25話 あと少し
「おっ、ここまで来たらもうすぐだ。急ぐぞ」
「了解!」
リアテが先頭をきって走る。『シリウス』はその後ろについていった。
すると8合目と思われる、やけに生活感のある場所についた。そこでリアテが声をあげる。
「レデク! 緊急事態だ!!」
「ん? ……え、お前まさかリアテ?」
座って本を読んでいたデンリュウ、おそらくリアテが呼んだレデクというのが名前だろう。
本を置いて、レデクは立ち上がってリアテをまじまじと見る。するとリアテが不満そうに顔をしかめた。
「正真正銘のリアテ・ウィラナーゼだ! 何故そこまで疑う!?」
「いやー、ついにここまで来れるようになったんだな。マジ久しぶりー。元気だったか?」
「緊急事態なんです!!」
「「うわっ!?」」
びくり、とリアテとレデクが肩を震わせる。
会話に割り込んで言ったのは意外にもスウィートだった。スウィートの性格を知っているリアテは目を瞬かせる。
しかしスウィートは気にしていなかった。
「7合目で大変なポケモンがいるんです! 助けてあげてください!!」
「おぉっと、久々のお客さんかと思ったらいきなりか」
ゆっくりする暇もないんだな、と呟いてからレデクは近くにあった鞄を手にとる。そしてスウィートに問いかけた。
「よし、分かった。7合目だな?」
「は、はい!」
「リアテたちはここで待っててくれ。すぐに戻るから」
「お願いします!」
早足でレデクは去っていった。スウィートはお辞儀していたが、レデクが去っていったのを見ると顔をあげた。
そしてバッと自身の仲間の方へ振り返った。
「わ、わたし……初対面の人と喋れてた……!」
「……そういえばそうね。まあ、緊急事態だったからでしょうけど」
「でも珍しいことだよね! これを期にスウィートの人見知りが治ったらいいね!」
「いや無理だろ」
「ユーたち呑気だな」
「「アンタ(お前)に言われたくない」」
「何故!!」
『シリウス』とリアテは他愛無い会話をしながら、レデクの帰りを待った。
そして数分後、レデクはラニダを背負って戻ってきた。『フロンティア』も、そして『アズリー』も一緒である。
ラニダをベッドで寝かせ、なるべく温かい場所に移動させる。手際よくレデクが包帯を巻いたりして、治療をした。あれだけ悪かった顔色もすこぶるよくなっている。
するとレデクが『シリウス』や『フロンティア』たちの方を向いた。
「まー、何か色々とあって遅くなったが……俺はレデク・ホレッド。“空の頂き”の遭難者を助けるために、この8合目を住処みたいにして住んでる」
よろしくー、と軽くレデクが手を振る。『シリウス』たちも順に自己紹介をした。
そして、レデクはスティアに目をやった。スティアはびくりと大げさに体を揺らした。そんなスティアを気にせず、レデクは話しかけた。
「スティア。お前また山登りに来たのか」
「こ、今度こそ、こ、克服、すすすすするために」
「ドモりすぎだろ。まあ……いつもより顔色はいいし、登るとしても大丈夫だとは思うが……無理はするなよ?」
はい、と小さくスティアが頷いた。無理、とはパニック症状のことだろう。
メフィは何か気になったのか、レデクに話しかけた。
「あの、パニック症状、おこさないですか?」
「んー、100%おこさないとは言わないが……多分、大丈夫だろ。一緒に登る奴もいるみたいだし、それは心の安心にも繋がる。それに起こしたとしても、これだけ人数がいるなら俺のところまで来れるはずだし。
いやー、安心材料が何個もあってよかったなスティア!!」
「ややややめてくださいぃぃぃぃ……」
プレッシャーになっているのか、スティアが首を横にふりながら耳を塞ぐ。凛音に「聞け」といってそれは許されなかったが。
するとラニダの方から「うぅ……」という声がもれた。全員がそちらを見る。見ると、ラニダがゆっくりと目を開けたところだった。どうやら目が覚めたらしい。
「おぉ、起きたか。よかったな死ななくて」
「ここ、は……」
「8合目よ。あんた7合目で倒れてたんだよ」
「ここにいるレデクさんがいなかったらホントやばかったぜ」
キトノがレデクを指さす。するとラニダはゆっくりとレデクを見た。
「あんたが、俺を……?」
「まあ、俺だけじゃなくて此処にいるみんなで救助したんだけどな。とりあえずまだ寝てろ。とうげは越したといってもまだ万全じゃないんだから」
いいな? とレデクが聞くと、ゆっくりとラニダは頷いて目を閉じた。
それを見てからレデクは『シリウス』たちの方を見た。
「後は俺だけで大丈夫だ。みんな頂上まで行くんだろ? あとちょっとだから頑張っていきな」
「え、で、でも……」
スウィートが戸惑いの声をあげる。そしてラニダを見た。
そんなスウィートを見てから、レデクはぽんぽんとスウィートの頭を撫でた。
「ここに皆でいたって、何にもできないだろ。俺だけで十分だからさ。ほら、行ってきなって」
「……はい」
渋々だが、レデクの言葉を聞いてスウィートが頷いた。
何だかお通夜みたいになっている場に、ぱんっという音が響いた。音の元凶を見るとリアテだった。
「早く行くぞ! こんな所で時間をかけていたら日が暮れてしまう!!」
その言葉に、全員が顔を見合わせる。そして頷いた。
「そうだね、日が暮れたら野宿だしね。そしたらフォルテが煩いし、」
「何か言ったかしら?」
「何でもナイデス」
シアオが軽口を叩くが、すぐさま黒い笑顔をしたフォルテにびびってすぐに口を閉じた。閉じるをえなかった。次になにされるか分かったものじゃないからだ。
今度はリイエが声をあげた。
「ここは8合目だし、本当に少し! 頑張ろう!」
「よしっ、頑張ろうねスティア!」
「りりりりりり凛音の目が怖いぃぃぃぃぃ……!!」
「いい加減にしないと絞めますよ」
「!?」
「今のスティアを見てると弟子入り前のヘタレシアオを思い出すな……」
『アズリー』とスティアとアルも声をあげる。凛音に脅しだが。
スウィートはもう一度ラニダを見る。顔色も随分とよくなった。それに8合目はレデクが住んでいることもあってか、暖かい。
大丈夫。そう言い聞かせて、スウィートは皆の方を見て微笑んだ。
「じゃあ、頑張ろっか。あと少しの、頂上まで」
それぞれ言葉は違えど、返した返事は全て同じ、「うん」という言葉だった。
――――空の頂 9合目までの道のり――――
「それにしても……流石はお医者さんだったね。すごく手際がよかった」
「“空の頂”6合目後は雪山になる。そこでちゃんとした準備ができておらず、ああやって倒れる者は多いからな。流石にレデクも慣れている」
へえ、とスウィートが関心したような声をあげた。それと同時に白い息が吐かれた。
談笑を交えながら、9合目までの道をゆっくりと進んでいく。あの後『アズリー』とスティア、『フロンティア』とは別れた。
そしてまた同じ面子で登っている。ここも結構な寒さで、寒さに耐えながら順調に登っていた。
「そういやスティア大丈夫だといいけどねー。レデクからのお墨付きを貰ったとはいえ、100%パニック症状をおこすとは限らないんでしょ?」
「まあ、凛音がいるから大丈夫だとは思うが。此処からは流石にスティアのことを考慮して一緒に登るって言ってたしな」
そしてシアオとアルの会話にあったとおり、『アズリー』とスティアは別々に登っていたのをやめた。といっても単独で登っていた凛音が合流するだけだが。
パニック症状をおこされたらメフィだけでは対処できないと考えたのだろう。それにレデクからも「パニックを起こすかもしれない」との忠告は8合目で受けた。そう考えると、凛音が共に登るのが妥当な判断だろう。
すると前から敵ポケモン3匹が現れた。そして、その瞬間にフォルテが悲鳴とともに技を放った。
「ゴゴゴゴーストタイプゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
「あぶなっ!!」
敵の1匹、ヌケニンを見た瞬間にフォルテが技を放ったため、前にいたシアオが何とか察知して避ける。ヌケニンもすぐにくるとは思われていなかったのか、技が直撃して倒れた。
あと2匹、オニドリルとリングマを見てまずスウィートとリアテが動く。
「アイアンテール!!」
「マジカルリーフ」
「つばめがえし!」
オニドリルにスウィートが、リングマにリアテが攻撃する。
リングマはリアテの攻撃を避け、スウィートは寸のところで瞬間瞬移を使ってオニドリルの技を避ける。そしてリングマの後ろまでいって、アイアンテールで足場を崩した。
オニドリルが技を出した隙に、アルが攻撃をしかける。そしてスウィートのおかげでリングマの動きが鈍った瞬間にシアオも攻撃した。
「10万ボルト!!」
「はどうだん!!」
どちらとも見事に2匹に直撃し、効果抜群のこともあって一撃で倒した。
そしてスウィートがフォルテに話しかける。
「フォルテ、大丈夫……?」
「何でゴーストタイプいるのおかしいでしょ絶対におかしいわよねふざけてるわゴーストタイプの駆除ぐらいしときなさいよふざけんじゃないわよ」
ブツブツと不満の言葉のオンパレードがフォルテの口から漏れる。スウィートの言葉は聞こえていないらしい。
フォルテの荒れっぷりを見ながらリアテがぽつりと呟いた。
「まさかゴーストタイプが苦手とは。ふむ、あの世に逝ったときに困るな」
「不吉なこというな。あと困るわけないだろうが」
リアテの発言にアルが鋭くツッコむ。大概リアテの観点もズレている。
そんなかシアオは「僕がまたフォルテに狙われてる……何でこんなに攻撃されるんだ」と文句言っていたのは誰も聞いていなかった。