09月22日 「キュウコン伝説」
朝から、ずっと同じことを考えていた。
セルズが言っていた「俺と自然災害は大きく関わっている」
それが本当なら、俺は此処にいていいのだろうか。
自然災害は増えているのかどうかは知らないが、地震とかが多いのは知っている。
それが俺と関わっている……それは、俺が原因でおこっていることではないのだろうか。そんな俺が、この場所にいてもいいのだろうか。
そんなことを考えながら、家を出た。やはりいつも通り、翡翠がいた。
いつものように挨拶してきた翡翠に、質問を投げかけた。昨日セルズに聞かれていたこと、「世界を変えるほどの代物に触れたことがある」。
もしかしたら、翡翠は何か知って、俺の傍にいるんじゃないか。そう思った。
だから、「お前は俺が人間だった頃のことを知ってるのか?」と聞いた。
翡翠は困ったような笑顔をつくって首を横にふった。
「知っているとも、知らないとも言えません。何故なら、僕が蒼輝さんに出会ったのは、蒼輝さんがポケモンになる少し前の、ほんの数時間のことですから……。だから、蒼輝さんの家族についても、交友関係についても、詳しいことは知りません。
あと……申し訳ありませんが、今は蒼輝さんが知りたがっていることを、僕は蒼輝さんにお伝えすることはできません。それは蒼輝さんが望まないですから。今ではなく、過去の蒼輝さんが。
ただ、1つ言えるのは……僕は、僕が蒼輝さんに付いていっているのは……罪悪感から、でもあります」
どうして、翡翠が俺に罪悪感を抱かなければならないのだろう。翡翠は、過去の俺に、人間だった頃の俺に何かしたのか? 全く分からなかった。
翡翠は暗い表情のまま続けた。
「今はこの毎日が楽しいです。リフィネさんも、シィーナさんも楽しい方です。蒼輝さんも、優しく接してくれています。
けれど……時々 蒼輝さんには後ろめたい気持ちになるのも、事実です。でも付いていくと決めたのは僕です。だから……最後まで支えたいと思っている気持ちに、偽りはありません」
するとリフィネとシィーナが丁度きた。あぁ、もう時間か。
とりあえず翡翠には「話してくれて、ありがとな」と言っておいた。翡翠は色んな感情が混ざったような笑顔で「いえ」と言った。
……翡翠の言葉は、しっかりとしていた。だから俺は、信じようと思う。
そのまま広場にいくとハディが2匹のポケモンと話していた。ブルーのルワンと、マダツボミのミザだっただろうか。
そのままリフィネが「何話してるの?」と聞きにいくと、キュウコン伝説≠ニいう昔話の話をしていたらしい。よく知られた噂だったらしく、何故か今になってそれが本当ではないかという話になってきたとか。
翡翠とリフィネは知らないようで、シィーナは知っているようだった。
ハディは「詳しく聞きたきゃナマズンのナフェスに聞きにいきゃいいぜ」と行った。広場の近くにある、池にいるそうだ。
どうやらリフィネが興味をもったようで、池まで行って話を聞くことになった。
ここで聞かなければよかったのかもしれない。
ナフェスに聞いた昔話を、ここには簡略に書いておこう。
昔、キュウコンがいた。キュウコンの尻尾には神通力がこめられており、その尻尾を触ったものは千年の祟りがかかると言われていた。
にも関わらず、触った奴がいた。そいつは、人間だったのだ。
そいつは千年の祟りをかけられた。だが、サーナイトというポケモンが、そいつを庇って、自らの身を犠牲にして祟りをうけたのだ。そのサーナイトは、そいつ……人間のパートナーだったらしい。
そしてサーナイトを哀れに思ったキュウコンは、人間にこう聞いた。
「サーナイトを助けたいか?」と。
しかしその人間は、サーナイトを見捨てて逃げた。
そんな人間に失望したキュウコンは、こう予言したらしい。
「いずれあの人間は、ポケモンに生まれ変わる。そしてその人間が転生したとき……世界のバランスは崩れるだろう」……と。
……この話はこれで終わりらしいが、それ以降のことはよく覚えていない。
ただ、リフィネが「今日は帰ろう」といったので、救助隊の活動を休みにした。
そして帰り際にリフィネが正直にこういった。あの伝説の人間が、俺ではないかと思った、と。でも友達だから信じる、そう言って帰っていった。
シィーナも「大丈夫、ボクも信じてるよ。じゃ、また明日ー」そういってリフィネを追いかけていった。
それから俺は呆然としていたが、翡翠が「大丈夫ですよ。蒼輝さんが心配することはないと思います」と言って、「それではまた明日」と飛んでいってから、ようやく俺は足を動かした。
それから家に帰って一心不乱に掃除をしたが、落ち着かなかった。
他でもない、「あの伝説の人間が俺ではないか」と一番に疑っているのは、俺自身なのだから。