28話 秘宝の絶景
「起きんか、アホども」
ばしっ、とリアテがベトベター達の頭を叩く。さっきからそうしているが、中々起きない。
しかし、ようやく反応が見えた。
「んん〜……?」
1匹が起きるのを合図にするように、次々とベトベター達が起きだした。
そしてようやく頭が覚醒したのか、リアテを見るや否や1匹のベトベターが目を瞠った。
「あ〜!! リアテじゃ〜ん!」
「はよ気付かんか、馬鹿め」
わざとらしくリアテがため息をつく。そしてリアテがベトベターに話しかけた。
「何故ここにいる。ユーたちのねぐらは此処ではないだろう」
「え〜!? 何いってんのさ、リアテ〜」
「此処はボクらのねぐらだよ〜。だってこんなに汚いじゃ〜ん」
ベトベターたちが辺りの惨状を指さす。
とても汚く、何があるのかもよく見えないくらいだ。さらに悪臭も漂っているし、綺麗とは何があっても言えない。
すると「……そうか」とリアテが呟いた。
「長い間、誰も来なかったせいか……。
おい、ユーたちよく聞け。ここはユーたちのねぐらではない。此処は山の頂上だ」
「「「「「「「えぇぇぇぇ〜〜〜!?」」」」」」」
ベトベターたちがかなり驚いた様子で声をあげる。気にせずリアテは続けた。
「どうやら長いあいだ誰も来なかったため、これほど汚くなったらしい。
しかし頂上をこのままにする訳にもいかん。此処を清浄する。だからユーたちは元のねぐらに帰れ。綺麗な所は嫌なのだろう?」
「うん〜。リアテがそう言うなら帰るよ〜」
「ぜんぜん気付かなかったや〜。ごめんね〜」
「うむ。侘びとして今度なにか持って行ってやろう」
「アテにはしてないね〜」
「何故!?」
そういって、ベトベターたちは同じ方向に帰っていった。
それを見届けてから、リアテが辺りを見渡す。
「さて、元に戻さねば」
「えっ、ま、まさか地道に掃除すんの……!?」
「んなことしてたら日が暮れるだろうが」
シアオの発言にアルがツッコむ。フォルテはシアオの発言を真に受けたのか、首を懸命に横に振っているが。
でも、とリイエが発言した。
「これほど荒れてるし……時間はかかるんじゃない? 元に戻すっていってもそんな簡単には……」
「いや、すぐできる」
断言したリアテの方を全員が見る。
リアテは振り返って全員に視線を向けた。
「シェイミという種族には大地の汚れを吸収し、浄化する力がある。まあ、これほど荒れていれば大変かもしれんが……」
そしてスティアに視線を向けた。視線を向けられたスティアは「えっ?」と首を傾げる。
気にせずにリアテは続けた。
「スティア・カラヴィン。ユーにも手伝ってもらうぞ。2匹でやればすぐに済む」
「えっ、えぇぇぇ!? じ、自分はやり方など分からないですよぉ……!!」
「習うより慣れよ。適当にやれば何とかなる」
「投げやりすぎなのですよ!!」
スティアが顔を青くしてリアテに抗議する。
それを取り合わず、リアテは「いくぞ」と言った。スティアは頬をひきつらせる。
「体に力を溜めろ。そしたら何となくでできる!!」
「ちゃんとした説明が欲しいのですよ!! って、本当にやるのですか!?」
リアテの周りに風が吹く。何とか見よう見まねでスティアもやっていると、スティアの周りにも風が吹いた。
「わわっ!?」
どんどん吸い込まれていく汚れに、全員が目を丸くする。
リアテとスティアにどんどん汚れが吸い込まれるにつれ、2匹の緑色の部分が紫色に変色していく。それにつれ、悪臭や景観が綺麗になっていった。
「皆伏せておれ!! 」
「え、えぇ!? そ、そんないきなり言われても……」
ゴォッ、と音をたててリアテとスティアの体に一気に汚れが集まる。何とか全員が体を地面に伏せる。
そしてリアテとスティアの体が一瞬だけ光った後、辺りが眩い光に包まれた。
思わず目を瞑っていたスウィートの元に、自然のいい香りが鼻腔をくすぐる。さらにサァ、と綺麗な風が流れるのも感じた。
そして恐る恐る目を開け、スウィートは飛び込んできた景色に目を見開いた。
「こ、れが……本来の、ちょう、じょう……!」
緑が溢れ、所々にピンク色の特徴的な花が咲いている。そしてその花の花びらが風で宙を舞っていた。辺りを見渡すと、先ほどと同じ場所と見えないような綺麗さ。あの汚さを微塵も感じさせない風景。
シアオたちも同じように目を瞠り、そしてキョロキョロと辺りを見渡していた。
「うわぁ……!」
「こ、これが頂上……!」
呆然と、全員が声をあげる。
そしてずっと目指してきた頂上に初めて来たスティアも、呆然としていた。
「こ、れが……」
そう言うと、自然と父親の言葉がよみがえった。
〈頂上は花が咲き乱れていてとても綺麗な風景が見える、頂上とは思えない豊かな自然に囲まれている……まさに楽園のような場所だ〉
その言葉の通り、花が咲き乱れ、頂上とは思えない豊かな自然に囲まれている。とても、綺麗な風景。
気付けばぽろりと涙がこぼれ、ふにゃりと笑っていた。
「ほんと、ですねっ……。父上……」
素晴らしいです。そう小さくスティアが呟いた。
凛音とメフィはそれを見て顔を見合わせてから、メフィはにかっと笑い、凛音は小さく息を吐いた。
『フロンティア』は頂上の光景に息をのみ、『シリウス』ははしゃいでいた。
「寝転がるの気持ちいいー!!」
「あー疲れた!!」
「お前ら……」
シアオとフォルテは花畑に寝転がり、顔を綻ばせる。アルはそれを見ながらため息をついた。何も言わないのは、何を言ってもムダだと分かっているからだ。スウィートは興味深そうにキョロキョロと辺りを見渡していた。
リアテはそんな様々な様子を見ながら、満足そうに笑った。
「登頂おめでとう。此処までよくぞ登った。此処こそ、“空の頂”の頂上だ」
そう言われ、皆は近くにいた者と顔を見合わせてから表情を明るくさせた。
「うおーーーっ!! やったぞぉぉぉぉ!」
「ついに頂上まで到達したんだー!!」
「いやっほぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「此処まで登ったかいがあったわー」
「頂上サイコーですッ!!」
「……煩いです」
「何言っても無駄だろ……」
「あはは……」
順にゴケル、キトノ、シアオ、フォルテ、メフィが喜びの声をあげる。その反応に凛音とアルは呆れた様子だが、どこか表情は嬉しそうだ。スウィートはやはり苦笑する他ないのだが、やはり彼女もどこか嬉しそうだった。
そして辺りを見渡しながら動き回っていたリイエが「あ!」と声をあげた。皆がそれに反応してそちらを見る。
リイエは気にせず、崖の部分まで近寄っていった。他もつられるようにそちらに向かう。
「うわぁ……」
誰が声をあげたかは分からない。皆それほど崖に立ったときに見える光景に目を奪われていた。
幾つかの山の山頂は見えるものの、下は雲で隠れていて全く見えない。地上は雲に覆われていてほぼ見えず、まるで空にいるような錯覚を味わいそうになるほどの光景。まさに、空にいるような世界だった。
「…………。」
ゴケルは言葉がでないのか、黙ったまま。
「俺……この山を登ってよかったよ……」
「私も……」
キトノとリイエは感極まったかのように、目を輝かせながらその風景に釘付けになっていた。
「爽快だよね……」
「まあ苦労して登りましたしね」
「……何ともいえないのですよ…………」
『アズリー』の2匹と、スティアがぽつりと呟く。メフィは前の2匹と同じように、凛音はやはり表情を変えず、スティアは涙目になりながらも、笑って。
「何ていうか……こんな感じは始めてかもなぁ……」
「こんな感動はなかなか味わえないわよ……」
「お前らからそんな言葉が聞けるとは……。まあ同意はする」
「「それどういう意味」」
感激していたシアオとフォルテだが、アルの言葉によって2匹はアルを睨んだ。しかしアルは気にもしてないようで、見える絶景を眺めている。
スウィートも美景を眺めながら、ぽつりと呟いた。
「きっと「どんな宝にも勝る秘宝」っていうのは……こういう事なんだろうなぁ」
非情に穏やかな顔で呟いた。その言葉を聞いて、他も確かに、と言って頷く。
そして暫くした後、シアオがばっと後ろを振り返った。そこにはのんびりとしているリアテ。
「ん? 景色は堪能し終わったか?」
「うん! 此処までありがとね! 道案内は対して役に立ってなかったけど!!」
「道案内人を馬鹿にするなよ……!」
「方向音痴を直してから言え」
アルの言葉にシアオとフォルテが深く頷いた。スウィートはどうしようもなく、曖昧に笑う。リアテは「何故!?」とまた騒ぎ出した。
そしてはあ、とため息をついてから、少し不満そうであるが笑顔を作った。
「この際ミーのことはおいておいて……まあ、登っていて楽しかったぞ。久々に頂上にも来れたしな。それに関してはミーも礼を言おう。ありがとう。
頂上に来れて、景色も見れたわけだし……とりあえず里に戻るか」
「うん!」
リイエが大きく笑顔で返事をする。そして、リイエ以外の全員が固まった。
そして恐る恐るフォルテが顔を青ざめながら言った。
「か、帰るって……まさか、山くだるわけ……?」
「あーーーーーっ!! 帰りのこと考えてなかったぁぁぁぁぁ!!」
「えぇ!? 来た道また戻んなきゃいけないんですか!?」
「……それくらい考えたら分かるでしょう。馬鹿ですか」
大きな声をあげたシアオとメフィに、凛音が冷たい目を送る。しかし実際に帰りのことを考えていなかった者がほとんどで、頬をひきつらせている。
そんな慌てふためいている様子を見て、リイエが愉快そうに笑った。
「はっはっはっー! そんな馬鹿なユーたちのために、ミーが特別ふもとに送り届けてやろうではないか!!」
「……あぁ、アレか」
「アレを使うのですね……」
「アレって…………あぁ、あの反則技ね」
「スティア・カラヴィン。他人事のように言っているが、ユーもやるのだぞ」
「え、えぇぇ……。ま、まあそれに関しては練習しているので大丈夫なのですけど……」
アルとスティアとシアオは理解したように超えをあげる。他は何のことか分からず首を傾げるばかり。
するとリアテがそこら中に咲いている花を1本手にとった。
「この花はグラシデア≠フ花といってな、ミーたちシェイミにとって特別な花だ。で、どう特別かというとだな……」
スティアも花に近づく。そしてリアテとスティアは花びらに触れた。
その瞬間に、2匹をほんの小さな光を包み、それが消えたと同時に、シアオとフォルテ以外が目を見開いた。
「…………え?」
「こんな風に、花びらに触れると一時的にフォルムチェンジができる」
少し面影はあるが、そこまでないリアテとスティアの姿。可愛らしい、というより凛々しいような姿になっていた。
全員が呆然としているなか、リアテが得意気に続けた。
「ふっふーん。ミーたちはこうなると空を飛べる。これで空を飛んでユーたちをふもとまで、……ユーたち何を呆然としている」
「そりゃあ、あの姿からその姿に変わられたらビックリするでしょ……」
「先輩方は知ってたんですか?」
「あぁ。マスキッパたちのときに割り込んだだろ? あの時はこの反則技であそこまで来た。だからこの姿は既に見てた」
リアテは未だ呆然としている面子を冷めた目で見て、そんなリアテにシアオがツッコむ。凛音はそこまでショックを受けてないようで、アルに質問をぶつけていた。
そしてスティアが「それで……」と言った。
「どう運ぶんですか? 9匹いますから5:4で運ぶことになると思うのですが……」
「いいや。ユーは『フロンティア』を運べ。ミーは『シリウス』と『アズリー』を運ぼう。ミーを馬鹿にしたことを後悔させてやる……!」
「……えっと、」
変なところに意欲を燃やしているリアテに、スティアが何ともいえずに頬をひきつらせる。しかしリアテが気にした様子はない。
もうどうしようもない、とスティアは『フロンティア』の方に向かって「お願いするのですよ」とお辞儀をした。
そしてリアテは胸をはって『シリウス』と『アズリー』にむかって笑った。
「というわけでユーらはこのミーが運んでやる! 有難く思え!!」
「ぜんっぜん思えなーい……」
「つーか何でアンタそんな威張ってるわけ? 焼くわよ?」
「……またあれを味わう羽目になるのか…………」
「え? え、あの、何か不吉な予感しかしないんですけど……」
「……マシなことは期待しない方がいいんじゃないですか」
「み、皆……。折角リアテさんが送ってくれるんだし文句言ったら駄目だよ……」
文句を言う5匹に、スウィートだけがやんわりと注意する。しかし5匹はやはり不安そうである。
それを振り払うかのように、リアテが怒鳴った。
「つべこべ言うな! そこまで言うなら自力で山を下りろ馬鹿者共!! ミーはスウィートしか運ばんぞ!?」
「……まあ、不安はありますがこのまま下りるのは面倒です。もし不安定な動きでもしたら引っぱたけばいいだけの話です」
凛音が無表情にそう言うのに、リアテがぎゃーぎゃーと文句を言う。他はもうひきつった顔しかできなかった。
スティアの方はもう準備ができているようで、「あのー」とリアテに話しかけた。
「もう下りのですよ?」
「あぁ。こちらももう下りる。先に下りておけ」
そう言うと、スティアは「いきますっ!!」といって一気に下に下っていった。
『シリウス』と『アズリー』も、不安そうにリアテにつかまる。そしてリアテは「ゆくぞ」といって、崖からぴょいっ、と下りた。
問題はここからである。
「ぎゃぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁ!! 安定した運転しろぉぉぉぉぉぉ!!」
「普通に下りればよかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「おいコラ馬鹿シアオ! ひっぱんな!!」
故意に不安定な運転をするリアテに、絶叫をあげまくりである。
そして、悲鳴が聞こえないスウィートと凛音はというと。
「だ、大丈夫かなぁ……」
「先輩ありがとうございます。巻き込まれずに済みました」
「ご主人にあんな危険なことをさせる訳にはまいりませんわ」と言って、リアロのサイコキネシスでゆっくり下りていた。