42話 “番人の洞窟”
おそらく『チャームズ』が言ってたであろう“番人の洞窟”に入ると、少し遠いが、既に『チャームズ』と弟子たち数匹がいた。
おぉ、とシアオが言いながら『チャームズ』たちがいる広い場所に進んだ。
「ここが“番人の洞窟”よ。この先は今まで誰も入ったことのない未知の世界。どんな謎が待ち受けているのか考えるだけでワクワクしてくるわね!」
「ヘイヘイ! これなんかものすごく怪しいぜ!!」
「なんか不思議な形のくぼみがあるでゲスよ!」
「きっと何かしかけがあるに違いないね!」
会話の「これ」とは、広い場所のど真ん中にある石碑は見るからに怪しい。まだ『シリウス』はきちんと見ていないが、レニウムが言うには不思議な形のくぼみがあるらしい。
不思議そうにスウィートが石碑を見ていると、チダが声をあげた。
「絶対に解き明かしてみせるよー!」
それに同調するかのように弟子たちも声をあげる。
すると「あ、」とラミナが『シリウス』の方をむいた。スウィートは慌ててアルの後ろに隠れると、アルに軽く頭を叩かれた。だが隠れるのをやめることはない。
「他の皆にはもう聞いたんだけど。君たちのチームの名前はなんていうの?」
「『シリウス』です!!」
シアオが元気よく答えると、『チャームズ』が驚いたのがわかった。その反応の意味がわからず、シアオは首をひねる。
しかしその疑問はすぐに解消させられることになった。
「あの世界を救ったっていう『シリウス』? やだ、こんな可愛い子たちだったの?」
「確かにプクリンのギルド≠セったし、種族も同じ! へー」
刃の小説読者か!! 思わず4匹はそう言いそうになった。どこまで広まってるんだあの小説。そうも思った。
『チャームズ』はそうかそうかと頷いている。
ちらりとアルがスウィートを見ると涙目になっていた。同情して頭をぽんぽんと叩いてみたが、小説関連の過去のトラウマがよみがえっているのか落ち着く様子はない。
それからくるりとラミナが振り返り、その場にいる全員に話しかけた。
「さて、それじゃあそろそろ行きましょう! 誰が先にお宝を手に入れるか……、あ、当然私たちがいただくことになると思うけどね、うふふっ! お互い頑張りましょう」
「それじゃあお先に」そう言って『チャームズ』は先に進んでいった。負けじと弟子たちも「先に見つけるぞぉぉぉぉぉ!」と行って追いかけていく。
流れにのれなかった『シリウス』は完全に置いてけぼり状態になった。
「は、早い……」
「とりあえずこの石碑を見てみようよ!」
わくわく、そんな様子でシアオが目を輝かせながら石碑を見る。しかしその様子はすぐさま変わった。
「な、なにこれ……? ……「これより先に進みたければ目を閉じてその証を示せ」……? 目をつぶればいいのかなぁ?」
「何、なんか書いてるわけ?」
フォルテがシアオの隣から覗き込むように石碑を見る。
スウィートもアルも同じように石碑を覗き込むと、シアオが読んだ文と全く同じものが書かれていた。その上にはレニウムが言っていた不思議な形をしたくぼみがあった。
それを見ながらアルが小さく呟いた。
「……これ、アンノーン文字か?」
「えっ、アルなんか知ってんの? ていうか読めんの?」
どうやらアルはその不思議な形を知っているらしい。
そのため読めるかとフォルテは聞いたのだが、アルは首を横に振った。
「アンノーン文字は知ってるけど、読み方までは知らない。かなり古代の文字だったらしいが……」
「じゃあこの洞窟はかなり昔に作られたってこと?」
「まあそんなところだろ。この石碑を意味することは分からないが……」
うーん、とスウィートとアルが頭を悩ます。
すると先ほどまで何も喋らなかったシアオがいきなり声をあげた。
「あー!! 目を瞑ってもなんも起きない!!」
「そりゃ起きたらとっくの昔に『チャームズ』とかがどうかしてるわよ。バカじゃないの」
ふんっとフォルテが鼻で笑うと、シアオが抗議の声をあげる。
しかしこのまま進まないわけにはいかないので、アルが2匹の頭を叩いて喧嘩は無理やり終息させられた。スウィートはやはり、苦笑することしかできなかった。
“番人の洞窟”を一言でいうならば、特殊な変わったダンジョンというだろう。
スウィートはそう思いながら、目の前にいるアンノーンにアイアンテールを食らわせる。
「火炎放射!」
それからフォルテの攻撃で、そのアンノーンは倒れた。
ふぅ、と息をつく。すると少し遠くで戦っていたシアオとアルも終わったようで、こちらに歩いてきていた。
フォルテは倒れているアンノーンを見ながらぽつりと呟く。
「アンノーンばっかのダンジョンってどういうことよ。ほんのちょっとしか違うポケモンがいないじゃない。何なの此処。あとこいつはハズレね」
「うーん、それぞれ姿が違うっていうのも気になるよね。……でも同じ姿してるアンノーンもいるし…………」
冒頭でなぜスウィートがそう思ったのか。
それはフォルテの言った通り、ダンジョンにいるポケモンがほぼアンノーンだから。そしてアンノーンはそれぞれ姿が違うのだ。しかし全部が全部違うわけではなく、同じ姿をしたアンノーンだっている。
するとシアオが手に何かを持ちながらやってきた。
「さっきのアンノーンは石おとしたよー。はい」
「どうもこれもアンノーン文字っぽいぞ」
シアオから受け取ったのは、不思議な形をした石。アルが言うにはアンノーン文字の形をしているらしい。
それを見ながらスウィートは首を傾げた。
「この石も意味があると思うんだけど……何に使うんだろう?」
「まあ集めてみればいいんじゃない? とりあえず集めながら進むことを考えようよ!!」
シアオの能天気な言葉にフォルテが「これだからバカは、」と言ってまた喧嘩に発展しそうになる。
しかしその前にアルに頭を叩かれ、喧嘩にはならなかった。
「これからルールでも作るか? 喧嘩したら朝飯抜きとか朝食当番2週ずっと……はいいや」
「なんで僕を哀れんだ目で見てから止めるの!?」
「アンタの料理の下手さは尋常じゃないからよ。調味料を入れすぎなのよアンタ」
「いやそれフォルテにも言えるよね! 僕知ってるからね、この前思い切り塩を目分量とかいってドバーッて入れてたの!!」
「はぁ? 別にあたしのは食べれるからいいのよ。アンタのは食べれない何かができんじゃない」
あぁ、また言い合いが始まってしまった……。
スウィートはおろおろすぐばかりで、何もできない。というか口を挟もうとしても、2匹の声でスウィートの声はかき消されてしまうのだ。
それからまた2匹は同じように頭を叩かれた。
「本当にルールでも作るか? そうだな、シアオは“ツノ山”に放って、フォルテは半日セフィンと行動をともにするっていう罰ゲームでどうだ」
「「絶対やだ!!」」
青い顔をしながら2匹が勢いよく首を横に振る。
“ツノ山”とはアリアドスが大量にいた場所。シアオにとっては地獄。フォルテも半日セフィンと一緒など、死に等しい罰ゲームだろう。
それを見て、スウィートは困ったように笑った。
「あ、あはは……。とりあえず進まない……?」
そんな控えめな声は、やはり2匹によってかき消されてしまうのだった。
少し進んでいると、ダンジョンを出たことが分かった。そして遠目で、『チャームズ』の後ろ姿が確認できた。
何だか最初の場所に似ているなぁ、と思いながらスウィートたちが『チャームズ』の元まで行くと、足音で気づいたのか『チャームズ』がこちらを振り向いた。
「あら、『シリウス』。貴方たちも此処に戻ってきたのね」
「戻って……。……って似てると思ったけど、ここスタート地点!?」
シアオも同じことを思っていたらしい。
『チャームズ』が言うには、ここはスタート地点らしい。石碑の文字を見るからに、スタートと全く同じらしいのだ。それに景観も、場所も同じなのだ。
するとラミナが困ったように肩をすくめた。
「どうやらこの洞窟は謎を解かないと先に進めないみたいだわ……」
「恐らくこの石碑が鍵を握っているのでしょう。
……石碑にあるアンノーン文字のくぼみ。洞窟にいる大量のアンノーン。そしてアンノーンたちが落とす不思議な形をした石……。何か関係があるはずです」
ウァーサが冷静に石碑に目を向けながら解析する。
それからはぁ、とラミナが嘆息を漏らした。
「「これより先に進みたければ目を閉じてその証を示せ」……か。目を閉じても何も起こらないってことは、きっと何か見落としてるんだわ。
私たちはもう一度 洞窟を探索してくる。それじゃあまたね」
そう言ってさっさと『チャームズ』は先へと進んでいてしまった。
それを見送ってから、『シリウス』は石碑を再び調べる。スタート時に見たときと同じ内容が書かれているだけで、手掛かりは何もない。
「っ……!?」
スウィートがそっと石碑に触れると、激しいめまいが起こった。
(これっ……時空の叫び=c…!?)
〈……アンノーン文字?〉
今回は声だけでなく、映像もあるようだ。
スウィートはその映像を見て、少しだけ驚いた。
(蒼輝さん……? ていうか、『ベテルギウス』皆いる……)
そう、石碑の前に立っている『ベテルギウス』が見えたのだ。シィーナが石碑の前に立ち、4匹に説明しているようだ。
〈まあボクも詳しいことは知らないんだけどー……古代の文字らしいよー〉
〈へぇ。……シィーナがんなことを知ってるとは〉
〈何それチョーしつれー〉
文句を言っているシィーナを軽くあしらいながら、蒼輝は石碑を見た。そして何かに気づいたように「あ、」と声をあげた。
それに反応してリフィネが後ろから蒼輝の肩をつかみがくがくと揺らす。
〈何、なんか分かったの!? 何!?〉
〈揺らすなバカ!!〉
〈ったぁ……!!〉
容赦なく蒼輝に頭を殴られ、リフィネが頭を押さえながら蹲る。
翡翠がリフィネに「大丈夫ですか?」と声をかけている間に、シィーナが「なんか分かったわけー?」と聞いた。
〈このアンノーン文字。……俺の世界にあるアルファベットと形が酷似してる〉
〈……アルファベット? ていうか蒼輝の世界って……〉
(……どういうこと?)
スウィートも疑問を覚える。何故この世界に蒼輝の世界にある物があるのか。
しかし蒼輝は石碑を見ながら呟いた。
〈ローマ字……いや、違うな。これは……英語、か?〉
〈ちょっと蒼輝。私たちにもわかるよう説明してくれない?〉
じとっとした目でリフィネが蒼輝を見た。
蒼輝は鬱陶しげな顔をしてリフィネを見る。そして再度 石碑に目を向けながら言葉を発した。
〈俺の世界にあるアルファベットと、このアンノーン文字は酷似してる。アルファベットの読み方としてローマ字読みもあるんだが、アルファベットは英語っていう言語の表し方で使われることがある〉
〈ほうほう〉
〈恐らくだが……これは「I」と「C」と「E」。ローマ字じゃなくて、英語の可能性がある〉
蒼輝は真剣な面持ちで石碑を見続け、そして呟いた。
〈「ICE」……アイス。……つまり表している単語は「氷」か〉
(……「氷」?)
スウィートが首を傾げる。
蒼輝は石碑を見るのをやめて、『ベテルギウス』のメンバーに目を移した。
〈……石碑を見ず先に突っ走ったアホがいたから気づかなかったが、恐らくこのアルファベット……アンノーン文字のくぼみに石をはめろってことだろう。
つまり「I」「C」「E」の形をした石をこのくぼみにはめればいいんだと思う。目を瞑るのはそれからだな〉
〈ほほう、ってことは次にダンジョンを回るときはその「I」と「C」と「E」の形の石を集めるのを目的に進めばいいわけだ〉
〈謎解き完了だね! よっしゃ、このまま頑張ろー!!〉
〈お前が突っ走ったせいで余計な時間を食ったんだけどな〉
〈はは……〉
そうして、映像は途切れた。
「…………成程」
蒼輝さんたちには悪いけど、謎の解き方を教えてもらうことになっちゃったなぁ。
そんなことを思いながらスウィートは石碑を見る。蒼輝が言っていた「I」と「C」と「E」のアンノーン文字をしっかりと目に焼き付ける。
それからまだ不思議そうに石碑を見ている3匹に声をかけるのだった。