輝く星に ―闇黒の野望― - 第6章 黒き闇の復讐
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69話 それは本当の思い
「あの、ルーナさん。度々質問をして申し訳ないんですが、もう一ついいですか?」

 ダンジョンで襲ってきたムウマージをシャドーボールで倒して一息ついてから、スウィートはくるりとルーナに話しかけた。ルーナは急なことで少しきょとんとした様子ではあったが、すぐに「どうぞ」と優しく微笑んだ。

「その、あまり詮索しない方がいい物ではあると思うんですが……時の歯車≠使って、時以外に干渉することはできるかどうかってご存じですか?」

 スウィートの質問に、ルーナは首を傾げる。ついでにシアオも首を傾げる。
 どうやら伝え方が悪かったらしいと、スウィートは少し考えてから、質問の意図を整理した。

「その、翡翠さん、という方の話をしましたよね。彼は別の世界ではあるけど、世界を変えるほどの代物≠フことを存在だけは知っていました。
 翡翠さんは「願いを叶えてくれるもの」と聞かされ、それを使って唯一無二の家族を生き返らせたかったって」

 世界を変えるほどの代物≠ノついて振り返っていて、スウィートはふと疑問に思ったのだ。

 時の歯車≠ヘ“時限の塔”という巨大なシステムから命令され、その区間の時を正常に動かす役割を持つ媒体にすぎない、とルーナは言った。
 時の歯車≠ヘ、世界を変えるほどの代物≠セとも、ルーナは言った。

「とても極端な例だということは分かっているんですが、もし翡翠さんが世界を変えるほどの代物≠得て、それが時の歯車≠セったとしたら、死んだ誰かを生き返らせることはできるんでしょうか」

 そんなことが可能なら、とても恐ろしいなと、スウィートは思ったのだ。

「なるほど。確かに、その疑問は最もですね」

 スウィートの疑問にルーナは納得するように頷き、少し考えた様子を見せてから話し出した。

「私も世界を変えるほどの代物≠ノついて、詳しくは知りません。ですが、スウィートさんのその質問への答えは「いいえ」です」

「ルーナ、なにか知ってるの?」

 「詳しくは知らない」と言いながらはっきりと疑問に答えを示したルーナに、シアオは驚いた声で聞いた。
 ルーナは難しい表情を浮かべながら、「間違っている可能性もないとは言えませんが、おそらく合っているかと」と前置きしてから、詳しく話し始めた。

「世界を変えるほどの代物≠ヘこの世界を支えるための媒体、そしてそのための役割をそれぞれ持っているといわれています。
 時の歯車≠ヘ、その区間の時を正常に動かす役割を持つ媒体。誰かを生き返らせる、なんてことは時の歯車≠ナはできません。それこそスウィートさんをこの世界に戻したディアルガの力がなければ無理でしょう」

 説明を聞いて、スウィートが「そうなんですね」と相槌を打つ前に、「ですが」とルーナが言葉を遮った。

「結局は世界を変えるほどの代物≠フ役割によると思います」

「……翡翠さんの願いを叶えられるようなものもあるってことですか?」

「あってもおかしくはないと思います。といってもこれはあくまでも想像の中の話です。仮定にすぎません」

「そう、ですか。……すみません、ルーナさん。答えてくださってありがとうございます」

 スウィートの礼に、ルーナは優しいほほ笑みで返した。
 シアオは話についていけずにうんうんと唸っているが、数分後には考えることを放棄してあっけらかんとしているだろう。その様子を見てスウィートは少しだけ笑い、そしてそっと嘆息した。

 世界を変えるほどの代物=B

 世界の核、世界が正常に動くために世界を支える役目を持つもの。救助隊『ベテルギウス』のメンバーである翡翠がいた世界では、それは願いを叶えてくれる代物≠ニ云われていた。
 翡翠は唯一無二の家族を生き返らせようとし、それに手を出そうとした。しかし、それは決して手を触れてはいけないものだった。だから神は翡翠に天罰を下そうとした。だが、翡翠とはまったく関係のない人間が翡翠を庇って天罰を受けた。
 翡翠はその時に自分の犯した罪を自覚した。だから神はそれ以上の罰は下さず去った。

 もし天罰を下されてなお、翡翠がその願いを諦めずにその願いを叶えられたならば。死んだ者が生き返るのならば。
 生物の生死を、世界の理を壊すことができたのならば――。

 それに縋りたくなる気持ちが分かってしまうことが、スウィートは何より怖かった。





 “熱水の洞窟”特有の暑さから額に流れる汗を、アルは胡乱げに手で拭う。そして思わずため息をつくと、少し前を歩いていたフォルテが涼しい顔をして首を傾げた。

「何よ、いきなりため息ついて」

「お前と違って暑いんだよ」

 前の遠征の時もそうだが、フォルテは炎タイプゆえに汗一つかかない。フォルテは「そういえば前来た時シアオが騒いでたわね」と何でもないように呟いた。
 その様子を見て何となしにアルはまた一つため息をつき、ふと前をまっすぐ見た。

「そろそろ不思議のダンジョンを抜けるよな。次の階段で霧の湖じゃないか?」

「つっかれたー。トレジャータウンから近道しても遠いものは遠いわね」

「数日かけて来るところを半日で来たんだしマシだろ」

「そりゃそうだけど」

 「あ、階段発見」とフォルテが軽い足取りで駆けていく。それとは対称的にアルは重い足取りでフォルテの後を追った。

 2匹は階段をのぼり、そこから続く通路を歩く。
 まだ暑いが幾分かはマシになったところで、アルがふと息をついたと同時、何かが「フォルテー! アルー!」という声とともに飛んできた。アルが隣を見ると、それはフォルテに抱き着いていた。

「ミュエム! 久しぶりね!」

「久しぶりー!」

 嬉々としてフォルテと再会を喜び合っているのは、“地底の洞窟”の時の歯車≠守っていた番人であるミュエムだった。
 微笑ましい2匹の様子を見ていると、「こらこら」と奥からまたポケモンが出てきた。

「少し落ち着きなよ、ミュエム。2匹とも久しぶり、元気そうでよかった」

「おかげさまでな。そっちも元気そうで何よりだ。ヒュユンは?」

「湖で準備しているよ」

 穏やかに出迎えてくれたのは、“水晶の洞窟”の時の歯車≠守っていたファームだ。ファームの言葉にミュエムは「何よぅ、久しぶりに会ったんだしいいじゃない」と口をとがらせた。
 それを気にした様子もなく、ファームが「さ、ヒュユンのところに行こうか」とくるりと方向転換する。
 その背中を見て、アルは来る前から持っていた疑問を投げかけた。

「ルーナさんと知り合いってことは聞いたけど……どこまで知ってるんだ?」

「ルーナからは知ってる情報は全部教えてもらったよ。一連の時の停止事件の黒幕のことも、君たちが何を見てもらいたいのかも、ね」

 最後の一言は少し自嘲気味だった。それにフォルテとアルが首を傾げると、ミュエムが苦い顔で呟いた。

「次同じことを起こさないためにも事情を知ろうっていうのは分かるけど、あんな事件を引き起こした奴の事情を知ってもねって感じじゃない?」

 それは“熱水の洞窟”に来る前に2匹が話していたようなことだ。

「複雑ではあるけど、知らなきゃいけなことではあるからね。それにスウィート達がいま戦いに行ってるんだろう? それの助けになるかもしれないし」

「……だといいがな」

「どんな事情があるとしても、今やってることは許されることじゃないわ。とりあえずぶん殴ってやればいいのよ!」

「そうよね……そうよね! 思いっきり殴ってやればいいわよね!!」

 とりあえず殴れ、という方向でミュエムとフォルテが「おー!」と意気投合し、闘志を燃やし始めた。
 スウィートがやり辛くならなければいいのに、とフォルテが心配していたことをアルは知っている。だが、何故そういう方向で話が進んでいるのか皆目見当がつかない。

「意味の分からない方向で話が進んでる」

「短気って部分で気が合うんだろうね」

 わーわーと物騒な意気投合の仕方で盛り上がっている2匹の会話を聞きながら、アルはげんなりと、ファームは苦笑しながら先に足を進めた。

 そして遠征の時に来た場所――霧の湖≠ワで来ると、ヒュユンがゆらりゆらりと湖の前に佇んでいた。
 「ヒュユン、久しぶり!」とフォルテが声をかけると、ヒュユンは静かにほほ笑み、至極落ち着いた声で「お久しぶりです」と返した。

「遠路はるばるご苦労様でした。久しぶりに雑談でもしたいところですが、時間がありません。早速始めましょう」

「……だな」

 挨拶もそこそこに、アルはトレジャーバッグの中からルーナに預けられた赤い布の切れ端を取り出した。

 ダークライが持っていたという、たった数センチの布切れ。
 何か特別な力を持っているわけでもない。でも、ダークライの思いが、こんな小さなものに、強く、強く残っているらしい。
 星の停止≠起こそうとしたことや、世界を悪夢に包もうとしている真意が、これでわかるかもしれない。

 少し強張った顔で、アルは丁重にその布の切れ端をヒュユンに手渡した。

「これから私たち3匹の力で、これに込められた思い出を再現します」

「……思い出の、再現?」

「ダークライがこの布切れに込めた思いを読み解く、って聞いたんだけど……」

 ルーナは布の切れ端に込められた思いを、ヒュユンたちなら正確に読み取ることができるだろう、と言っていた。何故それが思い出に繋がるのだろうか。

「何事も、何かを思う、感情を得るには体験が必要です。誰かに聞いた、何かを食べた、何かを読んだ、そういった体験によって、楽しかった、辛かった等の感情が伴うのですよ」

「そして、思い出っていうのは感情の伴った記憶よ。私たちは記憶とともに、その時に感じた感情や、その記憶を思い出したときの感情も再現するわ」

「ただ、これはダークライ自身の思い出。ダークライがはっきり覚えていない部分は再現されない。かなり昔の思い出であれば、事実が曲解していることもあるだろう」

 丁寧に、詳細に、時の歯車≠フ番人3匹は説明してくれた。それを聞いてフォルテとアルはぎゅっと拳を握った。
 ダークライの実体験が、ダークライがその時に見て、聞いて、理解した内容が再現される。たとえ事実が曲解していたとしても、ダークライの感情は確実に再現される。それだけは、本物なのだ。

「……準備はいいですか?」

 ヒュユンが静かに2匹に問いかけた。
 何も言わずにフォルテとアルはアイコンタクトし、しっかりと3匹を見た。

「えぇ、お願い」

「あぁ、頼んだ」

 意思をもった瞳でしっかり前を見据え頷いた2匹を見て、3匹は静かにほほ笑んだ。
 3匹は互いに目を合わせ、頷く。そしてヒュユンが持っていた布の切れ端にミュエムとファームが手を重ね、目を閉じる。

 その瞬間、辺りが優しい光に包まれた――。
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■筆者メッセージ
今回はここでおしまい。別の小説のお話なのでちょっと補足。
アクア ( 2021/02/28(日) 23:28 )