50話 VS最後の番人
それぞれ役目を言い渡されて、シアオとフォルテは自分たちの体の大きさと比べて何倍もあるレジギガスの前に立っていた。
ほんわりと2匹の体が光る――スウィートのてでだすけがが、2匹は気づいていないかった。
「何でアンタなんかと……さいっあく!!」
「僕に言わないでよ! 采配はアルなんだから!!」
敵を目の前にしていつも通りの喧嘩。まあ敵がいても喧嘩することはあるが。
しかし流石にずっと喧嘩する馬鹿ではない(それでも馬鹿は変わりない)。
レジギガスが太い右腕をおもむろに持ち上げ、2匹めがけて振り下ろした。それに気づいて2匹はすぐ口を閉じ、それぞれ左右にでんこうせっかで避ける。
「はどうだん!」
「火炎放射!」
左右から頭を狙い放たれる。するとレジギガスはゆっくりと体をずらす。
しかし、2つの攻撃は呆気なくレジギガスの頭に直撃した。
それを見てシアオとフォルテが呆然とする。レジギガスは動かない。
すると2匹が動いた。
「えぇぇぇぇ!? 避けないの!? そこ避けるとこじゃないの!?」
「何コイツ! 超弱いじゃない!!」
驚いてツッコむシアオと、レジギガスを指さして笑うフォルテ。何とも戦闘に不似合いな姿である。
レジギガスはそれでもゆっくりと動くだけである。またしても腕を振り下ろそうとしてきた。しかしシアオたちにとってそれはスローモーションのようで、避けるのは簡単だった。
でんこうせっかも使わず普通に2匹は避ける。
「何だ、こんなのシアオ何かと協力しなくても楽勝じゃない!」
フォルテが嬉しそうに、そして楽しそうに声をあげる。
「ちょっ、何かって何さ!?」
だがシアオにとってその言葉は気に食わないもので、フォルテに食いつく。
当然ながら言い返されたフォルテが黙っている訳もない。
「そのまんまの意味よ! ヘタレ! もう何もしなくていいわよ!!」
「そういう訳にはいかないから! あとヘタレじゃないし!!」
「あー、もううっさいわね!」
「いやフォルテが僕の悪口いうから悪いんでしょ!?」
ぎゃーぎゃーと言い合いが始まる。それもいつも通りに。
しかし敵を放っておくほど馬鹿ではないらしい。
「アンタはいちいちうざいのよ! 火炎放射!!」
……いや、やはり馬鹿だろう。
フォルテはレジギガス――そしてシアオにむけて火炎放射をむけた。
「うっわ、でんこうせっか! 僕まで狙わないでくれる!?」
シアオはぎりぎり火炎放射を避ける。レジギガスはやはりゆったりとした動きで動くが、火炎放射はよけきれなかった。
そしてレジギガスを巻き込んでの2匹の攻防戦は続く。
「大体フォルテは僕に対してだけ毒舌すぎない!? はどうだん!」
「なっ、炎の渦! 危ないわね! 狙うのならあのでくの坊だけにしなさいよ!! あと今更すぎじゃないかしら!?」
「先にやってきたのフォルテじゃん! それに自覚あるならやめてよ!!」
「ヘタレな以上やめないわよ! シャドーボール!!」
「ちょっ、これもう僕しか狙ってないじゃん!!」
次第にエスカレートしていき、ついにはレジギガス無視で2匹だけで攻防しあう始末。完全に内輪揉めになっている。
レジギガスは素早く動く2匹を目で追うのがやっとである。
「ていうか毎回毎回なんでフォルテは突っかかって来るかなぁ!?」
「突っかかってないわよ! アンタが勝手に反発してくるだけでしょーが!!」
「フォルテが挑発してくるからでしょ!?」
「あたしがいつ挑発したってんだこのヘタレが!!」
近くに誰かいたのなら「真面目にやれ」「協力しよう」等の言葉をかけただろう。
しかし残念ながらいつも止めてくれるアルだけでなく、スウィートや他の協力者もいない。この喧嘩を止められるのは喧嘩している張本人たちしかいないのである。
そう理解していない2匹はいつまでも喧嘩を続ける。
長続きをした喧嘩は、不幸をよんだ。2匹とも予測が甘かったのだ。
「それといい加減ヘタレやめない!? アルでさえ言ってないよ!? 言ってるのフォルテだけだからね!!」
「他がどう言おうがあたしがヘタレだと思ったらヘタ、レ!?」
最後の一言、フォルテの声が裏返った。
理由は明白。喧嘩をしていたシアオがいきなり視界から消えたからである。さらに言えばシアオのいた場所にいつのまにかレジギガスが移動していたからである。
フォルテは目を丸くするので精一杯だった。
「ピヨピヨパンチ」
「は、――ぐっ!?」
フォルテにとっては本当に一瞬のことだった。いきなり体に衝撃がはしり、そのまま壁へととばされぶつかった。かなりの威力だったようで、壁が軋む音が聞こえた。
咳をしていると、隣でも同じような咳が聞こえた。どうやらシアオは先に同じ状況にあったらしい。
レジギガスは最初のゆったりとした動きが嘘のように、巨体を軽々と動かしていた。
「……アンタのせいよ」
「いやいや、フォルテが喧嘩うってきたのが悪い」
「はぁ!?」
いい加減学べと誰か言えればいいものを。またしても言い合いが始まる。
しかしその言い合いはレジギガスが両手に炎をともしてツッコんできたことですぐさま終わった。
「っと、」
「馬鹿ね、あたしの特性はもらい火よ――火炎放射!!」
超至近距離というより、ほぼゼロ距離でフォルテは技を発射した。レジギガスから離れるとフン、と鼻をならす。
シアオがそのときボソリと「こわ……」と呟くと、フォルテがキッとシアオを睨んだ。
「何か言ったかしら?」
「何モ言ッテオリマセン」
さっきの威勢のよさはどこにやら、シアオは片言になって返した。
レジギガスは炎を消すとすぐさま攻撃の態勢を作ってきた。
「ストーンエッジ」
「はどうだん!」
地面から浮いた鋭い石をすべて掃滅する。しかしレジギガスはすぐさまシアオに詰め寄って炎のパンチを放った。レジギガスの拳がシアオの腹にめりこむ。
フォルテは少し離れたところから攻撃の機会を探っていたが、その様子を見て舌打ちした。
「面倒くさいわね、邪魔よシアオ! 炎の渦!!」
「ゴホッ、ゲホッ、ぐぅっ、でんこうせっか……!」
咳をしながらシアオは素早くレジギガスから離れる。すると容赦ない炎がレジギガスを包んだ。
フォルテは移動したシアオを横目でぎらりと睨む。
「アンタねぇ、せめて邪魔にならないようにしなさいよ!」
「仕方ないじゃん! 何で今も文句言う――えぇ!?」
反論しようとしたシアオが変なところで言葉を止めた。
レジギガスが炎の中からそのまま出てきたのだ。体がちらほら燃えているのも気にせず。そして2匹の方へ突っ込んできている。
「ぎゃーっ、フォルテさっきの攻撃、全然効いてないじゃん!」
「何もしてないアンタに言われたくないわよ! それに炎ならまた――」
シアオはすぐさま移動したのだが、また炎のパンチがくると思っているフォルテは避ける素振りを見せない。
しかしすぐ青ざめることとなった。
「――って、予想に反するんじゃないわよー!!」
そう、違った。レジギガスの拳には電気。炎のパンチではなく、雷パンチ。
しかしフォルテが避けるには時間がない。シアオも恐らく間に合わないため、自身でどうにかする以外、方法がない。
舌打ちをしながらも、フォルテは技を放った。
「シャドーボール!」
せめて動きを止める。それを狙ってフォルテは攻撃した。
「げっ、嘘でしょ!?」
どこまでも予想の斜め上をいくらしい。
レジギガスはそのまま突っ込んで、シャドーボールを食らいながらもフォルテに雷パンチを食らわした。
しかしフォルテも負けていない。
「っんの……火炎放射ァ!!」
痛みをこらえながらも、レジギガスにむかって攻撃を放った。
至近距離にいたというのに、レジギガスは素早くその場から離れて攻撃を避ける。ここまできたら最初のスローモーションのような動きが嘘だったみたいだ。
しかしシアオも負けじと素早く動き、レジギガスに接近した。
「かわらわり!」
レジギガスの片足を狙って腕を振り下ろす。
シアオは目を見開いた。その腕は足に当たる前に、寸前で止まった。
「っぐ……!」
がっちりとシアオの腕はレジギガスに掴まれていた。ギリギリと潰すつもりで握られていると言っても過言ではないくらい強く。
振り払おうともビクともしない。なら攻撃を、と。シアオはレジギガスの頭に攻撃しようとした。顔をあげたと同時、
「ハカイコウセン」
「――――、」
シアオが何か言った。しかしそれははかいこうせんの轟音でかき消された。
遠くから見ていたフォルテも、さすがにマズイと理解していた。本当ははかいこうせんを撃たれる手前、火炎放射をしていたのだが間に合わず、はかいこうせんが撃たれた後にレジギガスに当たった。
「シアオ!!」
「っぐぅ……」
声が聞こえる。どうやら生きてはいるらしい。
フォルテはそれを確認し、どう攻撃するかを思案した。今むやみに攻撃すればシアオに当たる。大ダメージを食らったシアオにはマズイだろう。
だがゆっくり考えている暇は与えてもらえないらしい。
レジギガスが氷のパンチを用意しているのが見えた。止めのつもりだろう。
「あーっ、死んでもらっちゃ困るのよ! 炎の渦!!」
フォルテが放った技。それもかなりマズイとは思う。
しかし放った炎の渦は綺麗にシアオを避けるように、レジギガスの上半身部分を囲んだ。地面にいるシアオには全くあたらないように。完璧にコントロールされていた。
レジギガスは炎の渦の中でフォルテを一瞥した。
「ストーン、」
攻撃しようとした。
その時シアオが寝転んだ状態で、左手で右手を支えながらレジギガスに狙いを定めていた。
「起死――」
何をしようとしているのかは一目瞭然。レジギガスはすぐさま標的をシアオに変えた。ただ間に合わない。
「――回生!!」
どでかいレジギガスの巨体が、下からの攻撃で吹っ飛び、天井まで撃ちあがった。
フォルテはその間にでんこうせっかで移動し、シアオを回収して移動する。レジギガスはゆっくり地面へ落ちた。ズドン、と音をたてて。
肩で息をしているシアオに、フォルテはため息をついた。
「アンタふざけんじゃないわよ。役立たず」
「うっさい、なぁ……。最後、役にたったじゃん……」
「最後だけでしょ」
「たったんだから、いいじゃん……!」
何があっても喧嘩する運命にあるらしい。因縁なのか何なのか、またしても口喧嘩が始まるのだった。