20話 思い違いと事実
“空の頂”の5合目にやっとついたスウィートは、前方の何かに気付いた。
「あ、あれ、じゃないかな……?」
スウィートが指をさす。少し息をきらしているのは、山を少し急いで登ったためだ。
スウィートが指した先にいるのは、『フロンティア』。そしてその3匹の前にはニューラのラニダとマスキッパ5匹、マスキッパ達はラニダを囲んでいた。
「大丈夫かい!? 助けに来たよ!」
リイエの口ぶりから、どうやら『フロンティア』も今ついたところらしい。
するとマスキッパ達が振り返り、「ああーん? 助けに来ただぁ?」とあからさまにイラついたように言った。
そのときに後ろから声が聞こえた。スウィート達が振り返ると、そこには『アズリー』とスティア。スティアはマスキッパ達を見るや否や「や、やっぱりなのですよぉっ……!!」と半泣きになりながら呟いた。
そんなことも露知らず、マスキッパは『フロンティア』を睨みつける。
「てめぇ何様だ!!」
「私たちはチーム『フロンティア』! 大勢でよってたかって卑怯じゃないか! 今度は私たちが相手だよ!!」
リイエがそう言うと、マスキッパ達はラニダを囲んだ態勢から、リイエ達に向き合うような態勢になる。
「あっ……!?」
そのときにフォルテが声をあげる。何故かというと、ラニダがこの場から逃げ出したから。
しかし『フロンティア』とマスキッパ達は気づいていないようで、既に戦闘態勢に入っていた。
「おう! 上等だ!!」
「えっ……ちょ、待っ――」
スティアの言葉も虚しく、いきなりマスキッパ達が襲い掛かってきた。
「うわっ!」
「っと、」
「う、なああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
マスキッパ達の蔓のムチの攻撃を全員が避ける。そのときにスティアは凛音に蔓のムチで避難させられ、涙目になりながら悲鳴をあげた。
フォルテはそんな状況でありながら、スティアに叫んだ。
「ちょっとスティア! アンタ何か知ってんじゃないの!?」
「あの方々の存在は知ってますけど知り合いじゃないのですよ! ぎゃーッ!!」
叫びながらもスティアは凛音によって攻撃を避けさせられる。そのため色々な場所に振り回されているが。
スウィートは「とにかく、」と言って、戦闘態勢に入った。
「てだすけ!」
「おっ、サンキュー! タネ爆弾!」
「だましうち!」
「そう簡単に食らうか! からみつく!」
もうスティアの言葉など聞こえていないのか、それぞれが戦闘を始める。止めるようにも止められない状況に陥っている。
凛音はスティアを見てから、スティアをおいて戦闘に入る。メフィはその間にスティアに話しかけた。
「スティア! ちょ、貴女この状況をどうにかできるんじゃないの!?」
「で、できる訳ないのですよぉ……! バンディさんたち、マスキッパさん達が自分の話など聞くとか考えられないのですよっ……!!」
カタカタと震えて完全にビビりモードに入っているスティア。少なからずマスキッパ達のことを苦手としているらしい。
メフィは「えぇ……」などと思いながら戦いを繰り広げている『フロンティア』と自分の相棒と、そして自身の先輩2匹を見る。止められる様子は、ない。寧ろ止めに入ったら返り討ちにあいそうである。
そんなメフィの心情を露知らず、スウィート達はがんがんにマスキッパ達の戦闘を繰り広げていた。
「かみつく!」
「守る! ――フォルテ!」
「分かってるわよ! 火炎放射ァ!」
まず1体でも数減らしにかかる。その時、炎タイプであるフォルテはかなり有利だ。
だがマスキッパは見事に避ける。それにフォルテが小さく舌打ちしたと同時に
「忘れてもらっては困ります。マジカルリーフ」
「ぐあっ!?」
後ろから凛音が仕掛けた。不意打ちの攻撃にマスキッパはどうすることもできず、技を諸に喰らってしまう。
そんな凛音の後ろからももう1体が迫る。凛音は後ろを目で確認してから、後ろ足で地面を強く蹴り、前に転がった。そして
「からてチョップ!」
「チッ、」
ゴケルが仕掛けようとするが、マスキッパも気付いてそれを避ける。
両者とも戦闘には慣れているようで、激しい攻防戦が続いている。その中でもマスキッパはとくに効果抜群の技を使ってくるゴケルとフォルテを警戒していた。
スウィートがそれを見ながら、何とかフォルテの技を命中させる方法を考える。
(とにかく……)
『フロンティア』と凛音にマスキッパ達の相手を任せ、スウィートはフォルテのところまで走っていく。そしてフォルテの手を掴む、瞬間瞬移で空中にとばした。
そしてスウィートは普段ださないような大声を出した。
「皆さん、さがって!!」
その声に反応し、『フロンティア』と凛音はマスキッパ達とはなれた。
それをいぶかしんだマスキッパ達は構える。そして、フォルテがいないことに気がついた。
「ロ、ロコンはどこいった!?」
「――火炎放射ッ!!」
フォルテが真上から火炎放射をうつ。すると1匹のマスキッパが前に出てきた。
「こっちはずっと蓄え続けてたんだよ――はきだす!!」
マスキッパのはきだすと、フォルテの火炎放射がぶつかる。そのとき、フォルテの炎が少し散る。
メフィはただ呆然と見ていただけだったが、隣のスティアの異変に気付いた。
「スティア……?」
「だ、駄目なのですよ……。山、を……山を、火事、なんか、したら」
マスキッパ達のことを言っていたときとは違う、本当に怯えきった表情をしてカタカタと震えだした。メフィが首をかしげ「スティア?」ともう一度 名前を呼ぶが、反応はない。
するとフォルテの炎がボッと一部の場所にうつった。その瞬間、
「うあ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
いきなりスティアが悲鳴をあげた。全員が驚いてそちらを見る。
「や、いやだっ……! いやだいやだいやだ……」
狂ったようにブツブツと呟きだすスティアは、どこからどうみても異様だった。
それに全員が戸惑っていると
「ちょーっと待てい!」
声とともに、岩が上からふってきて、炎を全て消した。そして岩が何かによって壊され、砂煙が巻き起こる。
そして全員が砂煙が落ち着いて岩があった場所を見ると、そこにはポケモンがいた。
「ユーたち何を乱闘している。そして山火事を起こす気か、馬鹿どもめ」
「いや、リアテに馬鹿とか言われたくないよ」
「右に同意」
「シアオ!? アル!?」
現れた人物にスウィートが驚いて声をあげる。フォルテもメフィも目を丸くし、凛音は無表情ではあるが少しだけ首を傾げていた。『フロンティア』も驚いている様子だ。スティアは気付いているのか気付いていないのか、未だブツブツと言っている。
するとマスキッパが「あー!」と声をあげた。
「お前、ふもとのリアテかー! 久しぶりだなぁ! 何で5合目まで来れたんだ!?」
「ミーが本気を出せばこのくらい楽勝だ! 馬鹿にするでない!!」
「反則技使ってやっとこれだよねー……」
シアオが小さく呟いた言葉はどうやら聞こえていないらしい。リアテは辺りを見渡して「はーっ」とため息をついた。
あの間にスティアはメフィに「落ち着いて、ゆっくり息をして……」と落ち着かされ、ようやく正常に戻った。そしてリアテを見るや否や、目を見開いた。
「リ、リアテ様……!?」
その言葉にマスキッパとリアテ以外がそれを聞いて首を傾げる。
マスキッパとリアテは気にもしていないようで、リアテはマスキッパに話しかけていた。
「バンディ、ユーたちは全く代わってないな。探険家とのトラブルはやめろとあれほど注意しておいたのに……」
「リアテがここまできて注意したのは数回だけどなァ……」
「しっかしあのラニダっつーニューラが悪いんだぜ? 俺たちが先に見つけたお宝を横取りしやがったんだからな」
「え!?」
そのマスキッパの言葉に『フロンティア』とスウィートとフォルテが驚いた表情をする。その言い分からすると、マスキッパではなくラニダが悪いというわけで。
するとマスキッパの一体があたりを見渡し、「あ!」と声をあげた。
「いねえ! アイツめ、この混乱の中で逃げやがったな!」
「そ、そうだったの……?」
「私たち、勘違いしてたってこと……?」
「…………。」
「あそこでひっとらえりゃ良かったわ……」
「え、えと……え、えぇ……?」
「……腹の立つ輩ですね」
それぞれが感想を述べる。流石の凛音も顔を顰めていた。
するとリアテが『フロンティア』達の方を向いた。
「まあ、バンディ達もいいポケモンともいえないがな」
「けえーっ! 久々に会ったてえのにリアテってばつれねぇな」
「ミーはわが道を行く」
「久々でも馬鹿は変わってねぇな」
「ユーたちまでもミーを馬鹿にするのか!?」
ギャーギャー何かいっているリアテをマスキッパは無視し、『フロンティア』達の方を見た。
「まあいいや。今回はリアテに免じて許してやらぁ。山に登るのは自由だけどよ、あんま好き勝手やんなよー。じゃあなー」
「ユーたちも好き勝手やってるというのに、何を偉そうに」
「俺たちは控えてんだよ。とにかくリアテ。次はいつ会えるかわかんねえが、またなー」
「うむ。次はもうちょっと早めに会いにいってやろうではないか」
「……それ、前も言ってたよな」
そう言いつつ、マスキッパ達は去っていった。会話を聞くに、別に悪いポケモンでもなかったらしい。
するとリアテがふり返った。
「あやつらはここらを縄張りにしていてな。根はいい奴だが、ガラが悪くて……許してやってくれ」
「私たちの方こそ、話も聞かずにいきなり戦っちゃったし……悪いことしちゃったな……」
「見た目だけで判断しちゃ駄目だよな……」
「……スマンッ!」
『フロンティア』がそれぞれ反省の言葉を述べる。しかし、反省をしていないのが2匹ほどいた。
「何よ、あのラニダって奴が悪いんでしょうが。あたし達は悪くない」
「フォルテ先輩に同感です。慰謝料としてあのニューラさんには何ポケか頂いてもいいと思います」
「ふざけんな。いい加減にしろ」
バコッとアルがフォルテの頭を叩いた。きちんといえば、フォルテと凛音の頭を叩こうとしたが、凛音は綺麗に避けた。
するとスウィートがオロオロしながらせわしなく小さく頭を動かした。
「あ、誤りに行ったほうがいいかな……。しゃ、謝罪の品も何か……」
「スウィートが1番 罪悪感を感じてるよ。ていうかスウィートは渡しに行ったところで隠れちゃうから無理でしょ」
シアオの言葉にスウィートはズーン、と暗いオーラを出して落ち込み始めた。それにシアオは「あれ!?」と言って何とかしようとする。
するとメフィが首を傾げてリアテに話しかけた。
「あ、あの……何でスティアはさっき、リアテ様って……」
「ん? あぁ、ミーはリアテ・ウィラナーゼ。“シェイミの里”の長だ」
「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!??」」」」」」」」
凛音とスティアと落ち込んでいるスウィート以外が、大声をあげた。