31話 探検家のはなし
「今日はどうしよっか……」
“空の頂”を登り終わってから数日後。『シリウス』はいつものような日々、つまり探検隊としての毎日を過ごしていた。
トレジャータウンを歩きながらスウィートがそう呟くと、案が出てくる。
「お尋ね者でいきましょう! ストレス発散に!」
「困ってるポケモンを助ける方が優先だと思う! お尋ね者は嫌だ!」
「私情はさみまくりだなお前ら」
フォルテ、シアオの言葉にアルが冷静にツッコむ。スウィートは自身の仲間の言葉に困ったように笑うことしか出来ない。
そして交差点までつくと、あるポケモンが『シリウス』を見て「あ」とと声をあげた。
「『シリウス』じゃないか。今日も探検かい?」
「あっ、“空の頂”登るときにいたバリヤード!」
シアオがそのポケモン――バリヤードを指さしながらそう言う。「失礼だ」とアルによって反対方向に折り曲げられ、シアオは痛みに悶絶する羽目になった。
それにバリヤードが苦笑しながら「ヒヤ・レンリッドだよ」と自己紹介をした。
「この前の祝賀会は大変だったね」
「ある意味で俺の黒歴史だ……」
それを思い出しているのか、アルが死んだような目をする。「アル……?」とスウィートが目の前で手をふるが、反応はない。
そんな2匹を無視して、シアオがヒヤに話しかけた。
「ねえ、何か面白いこととか変わったこととか知らない? 今日も今日とてやることが決まらないんだけどさー」
「面白いこと、変わったこと、ねえ……」
シアオの言葉にヒヤが顎に手をあてて考える。そして何か思い出したように、顎から手をはずした。
「君たち、有名な探検家の
忍冬 暁≠知ってるかい?」
「あたしは知らないけど。……探検家?」
「うん。種族はハッサムでね。忍冬 暁≠ヘ世界に名をはせた有名な探険家で、探検家なら誰もが憧れる存在だったんだ」
へぇ、とシアオが興味をもったようで声をあげる。アルも復活したようで、ヒヤの言葉に耳をかしていた。スウィートもフォルテもだ。
ヒヤは明るく話していたのだが、「しかし」と少し暗い表情を見せた。
「南西の果てにあり“吹雪の島”を探検中に行方不明になってしまってね。彼を助けるためにたくさんの救助隊が現地にむかったんだけど、凍てつく寒さと吹雪に阻まれて、救助は打ち切られてしまったんだ」
「う、打ち切り……!?」
スウィートが戸惑いながら声をあげる。ヒヤの言葉からすると、まだその忍冬 暁≠ヘ助かっていないという事だ。スウィートにとっては信じられないことであった。
ヒヤはそんなスウィートを気にせずに続けた。
「まあ……もう随分と昔の話なんだけどね。でも忍冬 暁≠ヘ物凄いお宝を発見したって噂だよ」
「ふぅん……。物凄いお宝、ねえ」
フォルテはあまり興味がなさそうで、ただ復唱するだけ。
するとヒヤは暗い話題を何とか明るくしようと、笑顔で『シリウス』に語りかけた。
「僕は思うんだけど……『シリウス』は世界を救うぐらい凄いチームじゃないか。あれから“吹雪の島”に挑んだ探険家は誰もいないけれど、ひょっとして君たちなら行けちゃうんじゃないかな、ってね」
そして少し茶目っ気に「それは君たちの自由だね」とヒヤは言った。
すると普段は知らないポケモンに近づくことのないスウィートがずいっとヒヤの方に寄った。
「その、“吹雪の島”ってこの地図のどこですか……?」
「……行く気なんだ。えっとね……確か、この辺、だったかな」
ヒヤが地図を指さす。地図でも名の通り、“吹雪の島”は氷の島として書かれている。
「“吹雪の島”で、探検家忍冬 暁≠ェ発見したお宝が見つかるといいね」
そういって、ヒヤはトレジャータウンの方へ歩いていってしまった。
スウィートは地図で“吹雪の島”を見ながら、「ここが……」と呟く。そんな様子のリーダーを見て、シアオが少し頬をひきつらせながら聞いた。
「スウィート……。まさか……いくの……?」
「え? うん。フォルテには悪いけれど……でも、シアオの言うとおり、困っているポケモンを助けるのが大切かなって!」
そう思うから行こう! と意気込んでいるスウィートをみて、シアオは顔を青くした。フォルテはそれを見ながらニヤニヤとして「そうよねー。大切よねぇ」とわざとらしくシアオに話しかける。
アルはぽん、とシアオの肩に手をおいて
「自分の発言には責任もてよ」
とだけ言った。
シアオは「あー……うん」と歯切れ悪く、頷いた。
「吹雪、かぁ……。絶対に寒いよ……ぜったい寒い……」
どうやらシアオは寒いのが嫌だから、という理由で乗り気ではないようだ。“空の頂”で雪合戦をしてはしゃいでいた奴がいう事ではない。
シアオの呟きを聞いて、スウィートは「そうだ」と言った。
「暖かい格好だったらいいよね」
――――吹雪の島――――
最近ちょこちょこ海岸に遊びに来るラウルに頼んで、『シリウス』は“吹雪の島”についた。
そして大きな氷や雪で固まって、洞窟のようになっている場所を見つけ、『シリウス』はそこに入っていった。辺りはかなり冷えている。
とりあえずトレジャータウンを出る前、スウィートの言葉により、全員スカーフではなく暖かい毛糸のマフラーをしていた。ただの布であるスカーフよりは、毛糸であるマフラーの方が暖かいので少しは寒さを凌げる。
しかしそれも少しの効果しかないのだが。
「寒いぃぃぃぃぃぃ……!!」
「だっらしないわね。つーか“空の頂”のときはあんだけはしゃいでたのに、何で今になって寒がるわけ?」
「お前は炎タイプだから分からないかもしれないが……あの時よりキツいぞ、この寒さ」
シアオが寒さで震え、それをフォルテが冷たい目で見る。アルは白い息を吐きながら言葉をだすが、明らかに寒そうである。スウィートもフォルテにひっついて暖をとっている。
“吹雪の島”というだけあって、かなり冷えているのだ。
「うぅ……寒いぃ……。こ、これ……忍冬 暁≠ウん、大丈夫なのかな……」
「うーん……凍死してなきゃいいけどごめんなさい嘘です」
凍死、という言葉を聞いた瞬間にスウィートが泣きそうな顔になり、シアオはビビってすぐに謝った。そういうことをスウィートの前では言ってはいけないというのは『シリウス』の中での暗黙のルールだ。
そしてそのままダンジョンを進んでいると、目の前に敵が見えた。
「レッツゴー、フォルテ!」
「火炎放射!!」
「危なっ!!」
敵ポケモンを狙いつつ、シアオにも。そんな感じでフォルテは火炎放射を放った。シアオには避けられ、小さく舌打ちをして。フォルテの近くにいたスウィートは無言で離れていた。何を汲み取ったかは分からないが、予測はしたのだろう。
フォルテの火炎放射は見事にユキワラシに当たった。
しかし敵はまだ残っている。ゴルダックにヤルキモノ。
「……嫌なこと思い出したなぁ」
「奇遇だな。俺もだ」
ゴルダックを見てスウィートがそう呟くと、アルが賛同の意を示した。
「みずのはどう!」
「瞬間瞬移――アイアンテール!!」
ゴルダックのみずのはどうを避け、スウィートがヤルキモノに向かってアイアンテールをしようとする。
しかしヤルキモノの様子を見て、咄嗟にスウィートはでんこうせっかでヤルキモノから離れた。ヤルキモノがやろうとしているのはきあいパンチ。
「やっぱ相性だよね、てだすけ!!」
スウィートがてだすけを発動させる。
そしてスウィートがひきつけている間に、シアオがヤルキモノに狙いを定めていた。それはアルも同じ。アルはゴルダックに標準をあわせる。
「いくよ、はどうだん!!」
「10万ボルト!!」
勢いよく2つのものが2匹にむかっていく。
ゴルダックは避けようとするが、アルの10万ボルトは瞬間にバラバラな方向へと分散し、ゴルダックに命中し、倒した。これはアルが成長させていたおかげのものである。
シアオの方は、そう上手くはいかなかった。
「――きあいパンチ!!」
「えっ、ちょっ、そんなのありぃ!?」
ヤルキモノははどうだんをきあいパンチで跳ね返してきたのだ。シアオは微塵も考えていなかった事態に顔をしかめる。でんこうせっかで慌てて避ける。
そしてそのはどうだんはフォルテに真っ直ぐ向かっていく。
「あたしがあんなヘタレの攻撃を喰らってたまるか! もう1回跳ね返ってきなさい!! アイアンテール!」
「ヘタレ!? 今ヘタレって言った!? 聞き間違いじゃないよね!?」
尻尾に思いきり力をため、フォルテがはどうだんを何とか跳ね返した。しかし流石にキツかったのか、フォルテが後ろに下がった。跳ね返ったはどうだんは見事にヤルキモノに命中し、倒していた。
清清しい顔をしているフォルテに、シアオが食って掛かっていった。
「さっき僕のことヘタレって言ったよね!?」
「は? 何を今更。間違ってないでしょ?」
「間違ってるよ!? 完全に間違ってるよ!!」
「どこが?」
抗議するシアオに、フォルテが「何言ってんの?」というような表情をする。
それを見ながらアルが呟いた。
「寒さとか忘れて元気だな……」
「くしゅっ! うぅ、やっぱり寒い……」
喧嘩する2匹を見ながら、スウィートとアルはマフラーに『顔をうずめるのだった。