸太が出てきた。その丸太が出てきたことにより、階段のようになって上に上がれるようになっていた。
 そして御月が呆れたような口調で話す。

「よし、これでやっと上に……お前らホント修行でもしてきたほうが良いんじゃねえの?」

「それはクレディアでしょ」

「修行? 修行ってあれだよね。ザババーってなってるのにバチバチってされるやつ!」

「ごめん、クレディア。意味が分からない」

「フールに同意」

 そんな会話をしてから、フールと御月は「はぁ」とため息をついた。
 どうやらクレディアの思考回路の攻略はフールも御月もできていないようだ。





 クレディア達は先ほどの丸太を使い、上に上がってから、上にあがるための入口に入った。そこには敵もいる。
 今、3匹の目の前にはタブンネがいた。まず御月が技を仕掛ける。

「すいへいぎり!」

 御月の技を諸に喰らったタブンネだが、もちろん反撃してくる。

「はたく!」

 そのタブンネの技を身軽に御月が右に避ける。そして御月の真後ろに控えていたフールが狙いを定めて撃つ。

「電気ショック!」

「えっと、たいあたり!」

 フールの技が決まってから、クレディアがタブンネの後ろから攻撃する。するとタブンネが倒れた。
 それを見てからクレディアがフール達のもとに駆け、そしてニッコリ笑った。

「たいあたり、当たったよ!」

「そりゃあね……。まあ、頑張ったんじゃない?」

 フールにそう言われ、クレディアが嬉しそうに顔を綻ばせる。御月は内心「馬鹿にされていることに気付け」と思っていた。
 そんなことにクレディアが気付くはずもなく、御月にも同じように報告してくる。御月は「はは、」と乾いた笑い声しか出せなかった。簡単にいえば、諦めた。

 そうして進んでいるうちに、光が差し込んでいる場所が見えた。つまり、出口が近づいてきたのだ。
 3匹が出口を通ると、先ほどのような地形と変わらない場所に出てくる。

「あっ」

 そしてフールがある方向を見て、声をあげた。クレディアと御月もつられるようにそちらを見ると、そこにはヴェストの声。
 「問いださなくちゃ!」とフールが言って声を張り上げようとした瞬間、御月が「隠れろ!」と言って、大きな岩のところまで強引にクレディアとフールを押し込んだ。

「ったぁ〜……。ちょっと! 何すんふがふが!!」

「(静かに喋れ。誰か来る)」

 大声をあげようとしたフールの口を御月が塞ぐ。そして小声でフールに指示をだした。
 その後に御月はクレディアに向かって「静かに」というポーズをとる、クレディアは見てからきょとんとしたが、大きく頷いた。どうやら理解はしたようだ。
 フールは不機嫌そうだったが、御月に「いいな?」と聞かれると渋々といった感じで頷き、解放された。

「(……一体なんなの?)」

「(静かに見てろ。真相が明らかになるところだ)」

「(……? あっ、ホントだ。足音が聞こえてきた。誰か、来るみたいね)」

 3匹が自分たちが先ほど出てきた出入り口を見る。足音はどんどん近づいてきている。
 そしてその出入り口が出てきたポケモンに、フールは目を見開いた。

 大きな体に、赤い角材をもったポケモン。そして自分たちが話していた、お願いした、ポケモン。

「(ヴィ、ヴィゴ……!? な、なんでこんな所に……!)」

 フールが動揺を隠せずに呟く。クレディアは意味を理解していないようでただ首を傾げ、御月は黙って見ていた。
 ヴィゴは岩陰に隠れているクレディア達には気付かず、真っ直ぐヴェストの元に歩いていく。そして、ヴェストに話しかけた。

「待たせたな」

 その言葉に、フールが怪訝そうな顔をする。ヴェストは振り返り、わざとらしく肩をすくめてみせた。

「おせえじゃねえか。俺は早いとこ売っぱらいてぇんだよ」

「そう言うな。こっちだって足がつかないようにしなきゃならねぇんだ。つけられてるかもしれねえしな」

 会話を聞いて、フールが冷や汗をたらしながら「まさか……」と小さく呟いた。
 御月は2匹をしっかり見ている。クレディアだけはやはり状況が理解できていないのか、首を傾げるばかりだった。

「しかしさすがだな。相変わらずの鮮やかな仕事ぶりだ。……それで、礼は?」

「約束どおり用意してあるぜ。しかしお前もがめついな」

「フンッ、がめついのはどっちよ? あの水色の石は西で売れば結構なポケになる。それに比べて俺に払うポケなんか大したことねぇだろうが」

「ククッ、まあな。本当は自分で“石の洞窟”に行って取って来てもよかったが……ちょっとあそこは手強くてな。アンタに手伝ってもらった方が、俺にとっては手っ取り早いのさ」

 思わずフールが息を呑んだ。自分が嵌められていたことを理解したからだ。
 クレディアもようやく理解したのか、「そんな……」と呟いた。御月は「チッ、やっぱりか」と呟いている。
 するともっと聞き捨てならないことを、ヴィゴが言った。


「奴らにはまた取りに行かせるからよ。そしたらまた礼の方を頼むぜ」


 思わずフールが飛び出しそうになるのを、御月が止める。そんな御月をフールが睨むが、「ちょっと、あとちょっとだけ待て」と御月がヴィゴ達を見ながら言う。
 フールの片手は拳になっており、力を込めすぎて震えている。表情も、怒りを隠すことなく表していた。
 そんな2匹のことは露知らず、ヴェストが「へっ?」と声をあげた。

「また取りに行かせるのかよ!? アイツらに!?」

「あぁ。アイツらは俺が家を建てることを信じてるからな。このまま騙し続ければずっと水色の石を取ってきてくれるぜ」

 悪びれもなくヴィゴがそう言う。するとヴェストが顔を顰めた。

「ホントかよ、おい!? マイホームを建てることがアイツらの夢なんだろ? 叶わぬ夢を信じ続けて……アイツらはずっと石を拾い続けるのか?
 うぅっ……泣ける……! 泣けるじゃねえか……!」

 ボロボロとヴェストが涙をこぼす。
 それを見て、フールは馬鹿にされているようにしか思えなかった。拳を作っていた手に、更に力が入る。
 クレディアは、ただヴィゴとヴェストのやりとりを見るだけで、反応しなかった。
 未だ泣いているヴェストを見て、笑みを浮かべながらヴィゴが「おいおい、泣くか?」とおかしそうに言った。

「西ではもっと悪どいことをしてるヴェストさんがよぉ」

 その言葉を聞いて、ヴェストはすぐに涙を引っ込めた。

「ちげぇねぇ。ズケケケケケケ!」

「ドゥワ……ドゥワハハハハハハッ!!」


「これ以上 我慢してたまるもんか! 電気ショック!!」


「「!?」」

 咄嗟にヴィゴとヴェストがとんできた電気ショックを避ける。
 そして2匹が見るほうには、岩から完全に体を出し、2匹を睨みつけるフールがいた。我慢の限界だったらしい。
 クレディアが御月を見ると、御月はため息をついてから「……出るぞ」と言ってクレディアとともに岩陰から姿を現した。

 そんな3匹に、ヴィゴとヴェストは目を丸くする。

「お、オメェら……何で此処に!?」

「残念だったな。これ以上 利用はできそうにねぇぞ?」

 驚いている2匹を嘲るような口調で御月が言う。フールは気にせずに大声を張り上げた。

「ヴェストの後を追ってきたの! ヴィゴ! よくも私たちを騙してくれたわね……!?」

 キッとフールが鋭い目つきでヴィゴとヴェストとを睨む。
 それにヴィゴは少したじろいだようだったが、すぐにフールに言い返した。

「フ、フン。今の世の中、正直者は馬鹿を見るだけだ。夢なんか見るから逆に駄目になる。騙される奴が悪いのさ」

 その言葉にフールの顔がさらに険しくなる。御月は冷めたような目で、2匹を見ているだけだ。
 するとヴェストが「俺がつけられていたとは……」と小さく呟いた後、スッと目を細めて3匹に向けて言葉を発した。

「しかし……それでどうするつもりよ? やるのか? 俺たちと」

「当たり前だろ。何の為にここまで来たと思ってんだよ。……少なくとも俺はヴィゴのやり方について気に食わねぇからここまで来たんだ」

 御月が嘲るようにヴィゴの方を見て笑う。それを見てヴィゴは顔をしかめて、そして御月を睨んだ。
 それを見てヴェストは肩をすくめた。

「その威勢のよさは勝ってやるけどよ……俺は今まで危ない橋を渡ってきた。お前らとは修羅場をくぐりぬけた経験が違う。ここは素直に帰ったほうがいいぜ?」

 その言葉にフールがびくっと体を揺らす。しかし、すぐにキッと鋭くヴェストを睨み、言い返した。

「い、嫌よ!」

 退かない、というしっかりとした意思表示。
 すると「はぁー」とヴェストがため息をついた。そして戦闘態勢に入る。

「ここにきて忠告をきかないとは……とことん賢くないらしいな」

 ヴィゴもそう言って戦闘態勢に入る。完全に、戦う気らしい。
 御月がちらりとフールとクレディアの様子を伺う。フールは多少ビビってはいるものの、戦意喪失はしていない。戦える状態だ。
 そして問題は、と御月がクレディアを見ると思わず御月が目を丸くした。

(おいおい……。なんつー目してんだコイツ)

 先ほどののんびりと、能天気に笑っていたクレディア。
 戦意喪失どころではない。寧ろ、フールよりやる気である。ヴィゴとヴェストを見る冷ややかに細められて、微かに殺気を感じるほど。どうやらどこかでクレディアの逆鱗に触れたらしい。
 御月はクレディアの変貌ぶりに思わず冷や汗を垂らしたが、「今はそうなった方が都合がいい」と完結しておいた。

 そしてヴェストが声をあげた。

「お前らの選択がいかに愚かか教えてやる……。いくぞ!!」

 同時に、5匹が動いた。

■筆者メッセージ
拍手してくださった方々、ありがとうございます!

次のボス戦にとにかく手こずってる作者がここに1人←
で、できるだけ頑張りまーす……。ただクオリティが低くなるのは確かなので期待はしないでください。
技が少ないからバトルのスタイルが決まらないんですよね……はは。
アクア ( 2014/01/12(日) 20:37 )