26話 頂上の惨状
あれこれ登っている間に、9合目についた。9合目は他のところと違い、何もなく殺風景だ。
誰もいない9合目をリアテはキョロキョロと見渡した。
「む……?」
「どうかしたんですか?」
リアテの様子を心配し、スウィートが話しかける。
しかし聞いているのか聞いていないのか、リアテは深刻そうな顔をしている。そしてぽつりと呟いた。
「……前と、雰囲気が違う……? いや、気のせいか……?」
そのリアテの言葉にスウィートが首を傾げる。
しかしシアオの言葉によってリアテの深刻そうな顔はすぐに消えた。
「リアテが久々すぎてそう思うだけじゃない? だってずっと来れてなかったんでしょ?」
「失敬な! この前……3ヵ月、いや半年前、1年だったか……?」
「下手したら3年くらい頂上に行ってないんじゃないのアンタ」
リアテはいつものように「そんなことはない!」と返す。しかし、その言葉を信用するのはなかなか難しい。
5合目にいたマスキッパたち、そして先ほどの8合目にいたレデクもあの反応だった。「お前これたのか」と。そしてリアテの方向音痴の酷さはたった1日でかなり酷いことが証明された。
さらにリアテは少し(でもないかもしれないが)ナルシストである。そのために何度か自分の威厳のために嘘っぽい言葉を吐いた。リアテは嘘ではなく事実だと思っているかもしれないが。しかし、ほぼ嘘っぽいことがほとんだ。
そんなわけで、リアテの言葉を信用するのは難しい。寧ろどうやって信じろと。
「まあ、とりあえず頂上まであと少しだし、仲良くしよう? ね?」
「そういえば……凛音がいないな。やっぱスティアとメフィに合わせてペースダウンしたか」
「そりゃそうでしょー。あのペースでいったら死んじゃうって」
アルの言葉にシアオが冗談めいた言葉で返すが、冗談では済まされないのが事実だ。
凛音のペースはとにかくスパルタだ。あれは普通について行くのでさえしんどいのに、凛音がポケの音が聞こえたら軌道修正する。それについて行くのは至難の業だ。
スウィートは心の中でそっと「メフィちゃんとスティアちゃんが無事なように」と願った。それが叶うかどうかは分からないが。
「とにかく進むぞ。頂上まであと少しだ。そしたらミーが抱いている違和感の正体が分かるかもしれん」
「だから気のせいだって。アンタの場合は」
「フォルテの意見に賛同」
「アンタに賛同なんかされたくないわ」
「何で!?」
そんなこんなで、山登りを再開する『シリウス』だった。
――――空の頂 山頂――――
「見えてきた、頂上だ。……ん? やはり、何か、」
「えっ、リ、リアテさん!?」
いきなりリアテが駆けていく。その様子を見てから『シリウス』は顔を見合わせ、リアテを追いかけた。
そして、すぐに絶句することになる。
「これは……なんと酷い……」
「何これ!? え、これが山頂!?」
「くっさ……!」
山頂は話を聞いていたものとは裏腹に、酷い惨状だった。
空気は汚れていて、前が見えずらい。さらに匂いはかなりの激臭。自然はなく、地面の草は枯れ果てている。
あまりの酷さに全員が顔をしかめた。
「匂いが……きつい……」
「汚いな……」
「長い間こなかったせいか……。まさか、こんなことになっているとは」
リアテが呟く。顔はかなり険しい。
すると「おっ、先を越されちゃったかー」という声が後ろからした。鼻をおさえながら、『シリウス』とリアテが振り返るとそこには『フロンティア』。
しかし『フロンティア』も頂上の惨状を見るとすぐさま顔をしかめた。
「な、何これ……!? ていうか臭い!」
「こ、これが山頂なの……?」
「いや……これは……」
「ベットベト〜のベッタベタ〜……♪ キタナイのだぁいすき……」
「え!?」
いきなり声が聞こえてきたと思ったら、四方八方からベトベターとベトベトンが出てきた。
『シリウス』と『フロンティア』は互いに背をむけ、でてきたベトベター5匹、ベトベトンが3匹を見る。そしてリアテは彼らに話しかけた。
「ここはユーたちのねぐらではないだろう。早く家に帰れ」
「やだやだ〜」
「うそうそ〜」
リアテの言葉に、2匹のベトベターが首を横にふる。リアテは眉間にしわを寄せた。
そのままベトベトンが戦闘態勢に入った。
「綺麗な奴は追っ払っちゃうぞぉ〜!!」
「…………。これはちょっと目を覚ましてもらわないといけないようだな」
リアテも戦闘態勢に入ったのを見て、『シリウス』、『フロンティア』共に戦闘態勢に入った。ベトベター達も戦闘態勢に入っている。
そしてリアテが声をあげた。
「容赦はいらん! 全力で叩きのめせ!!」
リアテの言葉によって、全員が動いた。
「とりあえず私が援護を……てだすけ!」
スウィートがてだすけを発動させたと同時に、全員が攻撃をする態勢に入る。
「まずベトベターからやるぞ! 10万ボルト!」
「オッケー! フォルテ邪魔しないでよ、はどうだん!!」
「アンタに指図される筋合いはないっての、火炎放射!!」
『シリウス』がベトベターに攻撃する。
しかしあちらも何かをしてこないわけもなく、3匹ともヘドロ爆弾で技を掃滅させる。
そしてスウィートがその後ろから攻撃をしかけた。目は紫色に変わっている。つまり、リアロの力を借りているのだ。
「サイコキネシス!」
「効かないよぉ、どろかけ!!」
サイコキネシスをする前に、スウィートにむかって泥をかけてくる。すぐさまスウィートはその泥をサイコキネシスで動かし、ベトベターに当てた。
すると、いきなり体が動かなくなった。
(あ、あれ……!?)
「《なんて、なんて無礼なことを……!》」
「……スウィート?」
何故か自分の体がふるふると震えるのを傍観者のように見ながら、スウィートは冷や汗をたらす。どうやら、今リアロが体を完全に借りている状態になっているらしい。
シアオが異変に気付いて声をかけるが、返事はない。全員がスウィートを見る。
するとスウィートもといリアロが俯かせていた顔をあげた。
「《ご主人に泥をかけるとはどういった了見ですの!? それにその外見も許せないというのに……汚らわしいにも程がありますわ!!》」
(え、ちょ、リアロ、)
「《ご主人に近づいてごらんなさい! ミンチにしてさしあげますわ! 貴方ごとき、近づかずにご主人を勝利に導いてみせますわ……!!》」
「ね、ねぇアル。スウィートじゃないっぽいよ……」
「完全に違うだろ」
「寧ろこれがスウィートだったら怖いわ」
どうやら何かのスイッチが入ったらしい。かなり怒っているようだ。
リアロは気にせず、技をしかけた。スウィートはそれを見ながら、自分の体が勝手に動くことに顔をひきつらせていた。スウィート同様、シアオも顔をひきつらせていた。フォルテとアルは涼しい顔をしているが。
そんな愛しい主人と仲間に気付かず、リアロの暴走がはじまった。
(私の体なのに……!)
一方、『フロンティア』もベトベトンの方へ動いた。
「こっちはベトベトンをやるぞ! からてチョップ!」
「わかったわ! だましうち!」
キトノとゴケルはともに1匹のベトベトンを狙う。
そしてリアテはキトノに近づいた。
「ではキトノ、であっていたか。ユーはミーとともにあやつを狙ってもらうぞ」
「了解! いくぜ、マッハパンチ!」
あやつ、とリアテが指したのは3匹のうち1匹のベトベトン。
すると元きた道から声がした。
「な、何これ!? てかくっさい……!」
『アズリー』とスティアだ。今きたばかりで、山の惨状に顔をしかめている。スティアに至っては絶句状態だ。
リアテは声を張り上げた。
「スティア・カラヴィン! そして『アズリー』! ユーたちはそこのベトベトンをやれ!」
「え、えぇ!?」
「こ、れは、一体……」
「……よく分かりませんが、了解です。エナジーボール!!」
凛音だけはリアテの言うとおり、ベトベトンを攻撃した。
メフィとスティアは戸惑っているが、すぐに凛音の言葉によって戦闘態勢に入った。
「今突っ立っていてもやられるだけです」
「う、うん。……訳も分からず戦うってどうかとおもうけど……頑張る」
「たっ、戦うのですか!? 無理無理無理なのですよ」
「戦わなかった場合あとで突き落とします」
「!?」
そんなこんなで、『アズリー』も戦闘を開始するのだった。