輝く星に ―闇黒の野望―







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2章 家族への贈り物
30話 祭り騒ぎも程々に
「それじゃあ、ありがとうございました。リアテさん、クラウアさん。里の皆さんにもよろしくお願いします」

 ぺこりとスウィートが頭を下げる。
 “空の頂”の山頂を目指していた探検家や探検隊たちのもう登り終わったようで、ほとんどの者がふもとに下りてきていた。
 それを受けて、『シリウス』も『アズリー』もトレジャータウンに帰ることにしたのだ。そして里の入口付近まで見送りにきたリアテとクラウアに挨拶をしているのだ。

「リアテ、何かいろんなポケモンに「またそのうち来る」的なこと言っちゃったんだから絶対にいきなよー」

「当たり前だろう。ミーをナメるな。明日にでも行ってやる」

「つまりリアテは明日になったらまた里にいないわけね……。そして暫くまた帰ってこないと」

「せめて誰か連れていけば迷わないんじゃないか?」

「……ユーたち後々覚えておけよ…………」

 散々な言われようにリアテが青筋を浮かべる。しかし3匹は全く気にしていないような顔だ。スウィートはそれに困ったような顔をする他ない。
 一方、クラウアは妹であるスティアに激励――ではなく、ただの注意事項を伝えていた。

「わっちがいなくても変なことをせぬこと。あと間違っても落ちている物を食おうなど思わんように。あと道に迷わないことじゃ。分かったな?」

「……2つ目の注意事項についてなのですが……自分はそんなことしないのですよ! 姉さまは自分のことを馬鹿にしすぎなのです!!」

「そんなことはない。馬鹿にしてるのではなく心配しているのじゃぞ」

「絶対に馬鹿にしているのですよ!」

 心底馬鹿にした様子の姉にスティアが抗議するが、クラウアは露知らず。そのままクラウアは凛音たちの方を見た。

「迷惑しかかけんかもしれんが……こやつを頼んだぞ」

「了解です」

「はいっ! っていってもあたしが迷惑かけるかもですけど……」

 凛音は淡白な返事を、メフィは自身なさげに返事をする。
 そして何も聞き入れようとしていない姉クラウアにしょげているスティアに、クラウアが顔を向けた。そしてフッと笑う。

「しっかりな」

 ぽんぽん、とクラウアがスティアの頭を撫でる。クラウアなりの、励まし。
 それをうけて、スティアは嬉しそうに、少し照れくさそうに返事をした。

「……はい!」

 それを見て、スウィートが微笑む。「もう大丈夫かな」と心の中で呟いてから、もう一度お辞儀をした。

「それじゃあ、本当にありがとうございました!」

「じゃあねー! また遊びに来るねー!!」

 『シリウス』と『アズリー』が帰り道を進む。
 途中でブンブン、とシアオが手を振った。それにリアテもクラウアも手を振り替えしてくれる。
 そうして、『シリウス』と『アズリー』は雲に隠れて見えない“空の頂”を背に、トレジャータウンの方へ歩いていった。





――――パッチールのカフェ――――

 夜、パッチールのカフェには“空の頂”にいった探検家や探検隊が集まっていた。
 そしてパッチール、セルルがグラスを掲げる。

「“空の頂”登頂を祝して――」

「「「「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」」」」

 セルルの言葉にのって、全員が持っていたグラスを掲げる。それを合図にするように、全員が回りにいる者たちと喋りだした。
 『シリウス』も『アズリー』もその場におり、会話をしていた。

「じゃあ凛音ちゃん達はあの親方様の登録をまたやったんだ……」

「相変わらず煩かったです」

「あの登録って何なんですかね……?」

「自分は初めてだったので驚いたのですよ……」

 “空の頂”から帰ってきてから、スウィート達は荷物を置きにサメハダ岩へ、凛音たちはギルドへ戻った。
 そのときに凛音とメフィは『アズリー』の新メンバーとしてスティアの登録を要請しにいったのだ。そして、またあのロードの登録を受けた、というわけだ。凛音の顔のしかめ具合を見ると、本当に煩かったらしい。
 するとアルがグラスを口から話して会話に加わった。

「それにしても途中のメンバー登録もあれでやるんだな」

「あぁ、先輩たちは元から4匹ですもんね……。先輩たちはメンバー増やしたりしないんですか?」

 何気ないメフィの言葉に、『シリウス』がうーんと悩みだす。
 そして1番に発言したのはシアオだった。

「でも僕ら、初めから4匹だし……多いから。僕は入ってくれるなら大歓迎だけどね〜」

「これ以上増えたら収集つかなくなるだろ。シアオとフォルテで手一杯だっていうのに……」

「あたしとシアオを同じ括りにいれないで」

「とりあえず……今のところ皆そういうのはないみたいだし……。……新メンバー登録可能なら、リーダーの変更もできるのかな」

「スウィート、何考えてんの。変えないよ」

 最後のシアオの言葉にスウィートががっくり肩を落とす。リーダーといっても別段特別なことはないのだが、スウィートにとっては嫌らしい。
 そしてメフィが「あ」と言って席を立った。

「あたし、自分のジュースなくなったんで貰ってきますね!」

「飲むのが早すぎです。……無料なら飲むのが得か」

「凛音の好きな言葉は無料≠ニかそっち系ですか……?」

「いや、1番好きなのはポケ≠ネんじゃない?」

 メフィはジュースを貰いにカウンターへ。それを見ながら凛音が何かを呟き、気まずそうな顔をしながらスティアが疑問を口にし、それにフォルテが答えた。
 モモンの実のジュースを注いでもらい、メフィがさて戻ろうとした時。

 ここから、事件がおきた。

 ガシャン、と何かが割れた音がする。そちらを見ると、ガラスを落としてしまったのであろうキトノがいた。
 大丈夫かな、とメフィが心の中で心配したときだった。

「アハハ! 何このジュース美味しい! もっと持ってきてよ!!」

「え。」

 凄いハイテンションなキトノにドン引きするメフィ。周りを見ると、何だかみんな奇妙な動きをしている。
 メフィが呆然としていると、ジュースを注いだセルルが「あ」と声をあげた。

「間違えちゃいましたね〜」

「な、何がです……?」

 恐る恐る、といった風にメフィが聞くと、セルルはいつもと変わりのない様子で答えた。


「ジュースじゃなくてお酒が混じってみたいですぅ」


 思わずメフィが持っていたグラスを落としそうになった。ギギギと機械のように振り返ると、顔を赤らめて暴れる者が多数。困っているポケモンがいるところ、全部が全部、酒ではない。
 しかし、この状況は笑えたものじゃない。

「ちょっ、ど、どうするんですか!? これヤバイですよ絶対!!」

「お酒が入ったお客様は危険ですからねぇ。放っておきましょうよ〜」

「放っておくんですか!? この状況を!?」

 セルルに必死に顔を青くして訴えるメフィだが、「やっちゃった☆」みたいな顔をしているセルルは悪気もへったくれもあったもんじゃない。
 もう一度メフィが振り返ると、何か暴れているポケモンが増えていた。
 すると、「アーッハッハ!!」という高笑いが聞こえた。そっちを見ると、見慣れた顔が。

「ひざまずきなさい下僕ども! そしてもっと(酒を)来なさい速球に!! でなきゃアンタら全員燃やすわよ!!」

(フォルテ先輩めっちゃ酔っ払ってるーーーー!!?? ていうか女王様!?)

 あえて口に出さず、メフィが心の中で叫ぶ。豹変している自身の先輩に、成す術などない。
 そしてまた違う方向を見ると、スティアがいた。

「ス、スティアは大丈夫!? お酒のんでない!?」

「…………煩いです」

「へっ?」

「煩いです、この場所。意味分かりません。もうちょっと静かに出来ないのですか? 正直頭にさっきからキテですねぇ……」

(酒で毒舌になってるんだけど、この子!!)

 フォルテ同様、スティアもかなり酔っ払っている。毒舌なうえ、何故か饒舌になっている。
 他を見るも、暴れたり、潰れていたりと色々だ。

「こ、これかなりマズいんじゃ……。ていうか祝賀会っていうより暴れ会になってますけど!?」

「皆さん元気で何よりじゃないですか〜」

「ソーナンスッ!!」

「いや、「ソーナンス」じゃないでしょ!?」

 メフィが鋭く的確なツッコミを入れる。カフェの従業員は手を加えるどころか、何故か酒を次々と出している。悪ノリにも程がある。
 するとポンポン、とメフィは肩を叩かれた。それに振り返ると

「ねぇメフィ〜。このジュース美味しいからおかわりしようと思うんだけど……どこでできる〜?」

「それジュースじゃないですよ!?」

 いつもの笑顔だが、少し顔が赤いシアオ。周りに花が咲いているような空気を纏っている。
 そしてメフィはシアオの肩を掴んで揺すった。

「しっかりしてください先輩! ツッコミがあたし1匹じゃ追いつきません!!」

「大丈夫だよ〜。凛音とかアルいるしぃ」

「はっ、その2匹は……!?」

 パッと手を離した瞬間、シアオが地面に倒れた。そしてまた起き上がり、セルルに酒を注いでもらっている。
 それを無視して、メフィはとりあえず自身の仲間を探した。

 すると椅子に座ってグラスにある液体を無表情で飲んでいる凛音。
 それを見て、メフィは「あ、凛音のはお酒じゃなかったのかな……?」と思いながら凛音に話しかけた。

「よかったぁ、凛音もジュースだったん、」

「問題ありません」

 だ、と続きそうになった言葉をメフィはしまった。
 何か会話がかみ合わないような等と考えながらメフィはまた凛音に話しかけようとする。しかし凛音の方が先に発言した。

「まだいけます。持ってきてください」

(凛音も顔に出さず酔ってるしぃぃぃぃぃ!!)

 見れば凛音の近くにグラスがいくらか転がっている。おそらくこれは全て凛音が飲んだ物なのだろう。
 未成年なうえこれ以上の摂取はよろしくない。そう思いながらメフィが止めようとする。

「凛音、もうやめ」

「いけます」

「いや、でも」

「いけます」

(ぜんっぜん話を聞いてくれない……!!)

 もう同じ言葉しか繰り返していない凛音は、酔っていると判断できた。しかし傍から見れば普通の状態なのが恐ろしい。
 どうしようコレ……。とメフィが困り果てていると、また自分の知り合いが目に入った。

「ス、スウィート先輩まで酒の餌食に……!」

「ん? あっ、メフィちゃんも飲む? 美味しいよ?」

「普通に未成年にお酒を勧めないでください! ていうか先輩も未成年ですよね!?」

「…………お酒?」

 可愛らしくコテン、とスウィートが首を傾げる。そして目を瞬かせながらグラスにある酒を見た。
 お、おぉ……とメフィが感動していると、スウィートが「え?」と言った。

「お酒!?」

「いまさら!?」

 酒だということに驚いて、スウィートがグラスを落としてしまう。それはバリンと音をたてて粉々に砕かれてしまった。
 それをメフィが顔をひきつらせて見ていると、スウィートがメフィを見た。

「ど、どうしよう……。お、お店のものを……わ、わっ、割っちゃった……」

(……いつもより弱気になってる…………)

 うるうると目を潤ませながらスウィートが言ってくるのを見て、メフィはそう思った。
 フォルテ達ほどではないが、少しは酔っているらしい。ただ意識はきちんとあるらしく、それが顕著に行動に表れていた。今もオロオロとして、今にも泣きそうである。
 暫くしてから、メフィははっとなってシアオとの会話を思い出した。

「そ、そういえばアルナイル先輩は……!?」

 キョロキョロと辺りを見渡す。カフェは酷い惨状で、見れたものじゃない。
 しかし懸命に探したこともあって、黄色と黒の耳らしきものが見えた。メフィがそっちに駆け寄っていくと


「……も……もう、むり…………」

「センパァァァァァァァァァァイ!!??」


 ガクッと机に突っ伏してしまったアルナイル。
 メフィの頭の図では、酒なんかに呑まれないだろうというイメージがあった。しかし、ガッツリ呑まれている。
 酒にやられている。あの屈強な精神を持っているアルが。

「せっ、先輩ーーーーッ! し、しっかりしてください! ツッコミが! ツッコミが不在なんです!! 先輩がいなきゃ成り立たないですよコレ!!」

「………………。」

「センパーイ!? 生きてます!? 生きてますよね!?」

 必死に呼びかけるが、返事はない。
 ふと目に入ったグラスを見ると、ほんの少ししか減っていない酒。かなり微量である。

(アルナイル先輩お酒にまさか凄く弱い!?)

 もう一度アルナイルを見る。見事に潰れている。たった微妙の酒で。まるで屍のようになっている。
 メフィが呆然としている中、カフェはさらに盛り上がっていた。

「あたしに命令するなんていいご身分ね、焼くわよ? いいからとっとと持ってこいっつってのが聞こえないの? アホ共が」

「うるさい……。ホントもう黙ってくれません? 頭が痛くなってくるですけど――」

「あっ、セルル、ジュース注いでくれてありがと〜」

「まだいける。私は飲める」

「どっ、どうしよう……。べ、弁償っ……」

 そうして、夜は明けていくのだった。





 翌朝。

「『アズリー』朝礼遅刻。……新メンバー入って早々に何やってるんだか」

「……ていうかラドン。貴方その頬どうしましたの?」

「起こしに行ったら凛音に容赦なく蔓のムチでたたき出された……」

 見事に『アズリー』は寝坊、凛音は寝坊以外は普通だったのだがスティアは二日酔いになった。

 そして『シリウス』はというと

「あ゛ー……頭いてぇ……」

「めっちゃガンガンいってるんだけど……昨日カフェでなにがあったっけ……?」

「あ、あはは…………」

 アルとシアオが二日酔い、フォルテは最後の方にベロンベロンに酔っていたこともあり、起き上がれなくなっていた。
 そしてスウィートはいつものようにただ困ったように苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

■筆者メッセージ
きっと衝撃を受けた人は多いと思うんですよね! 書いてる私は楽しかったですけど←
未成年の飲酒ダメ絶対。

これで2章がやっと終わりです。長かった……。
アクア ( 2014/03/08(土) 22:07 )