61話 VS空間を司る者
『シリウス』とパルキア、一番最初に動いたのはパルキアだった。
「みずのはどう!!」
「エナジーボール!!」
すぐさま真っ直ぐ突っ切ってくるみずのはどうをフォルテが相殺する。その間にスウィートが技を発動させた。
「てだすけ!!」
ふわりと小さな光がシアオたち3匹を包む。
それを皮切りに、3匹は同時にでんこうせっかでバラバラに動いた。まずは様子見だというように、3方向から攻撃をしかける。
「きあいだま!」
「火炎放射!」
「10万ボルト!!」
「だいちのちから!!」
パルキアがそういった瞬間、パルキアの周りの地面が盛り上がり、勢いよく上へと噴射される。まるでパルキアを守るかのような、分厚い土の壁ができ、『シリウス』の攻撃を弾く。
そして土が崩れる前に、中から冷凍ビームが四方に発射された。
咄嗟にフォルテは火炎放射を繰り出し、アルは素早くでんこうせっかで避ける。スウィートはすぐシアオの腕を掴み、真空瞬移で移動する。シアオはそれを予想していたのか、移動したときには既にはどうだんの準備が終わっていた。
「特大はどうだん!!」
「チッ……こざかしい!!」
「――ちょっ、え、嘘ぉ!?」
はどうだんを撃ったすぐ後、シアオが素っ頓狂な声をあげる。
それもそのはず、パルキアは凄い速さでシアオのはどうだんの倍ぐらいの大きさのはどうだんを作りあげた。2秒もなかったのではないか、そんな速さで。
驚いているシアオを他所に、パルキアはシアオのはどうだんの方に撃った。
「スウィート! シアオ!!」
驚き、そしてあまりの速さにスウィートとシアオは何かをする前に、はどうだんの餌食になる。フォルテが悲鳴じみた声で名前を呼ぶが、はどうだんがはじけた轟音で掻き消えた。
その様子を少しもうかがう様子を見せず、アルはパルキアの後ろに回っていた。
「アイアンテール!!」
「遅い! アクアテール!!」
読んでいたかのように、水にまとわれた尻尾をパルキアが振り上げる。
それはアルのアイアンテールと激突し――結果、勢い負けをしたアルの体が吹っ飛ばされ、ドォン! という大きな音をたてて壁に叩きつけられた。
「よくも――!」そうフォルテが攻撃をしかけようとした矢先、フォルテの足元の地面がぼこりと盛り上がった。
(まっず――!!)
見覚えがありすぎる、その攻撃。急いで避けようにも、地面が上へと噴き上がるのが速かった。
「だいちのちから」
その言葉とともに、フォルテの体がいとも容易く弾きとび、ゴロゴロと地面に転がる。
パルキアはつまらなさそうに『シリウス』を一瞥した。
「呆気ない……所詮こんなものか」
「《――あらまぁ、ずいぶんと酷い物言いね?》」
「――ぐっ!?」
いつの間に後ろに移動したのか、パルキアの後ろからオーロラビームが発射され、見事にパルキアに直撃した。
激痛に痛みをしかめながら、パルキアが後ろを振り返ると、青色の目をしたスウィートがそこにいた。
「《本当は、手出しをする気はなかったのだけれど、あまりに一方的じゃない? まるであの暗い暗いディアルガのようだわ》」
おっとりとした、穏やかな声だが、明らかにスウィートの、否、アトラの声は冷え切っている。誰でも怒っていることがわかる、そんな声音だ。
しかしそれに怯むパルキアではない。ぎろりと睨みつけてきた。
「アイツのことなど、俺の知ったことか。危うく世界を暗黒に包む一歩手前までいかせた奴のことなどな」
やはり、ディアルガのことも、星の停止≠フ一歩手前までのことも知っているか。
時と空間は対になるもの。ディアルガは時を司り、その対の空間はパルキアが司るとラウルは言っていた。だからこそ2匹には何かしら繋がりはあるだろうとスウィートは予想していたのだ。
しかしあまり友好的でないところを見ると、そのディアルガと今の問題について話し合ったなんてことはないのだろう。もしそうだとしたら、パルキアと落ち着いて話し合いができるかもしれないという希望をスウィートは抱いていたのだが。
しかしスウィートの考察と願いはアトラの頭にないらしい。いつもより低い声で、パルキアに問いかけた。
「《この子たちが、この子たちの存在が世界を滅ぼすと、貴方は本気で言って、言い分も何も聞かず、本気で消そうとしているのよね?》」
今更アトラは何を聞いているのだろう、スウィートはそう思ってしまった。きっと、それはすぐさま馬鹿にするように返したパルキアも同じなのだ。
「当たり前だろう。貴様らが、空間を歪めている気配は確かにするのだからな!!」
その返答に、スウィートは泣きそうになった。あぁ、本当なのだ、と。
非常な答えとともに打ち込まれるはどうだんと冷凍ビームで打ち消したアトラは、静かに、怒りで震えた声で呟いた。
「《――この子たちがいなかったら、世界なんて、滅んでいたようなものなのに。都合が悪くなったら、一方的に邪魔だって言って消そうとするなんて、愚かすぎる、不条理すぎるわ!!》」
きっと、叫んだそれは、アトラの本心。
あまりに無情すぎる、あまりに不条理だ。それは当事者である『シリウス』も、心のどこかで思っていることだった。
きっとシルドに何を言われても、あの未来を見なかったら、あんな暗黒の未来は信じなかった。あの未来を知って、見たからこそ、変えようとしたのだ。そして、やっとの思いで、あの未来を変えた。
――変えたのに、その未来に行って空間が歪んだから、消えろなんて。
「わたし……わたし、まだ、生きたいよ」
ぽつりと、スウィートの口からこぼれたその言葉。小さなその呟きは、シアオにも、フォルテにも、アルにも、ちゃんと伝わった。
少し迷っていた4匹に、その言葉は重く、しっかりと響いた。
「そ、んなの、僕もに決まってんじゃん!! ていうか、皆そうだよ!!」
大きな声で、シアオが言った。
「だから、だから!! 今、僕らが生きるために$おう! 僕らが生きるために=A僕らにはまだやることがあるでしょ!!」
戦って、パルキアから納得のできる理由と説明を聞かなければ。そしてそれをきちんと調査するまでは、『シリウス』は死ねないのだ。
そう、それが『シリウス』が消えるための条件。
その条件を覆すことが、『シリウス』にとって、生きるために&K要なことなのだ。
だからこそ、今は戦わなければ。落ち着いて話を聞いてもらうために、多少なりとも強引な方法でも、やらなければならない。
シアオのその言葉に、スウィートは力強く頷いた。フォルテは顔は鼻で笑った。アルは苦笑を浮かべた。
「そんなの分かってんのよ――炎の渦!!」
「やれることは全てやってから、だな。チャージビーム!!」
フォルテとアルが技を放つと、やはりパルキアは技でそれを防いでくる。
その中で、スウィートはずっと考えていた。
パルキアにも、ディアルガの時の咆哮≠ニ同じような、切り札ともいえる、そして自分たちにとって最大の隙が現れるチャンスの大技があるのでは、と。
(その時に、大技を直撃させることがでいれば、大ダメージを与えられる)
しかし、チャンスは多くないし、自分たちにだって大きなダメージを伴う。耐えられるかどうかも分からないうえ、パルキアがそんな技を持っているとも、持っていたとしても使ってくるとは限らない。
あの時はディアルガは正気ではなかったために行動パターンが読みやすかったから、タイミングは図れた。
今は違う。パルキアは怒ってはいるが、意識は正常だ。いつ使ってくるか検討もつかない。
(でも、長期戦になればなるほど、きっと私たちが不利だ)
相手が不意に、その大技に頼ってしまうような場面を作らなければならない。相手の余裕がなくなるような場面を。
(相手の動きを封じて、そこで一気に畳みかける)
《そうねぇ、それが一番だわ。うまくいけば、それで倒せるかもしれないし》
アトラがいつもの調子のゆっくりとした口調でそう返し、スウィートは「だよね」と頷いた。
「畳みかけよう」そうスウィートが声をださず口の動きだけで伝えると、何かを察したらしい3匹は頷いた。
「「シャドーボール!!」」
スウィートとフォルテが一緒に技名を叫び、パルキアに撃ちこむ。シアオの時と同じ手を使おうにも、生憎両方向からきているので不可能だ。
パルキアは即座に両手からはどうだんを作り出し、シャドーボールとぶつける。
その間に攻撃しようとしていたシアオとアルに構わず、パルキアはすぅと深く息を吸い込んだ。
「りゅうのいぶき!!」
体を回し、前方向へ黄色い息をパルキアは吹きかける。
スウィートは真空瞬移で素早くフォルテの前まで移動し、まもるを発動させてパルキアの技から身を守る。
防ぐ暇のないシアオとアルはそのまま攻撃する。
「っ――はっけい!!」
「叩きつける!!」
2匹ともパルキアの体に技を命中させる。そしてもう一撃、と準備した時。
パルキアの目が、ぎらりと光ったような、そんな感じ。アルは知らずとも、シアオはこれを知っていた。
(――威圧!!)
ディアルガの時のように、体が硬直してしまうほどの威圧感。
びしりと石のように固まった体は動かず、気づいたときには眼前に鋭くとがった爪が迫っていた。しかしそれは、体が動かないせいで、避けられない。
「っぐぁ!!」
重い一撃を喰らい、シアオとアルの体は吹っ飛ばされる。
嘘でしょう、スウィートは呟きそうになった。考えなかったわけではない。それでも、あの時は正気を失ったディアルガだからこそ、あの威圧感を放っていたと思っていたのも確かだ。
威圧をみて、本気だと再確認した。パルキアは自分たちを、消すつもり、なのだ。
「……フォルテ、」
こっそり、スウィートは素早くフォルテに耳打ちして自分の作戦を伝えた。それにフォルテは顔をしかめる。
「……きっと、効果はあまりないわよ」
「いいの。ちょっとだけでも、ほんの数秒でいい、その隙を作れば――!!」
「何を呑気にしている!? げんしのちから!!」
パルキアが大きな岩々を操り、『シリウス』にぶつけようとしてくる。
スウィートはフォルテの手をとり、真空瞬移で避けていく。シアオとアルもボロボロになりつつも、何とか避けていっているようだった。
「ハイドロポンプ!」
「まねっこ――げんしのちから!!」
スウィートが全ての岩をハイドロポンプで撃ち落とし、シアオがパルキア目掛けてげんしのちからを放つ。すぐさまパルキアは向かってきた岩をアクアテールで粉砕する。
その間にフォルテとアルがまた技を放つ。
「10万ボルト!!」
「火炎放射!!」
スウィートは真空瞬移で動き、シアオに目配せする。シアオも意図をくみ取ったようで、2匹は同時に叫んだ。
「「かげぶんしん!!」」
スウィートとシアオ、それぞれが分身を作る。それはどんどん数が増え、フロアの半分を埋め尽くすぐらいになる。
目的は、単純なのだ。
「しんくうぎり!!」
「はっけい!!」
パルキアはきょろ、と辺りを見渡す。見分けはつかない。
「ナメるなよッ!!」
パルキアの周りの地面が盛り上がり、勢いよく浮き出した。今までで一番大きなだいちのちから。しんくうぎりを遮り、迫ってくるシアオの分身を呆気なく消し去ってしまう。
しかしスウィートとシアオは手を休める雰囲気も見せない。
「シャドーボール!!」
「はどうだん!!」
次々と放たれる技と、消えてもまた増える分身。
なかなか終わらない攻防戦に、パルキアがイラつきだし、青筋を浮かべた。
「鬱陶しい!!」
これまでで、一番大きなはどうだんを作り出し、撃とうとした瞬間だった。
「――ふういん!!」
ビシッ、そんな擬音が似合うような形でパルキアの体は固まった。
後ろには、フォルテ。その傍にはアルが控え、足元には、穴があった。
アルが穴を掘り、そこを通ってフォルテとともにパルキアの背後まで回ったのだ。スウィートとシアオはパルキアを錯乱するための囮。
パルキアが動けない一瞬で、技を畳みかける――。
スウィートとシアオは既に、フォルテがちらりと視界の隅に移った時点で準備をしていた。
「特大はどうだん!!」
「《
大河海嶺》!!」
大きな大きなはどうだんと、巨大な全てを飲み無用な波の大技を、動けないパルキアに向かって撃った。
パルキアの肩の、紫色の石が光った。それはどんどん大きくなり、一つの塊となっていく。ビリビリと、空気が震えている。
「――皆、くる!!」
スウィートが息を叫んだと、ほぼ同時。
「グオオオォォォォォォォォォォォォォッ!!」
パルキアの雄叫びと同時に、その光は爆発するように割れた。
光は割れた破片のごとく飛び散り、そして何もないところにぐさりと刺さると、上下の場所が文字通り、ズレた。
(――っ!!)
空間が割れている。空間が、切り裂かれている。
破片のようにバラバラに飛び散った光は、岩であろうが、何であろうが、容赦なく切り裂いていく。空間が割れた場所にあった岩はかみ合わずに、ごとりと上の岩が落ちた。
それはスウィートシアオの技をも切り裂いた。はどうだんは切り裂かれたためかはじけ飛び、波はフロアを荒れ狂った。
「まっず――!!」
避けようにも、飛び散った欠片が不規則に切り裂いていくものだから、逃げ込んだ場所にまで降り注いできて結局意味がない。体が引き裂かれる痛みを堪え、なんとか無事な空間に逃げ込む。それを繰り返すしかない。
その場はもう、空間が暴れまわる、おかしな劇場。
スウィートの目の前に、光の欠片が飛び込んだ――。
ハァッ、今まで吐かなかった荒い息を、初めてパルキアが吐いた。
「まさか……あくうせつだん≠ワで、使わされることに、なるとは……」
目の前に広がるのは、切り裂かれた岩や、削られた地面、どれも切り取られたように真っ直ぐの線で切られたりえぐられたりしている。
それはもう、自分の技のせいだとしても、目も当てられない惨状になっていた。
「しかし、元凶は――」
そこで、パルキアの言葉は途切れた。
感じていたあの不快な空間の歪みは、解消されていない。まだ、残っている。
「だいもんじ!!」
「100万ボルト!!」
ドォンッ、と背中に重い衝撃と痛み。
「ッガァッ――……!」
ぐらりと、パルキアの体が傾く――
「え……?」
しかし、それは地面に倒れることなく、中途半端な位置で、ぴたりと固まった。