29話 家族と新メンバー
「し、死ぬかと思った……」
「このアホリアテが!!」
「いだっ! 何をする!?」
無事に、とはいかないが“シェイミの里”についた一行。
スウィートと凛音と『フロンティア』は安全に下りたのだが、リアテに送ってもらった組は今でも顔が青い。メフィなど生気が抜けている。フォルテはリアテと喧嘩をしているが。リアテとスティアは既に元の姿に戻っていた。
暫くオロオロしていたスウィートだが、とりあえずシアオとアルに問いかけた。
「大丈夫……?」
「はは、だいじょうぶだよ……。あははー……」
「おい、ぜんぜん大丈夫じゃないだろ。頭がイカれてるぞ」
シアオは遠い目をして戯言のように言う。どう見ても大丈夫そうには見えない。アルも多少顔色が悪いが、シアオよりはマシなようだ。スウィートはシアオを心配して何度も問いかけるが、やはり大丈夫そうではなかった。
すると、「あ」という声が場に響いた。
「スティア。帰ってきていたのか」
「ね、姉さま……! じ、自分はきちんと山頂まで行ったのですよ! 行けたのですよ!!」
笑顔でスティアがクラウアに報告する。一瞬だけクラウアは目を丸くしたが、優しげな笑顔に変わって「それはよかった」と言った。
そして『アズリー』の方を向こうとした瞬間に、ふと視界に入った人物に目を留めた。
「……リアテ様?」
「遅いわっ!! ユーはミーの従者だろう! はよ気付かぬか!!」
「帰っておられたとは……。わっちの予想ではあと半年は帰ってこぬと思っておりました」
「信頼感ゼロ!?」
「しかし『アズリー』よくやってくれたのぅ。礼を言う。ありがとう。『シリウス』も『フロンティア』も山登りご苦労であった」
「そして無視!!」
自身の従者に文句を言うリアテだが、その本人は主人を完全に無視。主人より客の方が大切らしい。
スウィートはそれに苦笑してから「他の皆さんは?」と聞いた。
「まあすぐにでも帰ってくるとは思うのじゃが……とりあえず帰る準備でもしていたらどうじゃ? 空の贈り物≠見つけたならば、宅配サービスで届けるぞ?」
「あっ、そういえば……」
全員がバッグを探り、それぞれ見つけた空の贈り物≠取り出す。
そしてスウィートが持っていた量にぎょっとした顔をした。
「ス、スウィート……」
「よくそんなに見つけたわね……」
「えっ?」
何でもないようにバッグから次々とスウィートが空の贈り物≠取り出す。最終的に12個もバッグから出てきた。
それを見て呆れたような顔をしたアルが呟く。
「……どんだけ、誰に送るんだ、これ」
「ギルドの皆には送るつもりだよ?」
12個。それはギルドの『シリウス』のメンバーを退けた数。
すると凛音がスウィートに話しかけた。
「私たちはいいですよ、先輩。色々と貰ってますし。後の2個は違う方に贈ったらどうです?」
「あと2個、かぁ。……皆は誰に送るの?」
スウィートが聞くと、うーん、と全員が頭をひねった。その様子にスウィートが苦笑をうかべる。
その中で凛音がまず最初に決まったようだ。
「家族……ですかね。1つしかとれませんでしたし」
「あたしもそうしようかなぁ。2つとれたし、パパとママに」
『アズリー』が決まったように、『シリウス』も凛音の意見を取り入れるようだ。家族、がやはり1番贈りやすいようだ。
「僕とそうしようっかなー。他に思いつかないし、そこまで数ないし」
「俺もそうするか。3つとれたし、母さんと父さんと妹でぴったりだ」
「……兄貴には贈んなくていいかしら?」
「その後にアリアさんに会って殴られる覚悟があるのなら」
ぐっとフォルテが言葉をのみこむ。じーっと空の贈り物≠見て、兄のアリアに贈るか悩んでいる。フェロとアリアの仕事はほぼ同じで一緒にいることが多いため、フェロに贈るとバレる。
シアオとアルは別段問題はないようで、家族に贈ると決めたようだ。
それを見ながら、スウィートは心の中で呟いた。
(家族……)
顔も知らない、名前も知らない。とてもとても繋がりが薄い存在。
記憶がないスウィートには、兄弟がいたのか、まず両親がどんな人だったかも分からない。自分がどっちに似ていたのか、どんな会話をしていたのか、どんな感情を抱いていたのか。それさえ、全く、分からない。
少し俯き、手の中にある空の贈り物≠見た。
(わたしの、かぞく)
声も、顔も、何も分からない。まるで他人のような、そんな不安定な存在。
無意識にきゅっと空の贈り物≠握る。やはり思い出せないものは思い出せない。
「とりあえず宅配サービスはこっちじゃ。直接渡すより、こっちの方が早いじゃろう。因みに何処にいるか分からなくても渡せるという便利なサービスじゃ」
「あっ、じゃあパパが家にいなくて贈れる! よかったぁ」
「それ、可能なのか?」
「名前さえ登録と種族登録すれば大丈夫じゃ。まあこのサービスを提案したのはリアテ様じゃが、サービス人の苦労が耐えん」
「その蔑んだ目でミーを見るな!!」
しばらく放心していたスウィートだが、賑やかな声によって意識を戻した。
皆がクラウアの案内により、おそらく宅配サービスをしている場所まで移動を始めており、スウィートも慌ててついていく。そしてもう一度心の中で「家族、」と呟いた。
頭の中に浮かぶのは、本当の家族ではない。
「…………それでも、今の私にとっては、私の家族≠セ」
言い聞かせるように、スウィートが呟く。
宅配サービス名前記入欄。
「贈り主:スウィート・レクリダ」
「贈る相手:プクリンのギルド(『シリウス』『アズリー』を除く)、フィネスト・イレクレス(エーフィ♀)、シャオレア・レスファイ(ブラッキー♂)」と新たに名簿に記入された。
宅配サービスを利用し、帰る準備をしていた頃。リイエが『シリウス』の元まで来ていた。
「「「「祝賀会?」」」」
『シリウス』4匹が同時に首をかしげる。その言葉にリイエは笑顔で「うん」と答えた。
「元から企画されていたんだ。“空の頂”を登り終わったら“パッチールのカフェ”で祝賀会を開こうって。探検隊が一斉に集まる機会なんてまずないし、いいでしょ?」
「へぇ……。楽しそう!!」
シアオが目をキラキラとさせて興味津々です、ということを露わにする。フォルテも満更ではないようで、「いいわね」と言う。
「いいんじゃないかな……。交流ができて」
「スウィートの人見知りが直るかもしれないしな。……拒否すんな」
アルの言葉にブンブンとスウィートが首を横にふる。どうやら直す気は全くといっていいほどないらしい。
とりあえず『シリウス』が行く気であることを確認したリイエは「じゃ、今日の夜だからよろしくね!」と言って去っていった。
「凛音たちはどうするんだろう? ギルドってそういうこと許してくれるのかな……」
「どうしても行きたい場合は凛音が承諾をもぎ取るだろ」
「それもそうね。凛音だもの」
「そっかー。凛音がいるもんね」
「皆の中で凛音ちゃんはどういう位置になってるの……?」
そんな会話をされていた凛音はというと。
「……は?」
「えっ?」
メフィとともに怪訝そうな顔をしていた。その目の前にはスティア。
おずおずとスティアは言葉を発した。
「だ、駄目でしょうか……」
「い、いや! あ、あたしはいいし、その、大歓迎!! なんだけど……」
ちらっとメフィが凛音を見る。凛音はその視線に気付いてから、はぁ、とため息をついた。
「理由をお聞きしても?」
「えっと……姉さまと、」
「貴女は姉がいないと何もできないのですか……」
「相談しただけなのですよ!!」
凛音の言葉にスティアが反論する。そして仕切りなおし、という風にスティアはわざとらしく咳をしてから切り出した。
「その……自分は、色々な物を見てみたい、と、そう頂上で感じたのです。だから貴女方のチームに入れてもらえないかと……。今回一緒に登って、その、楽しかったし……」
「一部始終悲鳴をあげていたことにしか記憶にないんですけど」
「それは貴女のせいなのですよ」
ごもっともなツッコミをしたスティアに、メフィがこくこくと頷く。凛音は黙ったままで、無視ともとれる反応をしていた。
そのままスティアは続けた。
「だからお願いするなら貴女方がいいと……。姉さまも、そう仰られたので」
「まあ別に私も構わないのですが……」
その言葉にパアッとスティアが顔を明るくさせる。そしてメフィが嬉しさの余りスティアに抱きついた。
「やっほーい! 初めての仲間ー!!」
「あ、ありがとうございますぅぅぅ……!!」
(……頼りない)
子どもっぽいメフィと、完全ヘタレなスティア。自分の探検隊これで大丈夫なのか、と思った凛音だが、とりあえずそれは心の奥に閉まった。
するとスティアが「私、」と涙目で言い放った。
「精一杯がんばります! 炎と雷はまだ怖いですけれど!!」
「ピンポイントでフォルテ先輩とアルナイル先輩のことを言ってるような気がするのは私だけですか」
そのとき、フォルテとアルが同時にくしゃみしたとかしてないとか。
とりあえず『アズリー』にスティアが加わった。