48話 最後の間
倒れていたレジスチルが白い光となる。そして『シリウス』の体に入っていき、壁がガコンッと音をたてて開いた。
《番人ノ許シヲ得タ。力在リシ者タチヨ、最後ノ間ニ進メ》
「…………最後?」
レジアイス、レジロックとは違う言葉。
スウィートがその言葉の真意を確かるため繰り返したのだが、返事は返ってこなかった。
しかし代わりに3つの光がふわりと浮いた。それは光からポケモンになると、地面にドサリと落ちた。そのポケモンに『シリウス』は見覚えがあった。
「チャ、『チャームズ』!?」
「うぅっ……」
そう、光から現れたのは『チャームズ』だった。ボロボロになっている。
「え、っと……とりあえずシアオとアルはこれを食べていおいて!」
「わっ、と」
「ん、了解」
スウィートは慌てながらもシアオとアルに粗雑にオレンの実を渡し、『チャームズ』に駆け寄った。フォルテもそれについていく。
駆け寄ったはいいが、スウィートはどうしようとおろおろし始めた。
「オ、オレンの実を渡した方がいいのかな……? で、でも気絶してるし……」
「揺すりゃあいいんじゃないの? それに私たちの道具をあげる必要なんざないわよ。ほら起きなさい!」
フォルテが乱暴に『チャームズ』の、一番近くにいたラミナの体を揺する。
すると眉をひそめたラミナが目を開けた。
「うっ……貴女たち……『シリウス』…………? っ……私、一体……」
頭に手を添えながら、ラミナがゆっくりと起き上がる。そしてすぐ隣にいる仲間を見て、何かを思い出したようにハッとした。
「そうだわ、ここでレジスチルと戦っていて……チダがピンチになって……! …………。そこから先は覚えていないわ……」
ラミナの呟きで起きたのか、チダもウァーサもうめき声をあげながら、起き上がった。
それを見て「大丈夫?」とラミナは確認をとってから、近くにいるスウィートとフォルテににこりと微笑んだ。
「『シリウス』が私たちを助けてくれたのね。危ないところを助けてくれてありがとう」
「いっ、いえ……」
本当に綺麗なポケモンだなぁ。スウィートはそう思った。
会話から察したのか、チダが肩をすくめた。
「『シリウス』には借りができちまったね……。もし助けてくれなかったらあたいたちおしまいだったよ」
「そうですね。本当に、なんとお礼を言えばよいか……」
「それより怪我は大丈夫なんですか」
どうやらオレンの実を食べ終わったらしいアルが近づいてきた。シアオの怪我もほぼ治っている。
アルの言葉に、チダはにやりと笑って見せた。
「大丈夫だよ! そこまで柔じゃないしね!!」
「心配してくださってありがとうございます」
本当に大丈夫そうな『チャームズ』に、アルは「そうですか」と言って、これ以上は何も言わなかった。本人たちが大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。
スウィートが戸惑っていると、急にラミナが「そうだ!」と声をあげた。
「そうだ!! この先『シリウス』に協力させて! 私たちの探検はもう失敗したようなものだし……。大丈夫よ、お宝を横取りなんてしないから!!」
「え、えっ……?」
本当に急なことにスウィートは何もできないし何も言えない。
シアオは「おぉっ……!」と仲間が増えることを純粋に嬉しんでおり、フォルテは少し不満げに、アルはもうどうでもよさげにため息をついた。
しかし『チャームズ』は気にしない。
『シリウス』もかなり重度のマイペースではあるが、この『チャームズ』も負けず劣らずだ。
「さぁ行きましょう! ゴールは近いわよ!!」
(な、何か決定している……!!)
ぐいぐいと『チャームズ』の面々に引っ張られながら、『シリウス』は奥へと進んでいった。
少し進むと、またしても広いフロアに出た。
しかしレジアイスたちとは少し違う、かなり広く、石像が何体もおいてある、いかにも遺跡といったような雰囲気の場所だ。
それにシアオが顔を青ざめさせた。
「ここでバトルとかやらかしたら罰があたりそう……」
「不吉なこと言うと燃やすわよ」
「何で日に日に理不尽になっていくの?」
「お前ら煩い」
『シリウス』の軽い漫才(本人たちにその気はない)は健在だった。
スウィートはきょろきょろと辺りを見渡し、何かないか探す。レジスチルが「最後の間」だと言ったのだから、何かあるはずだと。
しかし石像以外、何か不審な、気になる点はない。
「サワムラーとドータクンの石像が4体ずつ……。真ん中にいる大きいポケモンは何なんだろう……?」
石像は計9体。
真ん中に大きい、見たことのないポケモンの石像。その左右には交互に2体ずつサワムラーとドータクンが横に並んでいた。
「かなりリアルに作られているわね……。何か、今にも動き出しそうだわ」
「ちょっと気味悪いね……」
それぞれ思ったことを口々に言っていく。
アルはじっと大きな石像を見ており、そして眉をこれでもかというほどしかめた。
「この石像……レジアイスたちに似てるな。顔に点があるところとか……何ていうか、体の造りが」
「確かに……。それじゃ、この石像も番人だった、ってことかな」
「どうでしょう。ラミナの「今にも動き出しそう」というのは、冗談ではすまない可能性があると思いますよ。石像もかなり不自然ですし…………何より、最後の間で何も起きないのがおかしい」
「この石像が一番怪しいって思うのが妥当、か」
ふとスウィートが調べようと、石像に手を伸ばした時だった。
《大地ニ眠リシ財宝ヲ我ガ者ニセントスル者ヨ》
無機質な、低い音。どこからか響いた。
『シリウス』と『チャームズ』は反射的に石像から飛び退き、真ん中に移動する。そして警戒しながら様子を窺った。
すると先ほどまで見ていた大きな石像に、白いふわりとした光が集まってきた。その光がその石像を包むと、それは、色を持った。体温を持った。意思を、持った。
それは、ポケモンとなった。
「我ハ最後ノ番人、レジギガス。全テノ力ヲ我ニ示セ」
言葉を合図のように、レジギガス同様に、サワムラーとドータクンの石像も光に包まれる。そして、それは動き出した。
その様子を見ながら、スウィートは苦笑した。
「ホントになっちゃったね」
「勘弁してほしい……」
「よっし、頑張るぞー!」
「うざい黙って耳障りよ」
『チャームズ』も楽しそうに笑った。
「さぁて、はりきっていきましょう!」
「ここは協力ですね」
「アタイたちの腕の見せ所だね!」
場に似合わない、楽しそうな会話を聞きながら、スウィートはアルをちらりと見た。それにアルがこくりと頷く。
「あぁ。……とりあえずシアオ、フォルテ、お前らは、喧嘩をせずに、あのデッカイのをやれ。『チャームズ』さんは右のサワムラー2匹とドータクン2匹を。俺とスウィートは左」
「わかったわ。終わったら加勢するわね」
「ねえ何で喧嘩をせずに、って強調したの。僕じゃないよ、フォルテが喧嘩をうってくるんだよ!!」
「ふざけんじゃないわよ! アンタの方が先でしょうが!!」
「どっちもどっちだ」
「お願いだから、バトル中に喧嘩しないでね……?」
スウィートのその言葉は聞こえているのか聞こえていないのか。
色々と不安を残しながら、バトルは始まった。