輝く星に ―闇黒の野望―







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第6章 黒き闇の復讐
68話 許しと理解
「アイツいつか燃やしてやるわ……」

「無理だろ」

 そっけない一言を放ったアルを、フォルテがぎろりと睨み付ける。これがシアオだったら効いたのだろうが、アルは涼しい顔で全く気にした様子もない。

「そもそもセフィンに近づけてないだろうが」

「遠くから火炎放射で……」

「お前セフィンの姿見ただけで逃げるしやっぱ無理だろ」

 ごもっともなアルの意見に、フォルテがぐ、と言葉に詰まる。しかし次の瞬間には眉を吊り上げてアルの怒鳴った。

「というか! アンタのせいでもあんのよ! 何が「状況が状況だから大丈夫」よ!! ふっつーにニヤニヤしながらいたじゃない!!」

「はいはい、悪かったよ」

「悪かったって思ってる奴の返事じゃないのよ!!」

 あの後アルはフォルテを引きずりながらカフェに向かった。
 刃はいた。涼しげな顔で本を読んでいた。そして当たり前のようにセフィンもいた。フォルテの姿を見た瞬間にニヤニヤしながら「やっほー」と挨拶してきたくらいだ。
 何故いる。空気を読め。アルはそう思った。
 たださすがにセフィンもいつもの悪戯の容量でフォルテに過剰に接することはなかった。余計な口を挟むことも。ただもともと気遣いができるならばそもそもカフェに来るなという話である。

「それにしても……ダンジョンを通らずに行けるとはな。地図通りならそろそろ着きそうだな」

「……アンタ帰ったら覚えてなさいよ」

 アルはフォルテの言葉を聞き流し、草をかき分ける。すると見覚えのある像が遠くに見えた。

「本当にグラードンの像まで短縮できたのね。ベースキャンプいつ通り過ぎたのかしら」

「後は“熱水の洞窟”を通るだけだな。ダンジョンで変に迷わなきゃいいが」

 グラードンの像まで来ると、2匹は上を見上げた。ルーナによれば、あそこでヒュユン達が待っている。あと少しだ。
 するとフォルテがポツリとつぶやいた。

「ダークライが布切れに残した思いが分かれば、あたしたちは奴を理解できるのかしら」

〈きっと彼は、私たちにとってはただの布切れにみえるコレに、よほど強い思い入れがあったのでしょうね……〉

 ルーナはダークライを理解しようとしている。
 しかしフォルテには何故ダークライを理解しなければならないのだ、という思いがあった。どんな事情であれ、あんな真っ暗な未来にして、多くのポケモンたちを不幸にした奴を理解する意味はあるのだろうか、と。

「俺たちのやることは、何でダークライがこんなことをしたか原因を探ることだけだ。別にアイツを許せってわけじゃないだろ。俺はどんな事情があれどダークライを許すつもりはない」

「あたしだって許すつもりはないわよ」

「だったらそれでいいだろ。アイツを止められる手段は多かった方がいい。これも手段の一つになりうる。それだけだ」

「それは分かってるけど……。……でも、あの子は優しいから」

 理解をする必要はない。でもダークライがまたこんなことをしないためにも、原因を探る必要がある。
 はあ、とフォルテはため息をついた。どうせなら最低最悪の極悪非道人であってほしい。フォルテはそう願うばかりだ。

(……そしたら、あの子もやりやすいだろうに)

 きっとダークライを1番許したくないのは、あの未来で過ごした者たちだろう。
 でもスウィートは優しいから、ダークライに同情してしまうかもしれない。やりづらくなってしまうかもしれない。自分の思いを、ほんの少しでも殺してしまうかもしれない。
 フォルテはずっと、スウィートの心配をしている。

「お前スウィートに関しては過保護だよな」

「だって私たちの中で1番被害を受けてるのはあの子よ」

 確かに、とアルは頷いた。
 アルもスウィートを心配していないわけじゃない。フォルテの心配も最もだと思っている。

「まあシアオもいるし、大丈夫だろ」

「アイツが何の役にたつっていうのよ」

「お前……」

 分かってはいる。フォルテのシアオに対する扱いは平常運転だ。
 ただ状況が状況ばかりになんか他にあるだろ、とアルは思ったがあえて口にはしなかった。





 一方、スウィートとシアオはルーナのテレポートによって、すでに闇の火口≠フ入り口まで来ていた。

「ここからは敵の陣地です。どんな罠があるかわかりません。気をつけていきましょう」

「はい」

「うん。にしても暑いね……」

 シアオがぐいっと頬に流れる汗をぬぐう。
 火山地帯というだけあって、熱気はすさまじい上に、足を火傷はしない程度ではあるが地面まで熱い。それに先ほどから小さな火の粉も宙を舞っている。
 フォルテがいたら「情けない」とか言ってふんぞり返ってただろうなー、とシアオは呟いた後、何か思い出したようにルーナのほうを向いた。

「そういえばルーナさん、あの布切れのことなんだけどさ」

「はい、何でしょう」

「ルーナさん、正の感情じゃないって言ってたじゃんか。じゃあ何でダークライはあの布切れを大切に持ってたんだろう?」

 シアオは単純に疑問だった。どうしてそんな不快になるようなものを、ダークライは大切に持っていたのだろう、と。
 「そうですね」とルーナは静かに目を伏せた。

「あの布切れには、まるで色んな感情の糸が絡みあっているような……本当にぐちゃぐちゃなんです。私には表面しか読み取れなかった……」

 ルーナはダークライに強い警戒を抱きながら、ダークライに寄り添おうとする。
 スウィートは少しルーナを羨ましく思った。

(私は……許せなくても、寄り添えるのかな。理解できるのかな)

 あの星の停止≠故意に起こしたことは、スウィートは絶対に許すつもりがない。きっとそれを許してしまえば、シルドとレヴィに、あの未来にいたポケモンたちに顔向けできない。
 それでも理解する必要はある。今後ダークライに同じことをしようと思わせないためにも、ダークライと同じようなことを起こそうとする者を出さないためにも。

「今は負の感情に覆われてしまっていますが、もしかしたら正の感情がアレにほんの少しでも込められていたかもしれません。……そういったものを、ヒュユン達が掬い上げてくれることを私は願っています」

「そうだね……。それが、ダークライを止める何かになったらいいなぁ……」

 ルーナの言葉に、しみじみとシアオが頷いた。
 スウィートはふと誰かの言葉を思い出していた。



〈許す必要はないんだ。自分の気持ちを押し殺した許しなんて、ただの虚無だよ〉

〈私はただ、貴女に知ってもらいたいだけ。あ、でも一発平手打ちでもして目を覚まさせてあげてほしいなぁ〉

〈そうして、私みたいに気付いてくれるといいな。……何の意味もないって〉


 あの声は、明るい調子で喋っているのに、まるで泣いているようだった。



「スウィート?」

 名前を呼ばれてはっとスウィートは我に返る。見れば心配そうにシアオが顔を覗き込んでいた。

「大丈夫? あっ、暑すぎて気分悪い!? 水いる!?」

「えっ、あ、だ、大丈夫だよ。ちょっとぼーっとしてただけだから……」

「そういうの熱中症の兆しとかいうやつかもしれないから水分はとっといた方がいいよ!!」

「う、うーん、そうだね……。じゃあ貰おうかな……」

 シアオの好意を無碍にすることもできず、そして弁解するのも少し面倒であり、さらに言うと暑いというのは事実であったから、スウィートは素直に水が入った器を受け取った。
 すべて飲んでシアオにお礼を言って器を返し、ふぅと息をついてからスウィートはルーナのほうを向いた。

「すみません、お待たせしました。――行きましょう」


 この悪夢の連鎖を、断ち切りに。

■筆者メッセージ
最終章入りましたが、章自体は短くなると思われます。あと10話以内で終わりそうな感はありますがどうでしょうか…。
この話自体が短くなりました。いや、もう少し書こうかと思ったんですが、区切りが悪いんですよねー。
色々とやろうと考えてはいたんですが、うーんて感じですね。流れだけは頭の中でまとまってるんですが、細かいことがまったく決まってないので…。

「時の誘い」拍手統計がいつの間にか1000を超えていました。ほんと亀更新すぎるのにありがたい限りです、ありがとうございます(土下座)
おそらくこれからも亀更新と思われますが、「闇黒」完結まで頑張りますので、ゆっくりと待っていただけたら幸いです。
アクア ( 2020/07/26(日) 23:59 )