18話 馬鹿は使い物にならない
「くっ……シアオのくせに、ヘタレのくせに……!!」
「だからヘタレじゃないってば!」
「いや、あながち間違ってないだろ」
此処は“空の頂き”3合目。そして先ほどの声は順にフォルテ、シアオ、アルである。
因みにフォルテがシアオに文句を言っている理由は、3合目までの競争に負けたからである。
そんな3匹はさておき、スウィートは自分がきた道から『アズリー』きたのが見え、「あ」と声をあげた。3匹もそれに反応する。
『アズリー』はやはりボロボロであった。凛音は覗いて。メフィは疲れきった様子で、スティアは屍と化しているような状態である。大丈夫か、と3匹を見た誰もが思った。
メフィはスウィート達に気付くや否や、「先輩ぃぃぃぃ!」と涙目で駆け寄ってきた。
「凛音ったら酷いんですよ! ヨユーであたしを置いていこうとするんですッ!」
「置いていく気はありません。メフィが遅いだけです」
「ポケに対する凛音の動きが速いだけだもん!」
そう思いますよね、先輩!
メフィにそう言われ、スウィートは苦笑いで返すしかなかった。凛音のフォローは何があってもできそうにない。いや、本人はおそらくそんなもの必要とさえしていないだろうが。
すると先ほどまで動かなかったスティアが虚ろな目で『シリウス』を見た。と思われたのだが
「……ここ、は……てんごく……です、か……?」
どこにも標準があっていなかった。かなり限界にきているらしい。
凛音のハードペースについていけないのが1番の理由。しかしそれ以外に理由がある。高所恐怖症であるために、どんどん高くなっていくのに怯えているのだろう。
どうにかしてやりたいという気持ちは勿論スウィートにあるが、凛音に通用する手立ては思いつかないのが現状である。
「えっと……あ、そういえばスティアちゃんに聞きたい事があるんだけど、」
ゴソゴソとスウィートはバッグを漁り、そして何か箱のような物を取り出してスティアに見せた。
フォルテが「あぁ、それ」と納得したような声をあげ、他はそれを凝視した。スティアは見るや否や、「あ、見つけられたんですね」と少し復活したようだった。
「これは空の贈り物≠ナすよ。“空の頂”でしか手に入らない、宝です」
「宝!?」
1番に反応したのはシアオで、目を輝かせながらソレを見た。メフィも同じように見ている。その間に、スティアは道中で『アズリー』にした説明をもう一度した。
それを聞いて、スウィートとアルは関心したと声をあげ、フォルテはまじまじと箱を見だした。
「つまり、私が誰かに贈ればいいってことなのかな?」
「はい。あ、もし遠くの相手に送りたいと言うのであれば、“シェイミの里”で宅配サービスをしているので、それを利用すればいいのですよ。
――はっ! 何なら私が今からでもソレを“シェイミの里”に運び、」
「さて、行きますか。メフィ、本当においていきますよ」
「え!? ちょ、ちょっと待って!?」
またスティアを引きずっていく凛音の後を追いかけながらメフィは振り返り、「それではまた後でー!」と追いかけていった。律儀である。
スウィートは呆然と見送ってから、空の贈り物≠再び見た。
するとシアオが首を傾げながら尋ねた。
「スウィート、誰かに送るの?」
「うーん……。送りたい人が沢山いるから誰に送ればいいかわらかないし……。とにかく“空の頂”で空の贈り物≠もうちょっと拾えれば拾って、それで考えることにする」
「……送りたい人ってのがギルド全員やトレジャータウンにいる皆、だったりしないよな?」
「えっ、何で分かったの?」
「「「…………。」」」
スウィートの返答に、3匹が黙った。本当にキョトンとしている辺り、本気なのだろう。
流石に全員分を拾えるとは思えない。しかし、スウィートなら何としてでも集めそうだ。誰かのために、という行動をするときのスウィートは、ポケのために行動する凛音とほぼ同じともいえる。
まあ、とシアオが色々考えた後、スウィートに
「ギルド全員分だったら12匹分だけど……頑張ってね!!」
「やる気に火をつけんじゃないわよ」
「応援してどうする」
明るく応援メッセージを送ったのだが、フォルテとアルに手加減ナシで頭を叩かれたのだった。
「え? え、っと……」
困惑しかできないスウィートは、オロオロするばかりだが。
――――空の頂 4合目までの道のり――――
「あっ、はどうだん!」
「珍しくシアオが先に気付いたな。10万ボルト!」
アルの言葉にシアオが騒いでいるのを無視し、アルはスカタンクをやる。シアオが攻撃していたのもあって、すぐに倒れた。
ふぅ、とアルが息をつくとシアオがむすっとした顔でアルを見た。
「アルにしてもフォルテにしても僕の扱いが酷いと思うんだよね!」
「今更だな」
「自覚アリ!?」
またしても騒ぎ出すシアオを無視し、アルはさっさと歩いていく。それにシアオも慌ててついていく。
未だ納得がいっていないシアオは歩きながらブツブツと呟く。
「どうして皆、僕の扱いをこんなにぞんざいにするかな……」
「お前だからだろ」
「理由になってないんだけど!!」
「煩い、シアオ。……お前よくそのテンションでいつもやっていけるな。感激する」
「いい方的に馬鹿に冷罵されてる気がする! 更に凄いうそ臭い……!!」
「二割がたは本心だな」
「八割は!?」
ギャーギャー言っているシアオを軽く流しながら、アルは気にせずに歩いていく。シアオも文句を言いながらも一応はついていっているようだ。
こういうやり取りは慣れているアルなのだが、少々、というよりかなり面倒くさいといった表情をしている。いつもならフォルテが相手をし、色々とマズくなったらで割ってはいるのだが、今はシアオの相手をするのが自分しかいない。
「ホントよくやるな……」などと考えながら、アルはバレないように小さなため息をついた。
するとシアオが「あ」と声をあげ、アルもそれに反応した。
「どうかしたか?」
「ねえ、アル。あれって空の贈り物≠ゥな?」
「……あぁ、多分そうじゃないか? スウィートが持ってたヤツと同じだ」
「だよね!! 僕ちょっと取って来る!」
「は? ちょ、待てシアオ!! お前が下手に動いたら、」
アルの言葉は遅く、シアオは空の贈り物≠フ所まで駆けていく。
慌ててアルも追いかけるが、好奇心にかられているシアオに追いつけるはずもない。それにシアオは普段から動き回るので、こうやって走ることに慣れている。
アルの静止に全く気付かないシアオは、空の贈り物≠手にとって、嬉しそうに上へ掲げた。
「よし、空の贈り物≠P個かく、え!?」
グラッとシアオの体が傾いた。無意識にシアオが下を見ると、足場が崩れている。どうやら空の贈り物≠ェあった場所は、強度が弱くなっている所だったらしい。
アルは「やっぱりやりやがった」という気持ち半分、「やばい」という気持ち半分。仕方なくでんこうせっかを使い、シアオの元まで行って手を伸ばそうとする。
しかし、アルの素晴らしい考えは、シアオに通じなかったようだ。
シアオは近くに来たアルの足を、咄嗟に掴んだ。
「な、ばっ……!! ア、アホかお前はぁぁぁぁぁぁああ!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああ!?」
そうして2匹は仲良く下へと落ちていった。