輝く星に ―闇黒の野望― - 第5章 迫りくる脅威
57話 夢の中
 “修行の山”の頂上につけば、黄色い背中が見えた。かつては許せないと追った背中が、今は頼るために追っているのは、何だか不思議だ。
 しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。
 こちらに気づかないウェーズにむかって、シアオが大きな声をだした。

「ウェーズ!!」

 名前を呼ばれるのは予想外だったのだろう。
 ウェーズは大げさなほどに体を揺らし、勢いよくこちらへ振り向いた。そして『シリウス』を見た瞬間に、驚きと、そして焦りの色を見せる。

「おお、お、お前ら、な、何でこんなところに!? はっ、おお俺はもう悪いことしてないぞ!?」

「え、ち、違います! 私たち、お願いしたいことがあって……!」

 完全に勘違いしているウェーズに、慌ててスウィートが弁解しようとする。
 フォルテがいらだった様子を見せたので、アルは静かに牽制した。そして何故かウェーズとともに一緒にパニックになっているスウィートの前に出た。

「サフィアのこと、覚えてるよな。そのサフィアが眠ったまま起きないんだ。うなされてる様子を見るからに、たぶん悪夢を見てるんだと思う」

「それで、スリープって種族なら夢の中に入れるって聞いて。僕たち、サフィアが起きない原因を知るために、サフィアの悪夢がどんなものか見たいんだ。……手伝ってもらえないかな?」

 そう言えば、ウェーズは俯いて黙ってしまった。沈黙の中、『シリウス』は静かに返事を待っていた。
 すると、数秒してウェーズが俯きながらも口を開いた。

「お、俺は……サフィアに、酷いことをした。……罪滅ぼしに何て、ならないかもしれないけど……けど、少しでも力になれるなら、」

 ウェーズが、顔をあげた。

「――手伝わせてくれ」

 しっかりとした目で、ウェーズはそう言った。
 スウィートは思わず微笑んだ。本当にこのポケモンは反省して、誰かの役にたちたいと願っている。そのことが、とても嬉しかった。
 返事をきくと、アルはすぐさま身を翻した。

「よし、じゃあ早くギルドに帰るぞ。サフィアの容態も心配だしな」

「おう!」

 そうして、『シリウス』とウェーズは駆け足でギルドへ戻って行った。




 サフィアがいる部屋に戻るまでに、何匹かのポケモン、もとい弟子たちとすれ違った。急いでいたので声はかけられなかったが、心配そうな目は見て取れた。サフィアのことか、ウェーズのことか、それとも両方か、それは分からない。
 部屋に入れば、アイオとサフィアに付き添っている『アズリー』がいた。

 すぐさま寝ているウェーズにサフィアを診てもらう。
 その間に、小さな声で凛音が話しかけてきた。

「……あのポケモン、大丈夫なんですか。先輩たちがかなり警戒してましたけど」

「大丈夫だよ。本当に反省してるみたいだったから」

「はぁ……」

 少し腑に落ちないといった顔をしているが、凛音はそれ以上は何も言わなかった。
 メフィは、少しでもアイオが落ち着くように手を握っている。スティアは何でかアイオ以上に涙目になっていた。

 サフィアを診てから数分後、待ちきれなくなったフォルテが尋ねた。

「どうなわけ?」

「……お前たち、これから冒険にいく支度をしてきてくれ。準備ができたら……お前らをサフィアの夢の中に送る」

「え、ゆ、夢の中に!?」

 ウェーズの言葉に、シアオが目を丸くする。
 顔をあげたウェーズは真剣な表情をしていた。堅い声で、「あぁ」とシアオの言葉に返した。

「俺1匹で何とかなったらよかったんだけどな……。これは、俺じゃ手に負えない」

「……どういうこと?」

「……サフィアの夢の中に、ものすごく邪悪なものを感じる。何か、禍々しいものがいるような、よく分からないが……とにかく、危険なものを感じるんだ。
 十分な準備をしてくれ。いざとなったら夢の中から出せるようには努力するが……」

「わかりました。夢の中に入れるだけでも、十分です。……とりあえず、早く準備をしよう。早く、サフィアちゃんの悪夢をどうにかしないと」

 ウェーズの話が本当ならば。サフィアの容態は、本当によくないものだ。
 未だ、サフィアは苦しそうに顔を歪めている。このまま放っておいて、どうなるのかは誰にも分からない。だからこそ、早めに解決しなくては。


 『シリウス』は急いで支度をすました部屋に戻った。ギルドの弟子たち、トレジャータウンのポケモンたちから激励をもらいながら。
 準備ができた、とウェーズに伝えると、サフィアの近くに立たされた。

「これからお前たちをサフィアの夢の中に送る。いくぞ!!」

「せ、先輩、がんばってください!!」

「ごごごごごご無事でぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「……煩いです」

 慌てたようなメフィの声と、涙声のスティアの声と、鬱陶しそうに呟く凛音の声を聞きながら、『シリウス』は自分の意識がどんどんぼやけていくのを感じた。

 目を開けば、ギルドとは全く違う場所に立っていた。
 周りを見れば、紫色や黒が多い、それで不気味さを強調している場所にいた。雰囲気というか、空気というか、確かに何か突き刺さるようなものを感じた。

「ここが、夢の中、なのかな……?」

《『シリウス』! 聞こえるか!? 俺だ、ウェーズだ》

「う、うん! 聞こえるよ」

 周りを見ても、ウェーズの様子はうかがえない。空間に、頭に響くような感じから、おそらく夢の外部から話しかけているのだろう。
 そう推測して、ウェーズの声に耳をすました。

《前にも言ったが、この夢の中には邪悪な何かを感じる。分かっているとは思うが、十分注意して行ってきてくれ》

 すると、声は止んだ。忠告は、どうやらこれだけらしい。
 ふぅと息を吸い込むと、何だか少し肺が痛んだ。この夢の、悪夢の空気はあまりよくないみたいだった。
 スウィートは振り返り、3匹に微笑んだ。

「それじゃあ、奥に進もうか」

「そうだね。……夢、かぁ」

 シアオがそう呟いたのにスウィートは疑問を抱いたが、はじめて夢の中に入ったのだからそう呟いたのだと思い、そんなに気にしなかった。
 『シリウス』が夢の中を進み始める。

 しばらく進んでも、黒と紫の禍々しい空間が続くだけ。
 ときに悪夢だからなのか、マトマの実が転がっていたり、怖そうなポケモンがいたりする。ただ、『シリウス』にあまり実害はない。

「……サフィアちゃんが嫌なものがいっぱいあるって感じなのかな」

「だろうな。これがシアオの悪夢だったら大量のアリアドス、フォルテの悪夢だったら大量のゴーストタイプがいたりするんだろうけど」

「ひぃぃぃぃぃぃっ!!」

「ちょちょちょっと! 気持ちが悪いこと言わないでくれる!? 考えるだけで寒気がするわ……」

 想像だけでこの反応とはいかがなものなのか。スウィートは苦笑した。
 そこでふと気になった質問をアルにぶつけてみた。

「アルの悪夢だったらどんなのだと思うの?」

「俺? ……馬鹿ばっかりで収拾がつけられなくなって俺が巻き込まれる夢、かな」

「そ、そう……」

 思わずどう返事しようか迷ったが、頷く以外に反応できなかった。どれだけ迷惑をかけ、どれだけアルに苦労をかけているのかが分かった気がする。
 いつか恩返しできるようにしよう。
 スウィートは心の中で決意するが、迷惑をかけている人物が自分でないことを知らないため、その決意が無駄であることに気づかなかった。

 ちょこちょこ話をしながら、先へ進む。しかし、進んで進んでも同じような道しか続いておらず、悪夢の原因になりそうなものはない。

「ずいぶん奥まできたよね……。サフィアの悪夢の原因は、わっ!?」

 そうシアオが言いかけたときだった。いきなり周りが暗くなり、見えなくなった。
 スウィートは思わず小さく悲鳴をあげる。腕を掴んできたのはおそらく隣にいたフォルテだろう。証拠に「何!? ゴーストタイプ!?」という声が聞こえる。
 騒いでいるシアオとフォルテに、アルが「落ち着け」と言おうとした瞬間だった。

「貴方たちは、貴方たちはどうやってここに……」

「えっ?」

 少し近いところから聞こえる声。聞き覚えがあり、スウィートは耳を疑う。
 そして周りが明るくなって声の主の姿が明らかになった瞬間、今度は目を疑った。普通なら、見るはずのない姿。

 ルーナ・ユエリア。
 最近夢にでてきて、スウィートを悩ませているポケモンが、目の前に、いた。

「貴方たちがここにどうやって来たのかは知りませんが……でも丁度よかった。私も貴方たたちにお会いしたいと思っていましたから」

 どうして、彼女がここにいるのか。
 考える前に、シアオとフォルテが言った言葉に思考が止まった。

「ル、ルーナ……」

「な、何で!? あれは夢のはずでしょ……!?」

「……え?」

 シアオは何故か、知るはずのないルーナの名前を呆然と呟いた。フォルテは、「夢のはずだ」と言った。アルを見れば、少し顔色を悪くしてルーナを見ている。
 どういうことだ、そう思う前に、アルが問いかけた。

「……夢の中で話したことは、夢じゃなくて本当ってことか」

「はい。以前お話した通り、貴方たちはこの世界にいてはならない存在なのです」

 一気に冷や汗が出た気がした。
 貴方たち=Bつまりそれはスウィートだけでなく、シアオやフォルテ、アルも消えなければいけない存在だということ。シアオたちも、ルーナに夢で同じことを言われていた、ということ。
 しかし、スウィートは疑問を覚えた。それを、ぶつけずにはいられなかった。

「ま、待ってください! 何でシアオたちまで!? だ、だってルーナさん、私が「未来から来た人間で、この時間の者じゃない」から空間の歪みを大きくさせてるって……!」

「……俺は「一度あの未来にいって、この時間に帰ってきたから」らしいぞ」

「ア、アルも同じこと言われてたの!?」

「ちょ、まさかアンタもじゃないでしょうね……」

 どうやらスウィート以外は、アルが言ったようなことを理由に「世界を滅ぼす」と言われたらしい。

 つまりルーナの言うことによれば、『シリウス』の4匹は世界を滅ぼす存在。ここにいてはならない存在、ということになる。

(嘘でしょう……!?)

 もし自分だけならば、あまり迷うことはなかったかもしれない。ただ、他の3匹もだというなら、話は別だ。
 世界を救うために、シアオたちまで犠牲にするなど、スウィートは考えたくもなかった。

「俺たちが未来にいったから、未来の者だから、そういった理由で空間の歪みを大きくしてるのはわかった。ただ、何で空間の歪みが世界が壊れてしまうことにつながる?」

 確かに、それは聞いてない。アルの質問の答えは、スウィートも気になった。

「…………空間の歪みが大きくなると、闇の力も増幅される。やがて世界は悪夢に包まれてしまうんですよ。現に、最近起きないポケモンが増えているでしょう。
 今、私たちはどこにいますか?」

「サフィアの悪夢の、な、か……」

「そう。サフィアさんの悪夢の中。サフィアさんは悪夢を見続け、目を覚まさない。これが世界に広がってしまう。今はまだ少ないですが、空間の歪みが大きくなれば、もっと沢山のポケモンが、すべてのポケモンが、悪夢を見て、目を覚まさなくなるでしょう」

「そ、んな……」

 すべてのポケモンが目を覚まさなくなる。――つまり、それが世界の崩壊。
 確かに、そうだろう。眠り続ければ、死に至る。いつかは、すべてのポケモンが世界から消えてしまう。
 そんなことは、ダメに決まっている。

「ね、ねえ! 空間の歪みをなくすために何か方法はないの!?」

「ありますよ。1つだけ、」

 シアオの質問に、ルーナが微笑んだ。
 その微笑みに、返答に、ほっとしたのは束の間だった。



「――貴方たちが、消えることです」




 底冷えるような声で、冷たい笑みで、ルーナはそう言った。

 思わず体を震わせた。自分が消えるしかないというたった1つの世界を救うため≠フ選択。そして、ルーナへの恐怖。
 息が、思わず止まりそうになった。
 スウィートは何か言おうとするが、口の中がカラカラになってしまって、何も言うことができない。「そんなことはないはずだ」と、言い返すことが、できない。
 それをいいことに、ルーナは続けた。

「私はこの時を待っていました。貴方たちを消し去る、この瞬間を」

 じりじりと、ルーナが詰め寄ってくる。それにあわせて、『シリウス』も後ずさった。

「ちょ……ちょっと待ちなさいよ! い、いきなり「消えろ」なんて、そんなこと言われて、な、納得するわけないでしょう!?」

「では……全てのポケモンが悪夢に包まれてもいいと?」

 噛みつくように言い返したフォルテが、その言葉を聞いて、言葉を詰まらせた。言い返す言葉が、見つからなかった。

 すべてのポケモンが悪夢に包まれて、目を覚まさなくなるなど、そんなことはあってはならないことだと分かっている。
 それでも、自分たちが消えることを選択するのは難しかった。
 誰かがあの時のように、問いかけてくる。――これが最善策? そう、問いかけてくる。

 とにかく何か言わなければ。どうにかしないと。それでも口からは何も出てこない。
 すると、シアオが後ずさりする足をとめて、しっかりとルーナを見て尋ねた。

「……本当に、本当にそれで、世界は助かるの?」

「助かります。貴方たちが、世界を壊している原因なのだから」

 シアオが顔を歪めるのがわかった。泣きそうになるのを、耐えているように見えた。
 ルーナがシアオの前に立つ。

 ダメだ、そんなの駄目。でも、世界が、ポケモンたちが。

「すみませんが、――消える覚悟を」

 ルーナが鋭い刃をシアオに振り上げた。スウィートは咄嗟にシアオの前に出ようとする。フォルテとアルも、遅れながらも動こうとする。
 ――間に合わない。誰もがそう思ったとき。


「『シリウス』!! どこにいるんだ!?」


 ぴたりと、その声で、ルーナの刃がシアオに当たる前に止まった。
 その隙にスウィートはシアオをひっぱり、ルーナから遠ざける。引っ張った反動で、スウィートとシアオは少しだけ床を転がってしまった。
 起き上がりながら、眉をしかめたルーナを見た。

「あと少しだったのに……。……邪魔が入りましたが、貴方たちにはいずれ消えてもらいます。消える覚悟は、しておいてください。
 ……もし貴方たちが世界を救いたいと願うなら、自ら消えるべきだと、私は思いますよ」

 歪に微笑んで、ルーナは姿を消した。まるで、元からそこにいなかったように。

 隣にいるシアオを見れば、恐怖の色こそ浮かんでいるが、外傷はない。スウィートは安堵の息をついた。

「此処にいたのか!」

 フォルテとアルは体ごと後ろを振り返り、スウィートとシアオは首だけ後ろに向ける。
 見れば、ウェーズがこちらに駆け寄ってきた。

「ウェーズ……どうしてここに」

「お前たちの帰りがあまりに遅いんで心配になってな。……何か暗い表情をしてるけど……どうしたんだ?」

 その言葉に、どう答えるべきか、『シリウス』は悩んだ。

「……いや、何でもない」

 平静を装って、アルはそう答えた。下手に口にしない方がいいと思ったのだろう。
 ウェーズは首を傾げたが、さして気にしたようではなかった。

「とりあえず戻ろう。ここに長居するのはあんまりよくない」

「えっ、で、でもサフィアの悪夢の原因が、まだ……」

 本来の目的を果たせていない。シアオは戻ることを渋る。
 しかし前を見ても、後ろを見ても、同じような道が続いているだけで、原因があるようには思えない。「長居するのはよくない」と言われてしまえば、探すのはこれ以上は無理だ。
 だからなのか、ウェーズは静かに首を横にふった。

「サフィアのことが心配なのはわかるが、戻った方がいい。これ以上いれば、戻れなくなる可能性もある」

「……なら、仕方ないわね。戻りましょ」

 フォルテが大きなため息をつきながら、そう言った。ウェーズが頷くと、『シリウス』はふわりと宙にういたような感覚に襲われ、目を瞑った。
 後味の悪い何かを、心に残しながら。

■筆者メッセージ
悪夢の中で戦闘するってどういうことだよ。そう思って戦闘をすっ飛ばしました。違いますもう戦闘を書くのが面倒だっただけですごめんなさい。
一気に進む進む。
更新意欲の波っていうのはすぐに去ってしまうもんですね……。書けない←
アクア ( 2015/03/19(木) 22:47 )