24話 緊急事態
『シリウス』は“空の頂”の7合目までの道のりを、順調に登っていた。
「しんくうぎり!」
「火炎放射!」
「10万ボルト!!」
見事な攻撃で敵ポケモンをスウィート、フォルテ、アルが倒す。
敵を倒し終わったスウィートは「うぅ……」と声を震わせた。そして体を縮こませる。
「寒い……」
辺りを埋め尽くしているのは真っ白な雪。そう、『フロンティア』が言っていた通り、6合目をでて少しした場所は雪山になっていたのだ。
フォルテは炎タイプなので寒そうな様子はない。スウィートとアルは白い息を吐き、そして寒そうにしながら進んでいる。しかし寒さ対策などしていないので、我慢して進むしかないのだ。
さて、これではあと2匹が足りない。もちろん置いて行ってなどしていない。その2匹は
「必殺! 大雪球こうげきッ!!」
「はっ、ミーにそんな攻撃が効くと思うなよ……雪球乱舞!!」
雪があるのをいいことに、シアオとリアテは雪合戦をしていた。それはもう寒さなど忘れているのか楽しそうに。ダンジョンということも忘れているが。
そんな2匹にアルが顔をしかめて話しかけた。
「おい、お前ら頼むから変なことをするなよ。したら容赦なく見捨てる」
そう言って口元をスカーフに埋める。よほど寒いのだろう。スウィートも同じような状況である。
そんなアルに注意された2匹は不満そうな声をあげる。
「見捨てる!? ていうか何でみんな雪合戦しないのさ」
「そうだ。これだけ人数がいてやらないとはどういう了見だ」
「アンタらよくダンジョン内でそんなお気楽な思考ができるわね」
フォルテが冷たくそう言うが、2匹は全く気にしていない。アルがそのときに「お前も似たようなもんだろうが」と心の中で思っていたが、それは口に出さなかった。
そんな仲間たちを見て、スウィートはただ苦笑いを浮かべるだけだった。
――――空の頂 7合目――――
「トンネルが見えてきたな。もう7合目か」
「もうとか言いながら結構な時間かかったんだけど」
リアテの言葉にフォルテが鋭くツッコむ。リアテはそれに「そんなことはない」と返した。
少し歩くと広いところにでた。おそらく此処が7合目なのだろう。
そこには見知った顔ぶれがあり、『シリウス』は首を傾げた。その者たちは何かを取り囲んでいるような形なのだ。
「『フロンティア』に凛音だよね」
「何かあったのかな……?」
スウィートが首を傾げる。しかし遠目からなので様子は伺えない。
とにかく近くに行こう、と近寄ると影になって見えなかった1匹が見えた。それに『シリウス』は目を丸くする。リアテは『フロンティア』に話しかけた。
「何かあったか?」
目を見やると先ほどのハディ達の戦闘の火種となった、ニューラのラニダが倒れていた。どうやらラニダの様子を見ていたらしい。
リアテの問いにキトノは困ったような顔をしながら答えた。
「俺たちが来たときにはもう倒れていて……寒さでやられたのか、それとも道具が尽きたのか。どっちか分からないけど、とにかく危ないぜ、これは」
キトノの言葉を聞いて、リアテが「ふむ」と小さく一声あげる。そして躊躇いもせずにラニダに近づいた。
スウィートがその様子を見ていると、リアテが小さく「確かによくないな」とこぼした。それにスウィートが反応する。
「え、そ、それってまずいんじゃ……!」
「あぁ。とりあえず助けを呼びに行くぞ」
リアテの言葉に『フロンティア』も『シリウス』も首を傾げる。ここは“空の頂き”7合目。結構な高さがある所だ。今から山を下りるのは辛いし、それでは間に合わない。
すると凛音だけが合点がいったように言葉を零した。
「8合目の医者ですか。スティアの話でも度々でてきた」
「そうだ。ソイツは救助のエキスパートだ。滅多なことでは呼ばないが……緊急事態の場合は仕方ない」
緊急事態、と言いながらリアテはラニダを見る。顔色はすこぶる悪い。
そしてリアテは『フロンティア』に視線を移した。
「『フロンティア』はこやつをみておけ。さあ行くぞ『シリウス』!」
「あれ、何か出動命令が出た」
「シアオ先輩、今ボケるのはやめてください。場違いです」
凛音の鋭い指摘に、シアオは「そんなつもりないのに!」と反論する。しかし凛音はそれを無視した。
『フロンティア』は顔を見合わせてから、そしてリイエが代表して言った。
「そうかい。じゃあ頼んだよ」
「は、はい! あ、凛音ちゃんはどうする?」
「私は……とりあえずメフィとスティアが来ないとどうとも言えないので、此処に残ります」
そう、とスウィートは小さく言って、3匹をみた。
『シリウス』全員で顔を見合わせ合図してから、リアテにも視線を向け、スウィートは静かに言った。
「8合目に急ごう。早く助けを呼びに行かなくちゃ」
「オッケー!」
「今度は雪合戦なんかすんじゃないわよ」
「ミーもそこまで落ちぶれていない」
「これが長なんだから頭を抱えたくなるよな……」
シアオ以外はまともな返事をしなかったが、とりあえず先ほど顔を見合わせただけでも意思は確認できた。
『シリウス』とリアテは駆け足で8合目までの道のりを進んでいった。
「……それにしても、雪合戦って何のことなんだろうね?」
「気にしたら負けです」
フォルテの言葉に首を傾げているリイエと、静かに答えた凛音を残して。
――――空の頂 8合目までの道のり――――
「それにしても……ラニダ、さん。大丈夫かな……」
「まああのまま放っておけば死ぬだろうな」
スウィートの言葉に、リアテが静かに返す。その返事に、スウィートは泣きそうな顔をする。
そんなスウィートを見てか、シアオが元気な声をあげた。
「でもさ、その8合目のポケモンを呼んでこればいいわけだよね! 大丈夫だって!」
「ま、ラニダって奴……マスキッパ達の戦闘になったとき、あたし達を囮みたいにしたんだもの。自業自得よ」
はき捨てるようにフォルテが言う。フォルテとしては、あの行動は許せたものではなかったのだろう。確かに、あれはいい行動だったとはいえない。
リアテはそれを聞きながら、静かに言った。
「山登りは協力だ。協力しなければあのようにもなる。道具が尽きるも、誰かに分けてもらうか交換してもらえばいい。寒いのならば、誰かとともに温まるかスカーフなどの道具を貰えばいい。
この“空の頂き”は他の山などと違い、標高も高い。それ故に、他の者との助け合いが必要になってくる」
「……まあ、結局ラニダも今しがた助けを必要としてるわけだしな」
スウィートが聞きながら、白い息を吐く。この8合目の道のりも、7合目と同じでかなり寒い。倒れていたラニダも、かなり寒かったことだろう。
すると目の前に敵が見えた。
「しんくうぎり!」
敵、リングマにまずスウィートが攻撃する。
すると自信満々にシアオが前に出た。
「いっくよ! はどうだ――」
「火炎放射!!」
「ちょっ、うわぁ!!」
身体を捻って、シアオが何とかフォルテの攻撃を避ける。火炎放射はそのままの勢いを失わず、そのままリングマに直撃した。
シアオはばっと勢いよく振り返ってフォルテに抗議する。
「だからフォルテ!! 何で僕が攻撃しようとしてるのに僕の邪魔するのさ!?」
「邪魔はアンタでしょうが! というか目の前に出てくるな鬱陶しい!」
「だーかーら、僕が攻撃しようとしてたじゃんか!!」
「うるさい、火の粉!」
「何で!?」
かなり無茶ぶりなフォルテの攻撃を、シアオはぎりぎりで避ける。
そんなやりとりをしている間に、アルがリングマに10万ボルトで止めをさす。そしてため息をついた。スウィートは苦笑いするだけだ。
するとリアテが関心したように、呟いた。
「仲間の邪魔をする。これも協力プレイか」
「「「馬鹿でしょ(だろ)」」」
「リアテさんの思考回路もなかなか……」
すごいなぁ、とスウィートが小さく呟くと、「だろう!」とリアテが威張ったのでスウィートは苦笑することしかできなかった。正直に言うと、褒めたわけではない。
その後ろでアルに、そしてシアオとフォルテにまでため息をつかれていたことに、リアテは気付かなかった。