44話 勝手に始まる勝負事
倒れて動かないレジアイスから少し離れた場所で、4匹は何故かひそひそと話していた。
「倒した、んだよね……?」
「え、あれって倒れてないの?」
「あれは完全に死んだでしょ」
「死んではないだろ。でも何も起こらないよな……」
どうしようかと頭を悩ます4匹。
倒れたかどうか確認したい。かといってレジアイスに近づくのも恐ろしい。倒れているのか倒れていないのか、顔を見ようにも顔がない。どうやって確認しろと。
そんなこんなで4匹が案を出し合っていると、いきなりレジアイスの体が光に包まれた。
「ふっ、復活した!?」
「やっぱり溶けるまでやらなきゃいけなかったか……!」
「落ち着け。あと物騒なこと言うな」
慌てだすシアオと、般若のような形相なフォルテにアルが冷静にツッコむ。ただレジアイスの方をしっかりと見て、戦闘態勢をとっている。シアオもフォルテも、だ。
スウィートも警戒していて、レジアイスの様子を伺う。
レジアイスの体はどんどん光に包まれ、丸い光となった。それはふよふよと浮きながら、『シリウス』の方へと向かってくる。
「ま、まさか魂……!?」
「お前ホラー苦手なくせに自分でそういうの想像するよな……」
フォルテの想像にアルがため息をつくと同時、
「……たぶん、これは大丈夫なんじゃないかな」
スウィートがふよふよと寄ってくる光を見ながら呟いた。
3匹がスウィートを見て首を傾げる間に、どんどん光は寄ってくる。そしてあと少しというところで光がいきなり分散した。
「うわ!?」
分散した光は勢いよく4匹の体へ飛び込む。
思わずビビッて目を瞑った『シリウス』だが、体に異変は全く感じない。恐る恐る目を開けてみても、何もない。
すると無機質な――レジアイスから発せられていた音がどこからか響いた。
《番人ノ許シ得タ。力在リシ者タチヨ、先ニ進メ》
ガコンッ、そう音をたてて『シリウス』の正面にある壁が扉のように開いた。
「……これで進めるんだ、」
「なかなかやるわね!!」
いきなり声が聞こえてきて、4匹が体を揺らす。
『シリウス』は声が聞こえてきた方――後ろを見た。ついでにいうとスウィートは慌ててシアオの後ろに隠れた。
そこにいたのは『チャームズ』。何故と目を白黒させていると、ラミナが話しかけてきた。
「さっきの戦い、お見事だったわ!」
見られてた!? と、その言葉を聞いて、4匹はすぐさま思った。
そんな『シリウス』に全く構わず、『チャームズ』の3匹はそのまま続けた。
「あたいたちもうかうかしてられないね!」
「うふふ。久々に燃えてきます」
「次の謎は私達が先に解いてみせるわ! じゃあお先に!!」
言うだけ言って、『チャームズ』は開いた壁を通って先へと進んで行ってしまった。
あまりに唐突だったために、『シリウス』はぽかーんとして反応できなかった。ただ呆然と『チャームズ』の背中を見るだけで精いっぱいだった。
それから数秒してから、4匹がハッとなって我に返る。
「いきなり何なの……何あれ、馬鹿なの?」
「お前、それ言ったらディラさんに怒られ……てもお前は平気か」
「いいじゃん! 僕も燃えてきた! ぜったい負けない!!」
「あはは……シアオはやる気だね……」
フォルテとアルは『チャームズ』との(勝手に売られた)勝負は本当にどうでもよさそうだ。まず興味がないのだろう。
一方のシアオはやる気に満ちている。もともと『チャームズ』に行かせてくれと頼んだのもシアオだ。それに探検に対しては人一倍熱心なため、このような様子にも納得できる。
スウィートはそれを見ながら「頑張らなきゃなぁ」などと考え、のんびりと先に進んだ。
少し進むと、“番人の洞窟”に入ったときに一番最初に見たフロアと酷似したフロアに出た。
最初に見たフロアと何が違うかと言えば、壁の雰囲気だが、造りは全く同じだ。少し広い場所に、ぽつんと真ん中にたった石碑。
4匹は迷うことなくその石碑に近づいた。
「……最初の文は同じだね。ってことは謎の解き方も同じってことかな」
「ただくぼみの数が違うな。あとアンノーン文字も違う……。おい、シアオ。このくぼみにあう石あるか?」
「ちょっと待って、探すから」
ごそごそとシアオが鞄を漁りながら、石と石碑のくぼみを照らし合わせていく。
石碑はほぼ「ICE」とあった石碑と同じで、ただくぼみの数が3つから4つに増えていた。
フォルテは隣で「とっととやりなさい、ヘタレ」と軽口を叩き、シアオは一々反応して要領の悪い作業をする。アルは「いらないことをするな」と言わんばかりにフォルテの頭を叩いた。
スウィートは「はは、」と苦笑しながら後ろを見た。
(蒼輝さんたちはもう先に行ってるのかな。それかまだ……?)
「あーーーーーッ!」
いきなり大声をあげたシアオの所為で、スウィートは思わずびくりと大げさに体を揺らした。
そちらを見るとシアオがフォルテに尻尾で殴られている光景が目に飛び込んだ。少し目を違う方へとずらせば、2匹を無視して石碑を見ているアルの姿が見える。
自分のペースを貫く3匹に何とも言えない気持ちになりながら、スウィートはアルに問いかけた。
「足りなかった、よね」
「あぁ。けど4つのうち2つは埋まった。あとは2つだな」
石碑の後ろを見れば、先に続く道がある。
この先もまた同じようにダンジョンになっていて、ほぼアンノーンしかいないという特殊なダンジョンなのだろう。そう予想した。
とりあえず先に進まなければ。そう思ってスウィートがふと後ろを見た。
「アンタはいつも思うけど要領悪いのよ! 料理にしても雑用にしても!! もっとうまくやれないわけ!?」
「いやフォルテのせいだよね!? 料理は違うとしても大体はフォルテのせいなんだけど!!」
「はぁ!? 他人のせいにしてんじゃないわよヘタレ!!」
「だからヘタレじゃないってば! いつまでそのネタ引きずるの!?」
そしてひきつった笑みを浮かべた。アルが隣でため息をついたのが分かった。
相も変わらずと言った方がいいのか。いつも通り、内容も似たような言い合いを今日もしている2匹に、もう何も言いようがなかった。よくもまあ飽きないものだとアルは感心さえもした。
しかし今、そんなことで感心している訳にもいかず。
「いい加減にしろ」
「いだっ!!」
「ったぁ!!」
容赦なく2匹の頭にチョップをくらわす。
かなりの威力だったのか、2匹とも頭をおさえて蹲り、そして体を震わせていた。くらわした張本人はというと、涼しい顔をして手をブラブラさせていた。
スウィートは「どうしていつも同じ光景が目に入るんだろう」と思いながら、控えめに「行こっか……?」と声をかけるのだった。
「やっぱりアンノーンとごく少数のポケモンしかでてこなかったな」
「この洞窟どうなってんのかしら」
今回はダンジョン1周だけで足りなかった2つ分の石を『シリウス』は持ちながら元のフロアへと戻る道を進んでいた。呑気に会話を挟みながら。
予想通り、歩いていると同じフロアへと戻ってきた。“番人の洞窟”は特殊なダンジョンだと4匹は再確認した。
そしてフロアに程々まで近づき、スウィートはある物に気づいた。
「……紙?」
「え? ……あ、ほんとだ」
石碑の前に落ちていた紙を、シアオが拾う。
見るが、なにも書かれていない。そして裏を返すと、丁寧な字――というより、いかにも女子の字ですというような字で手紙が書かれていた。
それをシアオは大きな声、全員が聞こえるくらいの声量で読み上げた。
「えーっと天天「『シリウス』へ。宣言通り今回の謎は私たちが先に解かせてもらったわ。どちらが先にお宝を手に入れるか競争よ。チャームズより」……僕らももっと頑張んないと、負けちゃうねこれ!」
「こう真正面から喧嘩うられちゃ買うしかないわよね。叩き潰すわよ」
「フォルテ、そういう勝負じゃないからね……?」
先ほどまで全くやる気がなかったフォルテだが、挑発的な手紙にカチンときてしまったらしい。やる気満々である。
すると地面がゴゴゴ、と揺れた。
驚きながら、スウィートとシアオ、そしてフォルテは石碑の方、否、石碑があった場所を見た。そこには階段があり、その隣には涼しげな顔をしたアルがいる。
「やっぱり同じ解き方で大丈夫っぽかったな」
「あーっ、ズルイよアル! 僕もやってみたかったのに!!」
「子供か。誰がやろうと同じだから別にいいだろ。それにとっとと行かなきゃチャームズに負けるんじゃないか?」
シアオを軽くあしらいながら、アルが階段を下りていく。
アルの最後の一言に、シアオは「うっ」と言葉を詰まらせてから、少し不満そうに階段を下りていく。その後ろからフォルテ、スウィートと続く。
そしてまた同じ。
階段を下りると、先ほどの石碑のフロアより広い場所に出る。そしてあまり進まず、4匹はフロアに入ってすぐ立ち止まった。
そして、またレジアイスが発していた音と似た音がフロアに響いた。
《謎ヲ解キシ者タチヨ》
『シリウス』の前方で、光が集まりだす。そしてレジアイスのときと同じように、その光は原型を作り、姿を現した。
レジアイスと同じなのは、顔がないこと。普通は顔となる場所に点が7つある。そして違うのは、体が氷でなく、すべて岩でできているということだ。ごつごつとした体で、岩の形、大きさはバラバラだがうまく組み合わさって形を作っている。
そしてソレは言った。
「我ハコノ間ノ番人、レジロック」
「やっぱり同じなのね……。氷の次は、岩。岩って焼けるかしら?」
「間違っても僕は焼かないでよ……」
軽口を叩きながら、『シリウス』は警戒態勢に入る。
そしてレジアイスは、右腕を4匹の方へ突き出し、言った。
「コレヨリ先ニ進ミタケレバ、ソノチカラ、我ニ示セ」