49話 VS超能力と力の番人
各々が移動してからも、スウィートはある方向を気にしていた。
「シアオとフォルテ大丈夫かなぁ……。喧嘩してないといいんだけど……」
「荒治療も必要だ」
「あっ、荒治療……」
その言い方はどうなんだろうか。しかしそう口に出すスウィートではない。
もう一度シアオとフォルテの方を見る。
まだ言い合いは終わっておらず、目の前の敵させも放っておきそうな勢いである。あの様子で戦闘などできるのだろうか。
しかしこちらにも敵はいる。あちらだけを気にしている訳にはいかない。
「てだすけ」
スウィートがぽつりと呟くと、わずかだがアルの体が光に包まれる。今頃スウィートが気にしている2匹、そして『チャームズ』も同じ状態になっているだろう。
一歩進み、アルはスウィートを背後に技を繰り出した。
「放電!!」
スウィートには当たらないように、前方にむけて電撃を発射する。
ドータクンはサイコキネシスで電撃を自分たちから背け、サワムラー2匹は素早い動きで正確に攻撃を避けてみせた。
そしてサワムラーはそのままスウィート達の方へ突っ込んできた。
「しんくうぎり!」
それを牽制するために、スウィートが技を繰り出す。サワムラーはそれさえも見事に避ける。
しかしアルは避けている間のサワムラーの隙を見逃さなかった。
「フェイント」
軽々とサワムラーたちに技を決める。
スウィートはそれを確認しながら、後ろで構えているドータクンの動きをしっかり見据えていた。
サワムラーの相手をしているアルに攻撃しようと、ドータクン2匹がじんつうりきの準備をする。その背後に、先ほどまでアルの後ろに控えていたスウィートが瞬間的に現れた。
「真空瞬移――《悪の波動》」
高い声と、そして低い声が技名を発した。スウィートの瞳はいつものこげ茶の色から真っ黒な瞳へと変わっていた。
後ろからの攻撃をドータクンがもろに食らう。
するとぼこりと何もない足場が盛り上がる。それを確認し、スウィートもでんこうせっかでサワムラーの近くへと移動した。
「アイアンテール!」
「まわしげり!」
スウィートの尻尾とサワムラーの右足がぶつかる。すると視界の端に――つまりスウィートの真横からもう1匹のサワムラーが迫っているのが見えた。
真空瞬移で移動しようとした矢先、体が勝手に動いた。
「《怪しい光》」
どちらのサワムラーも黒い光に包まれた瞬間、いきなり自分たちを攻撃しだす。どうやら混乱状態にあるらしい。
違う方向では地面に穴が開いてバチバチという音が聞こえた。どうやらアルは狙い通り地面の下から放電を繰り出しドータクンに攻撃できたようだ。軽々と地面からあがってくるアルの姿が見える。
サワムラーは混乱で暫く何もしてきそうにない。ならドータクンか。
すぐにスウィートはそう判断し、アルに目配せをする。それにアルも気づく、小さく頷いた。
「シャドーボール!」
「10万ボルト!」
「「じんつうりき」」
2匹同時に攻撃するが、それも相殺されてしまう。
さらにドータクンは続けて攻撃してきた。
「ジャイロボール」
「っと、」
「《悪のはど――ぐっ!?》」
攻撃を避けてから、スウィートが攻撃してきたドータクンに攻撃しようとしたときだった。いきなり体が動かなくなる。
目線だけを後ろに向ければ、もう1匹のドータクン。
「《とおせんぼか……! 小癪な、》」
「チャージビーム」
動くことができず、スウィートは真後ろから技が直撃し、壁に叩きつけられる。
それを見て、アルがすぐさま動いた。
「10万ボルト!! たたきつける!」
スウィートに攻撃したドータクンに10万ボルトを、そして後ろに迫っていたもう1匹を尻尾で地面に叩きつける。
そしてアルは横目で状況を把握した。
(スウィートは暫く動けない。サワムラーもそのうち混乱が解ける。……俺だけでもドータクンは仕留めないとな)
素早くそう考えて、アルはひそかに自分の体に電気を溜め始めた。一発で仕留められるように。
しかしドータクンも黙ってはいない。
「ジャイロボール」
「チャージビーム」
「っ、」
ジャイロボールを避けても、チャージビームは避けきれない。技を食らいながらも、アルは電気を溜めることをやめない。
すると体が光った。これは、最初――戦いの始まりのときと同じ。
「てだすけっ……!」
動けずとも、加勢をしようとしているスウィート。どうやらこの「てだすけ」はアルにだけ、全力をこめて注いでいるもののようだ。
アルがそれに気づくと同時、ドータクンはスウィートに狙いを定めた。
「シャドーボール」
「じんつうりき」
2つの技がスウィートに向けられた瞬間、小さな声で「真空瞬移」とスウィートが言った。同時、スウィートがそこから消え、ドータクンが放った技は壁に打ち込まれる。
するとアルのすぐ真横にスウィートが移動した。
「技は使えるから、私のことはあんまり気にしなくて大丈夫だよ」
「そういうわけにはいかないだろ。攻撃の避け方だって限られてくる。……きたぞ!!」
ドータクン2匹がチャージビームの用意をしているのが見える。
アルはでんこうせっかでその場をしのぎ、スウィートは真空瞬移で移動して避けた。
しかし、予期せぬことがおこった。
「まわしげり!」
「――っ!?」
アルは反射的に急所を守った。しかし技――足が腹部分にめりこみ、勢いそのままとばされ壁に激突する。
「「ジャイロボール」」
さらに追撃するかのように、ドータクンの攻撃がアルに直撃した。
「アル!!」
「かわらわり!」
「っ、《悪の波動!》」
クッションがわり、少しだけかわらわりの衝撃を柔らかくする。それでも効果抜群の技はかなりスウィートの体に響く。
アルもアルでせき込み、顔をあげ状況を確認してから、苦笑をもらした。
「もうちょっと混乱しててほしかったな……」
サワムラー2匹の混乱は、スウィートとアルが思っているより早く解けたらしい。
ぴんぴんした様子のサワムラーを見て、スウィートは顔をしかめ、アルは小さく舌打ちした。
電気はまだ溜め終わっていない。さらに4匹同時に仕留められるか。かなり難題だ。
スウィートは動かない体で、考えた。どうやってアルに仕留めてもらうか。どうやって隙を作るか。
そして案が思いついたスウィートは大きく息を吸った。
「真空瞬移、」
スウィートが消える。ドータクンたちはアルに狙いを定める。しかし、
「しんくうぎり!!」
真上から声が聞こえ、4匹は真上を見た。しんくうぎりは4匹の足場を崩し、バランスを悪くする。
しかしスウィートの狙いはそうではない。
目を伏せ、4匹を見た。ばっちりと、目が合う。
「黒いまなざし」
黒くなっているスウィートの瞳が、さらに闇のように漆黒に染められる。
見た瞬間、4匹の体が固まった。まるで石になったかのように、全く動かない。
「真空瞬移――アル、よろしく!!」
「あぁ、」
4匹とも、アルとも離れた場所にスウィートが移動する。
アルは4匹がいる方にむかって両手をかざす。ドータクンは動けずともシャドーボールでアルを狙い、放った。
シャドーボールがあたる手前、アルが技名を言った。
「チャージビーム!!」
ずっと溜めていた、かなりの威力になった電撃のでかい柱が4匹に向かう。それはシャドーボールをも打消し、直撃した。
電撃の柱が消えれば、無残に焦げた4匹のポケモン。
同時に、スウィートの体も自由に動くようになった。確認するように、スウィートが右手を握ったり開いたりを繰り返す。全く異常がない。
「スウィート、大丈夫か」
「うん。ちょっと体が痛いけどね……」
苦笑しながらスウィートがアルの問いかけに答えた。
本当はダメージもあまり受けず、早い時間でシアオとフォルテの加勢に向かうつもりだったのだが、思いのほか時間がかかってしまった。
スウィートはそっとサファイアに触れる。
(ムーンもありがとうね)
《主の望みとあらば我はいつでも力を貸す。……今はゆっくり傷を癒せ》
それにふわりと笑って、スウィートは応えた。
アルはどうやらシアオとフォルテの方を見ていたようで、ぽつりと呟いた。
「……加勢はいらないか」
「えっ?」
思わず素っ頓狂な声をだしたスウィートは、きっと悪くない。