47話 VS鋼の番人
『シリウス』は『ベテルギウス』と別れたフロアに戻ってきていた。
「すぐに集まってよかったね。くぼみの数が多いから大変かなって思ったんだけど……」
「これもスウィートの強運のおかげじゃない? 捜している間シアオを遠ざけてた甲斐があったわ」
「本当にな」
「知らず知らずの間にそんなことされてたの僕!?」
そういえばさっきのダンジョンでシアオと会話した覚えがない。
スウィートも思い至るところがあり、思わず苦笑をもらした。シアオは「酷い!」と文句を言い、フォルテが強い口調で返している。アルは構わずにくぼみに石をはめていた。
『ベテルギウス』もそうだが、『シリウス』も負けず劣らずマイペースだ。
するといつの間にか石をはめおわったのか、石碑が光っていた。そして地面が揺れ、石碑の場所が階段になった。
「あーーーーッ!! 次こそ僕がやりたかったのに!!」
「煩い。喧嘩ばっかしてる奴が悪い」
「……チッ」
「やりたいならやりたいと言っておけ」
返事を聞く間もなくアルはすたすたと階段を下りていく。スウィートは「行こっか」と2匹微笑んでから階段を下りていき、その笑顔に毒気を抜かれつつ2匹もそれに続いた。
階段も、階段を下りても、レジアイスとレジロックの時と同じような造りの道があった。
恐らく進んだら蒼輝たちが言っていた「鋼タイプの番人」がいるのだろう。レジアイスやレジロックのような手強い番人が。
そして、全く同じように広いフロアに出た。また少し違っているが、似た声がする。
《謎ヲ解キシ者タチヨ》
光が集まり、それが姿を現す。鋼の体、レジアイス、レジスチル同様に顔と思われる部分に赤い点。手が長く、足が短いといった体をしている。
それから音は発せられた。
「我ハコノ間ノ番人、レジスチル。コレヨリ先ニ進ミタケレバ、ソノチカラ、我ニ示セ」
「――てだすけ!!」
今までの流れを把握していたスウィートは、すぐさま補助の技を繰り出す。それとほぼ同時に、レジスチルがさらに光沢した。おそらく鉄壁を使ったのだろう。
まずシアオがでんこうせっかでいい具合に間合いをとり、その間にアルとフォルテが技を繰り出す。
「10万ボルト!」
「火炎放射!!」
「ラスターカノン」
銀色の光の球体が、2つの技をぶつかる。そのせいでフロアに土煙が舞い上がった。
その土煙に紛れてシアオがレジスチルに接近する。すぐさまでんこうせっかで一気に背後に回った。
「かわらわり!!」
背中への強打。それを狙ったシアオだったが、
「テッペキ」
「……! そ、んなことできるの!?」
レジスチルはシアオが攻撃した部分のみ、鉄壁で硬化した。ピンポイントでの防御。
シアオがかわらかわりを繰り出すためにレジスチルにあてた右手は、相手にダメージを与えることなく、逆にあまりの硬さに手を麻痺させられた。
するとゆっくりとレジスチルがシアオに右手を定めた。
「メタルクロー」
「は、どうだんっ、うわっ!!」
咄嗟にはどうだんをレジスチルの右手にあて、ダメージ軽減を狙う。しかし至近距離ではどうだんが爆発し、シアオはそれによって弾き飛ばされた。
スウィートはそれを横目で気にしながらも、すぐにレジスチルに意識を向ける。
「ゲンシノチカラ」
「しんくうぎり――シャドーボール!!」
岩を全て砕き、シャドーボールを打ち込む。しかしレジスチルはメタルクローでそれを粉砕した。
それとほぼ同時、フォルテがレジスチルの後ろに移動していた。
「燃え尽きなさい、炎の渦!!」
フォルテが放った炎はすぐさまレジスチルの周りを囲む。その炎はとてつもない勢いで燃えている。
その様子を見ながらアルは深呼吸をし、体に電気をできるだけ集中させた。
シアオは吹き飛ばされた後、起き上がってその様子を眺めた。そして炎を見た瞬間に少しだけだが顔色を悪くしてぼそりと呟いた。
「……フォルテの炎こっわ」
「ぶっ殺すわよ」
「何で聞こえてんの!?」
フォルテの耳は自分の悪口に対しては地獄耳らしい。
2匹がいつも通りのそんな平和な会話をしているうちでも、スウィートは炎の中にいるであろうレジスチルのことを考えていた。
(げんしのちからか何かで炎を消して出てくるはず。出てきたらすぐに……)
しかし、レジスチルは全く違う行動をとった。
それに『シリウス』は絶句した。
「メタルクロー」
「っ!?」
炎の渦に突っ込んで行って、勢い任せに炎の中から出てきたのだ。
咄嗟のことに反応できない。レジスチルが向かう先にいたのはスウィートと、そしてアルだった。あまりに突拍子のない行動に、2匹とも反応できなかった。
「メタルクロー」
「きゃっ……!!」
「っぐ!」
2匹が強烈なメタルクローによって床に打ち付けられる。
もう一発食らわせようとするレジスチルを止めたのは、すぐに我に返ったシアオだった。
「はどうだん!!」
「っんくうぎり……!!」
そして打ち付けられながらも、スウィートも技を繰り出した。
レジスチルは今度はどわすれを使った。体の防御は十分に高まっているので、シアオのはどうだんに対しての対策といったところだろう。
技をまともに食らったレジスチルだったが、少しふらつくだけで、その次の寸簡には素早く左右の腕を横に突き出した。
「チャージビーム」
「っ、真空瞬移!」
「フォルテ右に避けろ!!」
「わかってるわよ!」
どちらからも出される電撃を、スウィートは違う場所に移動して避け、アルに言われながらフォルテは右に避けた。
それでもなお、レジスチルは攻撃をやめない。
「チャージビーム。チャージビーム」
「っ、はどうだん!」
「10万ボルト!」
同じ技を、的確に4匹を狙って撃ってくる。反撃の隙を与えまいと瞬時に、そして電撃のビームの速度も速く。
技で打ち消したり、攻撃を避けながら『シリウス』も回避する。
そうしながらもスウィートは打開策を必死になって考えていた。
「(とりあえず……皆には遠距離から攻撃してもらおう、かな)しんくうぎり!!」
スウィートが放つと、レジスチルに向かって無数の刃が襲い掛かる。
しかしレジスチルは避ける素振りを見せない。未だチャージビームを連発している。――否、連発しながら、てっぺきとどわすれをしていた。
それに真っ先に気づいたのはアルだった。
「――! まずい、鉄壁とどわすれで堅めてる……。とっとと片付けるぞ! これ以上されたら長期戦になる!!」
「っていっても、これ攻撃するのもなかなか難し、うわっ、っと!」
シアオの言う通り、連発するチャージビームを避けながらの攻撃はなかなかにきつい。攻撃できても、相手の攻撃が当たる確率が高い。
それを聞いて、スウィートがすぐに指示をとばした。
「アル、お願い!」
前足で合図を示すと、アルはこくりと頷いた。
その合図でシアオもフォルテも理解したようで、すぐさま黙ってレジスチルの方に向き直った。
「あたしがお膳立てしてやんだから上手くやりなさいよ、シャドーボール!!」
「フォルテお膳立てって言葉知ってたんだ……――特大はどうだん!!」
シアオに向かうチャージビームをフォルテが打ち消し、シアオがレジスチルに攻撃する。レジスチルはすぐさま右と左の腕を前に持っていき、特大はどうだんをチャージビームで粉砕した。
その後ろには、真空瞬移で移動したスウィート。
「アイアンテール!!」
レジスチルの体に硬化したスウィートの尻尾がぶつかる。
だがダメージを与えたような感覚があまり感じられなかった。かなり鉄壁で硬化しているようで、本当に鋼のような体になっている。
苦い顔をしながら、レジスチルがチャージビームの構えを見せたのを見てスウィートは真空瞬移でシアオとフォルテの近くに移動した。
「まもる!!」
チャージビームを緑色のシールドで持ちこたえながら、スウィートは後ろにいるフォルテに問いかけた。
「フォルテ、炎の渦できる?」
「……できても、すぐ破られるわよ」
「いいの、それで。シアオ、ちょっといい?」
作戦を言い終え、3匹がうなずき合った。それと同時に、「まもる」の盾が崩れる。
スウィートは真空瞬移で移動し、シアオはでんこうせっかで移動。フォルテはすぐさまスウィートの言われた通りにした。
「くらいなさい、炎の渦!!」
「チャージビー――」
「しんくうぎり!!」
フォルテの炎を打ち消そうとしたチャージビームは、斜め上へとそらされた。何故ならスウィートがしんくうぎりでレジスチルの足場を壊し、体を傾けさせたからだ。
そのまま炎はレジスチルを囲む。
そしてすぐ、レジスチルは思った通り、炎を消した。
「ゲンシノチカラ」
岩によって、囲んだ炎がすぐさまかき消される。
もしレジスチルが炎をすぐ消さなければ、おそらく食らうことになっていただろう。おそらくレジスチルと同じく炎の餌食だった。
そのくらい、シアオはレジスチルに近い距離に近づいていた。
「かわら、わり!!」
シアオは容赦なくレジスチルの背中に右手を打ち込んだ。
レジスチルがぐらりとよろめく。そのとき、あげた右足の地面からぼこりと小さく穴が開いた。その穴の中で、にやりと笑った
「準備完了――100万ボルト!!」
アルが、今までためていた電気を一気に地上にいるレジスチルへと放出した。
レジスチルが大量の電気で包まれ、体が高電圧により焦げてプスプスと音をたてる。
その間にアルは穴からでて地上に移動し、近くにいたシアオの隣に並んだ。そしてレジスチルの様子を窺う。
「アルためるの早かったね」
「スウィートのしんくうぎりが合図だったからな……正直あまりに早くて焦った」
やれやれとアルがため息をつく。
するとレジスチルが倒れまいとして、ガンッと強く地面に足をついた。それを見て、アルが電気をため、シアオもはどうだんの準備をする。
遠くにいるスウィートもフォルテも、完全に警戒態勢だ。
そして止めをさそうと、シアオとアルが動き出そうとしたと同時、
「ダイ、バクハツ」
無機質な音がそう紡いだ瞬間、凄まじい光と轟音が、フロア内に響いた。
スウィートは咄嗟にまもるをしてフォルテと自分を守る。
しかしシアオとアルがどうなっているかが分からない。自分たちよりもレジスチルの近くにいた。かなりの爆発だ、あんな近くでいてただで済むはずがない。
フォルテも同じことを思っているようで、「大丈夫でしょうね……!?」と小さく呟いている。
(きっと、大丈夫……!)
そう、信じるしかなかった。
ようやく爆発の余波が収まってきて、スウィートは「まもる」を解いた。そして先ほどまでシアオたちがいた場所を見る。
レジスチルは見るも無残な姿で横たわっていた。
その近くにいたはずの2匹の姿を探すが、どこにもいない。
「シ、シアオ……!? アル!?」
スウィートがきょろきょろと、焦りが混じったような様子で辺りを見渡す。
するとガコッ、と音がし、岩が動いた。
「あっぶな……死ぬところだった……」
「あ、ありがとアル。……僕はじめて走馬灯っていうのを見た気がする……」
アルが岩に手をつき、シアオがあからさまにほっとした様子で座っていた。
どちらもボロボロであるが、口調からしてそこまで大きなダメージを食らったようではないようだ。
その様子に、スウィートはほっと息をついた。
「その顔腹立つのよ死ねシアオ!!」
「何その理不尽さ!?」
「いっ、今はダメだよフォルテ! シアオ結構なダメージ受けてるのに!!」
「今じゃなく健康体だったらいいのかスウィート」
そしてどこまでもマイペースな『シリウス』だった。