35話 シークレットランク
「いやぁ、本当に助かったでござる! おぬしたちが来てくれなかったら永遠に氷の中に閉じ込められているところであった」
((((ござる……。))))
あれから『シリウス』と忍冬 暁≠ヘ交差点に来ていた。
暁から話を聞けば、探検中にユキメノコに襲われて氷漬けになった、ということらしい。そのため宝も見つけられなかったそうだ。
「しかし拙者が遭難してから数十年の月日が経っていたとは……まるで知らない世界にやってきた気分でござる」
「何か変わってる?」
「うむ。何だか色々と豊かになったでござるな」
シアオが聞くと、交差点や向こうにある“トレジャータウン”を見ながら興味深そうに暁が返答する。
因みにスウィートは今フォルテの後ろに隠れていた。
そしてシアオと暁が話している間、フォルテとアルが小声で会話する。
「ねえ、コイツ刃の親戚か何かかしら? 血族?」
「まあ遠い親戚かもしれないな……」
スウィートはその会話につい苦笑してしまった。
忍冬 暁という漢字の名前に加えて、一人称が「拙者」のうえ語尾が「ござる」だ。つい知り合いである月影 刃を連想するのも仕方のないことだろう。
するとシアオとの会話を終えたのか、暁が4匹に向き直った。
「ところで命の恩人であるおぬしたちに礼をしたいのだが……残念ながら気付けば拙者無一文。どのように礼をすればよいのやら……」
困ったように暁が呟く。氷漬けにされていた暁は、何も持っていなかった。大方ユノアに盗まれたのだろう。
するとシアオが慌てた様子で首をふった。
「いいよお礼なんて! 困ってるポケモンを救助するなんて当たり前だし!」
「俺たちは気にしてないんで、気にしなくて大丈夫です」
「うーむ……しかし……」
シアオとアルが「いい」と言うが、暁は納得がいかない様子だ。
するとスウィートがバックにつけているバッチを見て、何か閃いたように声をあげた。
「お主たち、探検隊だな!?」
「そーよ。今更じゃない?」
フォルテが呆れたような調子で返す。
しかし暁はそんなことを気にしていないようで、「ふっふーん!」と高らかに笑った。
「これでも拙者、その昔は名の知れた探険家だったでござるよ。むふふっ……何を隠そう、この拙者ポケモン探検隊連盟の名誉隊員なのであーる!」
「め、名誉隊員……?」
「名誉隊員!? 何それ格好いい!!」
「だろう!!」
スウィートが戸惑ったように声をあげたのと対照に、シアオは目を輝かせる。
シアオの反応に暁は気をよくしたようだ。先ほどよりテンションを大幅にあげて、説明を続けた。
「名誉隊員は実力ある探検隊に称号を授けることができるのであーる! そこで勇敢にも拙者を助けてくれたおぬしたちにシークレットランク≠授けようではないか!!」
「……シークレットランク?」
アルが眉をひそめて暁の言葉を復唱する。
そんなアルに暁は「うむ」と返答してから、ゴソゴソとハサミの間から何かを取り出した。
(え、何なのあのハサミ? バッグ代わり? バッグ代わりなの?)
フォルテは観点が完全にずれて、暁のハサミを凝視していた。
「この称号を持つ探検隊は特別指令≠ェ受けられるのだ。特別指令≠ニは探検隊連盟から極秘に届けられる依頼のことでござるよ」
「極秘に届けられる? ……よくわかんない」
「まあ今は分からなくともその内分かるときがくるであろう。では探検隊バッチに印をつけておくでござるよ」
スウィートに近づいて、バックのバッチに何か印をつける。近づいてこられたときに大げさにスウィートが体を揺らしたのは言うまでも無い。
それを見ながら、シアオは目をキラキラさせながら暁に礼を言った。
「何だかよくわかんないけど、ありがとう!!」
「何のこれしき。おぬしたちに助けておらった恩は一生忘れぬぞ! それではこれにてさらば! また会う日まで!!」
「ハハハ!」と高らかに笑いながら、暁はトレジャータウン≠ニは反対方向に去っていた。
その後ろ姿を見ながら、
「さ、さようなら……」
「ばいばーい! ありがとねーー!!」
「結局あのハサミはどうなってるのかしら……」
「シークレットランク≠ネんて聞いたことが無いが……」
様々な反応を見せた。
そしてアルはバッチにはられた印を見て、首を傾げた。
「親方様なら何か知ってるか……?」
「そ、そうだね。一応親方様に聞いてこよっか」
そう言って、『シリウス』はギルドへ続く階段を登った。
「楽しそうなランクだね♪」
「「「…………。」」」
シークレットランク≠ニいう言葉を聞き印を見たロードの一声が、これ。
その返答に思わずスウィートとフォルテとアルは黙ってしまった。まさかそんな返答がくるとは思っていなかったのだ。
するとシアオが不満そうに声をあげた。
「えー、ロードこれ知らないの?」
「きっと楽しいことがおこるランクだと思うよ?」
「返答になってないけど!?」
いつもの調子でいうロードにシアオがツッコむ。しかしロードは笑うだけだ。
スウィートはバッチを見て呟いた。
「………親方様も知らないのかぁ。じゃあ何なんだろう、これ…………」
ギルドの親方であるロードでさえ知らないランク。ますます謎が深まっていくだけである。
すると楽しそうにロードが声をあげた。
「まあ、あの忍冬 暁≠ゥら貰ったんでしょ? だったら大丈夫だと思うよ?」
「……アイツだからこそ胡散臭いのよね」
「フォルテ」
ぼそりと呟いたフォルテに、名前だけ呼んでアルが注意をする。
その後『シリウス』は弟子たちやディラ、ギルドに集まっている探検隊や探検家にシークレットランク≠ノついて聞いたのだが、何も得られなかった。
――――サメハダ岩――――
「……結局シークレットランク≠チて何なんだろうね?」
「さあ……。あれだけ聞いて分からないなら、もう考えない方がいいんじゃないかな……」
「つーかこれ外れないんだけど」
「外そうとするな」
シアオ、スウィート、フォルテ、アルの順番に口々に言っていく。フォルテは印を外そうとしていたのだが、すぐさまアルに止められた。
それからスウィートがふぅ、と息をつく。
「まあ暁さんは「その内わかる」って言ってたし、とりあえずこのことは置いておこう。きっと、いつか分かるよ」
「えぇっ。スウィートあんな胡散臭い奴のこと信じるわけ?」
「だから胡散臭い言うな。失礼だろ」
バシンと音をたててアルがフォルテの頭を叩いた。結構強かったのか、フォルテは頭をおさえて蹲っている。それにスウィートは苦笑した。
するとシアオが上を見上げながら声をあげた。
「でもまー……今回もフォルテのゴースト嫌い直らなかったね。いい機会だったのに」
「……燃やすわよ?」
フォルテにぎろりと睨まれて、シアオが口を閉じた。
その話題になるといつもに増して睨みが何倍も鋭くなる。さらにシアオだと「燃やす」のが有限実行される可能性が高い。さすがに学習したのか、シアオはそれ以上は言わなかった。
しかし話題を繋いだのはアルだった。
「しかし今回は無傷でよかったものの、次やられたらシャレにならないぞ。気絶とか」
「うっ……」
アルの言葉に、フォルテが気まずそうな顔をする。
ユノアという敵を目の前にして気絶したのは事実だ。さらに最後は自分と仲間を危険に晒すということまでした。今回はただ運がよかっただけ。
するとシアオが「はいはーい!!」と元気よく手をあげた。
「セフィンにリハビリしてもらえばいいと思う!!」
「ぜったい嫌よ!! あれに頼んでみなさい!? 酷い目にあうわ!!」
「……否定はしないな」
「でも知ってるポケモンの方がいいとは思うんだよね……」
あぁ、それなら剣さんもいるかな。
そんなことを考えながら、スウィートはまた喧嘩に発展したシアオとフォルテを微笑ましげに眺めた。
すぐさまアルに叩かれて止められたが。