11月09日 「天よ、
俺は、何で、こうやってまた日記を書いているのだろうか。実に不思議だ。
……とりあえず、書いておく。大切な、今の俺≠フ記録だ。まあ、こんなインパクトがある日なんて、早々 忘れることはないと思うが。
シファラと翡翠の話の日記を書いた後、俺は家を出た。
リフィネとシィーナはハイテンションで「おっはよーうッ!」と緊張感の欠片もないような感じで挨拶してきて、翡翠は苦笑してから再び「おはようございます」と挨拶してくれた。
リフィネ族の2匹に冷たい目線を送りながら「おはよう」と挨拶した。
その後、何でか色んなポケモンが来て、「頑張れ」「頼んだ」と言いに来て、道具を沢山わけてくれた。
皆にお礼を言い、そして“精霊の丘”に向かった。シィーナも翡翠も「そこまでは付いて行く」といい、4匹で向かった。
“精霊の丘”にいると、前と全く同じ場所にいるセルズと、そして傍らにディストがいた。ディストは俺たちに気付いたようで、俺たちの方を見た。
リフィネが「クワーーーッ!」と何か叫んでいるセルズは一体何をやっているのか、と聞くと、ディストがちゃんと答えてくれた。テレポートの結晶を作っているらしい。
その説明が終わったと同時に、最後の仕上げとばかりに声を張り上げたセルズ。そしてくるりと振り返り、「……できた」と言った。
セルズはテレポートの結晶を俺に渡した。小さな結晶だったが、テレポートの力を凝縮してあるらしい。ディストと、セルズと……その場にはいなかったが、もう1匹。ディストは教えてくれなかった。
まあそれどころではないので、そんなに詮索はしなかったが。
テレポートの結晶を見て深呼吸をしてから、リフィネに「いいな?」と聞くと、「オッケー」と答えた。
シィーナは「……頑張ってよー。そしてちゃんと帰ってきてよねー」と。翡翠は全てを知っているからか(俺がこれが終わったら帰ることを、だ)あまりいい顔はしていなかったが、「必ずできると信じています。頑張ってください」と言った。
そして俺とリフィネは――“天空の塔”へと、テレポートした。
テレポートした場所は話に聞いていた通り、雲の上だった。そして、上を見上げると雲が高く高く……とても高い塔のようになっていた。
その頂上に、シエロがいる。リフィネが「……よし」と呟いてから、俺たちはそこには入っていった。
できるだけ無駄口は叩かず、とりあえず俺とリフィネは進むことを優先として進んでいった。
最後の冒険だとか何とかへったくれもない。まあリフィネは知らないのだから仕方ないことだが。俺も別にリフィネに話したいこともなかったので、……いや、役目を終わらすことが第一と考えていたので、前を進むことしか考えていなかった。
まあそこまで楽なところではなかったので、結構な時間は食ったと思う。
それから、やっとの思いで頂上まで辿り着き、「やった」と喜べたのも、束の間だった。
「誰だ? 我が領空を侵すものは……」という声が聞こえた。リフィネが「えっと……今の声、シエロ、なのかな……?」と言うと、肯定の言葉が返ってくるとともに、「帰れ」という言葉も送られた。
帰るなんて頭にない。シエロに「頼みがある」と言うと、「ならん」とばっさり切り捨てられた。話を聞いてほしかった。
するとシエロが俺たちの目の前に現れた。……グラードンのときと、よく似た威圧感だった。
シエロは俺たちは地上にいる者、自分は空にいる者という自然の掟が大切らしい。世界が大変なことになろうとしているのに、そんなことにこだわらないでほしい。別にシエロを馬鹿にしている訳ではない。
そのため、俺たちに容赦なくかかってきた。話し合いは無理そうだな――などと考えながら、リフィネに指示を出して戦った。
まあ、一筋縄でいかないところが、本当にふざけているが。
連携しても、シエロは手強かった。おかげでボロボロになった。
はかいこうせんは悪魔だ。あんなもん直撃したら死ぬ。直撃はしなかったが、俺は多少は喰らった。正直、もう二度とあんな技は喰らいたくない。
あと空に飛んで攻撃してくるのも厄介だった。こちらの技が当たらない。
まあ何とかリフィネと上手いことやっていたのだが――俺もリフィネもシエロも結構ボロボロになったところで、いきなり場が揺れだした。
地震かと思ったのだが、ここは雲の上。揺れるはずがない。
パニックになっていると、シエロが「これは……衝撃波だ! しかも物凄い……」と言った。すぐに何のことか分かった。
咄嗟に上を向くと、見えた。セルズがいっていた、星。
リフィネもシエロも俺につられてか、上を見て驚愕していた。特にシエロは「何だあれは!?」と困惑しているようだった。
チッと舌打ちしてからシエロに簡単に説明した。このままではあの星が衝突して危ないこと、俺たちはシエロにアレを破壊を頼みに来たこと。
シエロはすぐに理解したようだったが、俺たちに聞いてきた。
「星が接近しすぎている。破壊はできるが、このままではお前達もタダではなすまない……」
それでもいいのか、と。俺とリフィネはともに叫んだ。
「「初めから死ぬ気で来てる!!」」
――と。
シエロは「よい覚悟だ!」といって、はかいこうせんの準備をし、星に向かって――撃った。
その後のことはよく覚えていない。
夢でソヤが何か俺を引きずってどうとかこうとか言っていたが……もうほぼ覚えていない。
ただ、悪意がこもった行動ではないことは、確かに分かった。
目を覚ますと、広場のポケモンや対グラードンのときに集まっていた救助隊が沢山いて。
俺とリフィネが目を覚ますと、シィーナがリフィネにタックルをかまして「よかった……!」と抱きついていた。翡翠は寂しそうな笑顔で、「……お疲れ様です」と言った。
リフィネと目があうと、「もしかして、蒼輝も……ソヤに助けられた?」と聞いてきたので頷いておいた。アイツ、心変わりでもしたのだろうか。
すると周りにいたポケモンたちが騒ぎ出した。「無事でよかった」「よくやった」と。その口ぶりから、役目を果たしたということが分かった。
セルズも「星は破壊された。直に災害もおさまるだろう」と言ってくれて、とても安心した。――それと同時に、自分が帰るということも思い出した。ようやく翡翠の表情の意味がわかった。
リフィネは「やったー!!」と泣きながらシィーナと喜んでいた。
そんな俺の心情も露知らず、「今日はお祝いだ!」とか「ハイドロポンプ撃ってやる」とか「こっちに撃つな」とかギャーギャー騒いでいた。
いつの間にかハディが何故かディオンが取り押さえ、ガクスが狙いを定めていた。そして皆がそれを囲んで盛り上がっていて……ていうか今思ったらあれ完全にイジメだよな。
ぼけーっとその様子を見ていると、声が聞こえた。シファラの声だ。
翡翠は俺の近くにいたのだが、やはり聞こえてないようで。しかし俺が誰もいないところに「よう」と言うと、俺が話しかけている方に微笑んだ。
するとシファラが姿を現した。翡翠にはやはり見えていないようだった。
シファラはお礼と、そして役目の終わりを静かに告げた。
俺が帰るというのを実感したのは、自分の体から光が出てきた時である。シファラは「リフィネさん達に、お別れを……」と言って消えてしまった。
とりあえず騒いでいる奴らはさておき、翡翠に「ありがとな。ここまで付いて来てくれて」と言っておいた。何か翡翠には1番迷惑をかけた気がしたから。いや、実際かけたんだが。
翡翠は首を横にふって「僕が勝手にしたことですから……ありがとうございました。本当に、すみませんでした」とお礼と謝罪を言われた。
するとようやくリフィネが俺に気付いたようで、「え、どうしたの!?」と聞いてきた。シィーナも、周りの奴らも全員が同じように目を丸くしていた。
まあ説明はしなきゃな。そんなことを思いながら口を開いた。
「俺は役目を終えた。だから……元の世界に、人間の世界に、帰る」
全員が黙って、言葉になってないような「は」とか「え」とか上げていた。何だか可笑しくて、少し笑ってしまった。
体の光は勢いを増していった。何とか説明しなければと思い、言葉を紡いだ。
「今まで、ありがとう。……まあ、俺がいなくなっても大丈夫だと思うが……頑張れよ」
俺の精一杯の言葉であった。もう少し何かないのかと問われれば、ない。
するとシィーナが「ふ、ふざけるのは大概にしなよー……」と小さく言ったが、冗談じゃないと分かったのか「……ホント、なの?」と聞いてきたので頷いておいた。
皆が呆然としている間に、体の光は強まっていった。
リフィネは、何ともいえない顔で、凄い戸惑いが見えた。そして、ぽつりぽつり、と言葉をつむいで言った。
「なん、で……折角さ、折角、ともだちに、なったのに……まだ、きゅうじょ、たいのかつどう、だって……」
まだ……と続けるリフィネの目から、一粒だけ涙が落ちた。
あぁ、何で泣く。なんて思いながら体を見る。そろそろかな、なんて意外に冷静な頭で考えた。
慣れない笑顔を、精一杯、俺なりの精一杯で、作った。
「ありがとう。――元気でやれよ」
そういって、俺の意識は薄れていった。もう、あまり覚えていない。けど
「そうき――――ッ!!」
涙声で俺を呼ぶ声を、確かに、聞いた。
(続きが下の方に書いてある)