09月19日 「伝説のポケモン」
朝、家を出たらまず翡翠がスタンバイしていた。今日も今日とて凄くいい笑顔で「おはようございます」と言ってくれた。
そして少し遅れてリフィネとシィーナが来た。と思ったらガシッとシィーナに肩を掴まれた。怒鳴ってやろうかと思ったのだが、シィーナの顔が青かったのでやめておいた。
シィーナはそのまま俺の肩を揺らしながら「リフィネの味覚はどうなってるの!?」と聞いてきた。いや、しらねぇよ。
話を聞くと、昨日リフィネについていったときにリフィネの偏食をしったらしい。俺は知らん。
晩飯に変なソースをかけて食べていたそうだ。それを真似てみると涙と冷や汗が出るほど辛いソースだったらしい。リフィネはそれを何にでもかけて食べているそうだ。……考えるだけで気持ち悪くなってきた。
それを俺が知っていると思ってシィーナは俺の肩を掴んできたらしい。残念だが俺も初耳だ。……しかし飯はこれから一緒にとりたくないな。
そんなことを思っていると、「あのー」という声が聞こえた。
そちらを見ると、この前 広場で見たワタッコだった。リフィネもそれに気付いたようで、「ヴァフテに依頼を頼んでたよね?」と聞いていた。未来の俺、ヴァフテが分からないのなら8月31日の日記を見るように。
ワタッコは「はい……」と元気なさげに頷いた。どうやら何かあったようだ。
聞くとそのヴァフテがワタッコの仲間を助けに行ったはいいが、帰ってこないらしい。
ワタッコの仲間は岩場にはさまってしまったらしい。ワタッコという種族は風さえあれば動ける。しかし、雷雲があるにも関わらず、そこは全く風が吹かないそうだ。それはリフィネやシィーナも首を傾げていた。
そのため、葉っぱで風をおこせるヴァフテに依頼を頼んだのだが、さっき書いた通り、帰ってこないらしい。
ヴァフテにとってそこまで難しい依頼ではないはず。これは何かあったとしか思えない。
俺が原因を考えていると、リフィネが勝手に「じゃあ私たちが様子を見に行ってくるよ! 安心して!」と言ったので結局いくことになった。
1匹で決めんな、1匹で。そう言いたかったが、シィーナも乗り気だったのでもう何も言わなかった。
更にワタッコに「宜しくお願いします!」と言われてしまっては、もう行くしかない。
それからワタッコに案内されたのは“沈黙の谷”という場所だった。
崖があり、かなり危険だ。ただ、妙なのはやはり風が吹いていないというところだろう。翡翠も微妙な顔をしていた。
「とりあえず行くか」と3匹に声をかけると、急にワタッコが「あの! すみません、いい忘れていたことが……」と言った。まだ何か問題があるのか? と思ったが、結構大事だった。
ワタッコの話によると、“沈黙の谷”にはある噂があるらしい。それが「とんでもない怪物がいる」という噂だとか。
俺は別に何も気にせず、翡翠もいつも通りで、シィーナは何故か逆にわくわくしていた。コイツの思考はやっぱり読めない。読みたくもないけど。
しかし、問題はリフィネだった。ここはアイツの名誉を傷つけるために書いておこう。
「イタタ! きゅ、急にお腹が痛く……!」
いきなりお腹が痛いとか言い出したのだ。朝に食べたものが悪かった、と言うとシィーナが小さく「あんな激辛物を食べるからなるんだよ……。いや、ボクも食べちゃったけど」と言っていた。
まあ演技ということは丸分かりなので、リフィネを引きずりながら“沈黙の谷”へ入った。
シィーナについては、アイツは中々の腕前だった。翡翠ほどとは言わないけど。多分だが、俺と互角ぐらいだろう。
リフィネは成長しているような、していないような感じだった。……成長していることを願う。いや、成長してないと困るのだが。
そのままダンジョンの1番奥まで行くと、恐らく救助を頼みに来たワタッコが言っていた仲間のワタッコがこちらへ向かってきた。
見たところ怪我はなさそうだが、酷く怯えていた。
シィーナが宥めながら「どうしたの?」と聞くと、奥をさした。そこには、傷だらけで倒れているヴァフテ。
ヴァフテの治療をしてやらなければ、と思って近づいて「何があった」と聞くと、切羽つまった声で「逃げろ」と言われた。
意味が分からずもう一度聞こうとするといきなり辺りが暗くなった。
「何!? 何!?」と慌てふためくリフィネは無視し、ヴァフテが「ヤツが……ヤツがくる……!」という声が聞こえた。何かが来るのを恐れていたようだった。
そして、ソイツは「ギャォォオオォォォォォ!!」という声とともに、姿を現した。その次の瞬間には、ヴァフテの姿がなかった。
ソイツの種族はサンダー、名前をエザンと言った。
怒っている様子で、「ヴァフテが眠りを妨げた」と言っていた。後からワタッコに聞くと「ヴァフテのおこした風のせいで雲がわれ、エザンが出てきた」らしい。
そのまま「ダーテングを助けたければ“雷鳴の山”に来い」と言って何処かに飛んでいってしまった。追いかけたかったが、追いかける手段もないので、その姿を見送るしかなかったのが、情けない。
とりあえずワタッコを依頼を頼みに来たワタッコに会わせた。名前を聞き忘れたのでここでは依頼にきたヤツをワタッコ1、助けたヤツをワタッコ2と書く。
ワタッコ1は喜んでいたが、ワタッコ2はヴァフテのことを気にかけていた。
このまま放っておくことも行かず、とりあえずヴァフテを助けるために“雷鳴の山”に行こうという話をしていると、サンダーという単語を聞いたディスト達がこちらに向かってきた。
そしてガルヴィにもバルにもサンダーの強さというものを教えられた。そして「実力が違いすぎる。やめておけ」と言われた。
俺は聞く耳をもっていなかったし、途中から話を聞いていなかったが、リフィネが反論していたのには驚いた。
ディストはそのリフィネの反論を聞き、好きにするといいと言った。
因みにディスト達もヴァフテの救助に行くらしい。しかし、サンダー……エザンは強いので今日きちんと準備して、明日いけと言われた。
俺としては納得いかなかったが、翡翠も、シィーナも、そしてリフィネも「言うとおり」にしようと言ったのでそうすることにする。だが、ヴァフテが今どんな状況であるかも分からないのに、ここでじっとしているのも納得がいかない。
早く、明日少しでも早くでて、ヴァフテを助けに行こう。
あ、因みに“沈黙の谷”についてたが、ディストも風が吹かないのはおかしいと言っていた。
今この世界によくおこっている自然災害のせいらしいが、詳しいことはよく分からないらしい。ただ、この世界が徐々におかしくなりつつあるようだ。
(夢についての報告)
何度、この夢を見る羽目になるのだろうか。
ただ、いつもと違った。全てに靄がかかったように、何も見えないのだ。声しか、聞こえなかった。ぼんやりと、見えそうなのに、なにも見えない。
「ごめんね」。そう、寂しそうに謝っている声が聞こえてきた。
……何で、そんな声で謝るんだ。
誰かも分からないその子に、そう言いたくなった。