23話 仲良しこよし
“空の頂”の6合目にて。
「よぉーし、6合目とうちゃーくッ!!」
「あー、何かつかれたぁ……」
シアオとフォルテが声をあげる。
『アズリー』とスティアとはぐれてから、『シリウス』とリアテはとりあえず山登りを続けた。方向音痴のリアテが迷わないように気をつけながら。
そしてそのリアテはというと、基地になっている6合目を見て声をあげた。
「おぉ……! これでミーも迷わなくなる日も遠くない……!! いや、迷ってなどいないが」
「いい加減に認めろ。お前は方向音痴だ」
「ミーは決して方向音痴などではない!」
6合目に来る前にも何度かあったやりとりをする2匹に、スウィートは苦笑する。リアテとしては絶対に認めたくないようだが、あれは誰がどう見ても極度な方向音痴だ。
すると「おー、お疲れさん」と軽快にキトノが話しかけてきた。
「ここにも基地を作ったから好きに使ってな。
でも……この先は雪山になっていてこれ以上は基地を作れそうにないんだ。だからここから上は自力で登っていってくれ。ごめんな」
「む? 謝ることか? 寧ろこれだけやったのが凄いと思うが……」
「だよね!」
リアテの言葉にシアオが同意する。すると周りにいた探検隊も「そうだぜ」「ありがとなー」とお礼を言い出した。
そんな様子を見て『フロンティア』は顔を見合わせ
「へへっ。どういたしまして」
キトノが代表して、次々に送られてくるお礼に返事をした。
するとリイエが「あっ」と声をあげた。
「これからは私たちも本格的に頂上を目指すから、途中であったらよろしくね!」
「こ、こちらこそよろしくお願いします……!」
「よろしく」
スウィートが頭を下げ、フォルテは軽く返した。
流石に頭を下げるまですると思っていなかったのか、フォルテの軽い返しにか、それとも両方にか分からないがリイエは苦笑してから「じゃあ私たちは先に行くね」といって『フロンティア』は先に進んでいった。
それを見送り、スウィートは自分たちが来た道を見た。それに気付きシアオがスウィートに話しかける。
「そういえば、凛音たちまだ来ないね」
「凛音ちゃんとメフィちゃんがいるからたぶん大丈夫だとは思うけど……」
やっぱり心配だな、と小さくスウィートがこぼす。
いくら凛音がいるとはいえ、ここには険しい山。何が起こるか分からない中では、やはり安心はできない。
すると他の3匹も会話に加わってきた。
「いざとなったら探検隊バッチもあるし大丈夫でしょ」
「……元からそれを使えばミーも帰れたのでは?」
「ギルドに帰したって“シェイミの里”いくまでに迷うだろうがお前は」
「そこまで酷くはないといっているだろう! ミーの方向音痴をナメるな!!」
「「「………………。」」」
「あ、方向音痴って認めた」
「はっ、間違えた!」
ダメだコイツ本当の馬鹿だ。
そんな感じの雰囲気になりつつある『シリウス』にリアテが抗議の声をあげるが、その抗議の声も全てアルに流される。ほぼリアテの馬鹿さは公認されつつあるらしい。
その光景にスウィートが苦笑していると、不意に視界の隅に見覚えのある姿が目に入った。
(あれ、って……)
「凛音ちゃん……?」
スウィートが小さな声で呟くと、シアオたちが反応した。
すると『シリウス』とリアテが見ていた方向から影が……1つ。あれ、と首を傾げるとその影はどんどん近づいてきて、そして姿がはっきり見えた。
「り、凛音ちゃん! メフィちゃんとスティアちゃんは!?」
「あぁ、スウィート先輩。あまりに遅いので置いてきました」
「!?」
置いてきた!? とスウィートが絶句していると、今度はシアオが話しかけた。
「てかそれ大丈夫なの!? スティアとかあんな状態だったしさ、」
「これが本来の形です。私が先に行って、メフィが後から来る。ただ、それにスティアが加わったので一緒に行動していましたが、まあ大丈夫そうなので本来の形に戻らさせていただききました」
凛音の言葉に『シリウス』が頬をひきつらせる。確かにそうだったけど、と言いたいところだろうが、反論しても恐らくムダだろう。
するとリアテが会話に加わった。
「スティア・カラヴィンは“空の頂”を登る気になった、ということか?」
「そんなところです。ただ私は聞いていないので知りませんが、後からついてくるという事はそういうことなのでしょう」
淡々と答えてから凛音は後ろを見た。やはりメフィとスティアはいない。
そして凛音がボソリを呟いた。
「…………それにしても遅いですね」
「「お前(アンタ)が早いんだよ!!」」
凛音の発言にフォルテとアルがつっこんだ。その通りのツッコミをされても凛音は表情を変えることをしない。
すると「凛音いたぁぁぁぁぁぁぁッ!!」という声が聞こえてきた。そちらを見ると息をきらすメフィと、そして屍のような状態なスティア。どこからか「デジャヴ」という言葉が聞こえたが、誰が言ったかはわからない。
そして凛音のもとまで辿り着いたメフィは「はーっ、はぁーっ」と息を整えてから勢いよく凛音の方を見た。
「何であんな早く先に行くの!? ていうか“空の頂”は一緒に登るんじゃなかったっけ!? まさかあのまま本当に先に行っちゃうとは思わなかったんだけど!!」
一気にまくし立てるメフィ。しかし一方の凛音は清清しいほどの無表情。何を考えているのか分からない。
そして凛音が口を開いて反論した。
「私はそこまで早くいっていません。貴女が遅かっただけです。そしてこれがいつものスタイルです。今回はスティアを引っ張るために一緒に行動していましたが、スティアは自力で登る気がおきたらしいのでいつものスタイルに戻らさせていただきました」
「そんなスタイルに決めた覚えはないんだけど!!」
「事実でしょう?」
「そうだけどー!!」
メフィが突っかかるが、凛音は軽く流す。
そんな2匹はさておき、スウィートは屍のようになっているスティアに話しかける。しかしぴくりとも動かない。
「ス、スティアちゃん。スティアちゃん? 生きてる?」
「返事がない。ただの屍のようだ」
「シアオ低い声だして変な声すんなガチでキモイ」
「にしても本当に大丈夫かこれ」
やはり返事はない。
それにスウィートは心配そうな顔をする。シアオはというとおふざけで変な声をだしたものの、フォルテにキモイ呼ばわりされ、いつもの喧嘩に発展。アルもスティアに話しかけたり、揺さぶったりしているが反応はない。
どうしようかなぁ、と考えていると不意にスティアが動いた。
「て……て、んご、く……」
「スティアちゃん、ここは天国じゃないよ……?」
スウィートがやんわりとつっこむ。ゆっくりとだがスティアが目を開く。
「スティア、大丈夫か」
「じ、ぶん、は……ちからが、足りなかった……の……です……よ……」
「スティアは力尽きてしまった」
「だからその声やめろって言ってんでしょうが。ウザイ」
「おい寝るな。そのままだと天国行きのチケットもらうことになるぞ」
「スティアちゃん起きて!!」
「先輩たち何かこの状況を楽しんでませんか」
いつの間にかやってきたメフィがそういうが、聞こえていないのかあえて無視しちえるのか『シリウス』は賑やかである。
スウィートにいたっては本気だろうが、アルとそして馬鹿2匹は遊びだろう。
すると凛音がバシンッと音をたててスティアを叩いた。
「いい加減にしてください。引きずられたいのですか」
「そそそそそれはもう勘弁なのですよぉぉぉぉぉぉ……!!」
何か知らないうちにスティアのトラウマがもう1つ出来上がりつつあるな。などと全員が見ながら思った。
そして何故かリアテが「よしユーたち!!」と元気よく声をあげた。
「そろそろ山登りを開始だ!! この“シェイミの里”の長、リアテ・ウィラナーゼが直々に案内してやろうではないか!!」
「「「「「「「遠慮します」」」」」」」
個性豊かな7匹の心が見事に揃った。