51話 またね
はあ、とスウィートは息を吐いた。強張っていた体の力を抜いた。隣にいたアルはそれはそれは重い溜息を隠す素振りも見せずついた。
シアオとフォルテがレジギガスと戦っているのを途中から見ていた2匹は、一部始終緊張していた。同時に心配していた。レジギガスのはかいこうせんをシアオを諸に食らったところは思わずスウィートが出かけたほどに。
勝てたからいいものの、かなり肝を増やす戦いだった。
因みに『チャームズ』はシアオたちの戦いが終わる少し前に戦闘を終えていた。今は傷を癒すためかじっとしている。
アルが「アイツらやっぱりどうにかしないとな……」と呟いていると、いきなり光がフロアを包んだ。
光がやむと、いつの間にかフロアの真ん中に石碑がたっていた。
いちばん近くにいるスウィートとアルが石碑を見る。他は体力がかなり削られたためか、すぐにこちらへ来る素振りは見られない。
その様子を見て、すぐさま済ませよう、とスウィートは石碑の分を呼んだ。
「「目を閉じて汝の波動を大地に伝えよ」……か」
アルと目があう。こくりと頷かれた。
静かにスウィートは目を瞑った。するとだんだん石碑が共鳴するかのように光りだす。そしてスウィートの体が一瞬だが同じように光った。フロアに命が宿ったみたいに、波動が伝わっていく。
同時に、地の底からはい出たような音が聞こえた。
「なっ、まだやる気!?」
声に反応してスィートは目を開く。全員がそちらを見ると、ボロボロなレジギガスが立ち上がっていた。
最も近くにいるシアオとフォルテは戦闘態勢を作るが、あいにく体力はそこまで残っていない。またレジギガスと戦うなどもってのほかだ。
するとレジギガスが動いた。
「グォォォォォォォォォッ!」
けたたましい叫び声をあげ、勢い良く地面を殴った。
瞬間、地面がゴゴゴ……と低い音をたてて小刻みに揺れだす。それはだんだん大きな揺れになてちき、上から石の粒がぱらぱらと落ちてくる。
(逃げないと……!)
スウィートは鞄に手を伸ばし、すぐ出せる場所にしまってあるバッチを手にした。
しかしはたと気づいた。シアオとフォルテ、『チャームズ』、そして自分とアルは場所が離れすぎている。
急いで真空瞬移を――!
その焦りで、バッチが手から零れ、吸い込まれるようにそれは鞄の中へ落ちた。
「まずっ……!」
「リフィネ! あの2匹を回収しろ! そこはこっちまですぐ移動! 早く!!」
いきなり怒鳴り声に近い声が響いた。
声のした方を見ると、出入り口付近にいた『チャームズ』の傍に蒼輝とリフィネが立っていた。リフィネは蔓をだし、それをシアオとフォルテの体に巻き付け、2匹を宙に浮かせながら自分の方へ引っ張っていた。
何で。そんな疑問はすぐさま捨てた。
「真空瞬移!!」
アルの手をとり、言われた通りに蒼輝たちの近くに移動した。ともにシアオとフォルテも到着する。
迷いなく、蒼輝が救助隊バッチをかざした後、呆気なくフロアは崩れ去った。
気づくと、外に出ていた。
「みんな、大丈夫だった?」
「あ、はい……」
「ありがとう、助かったわ」
リフィネの問いかけに、それぞれのリーダーが返事をした。蒼輝はじっと洞窟の出入り口を見ている。おそらく“番人の洞窟”だろう。
すると残念そうに、ウァーサが声をあげた。
「…………無事、はよかったですけど……これじゃあお宝は……」
「そうね……」
ラミナもがっくりと肩を落とした。他の面子もそうだ。
しかし「……いや、」と蒼輝が笑った。
「無駄じゃ、なかったみたいだな」
「えっ? 何、蒼輝なんか見っけたの?」
リフィネが問いかけると、蒼輝はある方向を指さした。
つられるようにそちらを見る。見て、ソレに気づき、全員は目を瞠った。
「あっ、あれって……」
「台地がせりあがって断層が入り口が……!?」
チダの言う通り、断層に入り口ができていた。
「さっきの揺れで……。レジギガスたちが守っていたものはこれだったのですね」
ウァーサが納得したように呟く。
“番人の洞窟”にいた4匹の番人。その番人たちは新たな洞窟を守っていたらしい。誰にも見つからないように。
それが分かった途端、『チャームズ』がわぁっと笑った。
「きっとあそこには沢山の財宝が眠っているはずだよ!」
「やったー! 今回の探検も大成功ね!!」
「あははっ、やったやった!」
『シリウス』、そして蒼輝とリフィネをそっちのけで『チャームズ』は喜び合う。
ひとしきり喜び合った後、3匹は息をついた。そして振り返って『シリウス』を見てにっこり笑った。
「『シリウス』さん、貴女たちの手柄です」
「そうだね。あそこの財宝はみんなアンタたちのモンだよ!」
「えっと……」
そう言われても。あまり財宝などに興味がない『シリウス』は何も言えない。凛音あたりなら喜んで食いつくのだろうが。
しかし『チャームズ』は全く気にせず続けた。
「しかしアンタたち凄かったよ! まるで昔のロードみたいだったね!」
「あははっ、確かにそうかも!」
((((親方様(ロード)と一緒かぁ……))))
褒められているというのに、『シリウス』は何だか微妙な気持ちになった。
笑うだけ笑った後、『チャームズ』は荷物を持ち直した。
「それでは私たちは次の冒険に向かいましょうか」
「そうだね。『シリウス』と冒険できてとても楽しかったよ。また会ったときはアタイたちがお宝をいただくからね!!」
「それじゃあロードによろしくね!」
「あ、は、はい!!」
颯爽と、『チャームズ』は去っていた。
すると入れ替わりのように、「蒼輝さん!」「リフィネー」という声が聞こえてきた。見ると上空から2匹のポケモンの影。だんだん下降し、蒼輝たちの傍におりてきたのは翡翠とシィーナだった。カイアは翡翠の背にのっていたようで、ぴょん、と飛び降りる。
翡翠は蒼輝に向き直ってにこりと微笑んだ。
「ギルドの皆さん、全員きちんと避難させておきました」
「あ……」
そうだ。ギルドの先輩たち。忘れてた。スウィートも、シアオも、フォルテも、そしてアルも例外でなく頭になかった。自分たちのことでいっぱいいっぱいだったのだ。
しかし『ベテルギウス』は忘れていなかったらしい。
あのままだったら間違いなく岩の下だっただろう。スウィートはほっと息をついた。
「あの、ありがとうございます」
「いいのいいの! 私たちは救助隊だからね!」
「……救助した方がいいっつったのはカイアだけどな」
「蒼輝ちょっと黙ってて」
どうやらギルドの先輩に気づいたのはカイアらしい。
お礼を言おうとしたスウィートだったが、蒼輝が「おい」と話しかけてきたため言えなかった。
「俺たちも行く。ロードに伝えといてくれ。「自分のギルドくらい清潔にしろボケ」って」
「えーっと……」
「わかった!」
思わず「シアオ!?」とスウィートは声をあげてしまった。蒼輝は全く気にせず「よろしく」と言った。
そして背を向けた。「行くぞ」と他のメンバーに言って。
リフィネは「またねー!」と慌てつつ、シィーナは「ロードにまた来るねって言っといてねー」とのんびりと、翡翠は「ではまた」と丁寧にお辞儀をして、カイアは何も言わず一瞥すると蒼輝の後を追った。
何だかこの数日、一瞬だったなぁ。スウィートがそう考えていると、蒼輝がぴたりと止まった。そして振り返り、スウィートを見た。
「そういえば1つ。……別に俺はまだ、諦めてねぇよ」
その言葉には、重みがあった。
スウィートは目を丸くしたすぐ後、ふわりと微笑んだ。
「そう、ですか」
安心した。よかった。素直にスウィートはそう思った。
蒼輝はそれだけ言うと、また背を向けて歩いて行ってしまった。今度こそ、振り返らないだろう。
それを見送ってから、スウィートはくるりと3匹を見た。
「それじゃあ、私たちも帰ろっか」
「そうだな。……お前ら、帰ったら覚えとけよ」
「喧嘩のこと? それだったら悪いのはフォルテだよ!」
「ふざけんじゃないわよ! アンタでしょ!?」
「煩い」
「「…………。」」
思わずアルの低い声にシアオとフォルテは声を失った。お怒りだ。かなりお怒りだ。そう理解した。
あのときかなり心配したもんなぁ私もアルも、と思うとスウィートも弁護しようがなく。ただ困ったように笑うしかなかった。